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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第一章 衝撃の転校生

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突然現れたヴィル

 どうして三学年であるヴィルがここに? と思ったものの監督生はどこの階も出入りできることを思い出す。


 ヴィルは私を見つけると、まっすぐ歩いてきた。


「ミシャ、ここにいたのか。昼食は食べたか?」

「は、はい」


 返事を聞くやいなや、ヴィルは私についてくるように言ってから昇降機のほうへと向かった。エアにごめん、と言ってからそのあとを小走りでついていく。

 昇降機内は他の生徒達がいたものの、遠巻きにされていた。

 ヴィルはどこか不機嫌で、人を寄せ付けない空気を放っているからだろう。

 食堂をでて向かった先は監督生室だった。


「あの、どうかしたのですか?」

「なんだか嫌な予感がしたから、ミシャを迎えにやってきただけだ」

「嫌な予感とは?」

「食堂で変な男が近寄ってきているように思えて……虫の知らせだろう」


 ミントグリーンの髪色をした青年がいただろう、と指摘されると、アダンのことかとピンとくる。


「デレデレした表情でミシャを見つめていて、今にも手が伸びそうだった」

「よくそこまで見ていましたね」

「当たり前だ」


 あまりにも心配する様子を見せていたので、アダンはエアの友達で軽く挨拶をしていただけだと報告する。


「あきらかに好感を抱いているように見えたが」

「そうですか?」

「間違いないだろう。友達の友達に言い寄る男というのは油断ならない。信頼を置いている者が傍においている人物ということで安心感があるから、積極的に絡もうとしたのだろう」


 たしかに普通に出会うよりも親しい人からの紹介であれば、危険人物ではないのかもしれない、などと思ってしまうのかもしれない。


「自分で相手を見極めようとせず、初対面でいきなり親しくなろうという魂胆も気に食わないな」

「は、はあ」

「まあ、あのように言い寄ってくるのも今回限りだろう。あの男を睨んでおいたからな」

「うわあ……」


 大人げない、という言葉は喉からでる寸前でごくんと呑み込んだ。

 アダンも可哀想に……ヴィルのひと睨みを浴びるなんて。

 きっとエアがいろいろとフォローしてくれるはずだ。あとで謝っておこう。


「許されるのであればあの場でミシャの手を握って去りたかったが、それをするとよからぬ噂が流れると思って止めた」

「よからぬ噂、ですか?」

「ああ。公私をわきまえずに仲のよさを披露したら、ミシャは私が監督生になるよう推薦したように思えるだろう?」

「ああ、たしかに!」

「まあ、これまでも十分共に行動していたから、疑う者はいるだろうがな」


 私がヴィルの当番生であることは皆も承知の事実である。放課後もよく迎えにきていたし、昼休みに一緒にいるところも目撃されているだろう。

 今更な気もするが、私の立場が悪くなることを配慮してくれたヴィルに感謝する。


「あと数ヶ月でここを卒業することを考えると、ゾッとする」


 そうなのだ。ヴィルは夏に卒業し私は秋に二学年となる。新しい一学年も入学してくるのだ。

 まだまだ数ヶ月も先の話だが、入学してから今日まであっという間だったのだ。きっとヴィルの卒業式は光の速さでやってくるのだろう。


「卒業後の進路は決まっているのですか?」

「ああ。陛下の側近のひとりとして働く予定だが――」


 ヴィルはちらりと私を見て、とんでもないことを口にする。


「ミシャの専属料理人になってもいい」

「いやいやいや! 何をおっしゃっているのですか!」


 ヴィルに支払える報酬なんてあるわけがない。そう強く訴える。


「いや、専属料理人の仕事は奉仕活動だ」

「他に仕事をなさるのですか?」

「まあ、学校内にはさまざまな雑用があるだろう」


 個人指導教師テューターとして学校に残るという道もある、とヴィルは言う。なんでも学校側から教師にならないか、と誘いを受けたらしい。


「ただ、この仕事は副業だな。あくまでも本業はミシャの専属料理人だ」

「その、国王陛下のお側にいたほうがいいのでは?」

「いやしかし、ミシャの専属料理人の仕事も魅力的だ」


 ヴィルは腕を組み、眉間にぎゅっと皺を寄せる。

 国王陛下の側近と私の専属料理人の仕事を天秤にかけないでほしい。


「ミシャの言うとおり、今は陛下のお側にいたほうがいいのかもしれないな」

「そうですよ!」


 思わず説得に力が入る。ヴィルの卒業後の進路が私の専属料理人だなんて、聞いた人が卒倒してしまうだろう。


「ミシャがそう言うのなら」


 ヴィルは国王陛下の側近になることをこの場で決めたらしい。

 まさか将来を迷っていたなんて、夢にも思わなかった。なんでも話を聞いてみるものだ、と考えつつ、深く安堵したのだった。


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