叔父について
「それで、あなたの叔父様がどこにいるか、聞いてもいいかしらあ?」
「もちろんです」
叔父はツィルド伯爵のもとで従僕だか取り巻きだか知らないけれど働いているのだ。
それを説明すると、ホイップ先生の眉間に皺がぐっと寄った。
「どうかしたのですか?」
「いえ、ツィルド伯爵とはリジーの強制退学の件で学校側とあれこれ揉めたみたいで~」
「そ、そうだったのですね」
リジーの退学を不服とし、異議を申し立てていたようだ。
「学校側はエルノフィーレ殿下を味方にして、リジーの自分勝手な行いを抗議として返したら大人しくなったようなの」
ジルヴィードを教師として引き入れたのも、魔法学校側はルームーン国の貴賓が在籍している場所だから、これ以上あれこれ言うなという姿勢を示すためだったのかもしれない。
「もしかしたらこの雪は、魔法学校への報復なのでは?」
「それも否定できないわねえ」
暴風雪状態なのは魔法学校の近辺のみらしい。ホイップ先生は真っ先にツィルド伯爵からの仕返しなのではないか、と思ったという。
「校長先生に報告して、どうするか話し合うことになると思うわあ」
「さ、さようで」
「あなたは帰っていいわ、ありがとう~」
「え?」
もう釈放ですか? と言いたくなる。
「あとは先生達に任せて、あなたはガーデン・プラントで雪が止むまで待機していなさいな~」
そう言ってホイップ先生はガーデン・プラントまでの転移の魔法巻物をくれた。
今頃転移扉は混み合っているだろうから、と特別にくれたらしい。
「きっと、この暴風雪も長くは続かないと思うけれど~」
「でしょうね」
叔父の魔力はそこまで多くないだろうから、すぐに止むだろう。
ひとまず現行犯逮捕を狙ってとっ捕まえてほしい。
なんて考えたところでふと思い出す。
「どうかしたのお?」
「いえ、叔父の前科を思い出してしまいまして」
「前科?」
「はい」
叔父は以前、レナ殿下の誘拐未遂をしているのだ。
それについて父が騎士隊に調査を依頼するも、証拠不十分としてもみ消された。
この辺についてツィルド伯爵が関与している可能性が高いのだ。
ホイップ先生に言うべきかどうか迷ったものの、もう口にしてしまった。
それにこれから叔父のもとへいくのならば、念のため伝えておいたほうがいいだろう。
ホイップ先生は信用できる、大丈夫。そう自らに言い聞かせ、叔父の事情を語ることとなった。
話を聞いたホイップ先生は、眉間の皺をさらに深くさせていた。
「そんなことがあったの~。厄介なお方ねえ」
「本当にそうなんです」
一刻も早く縁を切りたい。そんな人物ナンバーワンなのだ。
「叔父様の犯行について騎士隊の動きが期待できないとしたら、この雪の件を糾弾するのも難しいかもしれないわねえ」
誘拐未遂事件について、レナ殿下側から何か動きがあることを期待したものの、今のところ何もない。もしかしたら誘拐犯の関係者がレナ殿下の性別に気付いたなどの、弱みを握っているので何もできない可能性があるが……。
「誘拐未遂に関しては、心の中に留めておくわねえ」
「そうしていただけると助かります」
誰が敵か味方かわからない状況である。多くの人達に広めないほうがいい情報だろう。
「では、ひとまず解散ということで~」
「はい」
「帰ってから外で働いてはいけないわよお」
「わかっています」
叔父の魔力で作られた澱にまみれた雪を浴びるなんて気持ち悪い。
今日は温かいスープをたっぷり作って、家で大人しくさせていただこう。
転移の魔法巻物を使って帰るなんてもったいない。けれども今日はありがたく使わせてもらった。
「ジェム、帰るわよ」
壁に張り付いたままだったジェムに声をかけると、私のもとへ飛び跳ねながらやってくる。
「では、ホイップ先生、さようなら」
「はい、さようなら~」
手を振るホイップ先生に見送られながら、私はガーデン・プラントに戻ったのだった。




