苦言
誤解が解けたところで本題に移る。
ヴィルがエルノフィーレ殿下を取り巻く問題について、レヴィアタン侯爵夫婦に打ち明けた。
「――というわけで、エルノフィーレ殿下の私情で、と言ったら聞こえが悪いようだが、ツィルド伯爵の娘リジーを侍女の座から降ろすための材料を探しにいこうと思っている」
「なるほど。その件に関しては以前、陛下も苦言を申していたのだ」
なんでも国王陛下はエルノフィーレ殿下の侍女役について、アリーセがいいのではないか、と提案していたらしい。
けれども枢密院側がいい顔をしなかったらしく、ルームーン国側の大臣の強い希望もあってリジーに決まったという経緯があったようだ。
「陛下のおっしゃるとおり、公爵令嬢アリーセ・フォン・キルステンのほうが侍女として適任だったな」
「まったく、そのとおりだ」
侍女というのは皆の手本となるような女性で、通常であれば既婚者が選ばれる。
魔法学校に侍るという特殊な状況から、同年代であるリジーが選ばれたのだろう。
ただそれにしても、貴族としての礼儀作法が完璧でないリジーを侍女として抜擢するのはありえない。エルノフィーレ殿下に対しても失礼だろう。
「一刻も早くツィルド伯爵の娘を侍女の座から降ろして、新しい侍女を立てないといけぬな」
「あのー、その件ですけれど」
エルノフィーレ殿下より侍女になってほしいという打診があったことを打ち明ける。
するとレヴィアタン侯爵夫婦はすばらしいことだ、と褒めてくれた。
「ただ、私の礼儀作法もリジーとそう変わらないので、その、再び選定があったさいには、アリーセを推すようにお願いします」
「いやいや、エルノフィーレ殿下が侍女にと望んでいる以上、胸を張ってお受けしたほうがよいのでは?」
レヴィアタン侯爵夫人も深く頷いている。ヴィルも言葉を続ける。
「ミシャ、謙遜するな。どこにいっても、ミシャの礼儀作法は完璧だ。何も恥じる必要はない」
「そ、そうですか?」
さらにレヴィアタン侯爵夫人が思いがけないことを言ってくれる。
「エルノフィーレ殿下の侍女になれば、箔が付くと思いますの」
この先ヴィルの婚約者として隣に立ったときに、陰口など言えなくなるのだろう。
それくらい、エルノフィーレ殿下の侍女という立場は担う人の価値をぐんと高めるものなのだ。
リジーもそれを狙って喜んで就いたに違いない。
「まあ、侍女を解任に追い込むまで時間はかかるだろうから、ゆっくり考えておくとよい」
「ミシャさんのお気持ちが第一ですので」
「はい、ありがとうございます」
もしもエルノフィーレ殿下の侍女になりたくない場合は、国王陛下に話をつけてくれるという。
レヴィアタン侯爵夫婦は優しい。レヴィアタン侯爵は出会った日に、王都の父と思って頼ってほしいと言ってくれたのだが、本当の両親のように接してくれる。
感謝の気持ちでいっぱいになった。
「ツィルド伯爵についてだが、我々も調査してみよう」
リジーをエルノフィーレ殿下にごり押しした件といい、枢密院のメンバーに選ばれた件といい、以前より怪しいと思っていたようだ。
これまで目に見える実害がなかったので、野放しにしていたらしい。
あの悪質極まりない叔父を側近として採用しているくらいの人物だ。何か怪しい物がでてくるに違いないだろう。
「ご迷惑をおかけします」
「いいや、いい機会だったのだろう」
徹底的にツィルド伯爵について調査を始めるという。
「何かわかったらすぐに連絡するゆえ」
そして私達には危険な場所に首をつっこまないように、と言われてしまう。
潜入調査などもってのほかだと。
ひとまずレヴィアタン侯爵に任せておいて、同時進行で私達にできることを探ろう、という形で落ち着いた。




