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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
五部・二章 とんでもない騒動

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 みんながぞろぞろと教室へと戻る中、足下に真っ赤な魔法陣が浮かぶ。

 そこから声が聞こえた。


『全校生徒は教室で待機! 繰り返す、全校生徒は教室で待機! 校外にて試験を受けている者達は、中断して即座に戻るように! 繰り返す――』


 エルノフィーレ殿下が不安そうにしていたので、一緒に教室に行くことにした。


「このような魔法、初めて目にしました」

「私もです」


 緊急事態用の魔法陣を用い、試験を中止にしてまで避難させるとは、よほど酷い雪になることが予想されたのか。


「この辺りは警告を出さなければならないくらい、雪が酷い日があるのでしょうか?」

「いいえ、警戒するような雪はめったに降らないと聞いていたのですが……」


 一度だけ、私が魔法の制御を誤って季節外れのドカ雪を降らしたことがあった。

 あれはホイップ先生のみが気付いて、ヴィルが責任を取った上でお咎めはなかったのだが。


 私達のクラスは先生の判断が早かったからか、すぐに全員教室への避難は完了したようだ。

 エルノフィーレ殿下は教室に戻ってくることができたからか、安堵の表情でいる。

 アリーセも取り巻きの中で不安げな表情を浮かべていたため声をかけようとしたのだが、ホイップ先生がやってくる。


「みなさーん、今日は下校となるそうよ~」


 ざわざわと騒がしくなる。

 ただ、そのような判断が下されるのも無理はないだろう。

 先ほどまではらはらと降るばかりだった雪は、横殴りの風に乗って吹雪のようになっていたから。

 ホイップ先生に遅れてルドルフもやってきていた。ジルヴィードの姿はない。

 ルドルフは一人だからか、居場所がないような顔で立っていた。


「寮まではあ、転移扉を使って帰ってほしいの~」


 今、外に出て寮まで帰るのは危険だという。


「ルドルフ先生、生徒達を転移扉があるフロアまで誘導できるかしらあ?」

「え、誘導、ですか?」

「そう。昨日、転移扉の場所、案内したでしょう?」

「あ……えっと、すみません。よく覚えていなくて」

「あらあら~」


 校内はとんでもなく広いので、一回案内された程度では覚えきれないだろう。

 内心同情したものの、このような緊急事態が発生したさい、教師や個人指導教師テューターは生徒達を引率しなければならないのだ。

 少しでも生徒を守ろうという心があれば、必死になって覚えるはずだが……。

 しょせん、棚からぼた餅みたいな感じで個人指導教師になっただけなので、その辺の意識はなかったに違いない。


「そういえばジルヴィード先生はあ?」

「一時間ほど前に腹痛を訴えて帰りました」

「まあまあ、大変だったのねえ」


 ホイップ先生はこれからすることがあるらしく、引率はできないらしい。どうしたものかと困っているところに、レナ殿下が挙手する。


「ホイップ先生、私がルドルフ先生を転移扉のほうへ導くのはどうだろう?」

「あら、いいの?」


 レナ殿下はこくりと頷く。なんて頼りになる学級委員長なのか。

 こういうとき、真っ先に監督生である私が名乗りでないといけないのに……。

 ジルヴィード相手だったらそうしていたかもしれないが、相手がルドルフだったので何もできずにいたのだ。私情を挟んでしまったことを深く反省する。


「ではみなさ~ん、ルドルフ先生と学級委員長の引率に続いて安全に下校してねえ。試験はまた別の日にすることになるからあ」


 もしかしたら私の飛行試験はやり直しかもしれない。まあ、ジェムが扮したブリザード号だったし、もう一度やったほうがいいだろう。

 席を立ったら、ホイップ先生から声がかかる。


「ミシャは手伝ってほしいことがあるから、教室に残ってくれる?」

「あ、はい」


 エアとノア、エルノフィーレ殿下を見送り、アリーセには「また明日ね!」と声をかけておく。

 するとアリーセは笑みを返してくれた。


 誰もいなくなった教室で、ホイップ先生が信じがたいことを口にする。


「この雪、どうやら魔法で発生したみたいなの」

「なっ――!?」


 いったいなぜ? 驚きのあまり言葉を失ってしまった。

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