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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
五部・一章 思いがけない再会

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おやつの時間

 レナ殿下から貰った生クリームを使ってスノー・ベリーのフルーツサンドを作ろう。

 生クリームはこの世界では大変貴重で、いつか特別な日に使おうと大切に取っておいたのだ。

 ちなみに生クリームは品質保持のための魔法がかけられている。三年ほど期限があるので、その期間内であればおいしくいただけるのだ。

 さすが、魔法がある世界の生クリームである。

 前世では気軽に購入できたのに、この世界では銀貨一枚もするのでなかなか手を出すことができないのだ。

 生クリームを牛乳から手作りできたらいいのだけれど、あれは個人の努力で作れるものではない。

 たしか生乳から乳脂肪を分離させて、さらにそれからクリームと脱脂乳に分離させ、殺菌、数時間熟成させて冷やしたものが生クリームになる。

 乳脂肪と植物性油を配合して作る生クリームもあって、乳脂肪のみを使ったものと異なり、さっぱりとした味わいに仕上がるのだ。

 故郷にいたころは牛乳とバターから作るなんちゃって生クリームをケーキなどに塗って食べていた。こってりしていて、一切れ食べたらもういいや、となってしまったのを思い出す。

 レナ殿下がくれたのは、乳脂肪のみを使った最高級の生クリームだ。ありがたくいただこう。


 ボウルに生クリームと砂糖を入れ、泡立て器でかき混ぜよう。


「~~~~~!!」


 渾身の力で混ぜるもすぐに腕が疲れてしまう。

 ぜーはーと虫の息でいたら、ジェムが触手を泡立て器に変化させ、任せろとばかりに見つめてくる。


「泡立ててくれるの?」


 もちろん! と光ったので、お任せすることにした。

 ジェムは目にも留まらぬ速さで生クリームを混ぜていく。あっという間に生クリームを完成させた。


「ジェム、すごいわ! 天才!」


 よしよしと撫でながら褒めちぎると、まんざらでもない表情を浮かべていた。

 雲みたいにふわふわな生クリームを見て、感激してしまう。このフワフワクリームがずっと恋しかったのだ。

 指先で掬って食べてみると、優しい甘さが口いっぱいに広がる。

 濃厚でおいしい生クリームだった。

 ジェムのおかげで生クリームが完成したので、次なる調理に移る。


 フルーツサンド用の食パンなんぞないので、丸い白パンを使って作ろう。

 真ん中に切り目を入れて、生クリームをこれでもかと塗って、スノー・ベリーを詰めていく。

 前世で一時期流行った、マリトッツオみたいな感じに仕上げてみた。


「うん、おいしそうかも!」


 紅茶を淹れたあと、ヴィルをお招きする。

 調理していたのは三十分もなかっただろうが、ヴィルは麻袋いっぱいに雑草を取っていたようだ。


「これだけしか取れなかった」

「いやいや、すごいですよ」


 お菓子ができたとお知らせすると、ヴィルは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 ただ、ヴィルは初めてフルーツサンドを目にするようで、不思議そうに眺めていた。


「パンに果物を挟んだフルーツサンド、というお菓子なんですよ」


 この世界にはパンに生クリームを挟んで食べるという文化がないようで、ヴィルは少し躊躇うような様子を見せている。

 前世で言うところの、ご飯に生クリームを塗って食べる、みたいな感じなのだろう。


「無理して食べなくてもいいですからね」


 まずは私が食べてみせよう。フルーツサンドを頬張ると、なめらかな生クリームの甘さとフワフワのパン、スノー・ベリーの甘酸っぱさが相まって、最高の味わいとなる。


「うーーん、おいしい!」


 私が食べる様子を見て安心したからか、ヴィルも食べ始める。

 ヴィルは一口頬張った瞬間、カッと目を見開いた。


「なんだこれは!? おいしい!!」


 それから大絶賛をしつつ平らげ、二つ目を勧めたらぺろりと食べてくれた。


「パンに生クリームと果物を挟んだものが、このようにおいしいなんて。新しい発見だ」


 フルーツサンドをお気に召してくれて嬉しい。

 残った物は温室で働く魔法生物達にもお裾分けをしてあげたのだった。

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