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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
2章 レティシア、ファビエ王都で暴れる。

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25話 カチュアVSソレーヌ


 ソレーヌの私達を見る目は虚ろで、焦点が定まっていません。どこをどう弄れば、こんなに壊れた人間を作る事ができるのでしょうか。

 こんなモノを作るなんて、ジゼルは常識というモノがないみたいですね。狂っています。


「露出狂、話は通じますか?」

「……【忌み子】以外は殺すわ」

「話は通じないようですね。貴女の相手は私です。そんな事はさせませんよ」


 私はソレーヌの前に立ちはだかります。

 しかし、ソレーヌの目は私を映す事は無く、カチュアさんを映しています。

 そして、私を一瞥して「邪魔はいけない。私はそこの大剣を持った女を殺すんだから」と静かに呟きます。


 本当に性格を弄られているんですね。

 以前のこの人はこんな口調では無かったはずです。

 まるで子供を相手にしているみたいです。


 ソレーヌはカチュアさんに狙いを定め踏み込もうとしています。

 だから、させませんって。


 私はソレーヌを斬りかかりますが避けられます。

 前ならこの速度で殺せたのですが、思っているよりも動きが速くなっているみたいですね。


「なぜ、邪魔をするの? ジゼル様に貴女は殺してはいけないと言われているのに……」

「私は貴女を殺すつもりですよ?」


 私の言葉にソレーヌは首を傾げます。

 もしかして、理解ができていないのでしょうか?


「それはおかしい。私は貴女を殺さないと言っている。それなのに、なぜ私を殺すの? 私が殺すのは大剣を持った女。私を殺して良いのも大剣を持った女だけ」

「それは貴女の都合でしょう?」

「そんな事は無い。私は大剣を持った女のその顔が気に入らない。体も気に入らない。表情も気に入らない。気に入らない。気に入らない。気に入らない。だから殺すの」


 言動がおかしいですね。


「【忌み子】はジゼル様が必要といった。だからそれに従う。でもその大剣を持った女は殺して良いと言われた。私は貴女に……【嫉妬】に狂う。狂う。狂う」


 ソレーヌの周りに黒い何かが現れ、覆いかぶさります。

 これは……あの時と一緒です。

 おそらく【嫉妬】に飲まれたのでしょう。

 ジゼルは【嫉妬】に飲まれやすくソレーヌを改造したんですね。なかなかに酷い事をしますね。


 次第に黒い何かが収まり、先ほどまでとは違い、落ち着き払うソレーヌが立っていました。しかし、目には光がありません。

 ソレーヌは私を見て、口角を釣り上げいやらしく笑います。


「久しぶりだな。貴様とはあの日の続きをしたいと思っていたが、ジゼル様に殺さぬよう言われている。お前の相手はおあずけだ。今は大人しくしてもらおうか」


 ソレーヌは掌を私に向けてきます。


「【怠惰】よ。その者を飲み込め」


 いきなり掌から黒い霧が噴き出します。

 興味本位で何をしてくるのかを見ていたのが仇になりました。避けられず黒い霧に飲まれてしまいました。


「……」


 これが【怠惰】の力でしょうか。動き難いです。力が抜けていきます。

 これはなかなかに厄介ですね。


「流石のお前でも、【怠惰】の力を受ければ多少は動きを制限できるだろう。今は大人しくしておけ」

「そうですか? 動こうとすれば動けますよ」


 確かに力が出せないのは鬱陶しいですが、それでも負けるつもりはありません。

 その時、カチュアさんがソレーヌに斬りかかりました。

 しかし、その刃は黒い何かに止められてしまいます。


「カチュアさん!?」

「レティシア様。ここは、私が戦います。この女の狙いは私の様ですし……」

「し、しかし……」

「ほぅ……。物分かりのいい娘だな。まずはお前から殺してやろう。次はネリー姫で、最後はお前の大事な聖女だ。お前の顔が絶望に染まるのを見るのが今から楽しみで仕方が無い」

「や、やめなさい!! 私がそんな事をさせるわけがないでしょう!!」

「ははは!! 初めてキサマの焦る顔を見たぞ!!」


 あ、焦る?

 この私がですか?


 ソレーヌがべらべらお喋りをしていると、ソレーヌの顔にカチュアさんの剣が叩きつけられます。


「ぶふぉっ!?」

「何を余裕ぶっているんですか?」


 カチュアさんの攻撃でソレーヌは仰向けに倒れます。


「レティシア様。私も貴女の力になりたいんです。だから、ここは任せてください」

「で、でも……」


 私がカチュアさんを止めようとすると、エレンが私を止めます。


「エレン!?」

「レティ、カチュアさんが怪我をしても私が治す。この一週間、カチュアさんと一緒に特訓してカチュアさんの強くなりたいと思う気持ち、カチュアさんのレティの役に立ちたいという気持ちが痛いほどわかった。だから……」


 そこまで言われたら、私はもう何も言えません。

 ……でも……。


「き、危険と判断したら止めます。カチュアさん!!」

「……はい」

「頑張ってくださいね!!」

「はい!!」


 私がそう言うと、カチュアさんは輝くような笑顔で返事をしてくれました。





 レティシア様から「頑張ってくださいね」と言われました。

 心の奥底から嬉しさがあふれ出してきます。本当に温かい気持ちになれます。

 レティシア様と初めて会った時から、この方の傍にずっといたいと思っていました。


 私は数年前に、父にネリー様の侍女として売られ、家族からは捨てられ、いつ死んでもいいと思い生きてきました。

 けれど、そんな私にネリー様は優しくしてくれ、タロウからも私を守ってくれました。

 私はネリー様を守りたいと思いました。けれど、私には力が無く、ネリー様にはレッグ様がいました。

 私は陰ながら見守る事しかできず、それでいいと思っていました。


 そして、レティシア様と出会いました。

 小さくて可憐で、それでいて大きなレティシア様。

 私に力を、大切な人を守る力を授けてくれたレティシア様。

 私はレティシア様の力になりたい。

 レティシア様の隣にはすでにエレン様がいるけど……、それでも隣に立ちたい。右に立てないなら左に立ちたい。

 それが私の願い。


「別れは済ませたか?」

「別れではありませんよ。貴女を倒せばいいだけですから……」


 レティ様が私に授けてくださった聖剣アテナ。毛玉の話では異世界の女神の名らしいですが、今はどうでも良いです。

 アテナは私の相棒……。

 アテナ……私に力と勇気を貸してください!!


「では、死ね!!」


 ソレーヌが一気に迫ってきます。

 速いけど、レティ様の方が数十倍速い!

 私は攻撃の軌道を読み反撃体勢に入りました。


「なに!?」


 今頃、気付いても遅いです。

 私は侍女ですけど、今は戦えます!!

 私はアテナでソレーヌを薙ぎ払いました。


「そんな遅い攻撃……当たるわけっ!?」


 アテナは大剣です。一見重そうに見えますが、私が扱うには丁度いい重さなんです。

 途中で剣速を変える事くらい簡単なんですよ!!


 ソレーヌは私の反撃を剣で受け止めます。しかし、こちらは大剣。斬撃の重さだけでも十分に貴女を薙ぎ払う事はできますよ。


 ソレーヌは吹き飛ばされても態勢を整えて、私に迫ろうとしています。


「ちっ。少しはやるようだな」

「それはありがとうございます」

「しかし……私にはこんな事もできるのだぞ?」

「え?」


 ソレーヌは、魔力を一気に開放させます。

 これは……【身体超強化】ですか。


「勇者の力まで手に入れているのですね。しかし、レティシア様やドゥラークさんに遠く及びませんし、他の方々(・・・・)の【身体超強化】よりもお粗末なモノに見えます」

「なんだと? 貴様の言い方では、他の連中もこの力を持っていると言っているように聞こえるが?」

「そう言っているんですよ」

「何を馬鹿な事を!!」

「馬鹿な事かどうかなんて、貴女が考える事ではありません!!」


 私はソレーヌに向かって斬りかかっていきます。


 でも、私はもっと速く動ける。

 ソレーヌは黒い何かで私の斬撃を防ごうとしてきますが、その力(・・・)では私の斬撃は防げません。


 最初の一撃は何もしていなかった(・・・・・・・・・)ので防がれてしまいましたが、今は別です。

 しかし、私の斬撃は当たる直前に避けられてしまいました。

 防げると思ってくれたままでしたら、斬る事ができたのに……残念です。


「なぜ貴様の斬撃が防げない!?」

「その力は七つの大罪の力でしょう? その反対の力がこの剣には込められています。だから、大罪の力では防げません」

「なに!?」


 今度は私の斬撃がソレーヌに当たりました。


「ぐふぅ!!」


 しかし、斬れたわけではありません。

 あの身体……何かに守られているみたいです。


「この糞アマ!!」


 ソレーヌは私を殴ってきます。

 流石に避ける事はできずに私は咄嗟にガードしますが、【身体超強化】により強化された腕力で殴り飛ばされ壁に激突してしまいました。


「くっ」


 少し痛い……。

 ……でも。


「まだ大丈夫……」

「死ねぇえええええ!!」


 ソレーヌが迫ります。

 さっきよりも体が一回り大きくなっている気が……?

 これは、ケンさんが使っていた七つの大罪のうちの一つ【憤怒】の力ですね。

 これで三つ目の大罪。

 ソレーヌは四つ大罪を持っているとジゼルが言っていました。

 あと一つを警戒した方が良いでしょう。


 しかし、ソレーヌは頭に血がのぼっている様です。

【身体超強化】で筋力が三倍に膨れ上がっているとしても、避けられます。


 レティシア様の作った【身体超強化】は貴女達のモノとはできが違います。

 貴女達の【身体超強化】は七つの美徳である【堅固】の中の【不屈】から作られたモノです。全体的な能力を上げる事が可能でしょうが、私の(・・)とは違います。

 

 私は魔力を一気に放出させます。

 そして発動させます。

【身体超強化・迅速】


 これで貴女の攻撃が私に当たる事はありません。

 私のこの能力は、速度に特化した能力です。

 レティシア様が言うには、私は異常なまでに目が良いらしく、そこを生かした特殊能力を作ってくださいました。

 それが、速度特化の身体能力強化。


 見せてあげます。

 目にも映らない(・・・・)速度を。


 ……あ、見えませんね。

 なにせ、映らないんですから。


「なに!?」


 ソレーヌは私の攻撃を避ける事はできません。

 この力は、疲労感が凄まじいので長くは使えません。だから早めに勝負を決めないといけませんね。


「クソ!? ど、どこから攻撃を!! ぐぁあああ!!」


 ソレーヌの身体は少しずつ斬り刻まれていきます。

 ガードしても無駄です。

 その隙間を狙う目(・・・)は持っていますから。

 この力を使うと斬撃の威力が無くなってしまうのが欠点ですが、その代わりに手数を増やします。


「舐めるなぁああああ!!」


 ソレーヌから黒い霧が噴き出しました。

 これは、さっきレティシア様に使った【怠惰】!?

 こんなモノ避けるのは簡単ですが、一つだけ気になる事があります。

 七つの大罪の能力って……あまり強くないですよね……。

 美徳に比べれば、どれも弱く感じてしまいます。

 本当にこれで魔神が生まれるのでしょうか……。

 いえ、今はそんな事どうでも良いです。今は戦闘に集中しましょう。


「この霧に近付いた時がお前の最期だ。この霧に触れた瞬間、お前は無気力になり死ぬ!!」

「そうですか」


 確かにそれを聞いて迂闊に近づく馬鹿はいません。


「無気力になって死ね!!」


 ソレーヌが掌を私に向け、黒い霧が一気に噴き出します。

 これは避けられません。

 いえ、避けようとすれば避けられますが、近付けないのであれば勝つ事はできません……。

 さて、どうしましょう……。


 いえ、答えは最初から一つしかありません。 

 あの力(・・・)はまだ使い慣れていませんが使うしかないでしょう。


 私は剣で黒い霧を薙ぎ払います。

 しかし、黒い霧は私を覆ってきました。


「霧に触れたな。もう終わりだ!! 無気力になって死ね!!」


 ……終わりませんよ。

 発動……。


 美徳の一つ【堅固・勇気・不死鳥】。この能力を発動した瞬間、アテナが炎に包まれます。


「な、なんだ!?」


 そして、私自身も炎に飲まれてしまいます。


「じ、自分の能力に飲み込まれた……? ば、馬鹿め!!」


 そう見えているかもしれませんね。

 でも、違いますよ。

 その燃え尽きようとしている私は、すでに私ではありません(・・・・・・・・)

 私は背後からソレーヌの腕を斬り落とし、腕を焼き尽くします。


「……は?」


 そして、そのまま胴を薙ぎ払います。

 ソレーヌの身体は真っ二つに切り裂かれます。


「が……ふぅ……な、なに……?」

「焼き尽くせ!!」


 ソレーヌの胴の斬り口から、炎が噴き出しソレーヌを飲み込みます。

 これ以上、貴女に何も言わせません。

 転生の炎に焼き尽くされ、生まれ変わって、今度はジゼルのような愚か者に利用されない人生を歩んでください。


「……」


 ソレーヌは何も言葉を残せないまま、燃え尽きてしまいました……。

感想、気になる点などがあればぜひよろしくお願いします。

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