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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第二章 人間関係のあれこれ

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まさかの

「みなさん、ありがとうございました! 助かりました!」


 せっかく喚んだヴィルが幻術で作り出された存在だと言われたときは焦ったが、レナ殿下とエルノフィーレ殿下のおかげで事なきを得たのだ。


「ヴィル先輩、申し訳ありません。呼び出しがあったのに、召喚してしまって」


 なんて言葉をかけるとヴィルはハッとなる。


「いいや、ミシャを探していたんだ!」

「私を、ですか?」


 用事が終わったから探していた、というようには見えなかった。何か急用があったのだろう。


「移動しよう」


 エルノフィーレ殿下は侍女が迎えにきて、別室で休憩するようだ。具合が優れないと言って、レナ殿下に連れ出してもらっていただけだったらしい。


 私は改めてエルノフィーレ殿下に感謝の気持ちを伝える。


「エルノフィーレ殿下、心から感謝します」


 もっと心を込めていろいろ言いたかったのだが、不敬になってはならないと思ってシンプルな言葉になってしまった。

 エルノフィーレ殿下はこくりと頷き、踵を返して去っていった。

 レナ殿下まで会場から長くいなくなるわけにはいかないと言って、会場に戻っていく。

 ヴィルは転移の魔法巻物を破る。すると私達の周囲に魔法陣が浮かび上がり、一瞬で転移した。


 下り立った場所は、カーテンが閉ざされた中、魔石角灯がぽつんと灯るだけの薄暗い部屋。そこには大きな天蓋付きの寝台が置かれていて、横たわっていたのは白髪頭の痩せ細った男性だった。

 彼はまさか――と思う前に、ヴィルが声をかけたので正体が明らかとなった。


「国王陛下、私の婚約者であり、リチュオル子爵の娘、ミシャを連れて参りました」

「おお、そうか……」


 一目見てわかるほどの衰弱具合である。このお方が国王陛下だなんて。

 枯れ木のように細い腕を私に伸ばしてくれた。

 手を握ってもいいものなのか。ヴィルのほうを見たら頷いてくれた。

 私は片膝を突いた状態で国王陛下の手を両手で優しく包み込む。


「はじめてお目にかかります、ミシャ・フォン・リチュオルと申します」

「話は、ヴィルからずっと聞いていた」


 国王陛下相手にヴィルは何を話していたというのか。恐ろしくって深くは聞けない。


「ずっと会いたかったのだが、ヴィルから元気になるのが先決だ、なんて言われてな」


 どういう言葉を返していいのかわからず、ぎこちない笑みを浮かべてしまう。

 ヴィルもしゃがみ込み、私の隣に片膝を突く。


「ミシャ、実は先ほど、陛下が暗殺されそうになった」

「――!?」


 この場で叫ばなかった私を誰か褒めてほしい。

 騎士や重役のおじさん達が慌てたように走り回っていたのは、国王陛下の暗殺騒ぎがあったからだったのだ。

 それで私は、そのとんでもない事件の容疑者にされかかった。考えただけでゾッとする。


「は、犯人は?」

「わからない」


 動揺する私に対し国王陛下は、まるで感謝するような眼差しを向けている。

 いったいなぜ?


「陛下は毒を盛られていた。しかしながら陛下は食欲がなかったようで朝から何も、薬すらも口にしていなかった」


 なんでも薬に毒が混入されているのではないか、という疑いがでてからは内服を止め、魔法療養を続けていたらしい。


「そんな状況で陛下は突然吐血し、苦しみ始めた」


 遅効性の毒ではないかと疑ったようだが、吐いた血を調べてもデータが検出されなかったようだ。

 即効性にせよ、遅効性にせよ、未知なる毒だ――誰もが絶望しかけたそのとき、ヴィルがあることを思いついたらしい。


「ミシャののど飴だ」

「え!?」

「毒物の働きを取り除く祝福ギフトがあっただろう?」

「あ、ああ! ありましたね、そんなものが!」


 たしかに私が作った食べ物には解毒効果が付与される。けれどもそれは猛毒には効果がないのだが……。


「陛下の中毒症状は治まり、今に至る」

「そう、だったのですね」

「君は命の恩人だ」


 国王陛下の眦には一粒の涙が浮かんでいた。

 まさかあのときヴィルに渡していたのど飴が役に立ったなんて。

 本当に、人生とは何が起こるかわからない、と思ったのだった。

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