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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・四章 調査、調査、そして調査

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リジーの嘘

 まさか誰にも売っていなかったなんて。

 雪白石鹸を使って被害に遭っているであろう人はいない。その点だけはよかったと言えよう。


「もういいだろう! ここからだしてくれ!」


 その前に雪白石鹸を回収したい。そう訴えるとリジーは代金と引き換えだと言う。


「あなたね、まだそんなことを言っているの? 雪白石鹸はラウライフに送り返すわよ」

「なっ、あれはあたくしが貰った物なんだ! どうして返さなければならない!」


 きちんと熟成させてから販売すると言うが、リジーに雪白石鹸の管理なんてできるわけがない。


「リジー、あなた、雪白石鹸は冷暗所に置いているでしょうね? きちんと離して置かないと、しっかり固まらずにカビが発生してしまうわよ」

「そんなの知らない!」


 おそらくラウライフから届いた状態のまま、放置しているに違いない。

 一度カビてしまったら売り物にならない。

 どちらにせよ、回収したほうがよさそうだ。


「全部でいくつ届いたの?」

「三十……いいや、二十九だ」


 その発言に引っかかりを覚える。じっとリジーの顔を見ると、パッと視線を逸らした。

 これはリジーが嘘をついているときに見せる行動だ。

 どうやら正確な数字を申告しなかったようだ。


「ねえリジー、本当は何個なの?」

「二十九って言っているだろうが!」

「三十」


 ヴィルが言い切ると、リジーはギョッとした表情を浮かべる。

 どうやら最初に言った三十個で間違いないようだ。


「ねえリジー、どうして嘘をついたのかしら~?」

「た、ただの記憶違いだよ!」

「そうなのねえ」


 ホイップ先生が納得したような言葉を返したので、リジーは安堵の表情を浮かべる。


「もういいだろう? あたくしは忙しいんだ! ここからだしてくれ!」

「お待ちなさいな~」


 ホイップ先生は猛禽類のかぎ爪みたいに、リジーの肩をがっしり掴む。

 そして笑みを浮かべたまま問いかけた。


「あなた、雪白石鹸を誰かに差し上げたわよねえ?」


 核心を突くような言葉だったのだろう。リジーは「ヒッ!!」と悲鳴をあげる。


「間違いないようだな」

「リジー、いったい誰に渡したの? 早く言わないと、被害があるかもしれないでしょう?」

「知らない! 誰にも渡していない!」


 埒が明かないと思ったのか、ホイップ先生は自白魔法を発動させる。


「魔法は使いたくなかったんだけれど~」


 魔法陣が浮かんで弾けると、リジーはその場に膝を突く。

 ホイップ先生がしゃがみこみ、幼子に声をかけるように優しく質問した。


「あなたは、どなたに雪白石鹸を渡したの?」

「――エルノフィーレ殿下」


 聞いた途端にゾッとした。


「ホイップ先生、エルノフィーレ殿下は肌が弱いんです!」


 もしも熟成していない雪白石鹸を使ったら、火傷を負ったように肌がただれてしまうだろう。


 すぐに回収にいかないといけない。


「仕方がないわ。この子はここに閉じ込めておいて、エルノフィーレ殿下のところにいきましょう」


 エルノフィーレ殿下は以前まで王宮の貴賓室から学校に通っていたようだが、最近は寮に入っている。


「彼女は水属性の持ち主だから、アクア寮ね~」


 夜間に入寮するためには寮長の許可がいるらしい。教師といえども例外ではない。なんて思っていたものの、ヴィルは各寮に許可なく立ち入る権利を持っているそうだ。


「教師が持っていない行使権を持っているなんて~」

「使う機会など卒業までないと思っていたんだがな」


 ひとまず急ごう。ホイップ先生の転移魔法でアクア寮まで直接飛んでいったのだった。

 

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