試験一日目
試験は五種類あり、総合魔法に実技魔法、使い魔使役に魔法式、飛行魔法である。
一日目は使い魔使役だ。
毎晩ジェムと一緒に練習したのだが、まあ、言うことを聞かない。
気まぐれな性格で、私の実力につり合わない精霊様なのでもう諦めている。
何をするのかといえば、主人の命令を遂行し、一種類魔法を使わせるというもの。
魔法であればなんでもいいのだ。
命令については言葉の上から目線が気に食わなかったのか。毎回無視である。
魔法は得意の発光をするだけでいいと言っているのに、どれだけお願いしてもスルーされていた。
どっちかでいいのでやってほしい、と土下座までしたのに知らんぷりだった。
使い魔使役の試験は教室に五名ずつ呼ばれて披露する。
私はエアと一緒の組になった。
火トカゲのリザードはしばらく見ないうちにさらに大きく成長していた。
もはや中型のワニくらいあるのではないか。
成長するにつれてボディカラーが赤くなっているらしい。
「こいつ、毎日寮の雑草をバクバク食べるんだよなー。それで大きくなったのかも」
通常、使い魔は食料を必要としない。けれどもリザードは雑草を夢中になって食べているらしい。
「うちの寮、庭が広くて雑草がボーボー生えていたんだ。それで定期的に除草作業を実施していたみたいなんだけれど、めんどくさがりばっかで人が集まらなくて、寮長が困っていたんだよな。でも、リザードが食べるようになって、助かっているんだ」
「そうだったのね。うちの温室でも雑草が出るけれど、それも食べる?」
食べる! とエアが言うのと同時に、リザードの瞳がきらりと輝く。
こんなに大きな体になっても、かわいいところがあるんだな、と思ってしまった。
と、お喋りしている場合ではない。
試験を開始する、と宣言があって教室に呼ばれる。
クラスメイト達は使い魔の使役を見事にこなしていた。
ドキドキする中、私の番が回ってくる。
ジェムはやる気がないようで、床に薄くなって広がっていた。
「ねえ、ジェム、私達の番なの! いくわよ!」
声をかけても床に広がったまま動こうとしないので、べりべり剥がして前に出る。
だらしなく見えてしまうので、ジェムの体をくるくる巻いて筒状にし脇に抱えた。
試験官である先生は呆れた様子でジェムと私を見ている。
「ミシャ・フォン・リチュオルと――宝石スライムのジェム、で間違いないな?」
「はい!」
「ではまず、〝命令〟からするように」
この教室内でできることであればなんでもいい、という指示があった。
どうせ私の言うことなんて聞くわけがないと思って、これまでやらせたことのない行動を命じてみる。
「ジェム、三回回ってワン! って鳴いて」
するとジェムは勢いよく飛びだして大きな犬に変化し、三回回って『わん!』と鳴いた。
「え!?」
「けっこう」
驚く私を置き去りにし、先生は採点しているようだ。
ジェムはすぐに球体に戻り、撫でてほしいのか私のほうに体を傾かせる。
いい子、いい子と褒めると、喜んでいるのかじんわり温かくなった。
「続いて魔法を命じるように」
魔法は事前に申請していたものをしないといけない。ジェムの気まぐれでどんなすごい魔法ができたとしても、点数はつかないのだ。
私は発光魔法を申請していた。果たしてしてくれるのか――。
「ジェム、発光して!」
そう言うやいなや、ジェムは小さくチカチカ、と光った。
目が潰れそうなくらい発光したらどうしよう、と思っていたものの、理想的な光を放ってくれた。
「けっこう。下がるように」
「は、はい!」
なんとか上手くやれたようだ。
これまで一度もできたことなんてなかったのに。思わずジェムに抱きつき、褒めちぎったのだった。
最後にエアが披露する。
命令は鳴き声をあげるように言っていた。見た目に反し『き~~ん!』とかわいらしい鳴き声をあげる。
続いて魔法は発火を申請していたらしい。
マッチでつけたような小さな火を放ち、大成功を収めていた。
無事、使い魔使役の試験は終了となる。明日は飛行魔法だ。




