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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・四章 調査、調査、そして調査

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報告

 ツィルド伯爵夫人の行いを報告書にまとめ、エルノフィーレ殿下へ提出する。

 放課後、私達以外誰もいない教室で時間を作っていただいた。

 化粧品入りのポーチもノアが提供してくれたのだ。

 エルノフィーレ殿下は冷静な様子で報告書に目を通したあと、化粧品入りのポーチへ手を伸ばす。


「そちらの化粧品はツィルド伯爵夫人がプロデュースした製品のようです」


 エルノフィーレ殿下は化粧水が入った瓶の蓋を開け、くんくんと匂いを嗅いでいる。

 手袋を嵌めたエルノフィーレ殿下は、他の化粧品もハンカチの上に出してテクスチャーなどを慎重に調べている様子だった。


「これらの商品は、おそらくルームーンでごくごく普通に市販されている、一般的な化粧品でしょう」


 庶民の女性の多くが利用しているもので、金貨一枚の価値もない比較的お手頃な化粧品だという。


「よくご存じでしたね」

「化粧品のコレクターでしたので」

「そうだったのですね!」


 きっかけは化粧品による酷い肌荒れだったらしい。

 自分に合う化粧品を探すために国内、国外のありとあらゆる商品を取り寄せているうちに詳しくなったのだとか。


「そうとは知らずに、化粧魔法をしてしまって……」

「いいえ、あなたの魔法は大丈夫でした」

「うう、よかったです」


 それにしても、高級そうに見える容器に安価な化粧品を入れて販売するなんて悪質だ。その上ツィルド伯爵夫人はネズミ講を推奨している。


「さらにリジーも加担しているんです。彼女の侍女役を解任するのにうってつけの理由かと」


 ようやく掴んだ情報だったが、エルノフィーレ殿下の表情は冴えない。


「もしかして、使えない情報でしたか?」

「せっかく休日を潰して調査にいってくれたのに、ごめんなさい……」


 目を伏せ、悲しげな表情を浮かべるエルノフィーレ殿下に「どうかお気になさらず」と声をかける。


「どうしてこの情報は使えないのですか?」

「それは――ツィルド伯爵夫人がサーベルト大公家の人間だからです」


 サーベルト大公家! まさかツィルド伯爵夫人がジルヴィードと血縁関係にあったなんて。言われてみればそれとなく、陽気な性格などが似ているような。


「わたくしも昨晩、知りまして……。もっと早く知っていたら、あなたにも教えてあげることができたのですが」


 サーベルト大公家は国内で絶大な権力を持っているようで、王女であるエルノフィーレ殿下よりも一目措かれているという。


「もしもツィルド伯爵夫人がサーベルト大公に苦情を言ったら――!」


 エルノフィーレ殿下の立場が悪くなるかもしれない。

 そんな危惧があるという。


「せっかく国をでて魔法学校に入学できたのに、連れ戻されるような事態になるでしょう」


 まだリジーが侍女であるほうがマシだ、とエルノフィーレ殿下は言う。


「本当に……ごめんなさい」

「いいんです」


 エルノフィーレ殿下の手をそっと握り、ただただ黙って傍にいた。

 しょんぼりしているエルノフィーレ殿下を護衛に託し、私はガーデン・プラントに戻る。

 今日も今日とて、契約しているモモンガや元使役妖精達はもりもり働いていた。

 最近は温室の薬草だけでなく、ガーデン・プラント内の植物のお世話をしてくれる。

 おかげさまで、以前よりもずっと美しい状態でいた。

 私が帰ってきたのに気付くと、元使役妖精達はワーッと声をあげながら駆け寄ってくる。


『おかえり!』

『おかえりなさい!』

『いつもより遅かったね!』

「ええ、少し教室でお喋りしていたのよ」


 皆にカステラを食べようと言うと、飛び跳ねて喜んでいた。

 熟成させていたカステラを持ってくると、皆、おりこうさんな様子で一列に並んでいる。

 四角くカットしたカステラを両手で持って頬張る様子は、悶絶するほどかわいらしい。

 私もひとまずお茶の時間にしようか、なんて考えているところにヴィルがやってきた。


「ミシャ、帰っていたか」

「はい」


 今日はヒバリを両肩に乗せての登場である。


「元気がないな」

「あー、うん、わかる?」

「当然だ」


 何があったのか打ち明けると、ヴィルは眉間に深い皺を刻んでいく。


「ツィルド伯爵の妻はサーベルト大公家の者だったのか」

「そうみたい」


 ジルヴィードといい、ツィルド伯爵夫人といい、サーベルト大公家の人達は曲者揃いな印象がある。

 せっかくいい情報を掴んだと思っていたのに悔しい。


「陛下に報告して対応してもらうこともできるだろうが、サーベルト大公家が絡んでいたら難しいだろうな」

「ええ」


 我が国にネズミ講を取り締まる法律なんてないので、騎士隊を動かすこともできないのだ。


「なんとかリジーのやっていることだけで、彼女を糾弾できたらいいのですが――」


 雪白石鹸を盗んでいるのではないか、という疑惑にかけて父に調査を頼めばいいのか。

 頑張ってツィルド伯爵夫人の喫茶店で粘ったのに、使えない情報だったなんて。

 思わず頭を抱えてしまった。


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