被害者の会
あのあと、騎士達から謝罪を受けた。なんでもリジーがこのような騒ぎを起こすことははじめてではないようで、騎士達も手を焼いているらしい。
なんでも苦言を呈するメイドを糾弾したり、食事が口に合わないと料理人を解雇するように言ったり、女性騎士には難癖をつけるのに男性騎士には色目を使ったり……。
聞いているだけで気の毒になるような事態を引き起こしているようだ。
そんなふるまいが許されているのは、リジーがエルノフィーレ殿下の侍女だから、の一言に尽きるだろう。
途中からメイドも合流し、リジーに対する不満をこれでもかと聞かされた。
きっと私が国王陛下の入城許可証を持っていたので、上層部に近しい人物だと思われているのだろう。
はっきりリジーをどうにかすると言えないのだが、メイドにこれまで大変だったと声をかけると、泣きそうな表情を浮かべて何度も頷いていた。
励ましくらいにはなっただろうか。ひとまず彼女らには、数日前に自分へのご褒美にと買ったチョコレート・チャンククッキーをお裾分けした。
その後、ついでと言ってはなんだが、国王陛下のお食事を作ってから学校に戻ることにする。
国王陛下は現在、固形物を口にできるまで回復していた。
昨日は野菜を切り刻んで煮込んだスープを完食できたという。
夕食は白身魚のクリームグラタンに、桃をくたくたになるまで煮込んだコンポートをデザートにつけてみよう。
朝食はスープを固めたコンソメスープのゼリー寄せにパン粥を作った。
お昼は鶏肉と野菜のテリーヌにカボチャのポタージュを仕込む。
その後は作り置きの料理をいくつか用意し、冷凍庫に保管しておく。
これだけ作っておけば、何かあったときも安心だろう。
さて帰ろうか、と廊下を歩いていると、思いがけない人物と鉢合わせする。
「あ、君は――」
「げっ!」
ヴィルとそっくりな青年、ジルヴィード。
彼も王城に滞在を許される存在だったようだ。
何が面白いのか、突然笑いはじめる。
「あはは、おかしいね」
いったい何を笑っているのやら。
会話などしたくなかったが、彼は貴賓。無視などできない。
「何か楽しいことでもあったのですか?」
「いや、顔を合わせた瞬間にげっ! とか言われたのは初めてだったからさ」
私のとっさの反応が彼を楽しませてしまったらしい。
「そうだ。お茶でも一杯飲まない?」
「今日は忙しいので、また今度誘ってくださいな」
返事を聞く前に通り過ぎようとしたのに、彼はにっこり笑ってとんでもないことを口にする。
「エルノフィーレ殿下が君に泣きついたようで――」
慌ててジルヴィードの口を塞ぐ。どこで誰が話を聞いているのかわからない場所で、どうしてそんな発言ができるのか。
一言物申したほうがいいだろう。
「一杯であればお付き合いします」
ただし、メイドのいる部屋で。そう言うと、ジルヴィードはすぐに場所を用意した。
異国の地で来客を迎える部屋を用意し、使用人を手配できるなんて、貴賓というのはさぞかし優遇された立場にいるんだな、と思う。
リジーも自分のご身分を勘違いするわけだ、と思った。
「いや、忙しいのに悪かったね」
「余計なことをおっしゃったので、口止めする必要があると思いまして」
「エルノフィーレ殿下のこと?」
メイドがいるのに、軽率な発言をするなんて。すぐに「シッ!!」と注意を促す。
「名誉にもかかわるようなことを、他人の耳目がある場で口にしないでください」
「へえ、君、彼女の侍女みたいなことを言うんだね。リジーよりもよほど侍女みたいだ」
「他人の名誉を著しく損なう発言をするのは、侍女でなくても非難すべきことかと」
「なるほど! たしかに君は正しい!」
ジルヴィードの舞台役者のような大げさな物言いに、カチンときてしまう。
けれども感情を露わにしたら喜ばせてしまいそうなので、ぐっと堪えた。
紅茶を一気飲みすると、ジルヴィードに笑われる。早く終わらせようとしたことなのに、彼を楽しませてしまったようだ。
ひとしきりケタケタ笑ったあと、ジルヴィードはとんでもないことを言った。
「婚約者、君にすればよかったな」




