20話 七つの大罪【嫉妬】
今回は途中でソレーヌ視点が入ります。
聖剣と魔剣。
両手に剣を持った私の攻撃に露出狂はなす術もないようです。
【狂戦士】化も案外脆いモノですねぇ。さっきまでは私の剣を弾いていましたが、いまでは弾く事はおろか避ける事もできないようです。
ただ、無駄な足掻きとして反撃しようとしているみたいですが、【狂戦士】化の影響でさっきよりも遅くなっているので無駄な行動です。
飽きてしまいましたね。そろそろ決着を付けましょうか。
私は四肢を斬り落とそうとしたのですが、黒い何かが露出狂を守ります。
これは……、まだまだ楽しめそうですか?
黒い何かは露出狂に纏わりついています。
隠し玉ですか? いえ、それはないでしょう。露出狂の顔は焦っているように見えます。
もしかして……自分の意志ではないんですかね?
しかし、何と言ったらいいのでしょうか……。
「……哀れですね」
私がそう呟くと、露出狂の顔に悔しさがにじみ出ています。
私はもう片方の腕を斬り落とそうとしますが、黒い何かに弾かれてしまいます。
これは、私の剣でも斬れないというのは結構鬱陶しいですね。
「はて?」
私の剣を弾いた黒い何かが露出狂の腕を形成しています。
これは……。
もしかして、黒い何かに意思がある?
まさか、そんな訳が無いですね。
露出狂は黒い何かに飲み込まれてしまいました。
「これは……。このまま死ぬのでしょうか? どうせなら、パワーアップを期待していたのですが、どうなるでしょうか?」
さぁ……。楽しみにです。
―――――――――――
こ……このガキは何ですの?
アイツが持っていた剣は兵士の剣のはずですわ。
それが聖剣と魔剣なんて……。
ふざけるんじゃないわよ!!
せ、聖剣で……聖剣で私を
私が……私が手に入れられなかった……聖剣を!?
私はソレーヌ。
剣の帝国と呼ばれた国の姫として生まれた。
その帝国では老若男女の誰もが剣を扱う事ができる。
特に王族である私は、国民の見本となる為に日々鍛錬に励んでいた。
剣は私の人生そのものだった。
しかし……剣は私を裏切った。
私には二つ年下の弟がいる。
弟……。アイツは私よりも弱かった。
一度も私に勝った事も無いのに、周りの人間はアイツを持ち上げ王太子と名乗らせた。
アイツは皆に認められていた。父にも母にも……そして、私の婚約者にも……。
私は許せなかった……。
周りは私にこう言った。
お前は王女だから剣よりも夜会をと……。
お前には弟がいるのだから諦めろと……。
……諦められるか。
私の今までの人生は、剣と共にあり、それが国の為になると思っていた。
ある男が私にこう言った。
お前に剣は似合わない。
お前の剣は、強い者の猿真似だ。
違う……。
私は強い!!
認められたい!!
そんな私にも希望はあった。
聖剣【セト】
この国に伝わる帝国最強の剣士に与えられる聖剣……。
いえ、聖剣は強き者を自ら選ぶ。
聖剣なら私を選んでくれると信じていた……。
でも……。
聖剣もアイツを選んだ。
どうして?
なぜ、誰も私を選んでくれないの?
どうして?
私は憎んだ……。
私は【嫉妬】した……。
『狂え……』
私は……徐々に壊れていった。
壊したのはお前等だ……。
『狂え……』
そんな私を必要としてくれたのがタロウでした。
最初は体が目的だったのかも知れない……。
それでも、認めて貰えたのは嬉しかった。
私は婚約者が止めるのを無視してタロウに抱かれ、そしてタロウとともに国を去った。
タロウの傍は刺激的だった。
アルジーとは戦いの中で通じ合い友になれた。
ジゼルは……。
あの女は……?
『力が欲しいか?』
だ、誰!?
『目の前の女はお前を【破壊】するモノだ』
目の前……。
私達の平穏を崩したガキ。
……嫌だ!!
私が負けたせいで、タロウも私を見ていない。
アルジーもこいつに負けたせいで……狂った。
……許さない。
『そうだ。狂え!! お前の力は狂ってこそ発揮される!!』
こ、このガキを殺せば、タロウは再び私の方を向いてくれる?
で、でも……。
『狂え!!』
私の力は……。
その為の【狂戦士】だ……。
ち、違う……?
『狂え!! 狂え!! 狂え!! 狂え!! 狂えぇええええええええ!!』
狂いたく……ない……。
『【嫉妬】に狂えぇえええええええ!!』
狂ってしまえば、私は……タロウを……。
狂ってしまえば……。
壊れてしまえば……。
『【嫉妬】に狂ったお前ならば我に相応しい!!』
え?
『我が名は、七つの大罪【嫉妬】。お前の力だ!!』
私は……。
そ、ソレーヌ。
嫉妬に狂った……。
――――――――――――
これはどういう事でしょうか?
黒い何かの放出が収まり、元の露出狂に戻っています。
ご丁寧に私が傷付けた部分を全て復元した状態でです。
しかし、不思議ですね。元に戻っているはずですのに、存在感といいますか……危険な臭いがしますね。
「貴女は何者ですか? 露出狂とは違いますよね?」
「くくく……。今度の【神殺し】は面白い奴だな」
はて?
今度のとは面白い事を言いますね。
まるで今までの【神殺し】を知っているみたいじゃないですか。
「貴女が何者かは知りませんが、聞きたい事が増えましたね」
「くくく。お前にそれが可能かな? お前の【神殺し】では、大罪を殺す事はできない」
そうなのですか?
別に問題なさそうですけどね。
私は剣を構えます。
露出狂……、いえ、今はソレーヌと呼んだ方が良いでしょうか?
もう以前の露出狂とは違う気がします。
「七つの大罪ですか……。殺せるかどうか楽しみですねぇ……」
「さぁ、【嫉妬】に狂いながら戦おうではないか」
七つの大罪に支配されたソレーヌは今までと何もかもが違います。
先程までは私の攻撃に反応すら出来なかったのに、今では私の攻撃がソレーヌの剣撃により弾かれます。
今のソレーヌは私と同じ両手に剣を持っています。
最初から使っていた魔剣も気になりますが、新しく黒いなにかで作られた剣も気になります。
まぁ、あちらの攻撃も私には当たらないので膠着状態なのですが……どちらにしても、多少ストレスが溜まりますね。
「今回の【神殺し】は大した事が無いな。歴代【神殺し】の中でも最弱じゃないのか?」
「はぁ?」
今のは少々カチンと来ましたね。
本当は本気でやりたいのですよ? でも、それをすると城に多大な被害を与えてしまいます。だから、力を押さえているだけなのですが……。
私とソレーヌは再び剣を撃ち合います。
少し、剣速を上げてやるとソレーヌの反応が遅れてきます。しかし、彼女の余裕の笑みは消えません。
「もう一度言っておこう。貴様では七つの大罪は殺せん!!」
その言葉の意味がやはり分かりません。
先程の「私の【神殺し】では大罪は殺せない」という言葉が気になります。
今のソレーヌは確かに強いです。
でも、殺せないか? と聞かれれば殺せますと言えます。別に殺せないほど脅威ではありません。
「まぁ、良いでしょう。殺せないなら……永遠の痛みを植え付けてやればいいだけですから」
私の言葉にソレーヌは一歩下がります。表情が少し崩れていますね。
「どうしましたか?」
「き、キサマ……本当に【神殺し】なのか?」
「そうですけど?」
【創造】の力を目の前で使ったのですから、【神殺し】を知る大罪ならば本物かどうか分かるんじゃないですか?
もしかして、【神殺し】は三つのうち一つしか能力を持てないのですか?
そして、大罪を殺すというのは【悪魔の加護】を【破壊】する事をいうのでは?
肉体を殺しても特殊能力は殺せない。
これならばソレーヌの言葉の意味も通じます。
しかし、本当に三つのうち一つしか覚えられないのでしょうか?
私の性格は三つの能力で言えば【破壊】に一番近いと思うのですが、何故【創造】なのでしょうね。
もしかしたら、覚えられるんじゃないですかね?
いえ、覚えてしまえばいいのです。
しかし、今はソレーヌを殺す事だけ考えましょう。
「少しだけ本気を出す事にしましょう。でも、ここでは本気を出せませんから、外に行きましょう?」
「なんだと?」
私は両手の剣を床に刺し、素手になります。
「【ヒカリ】【ヤミ】。ここで大人しくしていてくださいね」
私は一気にソレーヌに近付き、頭を掴みます。
「くっ……離せ!!」
「外に出る間だけですよ。我慢してください!!」
ちょうど窓があるのであそこから出ましょう。
私はソレーヌの頭を掴みながら窓から外に出ます。
そして、ソレーヌを地面に叩きつけます。
「ぐっ……」
「あれれ~? ダメージを喰らっているではありませんか。私では貴女を殺せないのでは?」
もしかして素手での攻撃が有効なのですか?
ここは中庭というところですかね。綺麗な花などが咲いていますが、ごめんなさいね。今からぐちゃぐちゃになりますよ。
「ここなら少しだけ本気になる事ができますね」
「き、キサマ、先程本気と言っていなかったか!?」
「はぁ? 今までの人生で本気なんて出した事が無いんですから、本気がどの程度か私も知りませんよ。その時のノリで本気と言っているだけです」
「な、なに!?」
ソレーヌの顔が青褪めています。
そもそも、本気を出せば私の身体も持つか分かりませんしね。
「室内で本気を出してお城が壊れたら姫様が困るじゃないですか。あ、お城の兵士が現れましたね」
中庭に出てきた兵士達は、私達を囲みます。
「そ、ソレーヌ様!! この賊め!!」
おや?
私を囲んでいますね。
という事は国王派でしょうか?
「くはははは。これでお前に勝機は無くなった。お前に兵士を殺せるか!?」
「はい。殺せますよ?」
私は見せしめに兵士の一人の首をへし折り殺します。
アッサリ殺した事にソレーヌは驚いている様です。
「どんな状況であれ、私に刃を向けたんです。敵でしょう?」
私は殺気を膨れ上がらせ放出させます。
「今までは敵は貴女一人でしたが、ゴミが増えただけです。さぁ、始めましょう」
「お、お前……本当に【神殺し】なのか!?」
「何を驚いているのですか? そうだと先程から言っています」
どちらにしても、まずは邪魔な兵士を殺してしまいましょう。
私は【ヒカリ】と【ヤミ】を呼びます。すると、子供の様に二本の聖魔剣は私の下へと飛んできました。可愛い子達です。
私は兵士をせめて苦しまない様に一撃で殺していきます。
数秒後、中庭には兵士の死体と私達二人が残されました。
「き、キサマ……。人を殺して罪悪感が無いのか!?」
「はぁ? 今、ソレーヌという人物を喰い殺した特殊能力風情が私に人の道を語るのですか? 滑稽以外の何モノでもないですね」
「くっ……」
さて、そろそろ終わらせましょうか。
私がソレーヌの肉体を殺してしまおうとした時、それは現れました。
「そこまでだよ」
ソレーヌの首に黒い何かが巻き付きます。
「ぐぁああああ。は、離せ!!」
「離すわけないじゃないか。ようやくソレーヌが【嫉妬】に目覚めてくれたんだから」
【嫉妬】に目覚めてくれた?
あぁ、そういう事ですか。
「詳しく教えてくれませんか? ジゼル」
「やぁ、【忌み子】ちゃん。お疲れ様。そしてありがとう」
「お礼を言われるような事ですか。つまり大罪を発現させるために私と戦わせたのですね」
「正解だよ。上手く動いてくれたものだ」
そう考えればムカつきますね。
「それで? どうして大罪を?」
「それは秘密だよ。さぁ、大罪【嫉妬】。私と来てもらうよ」
「逃がすとでも?」
「ははは。すでに転移は始まっているさ。あ、そうだ。信じる信じないは別としてタロウ復活までは少し時間がかかるんだ。暫くの平穏を楽しむといい」
それだけ言って、ジゼルは消えてしまいました。
ジゼルの手の上で踊らされているみたいで……。
ムカつきますねぇ……。
誤字報告いつもありがとうございます。
活動報告でも書きましたが、今回より二日に一回の更新に変えます。




