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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第二章 人間関係のあれこれ

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リジーの〝運命〟

 緊迫した状況なのだが、リジーがどちらを自分の男とするのか気になるところだ。

 リジーがヴィルのほうを見た瞬間、睨まれたので助けを求めるようにジルヴィードのほうを向く。


「君はたしか――そう、リジーだ!」

「そうだよ!」


 尻尾をぶんぶん振る犬のごとく、リジーはジルヴィードに抱きつく。

 彼は避けもせず、リジーの好きなようにさせていた。


「騒いでいたようだけれど、どうしたのかな?」

「ミシャが、ミシャが」

「ミシャがどうしたの?」

「ミシャが……」


 私は何もしていないので、抗議できないのだろう。彼女の目はわかりやすいくらい泳いでいた。


「少し、いいだろうか?」


 ヴィルがジルヴィードに声をかける。その瞬間、ジルヴィードはリジーを離し、ヴィルと対峙するように向かい立つ。


「私はリンデンブルク大公家のヴィルフリートという」

「俺はサーベルト大公子息ジルヴィードだよ」


 空気がピリッと震えたように思えた。


「初対面であるリジー・フォン・ツィルドが私と貴殿を勘違いしたのか、ミシャを泥棒猫呼ばわりした。彼女は貴殿と関係あるご令嬢で問題ないだろうか?」

「いいや、ぜんぜん関係ないよ。今日知り合って、いきなり自分の男扱いしてきたんだ」


 ジルヴィードはあろうことか、リジーをバッサリ捨てるような物言いで関係を否定した。

 リジーは目を極限まで見開き、信じがたい、という表情でいる。


「あ、あんたとは、魔法学校で出会って――」

「魔法学校? それってここの国にあるかの有名な、ヴァイザー魔法学校のこと?」

「そうだよ! 講堂で、目が合って運命を感じたんだ」

「俺で間違いない?」

「当たり前だ!」


 リジーはあっさりと、ジルヴィードの誘導尋問にはまってしまったようだ。


「残念だけれど、俺は君の運命の男ではないよ」

「どうして!?」

「だって俺はエルノフィーレ殿下と同じ国で生まれ育った男だからね。魔法学校にも通っていないし、最初から何もかもが勘違いだったんだよ」

「だったら――」


 リジーはすがるようにヴィルを見る。


「リジー・フォン・ツィルド、呆れた物言いを繰り返すのは止めてくれ、迷惑だ」


 たった一言でヴィルはリジーを黙らせることに成功させていた。さすがである。


「自分が行った愚行をミシャのせいにするのもどうかしている。身の程をわきまえてほしい」

「うっ、うう……酷い、あたくしを全員で悪者にして!! ツィルド伯爵に言いつけてやる!!」


 リジーはそう叫んだあと、この場から走って去って行った。

 ジルヴィードはせいせいした、とばかりにのびのびと背伸びをする。


「嵐は去ったな~~」


 そんな発言をしたあと私とヴィルを見つめ、「やっと会えた!」と嬉しそうに言う。


「ヴィルフリート君、少しお話がしたいんだけれど、いいかな?」

「断る」

「君の出生について知っていると言っても?」

「生まれなどどうでもいい。大切なのは今だから」


 ヴィルはそう言って私の手を握ると魔法を展開させる。

 逆の手には破った転移の魔法巻物が握られていた。

 足下に魔法陣が浮かぶと、視界がくるりと回転する。あっという間に魔法学校へ下り立った。


「――わっ!」


 ヴィルが私を抱き寄せ、着地を補助してくれた。


「学校へ繋がる魔法巻物を、持っていらしたのですね」

「ああ。生徒手帳に入っている緊急用ではなく、監督生長に支給されるものだ」


 リジーがやってきたときから、魔法巻物を使うタイミングを狙っていたらしい。


「ミシャと馬車でゆっくり帰りたかったから、使う気はさらさらなかったのだがな」


 想定外のリジーとジルヴィードの遭遇により、しぶしぶ使ったようだ。


「リジーがすみませんでした」

「なぜ謝る?」

「一応従姉ですので」

よわい十五を超えている者の責任を、親族だからと言って気に病む必要はまったくない。今後、いっさい気にするな。それにあの者はツィルドと名乗っていただろう。もはや他人だ」

「ヴィル先輩……ありがとうございます」


 リジーのことは今、この瞬間から他人だ。

 ヴィルのおかげでそう思えるようになった。

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