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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第二章 人間関係のあれこれ

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想定外の出会い

 リジーの装いにギョッとする。

 私が主役よ! と言わんばかりの深紅のドレスをまとっていたのだ。胸元がかなり強調されていて、今にもこぼれ落ちそう。

 髪にはごてごてとした金細工の髪飾りが趣味の悪い感じで輝いていて、ドレスの生地には大粒の宝石が縫い付けられていた。そしてなぜかスカートには大きなスリットが入っている。


「え、えーっと、リジー、そのドレスは?」

「知らないのかい? このドレスはかの〝レディ・バイオレット〟よりも高名で皆が憧れるドレス、〝マダム・リリアーノ〟の新作ドレスなんだ」

「へ、へえ」


 聞いたこともないお店である。

 なんというか品がない、としか言いようがない装いだ。特に胸元の開き具合と、大きく開いたスリットがありえない。

 貴族女性は足首すら夫以外の異性に見せてはいけない、などと習わなかったのだろうか?


「ふふん、このドレスはすれ違う誰もが二度見していたのさ。もちろん、あたくしの美しさも理由のひとつだろうけれど!」

「……」


 皆、なんてはしたない! と思って振り返ったに違いない。

 けれどもここではぐっと我慢しておく。

 おそらくこの格好ではエルノフィーレ殿下の侍女として夜会に参加することはできないだろう。寛大でお優しいエルノフィーレ殿下も、さすがにこの格好は看過かんかできまい。


「それにしてもあんたのドレス、地味だねえ」

「……」

「そのスカートに縫われた宝石なんか、砂粒みたいに小さいよ」


 さすがに砂粒よりは大きな粒である。

 あまり大きな宝石をこれでもかと縫い付けるのは趣味が悪い。このくらいの大きさがちょうどいいのだ。

 なんてことをリジーに言っても伝わらないので、適当に愛想笑いをしておく。


「そういえばあんた、パートナーはいるの?」

「一応」

「もしかして、いつも学校で一緒にいる男子生徒じゃないだろうね? あんな――」

「エアのこと? 違うわ」


 何かエアについて物申す空気を察し、発言に被せるように否定した。


「だったらどこの誰なんだい?」

「きっとあとでわかるわ」

「もったいぶるような男じゃないんだろう?」


 ヴィルは十分もったいぶって知らせるような相手だろう。

 リジーが好意を抱いていた相手で魔法学校の監督生長、未来の大公だとわかったら、悔しがって何をしでかすかわからない。

 どうせ夜会には参加できないだろうから、ここでは黙っておこう。


「リジーは誰と参加するの?」

「前にミシャに説明した男だよ」

「え!? いつの間に知り合ったの?」

「いいや、まだだけれど、ここで運命的な出会いをするはずさ」


 リジーが目を付けたヴィルがここにやってくるだろう、という勘の鋭さだけは褒めてあげたい。


 リジーが待ち構えているのならば、私は外でヴィルを待っていようか。

 なんて思っていたら、誰かがやってくる。

 余裕たっぷりの足取りでやってきたのは――。


「あんた、会いたかった!!」


 リジーはやってきた男性、ヴィルに抱きつく。


「おっと!」


 突進するように突っ込んでいったリジーを抱き止めたヴィルは、驚いた表情を浮かべる。

 今日の彼の装いはいささか派手だった。

 リボンがあしらわれたハットを深く被り、ジャケットの色は赤で、金の装身具をじゃらじゃらとつけている。ピアスまでしていた。

 目が合った瞬間、すぐに気づく。彼はヴィルではない、と。

 どうしてこんなにそっくりなのか。頭の中が混乱してしまう。


「あ、あなたはいったいどこのどなたなの?」

「ちょっとミシャ、あたくしの男を盗らないでちょうだい!」

「あはは、俺と君は今日が初対面じゃないかな?」

「そうだけれど、あんたはあたくしの男になるんだ」

「わあ、情熱的な女性だ」


 リジーの意味不明な主張を、男性は軽く受け流している。

 声もそっくりだが、やはり彼はヴィルではなかった。


「求婚してきたお嬢さんはどこの誰かな?」


 リジーは抱きついたまま自己紹介する。


「あ、あたくしはリジー!」

「リジーね。君は?」

「私はリチュオル子爵の娘、ミシャと申します」


 スカートを摘まんで軽く膝を折る。するとリジーは私を突き飛ばして、自分はツィルド伯爵の娘だとアピールしていた。


「俺はお隣の国からやってきたサーベルト大公家の次男、ジルヴィードだよ」


 ぱちん! と片目を瞑りつつ自己紹介してくれる。

 彼はエルノフィーレ殿下の国からやってきた大貴族、サーベルト大公家の人間だった。

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