12話 ジゼルの暗躍
誤字報告、いつもありがとうございます。
七つの大罪が【強奪】じゃなくて【強欲】だったので変更します。6月21日修正
私の名は魔導士ジゼル。
世間一般的には大魔導と呼ばれている。
見た目は二十代前半に見えるのだが、もう百年近く生きている。
どんな理由があるかは知らないが、私は急に歳を取らなくなった。
私は魔法の研究に人生を捧げていたから、歳を取らなくなったのは都合が良かった。
私は五十年ほど前に自分の研究施設を作り、毎日研究漬けで順風満帆だった。
二十年ほど経ったある日……、私の研究所は魔物に襲われて滅びてしまった。
私がちょうど外出していた時だった。
実験で作っていた魔物寄せの子供が魔物を呼んだのだ。
その少女に魔物を呼んだ自覚は無かったのだろうが、まぁ、起こってしまった事は仕方が無い。
私はその少女を捜したのだが、残念ながら見つからなかった。
生き残りに話を聞いたところ、冒険者が連れて行ってしまったらしい。
まぁ、いい。
魔物を呼ぶ子供だ。
長くは生きられないだろう。
それから私は各国を回り魔導士としての名声を広めていった。
そして、ファビエの宮廷魔導士として雇われて、あの色ボケ勇者と出会った。
私の見た目はそこそこいいらしく、勇者は私を求めた。
別に百年近く生きているのだ。抱かれてやっても良かったのだが、こいつに触れられるのは生理的に無理だ。
そもそも、私はこいつ本体には興味はない。
私が興味があるのはこいつの力だ。
私はタロウの力を発揮させるためにファビエ王を操り勇者に富と名声、そして女を与えさせた。
タロウはこの事に気分を良くして、私の言う事を聞くようになった。
暫くは、タロウに剣を覚えさせたり、戦い方を覚えさせたりしていた。
そして、私が望んだ力を発現させた。
私が求めた力……神の加護。
加護の名は【誘惑】
色ボケのタロウに相応しい加護だ。
タロウはこの力を使い、女を次々と襲った。
普通の女であれば、この男に嫌悪感を持つのは当たり前だ。
しかし、勇者の【誘惑】に抗えなかった者は悉くタロウに抱かれた。
タロウが求めれば求めるほどにタロウの【誘惑】の力は増していった。
これは面白い。
神の加護というのは実に興味深い。
タロウはこの世界に召喚されたときにある力を手に入れていた。
それは間違いなく加護だった。
だが、それは神の加護では無かった。
奴の持っている加護の正体は悪魔の加護。
七つの大罪【強欲】
相手の能力を奪う加護。
この力が表に出たのは、タロウが聖女マリテを強姦し、勇者アレスと対峙した時だった。
その力を使いタロウはアレスから神の加護を奪った。
アレス自身は、神の加護が無くなったのは、タロウが召喚された時からと勘違いしていたのだが、実際はタロウに奪われたのだ。
神の加護によりタロウは強くなった。アイツがどれほど強くなろうとも加護さえ研究できればどうでも良い。そう思っていた。
タロウもそうそう死ぬ事も無いからな。そう思っていた。
タロウは【不老不死】だ。
私が一度殺そうとしたのだ。
奴はあろう事か私に【誘惑】を使った。
そんな下らない力が効くと思うのか?
私は激昂してタロウを惨たらしく八つ裂きにした。
だが、タロウは死ななかった。
神の加護【不老不死】が目覚めたのだ。
これは本当に面白い。
こいつを操れば、神の加護、悪魔の加護の事を研究できると。
私はタロウを脅し、再び言う事を聞かせた。
しかし、再び私に【誘惑】を使われても困る。
私は馬鹿な女を二人用意してやった。
一人は剣姫ソレーヌ。
もう一人は武闘家アルジー。
ソレーヌは馬鹿正直にタロウに対し一途だった。
アルジーは強いモノと戦えたらそれでいいという戦闘狂だ。強くなるためならとタロウに抱かれていた。
この二人とタロウ、そして私は勇者パーティとなり世界を回る決心をする。
これも全てタロウを強化するため。
タロウがこのまま成長すれば、堕ちるところまで堕ちて、どうなるのかを見る為に……。
ある日、私は面白い話を耳にした。
教会に通じる私の部下からの話だ。
タロウの命を狙っている女がいる。
マリテの事か? と思ったがどうやら違うらしい。
まぁ、いつもの正義感ぶったゴミの戯言だろうと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
しかし、タロウを殺すか……。思わず笑ってしまう。
今のタロウは本当に強く、私でも本気を出さなければ勝てない。
【不老不死】という加護を持っているが、私達ほどになるとソレはたいした障害にはならない。
殺せないなら永遠に封印してしまえばいいだけだからな。
だが他の能力が合わさると旗色が悪くなる……。
しかし……勇者が強いという噂は適度に流してあるはずなのに、それでも戦おうとする者が現れるとは……。
愚かだが……面白い。
私はタロウの命を狙っている者を調査した。
勇者を殺すと言っていたのは一人の少女だった。
私がこの少女を見た瞬間、愚かなのは私だと思ってしまった。
アレを相手にすれば……タロウは確実に殺される。いや、タロウだけじゃなく、私達も殺されると。
タロウはアレと戦えるのか?
いや、タロウの方が強いはずだ。
私の手元にはタロウが手に入れた加護が書かれた紙がある。
神の加護
【誘惑】【不老不死】【身体超強化】【光魔法】【絶対回避】【絶対命中】【魔力超強化】【古魔法】
悪魔の加護
【色欲】【強欲】【傲慢】
これだけを手に入れた。
悪魔の加護は七つの大罪と呼ばれている力だ……。
これが七つ揃うとどうなるかを見てみたい。
それまでは死ぬわけにはいかない。
残りの大罪は……。
【嫉妬】【憤怒】【怠惰】【暴食】の四つだ。
これを見つけて……私は私の研究を完成させて見せる。
こんな所で死ぬわけにもタロウを死なせるわけにはいかない。
「さぁ、起きろ。哀れな剣姫ソレーヌ」
私は甦生魔法を使う。
この魔法は禁術でどんな状態の生物でも、生き返らせる事ができる。
ただ、この魔法は発動の準備が面倒で、時間がかかり魔力の消費も凄まじい。
一応二人を生き返らせる魔力はあるが、今回の事で魔力が尽きるな……。
ソレーヌが目を覚ます。
「かはぁ!?」
「目が覚めたかい?」
「じ、ジゼル……私は……」
「すまないね。君を助けるには一度死んでもらうしかなかったのだよ」
「え、えぇ……」
ふん。
本当は文句の一つでも言いたいのだろうけど、お前達は私には逆らえない。
ソレーヌは本当に哀れな女だ。あんな下衆の第一夫人と名乗っている。
私かアルジーが第二、第三か?
虫唾が走る。
まぁ、いい。
こいつはまだ利用ができる。
いや、私の研究の為には生きていて貰わねば困る。
「さて、私は今からアルジーの遺体を回収してくるよ。君は暫くは力を出せないだろう? ここで大人しくしているんだ。一つだけ聞いてもいいかい? なぜ神の加護【狂剣士】を使わなかったんだい?」
「そ、それは……」
「済まないね。答えたくない質問だったね。では行ってくる」
私は転移魔法を使う。
神の加護を与えたにもかかわらず使わなかった理由は理解はしてやる。
それほどに【狂剣士】は危険な加護だ。
いや、使っていたとしても【忌み子】ちゃんには通用しなかっただろう。
あの子の力を手に入れたい。
そして、あの聖女……アレも人外だ。
アレも手に入れたい。
私はアルジーの遺体の傍に近付く。
【忌み子】ちゃんは城の中で止まっている?
まぁ、いい。アルジーを連れて帰り生き返らせるとしよう。
アルジーは頭を潰されていた。
全く、残酷な殺し方をするものだ。
「まったく、【忌み子】ちゃんは怖いな……」
「そうですか?」
なに?
な、なぜ、私の後ろにいるんだ?
「貴女が大魔導ジゼルですか……」
「た、タロウの所に行かなかったんだね。予想外だよ」
なぜ、【忌み子】ちゃんがここにいる?
確かに彼女はタロウの下へと走っていったはず……。
チッ……。
私が彼女と戦っても勝てるとは思えない。
それほどこれは危険な存在だ。
見た目は十歳にも満たない少女……。
カカスを滅ぼした少女の姿と完全に一致している……。【忌み子】ちゃんは私と同じ存在だ……。
「はい。姿を現さずにいる貴女に是非会ってみたいと思いましてねぇ……」
「へぇ……。君は城の中にいたんじゃないのかい?」
「城の中には気配を残した残像を置いておきました。これで騙されてくれればありがたいと思っていたんですよ。騙されてくれてよかったです」
「そ、そうか……」
冷や汗が流れる。
足が震える。私が恐怖を覚えたのはどれくらいぶりだろうか……。
この少女は頭も回る。
どうする?
いや、アルジーを回収して逃げる事は簡単だ……。
い、いや、少し話を聞いておくか……。
「それで? どうして私に会いたかったんだい?」
「そうですね。貴女の目的を聞いておこうと思いましてね」
「目的?」
「そうです。貴女の目的を聞いて納得すれば見逃してあげますし、理解できなかったら、エレンに危害を加えたという事で殺します」
やはり、そこか……。
「そうだね。私の目的は神の加護の研究だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ならば、何故聖女を狙ったのですか?」
「おや? エレン嬢が聖女という事を隠さなくていいのかい?」
「貴女はもう知っていますからね。隠す必要はありません。それにそこのが逃げてきたという事はドゥラークさんかギルガさんがエレンを守ったという事です。問題はありません」
「そうだね。君の仲間、ドゥラークには驚いたよ。彼にアルジーを倒せるわけがないと思っていたのだが、どうやって彼を強くしたんだい?」
「【身体超強化】を再現してドゥラークさんに覚えさせました。それだけです」
な、何を言っているんだ?
神の加護を覚えさせただと?
それこそ神の所業じゃないか……。
こ、この少女を相手にするのは……い、いや、ここまできて計画を変えられん。
「そうか、では私は帰らせてもらうよ」
「逃がすと思っていますか?」
私の頬を光の何かがかすめた。
今のは……【光魔法】か!?
な、何故この少女が【光魔法】を使えるんだ!?
思っている以上にこの少女は化け物だ……。
「な、何を聞きたいんだい? 私の目的は話したはずだよ」
「いえ、聖女を狙った理由を聞いていません」
「そ、そうだね……」
こ、困った。
もし手に入れる為と言えば殺される……。
「どういう事ですか?」
「聖女を目覚めさせて、タロウを覚醒させないためだ……」
タロウを覚醒させないため?
私は何を言っているんだ!?
こ、こんな事を信じるわけないだろうが……。
い、いや、信じて貰えないと……殺される。
「……」
誤魔化せると思えない……。
逃げ切れるか?
いや……死んでたまるか!!
「まだ何か隠しているみたいですが、まぁ、いいでしょう。もう一つ聞きたい事があります。貴女は私のお母さん……【呪い子】の事を知っているのですか?」
え?
た、助かったのか?
しかし、また答えにくい事を……。
……!?
魔法の発動を確認できた。
「知っているが、今は話す事は無いな」
私は転移魔法を発動させる。
その瞬間太ももに痛みが走った。
さっきの光魔法か……。
しかし、もう転移魔法は発動した。
「君がタロウを殺せたら……君の母親【呪い子】の真実を語ってあげるよ……」
私はそう言ってその場を離れた。
アレと対峙してますます【忌み子】ちゃんが欲しくなった。
本当に、いい研究材料を産み落としてくれたものだ……。
アレの相手は勇者様に任せて、まずは傷を癒してアルジーを甦生させるのが先決だな……。
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