料理について
ヴィルのお弁当は二人分入っていた。誰か友達を誘って食べるといい、とあったのでエルノフィーレ殿下を誘う。
さすがに外は寒いので教室でいただくことにした。
「これをリンデンブルク大公子が作ったというのですか?」
「ええ、そうなんです」
「彼は一流の料理人に弟子入りでもしていたのですか?」
「ええ、実は校内のレストランの料理長に教えてもらっていたみたいで」
ヴィルの料理の腕前を前に、最初に料理を伝授したのは私です! とは口が裂けても言えなかった。
本日のお弁当は一口大のティーサンドイッチが自慢のラインナップである。
白パンだけでなく、ライ麦パンもあって、具材も卵にキュウリ、ハムチーズ、トマトチーズ、ニンジンラペ、炙りチキンと種類も豊富で彩りも鮮やか。
ありがたくいただいた。
エルノフィーレ殿下はサンドイッチがお気に召したようで、ヴィルの料理の腕前にも驚いていた。
「しかし彼はどうして、このように自分で料理をするようになったのですか?」
「それはそのー、いろいろありまして、自分で調理する料理がもっとも安全なので……」
たったそれだけのざっくりとした説明で、エルノフィーレ殿下はいろいろと察してくれた。
「あのお方も大変ですのね」
「ええ……」
エルノフィーレ殿下も自国での食事のさいは必ず毒見が入り、冷え切った食事を食べていたという。
「その辺は留学中は免除されるようで、温かい料理に感激しているんです」
料理が冷めない魔法の食器もあるものの、魔法の暴走を恐れて王族は使うことを禁じられていたという。
「そう、ですね。自分で食材を集めて作った料理が、もっとも安全なのでしょう」
料理を覚えるのはいいことなのかもしれない、とエルノフィーレ殿下はぽつりと呟く。
「わたくしも頑張ったら、このようなサンドイッチを作れますでしょうか?」
「もちろんです! とくにこのようなサンドイッチは材料をカットしてパンに挟むだけですので、他の料理に比べたら比較的簡単にできますよ」
「それを聞いて安心しました」
ただ、ヴィルみたいにセンスよく料理を作るという能力に関しては、また別のスキルが必要なのだ。その辺に関しては私よりもヴィルに直接習ったほうがいいだろう。
「それにしても、リンデンブルク大公子までも入部してくれるなんて驚きました」
さらに顧問はリンデンブルク大公である。まだ引き受けてくれるかどうかわからないものの、料理クラブの活動開始までの道は開けてきているように感じた。
「最初の活動なんですが、スモア――焼いたマシュマロとチョコをビスケットに挟む料理を作ろうかな、と考えているのですが」
「おいしそうなお料理ですね。いいと思います」
部長を差し置いて考えてしまった計画だが、心優しいエルノフィーレ殿下はすぐに受け入れてくれた。
「放課後、校長先生に話をつけておきますので」
「私も同行しましょうか?」
「あなたは王宮での花嫁修業があるのでしょう? そちらに集中してください」
「ありがとうございます」
ひとまず料理クラブについてはエルノフィーレ殿下にお任せしても問題ないようだ。




