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クローバー(3)  作者: ディライト
番外編 "ひと夏の風の知らせ" ~三葉SS~
13/14

後編

「そっか……言えなかったんだ」

 砂場の沿石に座り、口を尖らせながら三葉は小さく頷いた。

 夏祭り前日の陽射しが照り付ける午後二時頃、三葉はやるせない思いを胸に再び希望のいる砂場を訪れていた。

 三葉は昨日の夜のことをすべて話した。

 春樹が三葉の言わんとしていることを汲んでくれたこと。けれど四人ではなくアパート住人とも一緒に行くことになってしまったこと。それによってタイミングを逃し裏山の話をすることができなかったこと。

 ぽつりぽつりと不甲斐ない想いを地面に落としていく三葉に、希望は胸が締め付けられるようだった。

 今日の午前中にはその夏祭りメンバーで浴衣を買いに行ったことも話した。

 そこには雄太が不在で、話し相手を失った二葉は久しぶりに三葉に多く話し掛けていたのだという。赤い花の髪飾りをお揃いで購入できたことは満面の笑みで伝えることができた。しかしその後すぐ、二葉の何気ない一言にまたどうしようもない寂しさを感じてしまったのだという。

『これでユータをビックリさせよー!』

 三葉は言ってやりたかった。

 まず見せるべき人は他にいるだろうと。

 その人に見せるためでないなら、どうして私とお揃いにしたのかと。

 しかしそんなことは引っ込み思案の三葉に言えるはずもなく、鏡の前でくるくる回っている二葉からそっと離れ、一葉に一言断りを入れて、花岡小へと逃げてきたのだった。


「大丈夫だよ三葉ちゃん。花火のことはまだ当日にだって伝えられるし、二葉さんのことだって、お風呂のなかでウチは一つだけって言ってたんでしょ? 三葉ちゃんとのお揃いにしたのだって、三葉ちゃんのことが大好きだからしたに決まってるよ!」

「…………うん」

 希望の必死の説得にも、三葉の声は煮え切らない。

 返す言葉もなくなって、隣に座る希望もおのずと頭が下がる。

 どうしてみんな心に本当の想いを隠しておくのだろう。

 いなくなってからでは遅いのだ。面と向かって言葉を付き合わせなければ、本心なんてこれっぽっちも伝わらないのに。

 希望は胸に手を当て、自分に言い聞かせるようにそんなことを思った。

「よーし、じゃあパーッとあそんじゃおっか!」





 後





 三時間ほど茹だる暑さの中、二人は砂場でお城を作ったり、滑り台で追いかけっこをしたりして遊んだ。

 もう小学四年生がする遊びではないだろうが、三葉にとってはとても心安らぐひと時であった。

 それは希望にとっても同じで、これまで一人ぼっちだった彼にとって、この場所での触れ合いはとても貴重な時間だった。

 そんなお互いにとってかけがえのないこの時間は、あっという間に過ぎていった。

 周りの木々で日陰に守られているとはいえ、沸き立つ暑さの中ではさすがに遊び疲れて、三葉は砂場の沿石に、希望は滑り台の終わりのところにそれぞれ腰掛けて、そろそろえんじ色に染まっていくだろう空の下で向かい合っていた。

「ふぅ〜。いっぱい遊んだね」

「……そうだね」

「こんなに遊んだの、久しぶりだよ」

「……希望くんは、いつもここで遊んでるんじゃないの?」

 三葉の問い掛けに希望は視線を落とす。

「うんん。僕はただ……探してただけ」

「……何を?」

 そう問われた希望は二の句を告げなかった。何気なく砂場の砂を掬い上げ、手の平を傾けてさらさらと流す。

「三葉ちゃん」

「……ん?」

「大事な人の前では、ちゃんと自分を見せなきゃダメだよ」

 三葉はきょとんと首を傾げた。手からゆっくりと零れ落ちる砂を眺めながら希望は続ける。

「その人がいついなくなっちゃうかなんてわからないんだよ。だからそうなっちゃう前に、キモチはちゃんとつたえなくちゃ」

「……希望くんにもいるの? ……大事な人」

「いたよ。……でも伝える前にお別れしちゃったんだ。今でもすごくすごくすっ――ごく後悔してる。どうしてあの時素直に言えなかったんだって。意地を張って知らんぷりして、僕は大事な人を傷付けたまま……」

 手に乗っていた砂がすべて落ちた。

 希望は愁いを帯びた表情でどこか遠くを見つめる。

 三葉はただ黙って希望の独白に耳を傾けていた。そして希望は三葉の方へ向き直る。

「だから、三葉ちゃんには僕みたいになってほしくない。目の前に転がってる幸せを、ただ黙って見過ごしてほしくないんだよ」

「……でも、どうすればいいの?」

「ただ三葉ちゃんが想ってることを、春樹さんに、お姉さんに、まっすぐにありのまま、伝えればいいんだよ」

「……そんなこと…………できないよ。……私には」

 三葉は瞳を落とす。三葉にとって他人に自分のキモチを伝えることは、綱渡りをすることよりも難しいことだ。そこから返ってくる言葉が怖い。嫌われるんじゃないか。嫌な思いをさせてしまうんじゃないか。もしそんな答えが返ってきたら、三葉は綱から足を滑らせて、底の知れない暗黒の世界へと吸い込まれてしまい、もう戻ってはこれなくなってしまうだろう。

「じゃあ一つ勝負をしよう?」

「……勝負?」

 三葉がオウム返しで首を傾げると、希望はビニールシートに囲まれている校舎の隙間から覗く時計に眼をやってから、三葉の方に振り向いた。

「今ちょうど五時過ぎたところでしょ? 勝負の内容は春樹さんがあと五分以内に三葉ちゃんを迎えに来てくれるかくれないか。どっちだと思う?」

 にこやかに笑って希望はそう提案した。

「……五分以内なんてむりだよ。……それに、どうせ迎えになんて来てくれない……」

 三葉はそっぽを向いてふて腐れたように口を尖らせる。

 本当は迎えに来てほしいと思っている。しかし今の三葉は視野が狭まっていて、すぐに悪いほう悪いほうへと考えてしまう。

「そう? じゃあ僕は来てくれるに一票いれるよ。僕が当たったら三葉ちゃんは明日ちゃんと春樹さんたちを裏山に誘うんだよ」

 希望は自信満々といった感じに口許を吊り上げると、三葉はムッとして、

「……じゃあ希望くんが負けたら……?」

 と、問い掛けた。

「うーんそうだね、じゃあ何でも言うこと一つ聞くよ」

 そう悪戯にはにかんで、希望は校門の方に眼を向けた。

 つられて三葉もそちらへ振り向くと、刹那、急な突風が視線の先で吹き抜けた。その風によって砂が舞い上がり、三葉はそれを嫌がってぎゅっと眼を閉じた。


「おーい、ミツバ〜」

 そこに三葉の名を呼ぶたるそうな声。それでいて一番求めていた温かな声。三葉はゆっくりと眼を開けると、砂場から二メートルほど離れた日の当たる場所で、春樹が若干眠そうな顔にぎこちない笑顔を貼付けながらそこにいた。

「……あ、ハルキ……」

 突然の展開に、思わず呆けた声が漏れる。それもそうだ。来ないだろうと半ば諦めていた人が、まるで特撮映画でピンチに駆け付けてきたヒーローのように颯爽と現れたのだから驚かずにはいられない。しかしそんなことは些細なことだ。驚きよりも、自分を忘れずに迎えにきてくれたことによる嬉しさの方が多かった。

 そして春樹はそのままゆっくり砂場に近づいてきた。

「ほら、三葉ちゃん。言ったとおりだ」

 それと同時に、滑り台の終わりに足を伸ばして座っていた希望が、鼻高々にすくっと立ち上がって春樹の元へと近づいていった。

「こんにちは、ハルキさん。あ、まだ陽が長いけど、五時過ぎならこんばんはですか?」

 希望はトレードマークの茶色いキャスケットの影から無垢な瞳を向けて、世間で非常に曖昧な質問をぶつける。この時、希望にとって春樹から返ってくるだろう言葉は大体予想がついていた。

「やぁ、希望くん。うーんどうだろうな。感じる度合いなんて人それぞれだから、思ったことを口にすればいいんじゃないか?」

「そうですよね。だってさ、三葉ちゃん?」

 春樹の返答を聞いたあとで、唐突に後ろの三葉に話を振る。一瞬なんのことか察することができなかったが、先ほどの話と繋がっていることに気がついて、三葉はぷくりと頬を膨らませて睨んだ。

「……希望くん、いじわる……」

「ごめんごめん、嘘だよ三葉ちゃん」

 そう言って希望はカラっと笑い、座っていた三葉の手を取って立たせると、その三葉の手を春樹の右手へ繋がせた。

「ささ、三葉ちゃんお兄さんに身を任せて!」

「もう! 希望くん!」

 流石に三葉も怒ったようで、顔を真っ赤にに染め、希望の腕を叩く。春樹はよくわからずも和やかなその様子を少し驚いた表情で眺めている。どうやら希望は春樹の三葉マニュアルを忠実に守っているらしい。

「ハルキさん」

 とそこで、希望は突如春樹の名前を呼んだ。

「ん?」

「その手、離さないであげてくださいね」

 そしてとても憂いある表情で、でもどこかぎこちない笑顔も含みながらそう告げた。

 希望は一度手放している。大事なものを失っている。それは決して元には戻らない。

 だから希望は伝えるのだ。今の三葉と昔の自分を重ね合わせているから。

 その突然の希望の言葉に春樹は面喰らって直ぐに答えを返せなかった。

「希望くん! いいから!」

「わかったわかったごめんごめん!」

 その隙に再び激高した三葉。希望はおちゃらけながら三葉の半眼から逃れるようにそっぽを向いた。それでも三葉は握りなおすように手にぎゅっと力を込めた。要は照れ隠しだ。希望が恥ずかしがり屋の自分に気を利かせてくれていることは、三葉も充分にわかっていることだ。

「離さないよ、絶対」

 春樹はそれに応える様に三葉の手に力を籠め、そう強く宣言した。その言葉を聞いた途端、三葉の心の中には虹が広がったように煌びやかになった。その強い意思の込められた視線を受けながら、

「……なら、安心ですね」

 と、希望は静かに笑った。

 同時にまた一つ、強く生温い風が吹き付けた。



 ◇◇◇



 ――――……ハルキ」

「ん?」

「……あの、ね。最後……」

「最後?」

「……花火、あるでしょ……?」

「おー、そうだな、昔見たなぁあれ。懐かしいなぁ。ちっちゃいもんだけど、あれはあれで結構綺麗なんだよな」

「……その花火、ね、学校の裏山で見ると、もっと綺麗なんだって……」

「裏山? あの冒険コースまだあるんだ?」

「……終わりごろになったら、……裏山、いかない?」

「おおいいなそれ!――――



 ◇◇◇



 太陽もすっかり帰途についた頃、ボロアパートメンバーを引き連れて、三葉たちはしっとりと照らされる提灯の明かりや、賑やかな篠笛や太鼓の音が混ざり合う花岡小のお祭りへと訪れた。

 屋台から漂う香ばしい匂いや、賑やかに笑い合う人々の喧騒に、三葉は背中に羽でもついているんじゃないかと思うほど足取りが軽かった。夜になってもしつこい暑さは纏わり付いているのに、倦怠感などなんのそのだ。その理由はやはり三葉の手を握る自分より一回りも二回りも大きな手によるものだろう。

 つい先程、祭りに向かう途中、三葉は一握り大の勇気をしぼりにしぼって、ようやく花火の件について話すことができた。

 それに春樹は笑顔で応えてくれた。

 皆で花火を見ることができれば、そこからまた幸せな時間が戻ってくるはず。

 三葉はそんな期待を胸に秘め、触れ合う肌の感触を感じていた。


「二葉さん! わた飴売ってますよわた飴!」

「おおお! でかしたぞユータ!」

 そんなご機嫌な三葉の前で、雄太と二葉はすぐに目についたわた菓子屋に飛んでいく。それに続いておばちゃんもぱたぱたと下駄を鳴らしながら続く。そんな様子を眺めながらゆっくりと屋台に近づいていく三葉、春樹、一葉、花咲の四人。

「わた飴なんてなつかしい〜!」

 一葉が無垢な瞳を輝かせながら屋台へ寄って行く。

「子供んときは絶対買ってもらうんだよな」

「そうそう、なんでこんなふわふわなんだろ〜ってずっと考えてたことあるもん」

「今は原理がわかったの?」

 花咲は少し悪戯に笑って首を傾げる。

「うーん……えへへ、今もわかんないや」

「ふふ、そうね、わからないほうが楽しいものね」

 三人は心底楽しそうに、的屋てきやのオヤジがわた菓子機で割り箸に巻かれる様子を見ながら笑顔を浮かべる。

 それを三葉は頭一つ半下くらいから見上げる形で聞いていた。

 会話に入ることなんてできない。しかし今日に至っては孤独を感じなくて済んでいる。春樹には浴衣や髪飾りを褒めてもらったし、裏山の話も笑顔で聞いてくれた。何より交わるこの手が三葉を安心させている。

 なのに、足りないのだ。

 どうしてこんなにも不安なのだろう。

 自分は贅沢なのかもしれない。

 少し離れた所で、見たこともないような満面の笑みでわたあめを受け取る二葉と雄太を見てると、三葉は胸が締め付けられる思いだった。

「三葉もわた飴食うか?」

 三葉が口を一文字にボーッとわたあめを買う二葉たちを眺めていると、春樹から声が掛かった。しかし三葉の耳には届かない。

「三葉?」

「え!? ……あ、」

 春樹がもう一度声をかけると、眠りから覚めたように三葉は顔をあげた。その表情は、まるで知らない土地で迷子になった少女のようだ。吸い込まれそうな黒い瞳が水気を含んで揺れる。

「三葉? もしかして人混みで具合悪くなったか?」

 春樹は三葉の前にしゃがんで真っ直ぐな瞳で心配そうな顔を見せる。

 三葉はその眼に心を覗かれまいと、視線を外し首を横に振った。

「トイレ……か?」

 また首を横に振る。

 そして三葉は、もう一度わた飴屋のほうに目を向けた。

「……ハルキは、」

「ん?」

「………………一緒にいる、よね?」

 その言葉と共に、三葉は存在を確かめるように春樹の手を強く、強く握った。

「? おういるぞ?」

 春樹はぎゅっと握り返す。三葉はそれを確かめてから、小さな歩幅で皆の輪へと進み出した。


 暫くわたあめを頬張りながら、出店に囲まれた賑やかな道を、人ごみを掻き分けながら歩いていく。するとおばちゃんが金魚掬いを見つけ、一行は金魚の放たれたビニールプールの前にしゃがみ込んだ。

 最初に意気揚々と挑戦した二葉と雄太が失敗。次に一葉と花咲が挑戦するも敢え無く惨敗。

 そこで一葉は春樹に財布を渡した。

「もー、じゃあハルキ掬って!」

「しょうがねえなあ」

 春樹は面倒臭いという表情をしながらも、頭を掻きながら満更でもなさそうに財布を受け取る。

 さて参ろうと一歩踏み出したところで、春樹は右手に繋がる三葉の存在に気付いた。

「三葉もやるか! 金魚掬い」

 春樹の声に、三葉は一瞬笑顔の花を咲かせた。だが、それも一瞬の出来事だった。

「ミツバがやったら金魚が逃げ出しちゃうよー!」

 二葉の減らず口が頭の中を錯綜した。

 わかっている。いつもの小突き合い、口喧嘩のお誘いだ。わかってる。わかってる。いつものように嫌みを言い返してやればいい。わかってる。のに。

「なーユータ!」

 加えられたその一言は三葉の胸に矢のごとく突き刺さった。

「え? あ、ああ、そうっすね! お、俺達からも逃げ出しましたもんね奴ら!」

 雄太も少し三葉の様子が気になるようでどもって答える。

「フタバ! またあんたは!」

 誰かが何かを言っている。

「〜〜〜った〜……! 一葉も掬えなかったくせに!」

 よく聞こえない。

「今はそういうことじゃないでしょ!」

 どうして。

「三葉ちゃん?」

 突如肩を捕まれて、三葉は我に返った。

「べつに掬えなかったって気にすることないんだよ〜?」

 二葉に怒る一葉を尻目に、おばちゃんは三葉の前にしゃがんでいた。三葉は俯きながらも、おばちゃんの言葉に小さく頷く。

「……でも、やっぱり……いい」

 しかし三葉の答えはNOだった。

 おばちゃんは立ち上がって、困った表情を向ける。

 大丈夫。まだ大丈夫。二葉だってウチは一つだって言ってくれた。今だって話が少し逸れて戸惑っているだけだ。大丈夫。大丈夫。だってまだ自分にはこの手が、

「……おっしゃ! んじゃ俺が三葉の分まで掬ってきてやる!」

 春樹のその声に三葉は弾かれたように顔をあげた。

「む、俺にもどうせ掬えないって思ってるだろ〜?」

 待って。

「こう見えても金魚掬いだけは得意なんだぜ!」

 違う。

「金魚掬いだけ、なのね」

「う、うるさいなぁ! と、とにかくたくさん掬ってきてやるから」

 そうじゃない。

 追い詰められるような想いが頭の中を蠢く。気持ちが声になって出てこない。せめてもの抵抗をするように三葉は縋るように春樹の手をぎゅっと握る。そして恐る恐る表情を窺うと、春樹は更に力を込めて包みこみ、

「心配すんなって」

 そう言い残し、三葉の手を離した。

「――ぁ」

 もう三葉には何も聞こえていなかった。がやがや騒がしい喧騒も、音頭を取る太鼓も笛の音も。

 離れていく春樹が遠い。手を延ばしても届かない。

 もう戻ってはこれない。


 ――大事な人の前では、ちゃんと自分を見せなきゃダメだよ。


 ――その人がいついなくなっちゃうかなんてわからないんだよ。だからそうなっちゃう前に、キモチはちゃんとつたえなくちゃ。


 ――目の前に転がってる幸せをただ黙って見過ごしてほしくないんだよ。


 ――ただ三葉ちゃんが想ってることを、春樹さんに、お姉さんに、まっすぐにありのまま、伝えればいいんだよ。


 何も失くなった頭のなかに、希望の言葉が響き渡る。

 その言葉が幾度にも三葉を後悔の渦に巻き込む。

 人の行き交う喧騒の中で、立ち尽くしていた三葉はその場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。

 目頭と鼻腔がジーンと熱くなってくる。

「……むりだよ、希望くん……っ! 想いを伝えるなんて……っ! 自分を見せるなんて……っ!」

 膝を抱え込み、嗚咽と共に言葉を零す。

「……どうすればいいの……っ! ……教えて…………教えてよぉっ!」

 三葉が顔を上げ、喧騒の中で叫んだ時、突然腕を引っ張られ強引に立たされた。

「……きゃっ」

「じゃあ行こう? きっとこれが答えだ」

 提灯に照らされた茶色のキャスケットは、青白く神秘的に輝いていた。

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