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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第二章 人間関係のあれこれ

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驚き

 サーベルト大公子息、ジルヴィードが被っていたハットを取ると、髪色が灰色なのに気づく。照明の当たり具合でヴィルと同じ銀髪に見えたのだろう。


「君、俺のこと幽霊を前にしたような顔で見ているけれど、どうしたの?」

「それは――」


 あまりにもヴィルと似ているから、と素直に言っていいものか迷っていたら、リジーがジルヴィードの腕をぐいっと引く。


「あっちに個室があるんだ。夜会が始まるまで、一緒に過ごそう」

「いやいやいや、結婚前のお嬢さんが異性とふたりっきりになってはいけないんだよ」

「将来結婚すればいいだけの話だろう? ほら!」


 ジルヴィードはリジーに導かれるまま、エントランスからいなくなる。

 いつの間にか全身に鳥肌が立ち、寒気を感じていた。両手で肩をさすっていたら、ヴィルがやってきたのに気づく。


「ミシャ、どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」

「いえ、少し寒かっただけなんです」


 そう答えるとヴィルはすぐに上着を脱いで肩からかけてくれた。


「暖炉がある部屋へいこう」

「平気です」

「どうせ夜会が始まるまで待機していなければならないんだ」


 ヴィルはそう言って私を横抱きにし、ずんずんと歩き始める。

 そんなヴィルの格好は時と場合に相応しい、きっちりとした黒の燕尾服だった。彼らしい格好に、嫌な寒気が治まっていくような気がした。


 ヴィルは専用の個室が用意されていたようだ。広い部屋には軽食が用意されていて、夜会前に小腹を満たすことができるらしい。


「ミシャ、何か飲みたいものはあるか?」


 水にジュース、紅茶なども頼めば用意してくれるらしい。


「私がミシャの好む紅茶を淹れてもいいが」

「至れり尽くせりですね」

「当たり前だ。調子がよくないのであれば、このまま帰ってもいい」

「いえいえ、本当に大丈夫なんです。ただ少し驚くことがありまして」

「驚くこと?」


 ヴィルに言っていいものなのか迷ったが、どうせ会場で会うことになるのだ。

 思いきって報告してみる。


「実はヴィル先輩にそっくりな男性と会いまして」

「私に?」

「はい」


 顔立ちに身長、体格など信じられないくらいそっくりだったのである。


「異なる点は雰囲気と服装のセンスでしょうか?」

「見てわかるレベルで違ったのか?」

「はい。なんというか、派手、でした」


 リジーの格好が少し霞むくらいの赤いジャケットは、国内の社交界ではまずお目にかかれないだろう。


「いったい誰なんだ?」

「ご本人はサーベルト大公の二番目の子息、ジルヴィードだと名乗りました」

「サーベルト大公――エルノフィーレ殿下の国か」

「はい」


 ヴィルはさほど驚いた様子ではなかった。というのも、双方の国は婚姻を何度も重ねている。そのため、似たような面差しを持つ者がいても不思議ではないという。


「そんなに似ているのならば、気になるな」

「もう本当にびっくりしました。ヴィル先輩本人かと思いましたから」

「趣味が変わったと?」

「ええ」


 エルノフィーレ殿下に見初められないために、わざとあのような格好でやってきたのではないか、と思ったくらいである。


「やってきた本物のヴィル先輩を見て、ホッとしました」

「派手なほうがよかったのではないか?」

「いえいえ、正統派な格好が一番です!」


 ついつい力説してしまった。 

 会話をしながらヴィルは紅茶を淹れてくれた。温かくてホッとする味わいである。


「紅茶を飲みながらヴィル先輩と話したおかげで、よくなりました」


 元気であることをアピールし、夜会への参加も表明する。


「本当に大丈夫なのか?」

「はい!」

「そうか」


 私の体調不良を理由に夜会をサボろうとしていないか、と聞くとヴィルは噴きだしたように笑った。


「お見通しだったわけだ」

「もちろんですよ」


 もちろん彼が本気で夜会を欠席したいわけではないことなどわかっている。私を無理させないために、そのような振る舞いをしたのだろう。


 今日、この場でヴィルと私の婚約を発表し、エルノフィーレ殿下に政略結婚は難しいことをアピールしなければならないのだ。


「一緒に頑張りましょう」

「頼りにしている」


 それはこっちの台詞である。


「ヴィル先輩も少し顔色が悪いように思うのですが」

「食事を食べていないからだろう」


 なんでも食欲がなかったようで、出発前にリンゴを一切れしか食べていなかったようだ。


「参加前に何か口にしたほうがよろしいかと」

「そうだな」


 ヴィルはぼんやりと軽食が置かれたテーブルを眺めていたが、手を伸ばすことはなかった。


「でしたら、私が作った蜂蜜のど飴でも舐めますか?」


 朝から空気が乾燥していて喉がイガイガしていたので、急遽作ったものである。

 ジェムに収納していた蜂蜜のど飴が入った缶を差しだすと、ヴィルはすぐに受け取って口にしていた。


「いかがですか?」

「おいしい」

「よかったです。その缶は非常食として持ち歩いてください」

「いいのか?」

「はい。作りすぎて三缶分くらい作ったので」

「ありがたくいただくとしよう」


 時間になったと知らされたので、ヴィルと腕を組み、大広間へ向かったのだった。


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