2話 最近のお仕事です。
カチュアさんが持ってきたいくつかの依頼の中に、一つ気になるものを発見します。
エレンは治療ギルドの仕事に出ていますし……。
「カチュアさん。このお仕事は私一人で行ってきます」
「でも、レティ様は一人でギルドに行っちゃダメってあの親父が言っていましたよね?」
「それは、依頼を受ける前の話です。エレンには仕事に行ったと伝えておいてください」
カチュアさんが心配そうな目で見ていますが、大丈夫です。
こんな仕事に何の問題もありません。
私は依頼の詳細を聞くために冒険者ギルドへと向かいます。
冒険者ギルドに入ると、すぐにギルマスであるラーマさんの部屋へと連れていかれます。
ラーマさんは書類仕事をしている様でしたが、私を見て顔を顰めます。
「おい。お前だけか?」
「何か問題でもあるんですか?」
「問題しかないんだがな。それに、俺はお前一人でギルドに来るなと言ってあったはずだ」
「それはそれ。これはこれです」
しかし、問題しかないとはどういう事でしょうか?
そもそも依頼書に書かれている内容は盗賊退治です。そんな危険な仕事はエレンとカチュアさんには似合いません。
私の仕事です。
「貴方が失礼な人だという事は、ここ数日で良く分かりました。私としてはそんな事はどうでもよくて、依頼の詳細を確認したいのですが……」
「はぁ……。まぁ、いい。これを見てくれ」
「はい。盗賊のアジトの場所ですね。しかし、盗賊退治が冒険者に依頼されるのは珍しいですね」
確か、盗賊退治は国の管轄ですよね?
エラールセは兵士一人一人が強く、盗賊程度に手こずるとは思えないんですが……。
「あぁ。エラールセ皇国軍が定期的に討伐しているとはいえ、アイツ等は害虫と一緒だ。時間が経てば勝手に湧く」
「要するに手が回らないと?」
「そういう事だ」
「そうですか。盗賊を殺してきたらいいんですか? 皆殺しですか?」
「すぐに殺そうとするな。お前にはできるだけ血を流さずに解決するという選択肢はないのか?」
「ないですよ。それに、盗賊なんて生かしておいても何の価値もないでしょう?」
盗賊に堕ちるような人間に慈悲など必要ありません。
え? 盗賊に堕ちた事情?
そんな事は知ったこっちゃありません。
「確かにその通りなんだがな。だが、できれば生かして捕らえて欲しい」
生かして?
面倒くさいですねぇ。
ラーマさんは私に何か四角いものを渡してきます。
これは見た事が無いモノですねぇ……。
「これは?」
「連絡に使える魔道具だ。盗賊のアジトを壊滅させたらこれに魔力を送ってくれ」
「わかりました」
そうです。
先程、気になる事を言っていましたね。
「確認ですが、できるだけ殺さなければいいんですよね?」
「ちょっと待て。どうしてそこを強調する?」
「え? できなければ殺してもいいと……」
私がそう言うと、ラーマさんは額に手を当ててため息を吐きます。
「絶対に殺すな。殺したら報酬を減額するぞ」
それは理不尽です!
「それは困ります。そんな事をしたらエレンに怒られてしまいます」
「じゃあ、絶対に殺すな」
「ぐぬぬ……。分かりました」
私は盗賊のアジトの場所を聞き、盗賊退治に向かいます。
二時間後、盗賊のアジトを壊滅させたので、四角い箱に魔力を送ります。
するとさらに一時間後、十人くらいの兵士を引き連れたラーマさんが現れました。
「ラーマさん。盗賊退治が終わりましたよ」
「そうみたいだな」
ラーマさんは盗賊達を見て若干青褪めています。
大丈夫です。殺していません。
あれ?
青褪めているのはラーマさんだけではありません。
「連れてきた人達の顔色が悪いみたいですが?」
「お前……それを本気で言っているのか?」
はて。
殺していない、盗賊を再起不能にしただけですが……。
「殺してはいませんよ?」
「そうか……ほとんど瀕死なのはどういう事だ?」
「え? とりあえず動けない様に四肢を全て斬り落とし使えなくして、魔法が打てないように喉を潰し、目も必要ないでしょうから目も潰しただけですよ? 殺してはいません」
私は殺すなとしか言われていません。何も間違ってはいませんよ?
「お前……、殺すなの意味を分かっていなかったのか?」
「意味? 何を意味の分からない事を言っているんですか。私は殺してません」
「はぁ……」
なぜ、ため息を吐くのでしょうか。
この日は、ギルドに戻った後、ラーマさんに盗賊の捕らえ方のみっちり教えて貰いました。
まったく……なぜこんな面倒な事を覚えなければいけないのでしょうか。
≪ラーマ視点≫
アイツ等の今回の依頼も盗賊退治か……。
前回の事で兵士は盗賊の引き渡しに行きたがらなくなっちまったし、騎士団長から「何人かの兵士が盗賊を見て怯えている」との苦情も入った。
確かにあの盗賊の有様を見れば、トラウマになるのも理解はできる。
前の盗賊退治の依頼の後、レティシアには盗賊退治のやり方を教えはしたが、多分アイツは理解していない。
今回は、エレンとカチュアのどちらかと一緒に来てくれればいいんだがな……。
そう思っていたんだが、部屋に入ってきたのはレティシア一人だった。
「また、お前一人か」
「今回も盗賊退治ですから、エレンとカチュアさんにそんな危険な仕事をさせるわけにはいきません」
「いや、お前も見た目は幼い女の子なんだがな」
本当に見た目だけなら可愛らしいお嬢ちゃんなんだ。
ただ、中身が凶暴過ぎる。
俺はため息を吐きながら、レティシアに依頼の詳細が書かれた依頼書を渡す。
「では、行ってきます」
「今回も殺すなよ。それと、今回は喉と目を潰すな」
「なぜです?」
こいつ……。
やっぱり理解していなかったか。
「前にも説明したが、事情聴取ができない。それでは困るんだ」
「はぁ……。分かりました」
お、おい。つまらなそうにするな。
数時間後、レティシアからの連絡が入る。
いつも思うが、解決が早過ぎないか?
まぁ、いい。
俺は秘書のアルジュにこの場を任せレティシアの下へと行く事にした。
兵士は後で呼んだ方が良いな……。
「さて……。アルジュ、ここは頼むぞ」
「はい」
俺はレティシアが討伐に向かった場所へと移動する。
……はぁ。
まぁ、前よりかはまだマシか……。
「で? 今回も、この有様か……」
「なんですか? 今回は喋れるようにしておきましたし、目も見えていますよ?」
確かに四肢もちゃんと残っているし、目も開いているし、何かを囁いているのも事実だ。
ただ、目に光がない。表情もない。とてもじゃないが普通には見えない。
何かしたんだろうな……。
「はぁ……。なら聞くが、どうして全員の目が虚ろなんだ?」
「精神を破壊しました。ちゃんと〈自白魔法〉もかけておきましたから、情報も得られるはずですよ」
「……そうか……」
いや、精神を破壊って何だよ。それに〈自白魔法〉って何だ?
俺がこの言葉を理解したのは尋問官から事情聴取の事を聞いた時だった。
尋問官は盗賊や罪人の話を聞きだす事を仕事にしている連中の事だ。
普通の尋問ではなかなか口を割らない者が多いらしく、拷問して口を割らせる事もあるらしい。
しかし、この盗賊達は尋問官の知りたい情報をすべて自白したらしい。
尋問官達は仕事が楽だったと言っていたが、尋問の後も牢屋でずっとブツブツとなにかを言っている盗賊達に牢番の兵士達は怯えているらしい。
その現状に頭を悩ませたグローリア陛下は、盗賊達をすぐに処刑したそうだ。
はぁ……。
普通の盗賊退治なら、数人殺していても問題はない。
だが、殺せと言っても問題だし、殺すなと言っても問題を起こす……。
もう、アイツ等に盗賊退治の依頼を回さないようにしよう……。
数日後、また一人でこいつはやって来た。
「レティシア……」
「はい?」
なぜいつも一人で来るんだ?
俺はエレンとカチュアを連れて来いといつも言っているんだが……。
まぁ、いい。
「今回の依頼は魔物退治だ」
「そうですか。行ってきます」
魔物退治と言ってもまったく動揺も何もしないな。
慣れているのか?
数時間後、レティシアが俺の部屋にやって来た。
「戻りましたよ」
ん?
手ぶらみたいだが……。
「魔物の素材はどうした?」
「あぁ、〈収納魔法〉に入れています。ここに出しますか?」
〈収納魔法〉?
こいつはそんなモノまで使えるのか。
「いや、素材の売買所へ行く」
俺とレティシアは冒険者ギルドを出て素材売買所へと移動する。
部屋に着くと、レティシアが何もない空間に手を突っ込む。
「これが魔物です」
レティシアが取り出したのは、大型の魔物だ。
ちょっと待て。
サイズは俺の三倍くらいの大きさがある。
こいつ……片手で引き摺り出したぞ?
こんなに小さな体のどこにそんな力が……。
こいつの身体能力も気になるが、それよりも……。
「随分と綺麗な魔物の死体だな。一撃で殺したのか?」
このサイズの魔物を一撃で殺すのはかなり難しいはずだ。
この魔物の死体を見れば、見事としか言いようがない。
「魔物は下手に傷つけると素材の価値が減ってしまいますので」
しかも、魔物の素材の価値も知っているのか。
「そうか」
こいつには魔物退治をさせていた方が良いな……。
「レティシア、また頼むぞ」
「はい」
≪レティシア視点≫
二回目の盗賊退治から三週間経ちましたが、最近は……。
「はて? 最近、魔物退治ばかりしている気が……」
これではいつもの狩り生活と変わりません。
私は冒険者がしたいのです。
これは一度、皆さんと相談した方が良いかもしれませんね。
今回と前回の話は、急遽足しました。
本当は次の話を一話として書いていたんですが、ほのぼのだけじゃあれかな? と思ってしまいました。




