ヴィルとの面会
その後、国王陛下にソフト軟禁されているヴィルと面会することとなった。
部屋が変わったようで、療養するような部屋から勉強しやすい書斎のような部屋へ移動したらしい。そこでヴィルは国王陛下の仕事の手伝いをしていた。
「ミシャ――よかった!」
ヴィルは私に会うなり駆け寄って、ぎゅっと抱きしめてくる。
突然の抱擁にどぎまぎしてしまった。
「ど、どうしたのですか?」
「今日、会えないのではと思って」
なんでも昨晩、ヴィルは国王陛下と盛大なケンカをしたらしい。
学校に行きたいヴィルと、まだ様子を見るようにと訴える国王陛下と意見が対立し、お互い引かないような状況だったという。
「最終的に王城での軟禁を続ける上にミシャとの面会を禁じるなどと言い出して」
「そ、そうだったのですね」
守衛の騎士にヴィルのところへ行きたいと言うと、あっさりここまで案内してくれたのだが。おそらく脅しのつもりで言っただけで、実行するつもりなどなかったのだろう。
「えー、そのーなんと言っていいものかわからないのですが、国王陛下がヴィルとケンカできるくらいにまでお元気になったのは、いいことなのではないでしょうか?」
「それもそうだな」
私から離れたヴィルが、困ったような笑みを浮かべながら言葉を返す。
「ミシャのことになると、いつも冷静さを失ってしまって……」
「そ、そうですね」
この状態のヴィルにジルヴィードのことまで言っていたらどうなっていたのか。考えるだけでゾッとしてしまう。
いくら信頼している相手でも、何もかも打ち明けるべきではないのだろう。今、ひしひしと痛感している。
先ほど私を捕まえて忠告してくれたリンデンブルク大公に、心の奥底から感謝したのだった。
「国王陛下はヴィルを心配していろいろ言ってくださるんですよ。学校に行きたい気持ちはわかりますが、どうかこれ以上ケンカをしないでくださいね」
「学校に行きたいというよりは、ミシャに会いたいのだが」
「こうして毎日来ているのに?」
「ぜんぜん足りない。それにミシャといつでも会える環境に身を置いていたいのだ」
まさかの理由だった。ずっと在学しているわけではないのに、卒業後はどうするのだろうか。
気になったものの、聞かないほうがいいと思ってスルーしておいた。
「とにかく、国王陛下と仲直りしてくださいね!」
「ああ、わかった」
おそらく数日はソフト軟禁が続くだろうが、お利口さんに過ごしてほしい。
「それはそうと、今日は少しゆっくりだったな」
「ええ! 実はエルノフィーレ殿下と少し放課後に話をしておりまして」
「何かあったのか?」
ヴィルの目つきがキリリと鋭くなる。
なぜ、このように勘が働くのか。なるべく動揺を顔に出さないように努めつつ、料理クラブについて打ち明けた。
「料理クラブか……。たしかにミシャの活動を魔法学校の実績に繋げるのはいいことかもしれないな」
これ以上厄介ごとを増やすな、と言われるかもしれないと思ったのだが、意外にも理解を示してくれた。
「部長はエルノフィーレ殿下が務めてくれるようで、私は平部員なんです。あとは三名ほど、部員を集めたらクラブとして成立するのですが」
「だったら私も入部しようではないか」
「ヴィル先輩が料理クラブに!?」
「ああ」
まさかの大物の参入である。
「ただ私は八月に卒業するから、部員でいられる期間は数ヶ月と短いが」
「そうでしたね」
ヴィルは最終学年で、八月には魔法学校を卒業してしまうのだ。
なんだか彼がいない学校生活というのは想像できないのだが……。
「顧問は決まっているのか?」
「いいえ、まだです」
「そうか」
ホイップ先生に相談して斡旋してもらうか、ホイップ先生に泣きつくかの二択になりそうだ。
「ただ、どの先生もさまざまなクラブの顧問を兼任されているので、引き受けてもらえるかわからないのですが」
「父に顧問ができないか頼んでみようか?」
「リンデンブルク大公にですか?」
「ああ。一つくらい仕事を増やしても問題ないだろう」
国王陛下の事情を把握し、王宮への出入りも自由にできるリンデンブルク大公が料理クラブの顧問になってもらえるといろいろ都合がいい。けれども理事長の立場で顧問になんてなれるものなのか。
「ダメ元で頼んでみよう」
「部員集めが成功した暁には、お願いしますね」
まずは部員を五名以上集めなければならない。
「ひとまず明日、エアとアリーセを誘ってみます」
「ノアにも声をかけてやってくれ。おそらく入部するだろうから」
「王宮へ国王陛下への料理作りをしにきているというのは、どう説明します?」
一応、校長先生がエルノフィーレ殿下がいる場でうっかり話してしまい、特殊な花嫁修業だとリンデンブルク大公が誤魔化したという出来事があったことを告げる。
「ノアや他の者にも同じ説明でいいだろう」
「わかりました」
そんなわけで、頼りになりすぎるヴィルが料理クラブの部員になってくれることとなった。




