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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
最終章 神殺し編

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66話 襲い来る新人類

誤字報告、いつもありがとうございます。


 俺の目の前には未整理の依頼書が積まれている。

 今のマイザーの冒険者ギルドには、ベテランのギルド職員はいない。

 マイザー王の処刑の後、王族と癒着していたギルドの幹部職員やベテラン職員は逃げ出したらしく、今のギルドには、新入りの職員しか残っていなかった。そんな新入りしかいない状態でギルドの運営が回るわけがない。

 ギルドがまともに機能していないからと言って、マイザーから冒険者がいなくなるわけではない。それどころか、マイザーは今後冒険者の国になる予定だ。だからこそ、ギルドを潰すわけにはいかない。


 俺も十年以上冒険者を本業としているので、ギルド内部の仕事についても少しは分かるので、ギルドマスターの経験をしているギルガの旦那と相談しながら、依頼書の整理をしていた。

 ギルド内部で依頼書の整理をしているのは、俺だけじゃない。同じ、リーン・レイのメンバーであるダインもギルドの書類仕事に精を出している。


 しかし、俺もそうだが、ダインも慣れない書類仕事だから、いつもよりも疲れが大きいみたいで、げっそりとしている。


「ど、ドゥラークさん……。どうして、俺達がこんな書類整理をやらされてるんですかねぇ……」

「ははは。それは言うな。乗り掛かった船だ……。それに、いつベアトリーチェが攻めてくるか分からないが、俺達が本当に考えなければいけないのは、この戦いの後の事だ……」

「この戦いの後? ベアトリーチェは神だろう? そう簡単に倒せるのですか?」

「あのなぁ……。ベアトリーチェが神だからと言って、あのレティシアが負けると思うのか?」


 ダインは少し考えて「絶対負けないですね……」と苦笑いを浮かべる。

 リーン・レイのメンバーである俺達からすれば、あの理不尽な強さと、最近になって磨きがかかってきた悪知恵を持つレティシアがたかが神程度に負けると思えない。


 俺は時計を見る。そろそろダインに休憩を与えないと辛そうだな……。


「ダイン、ジュリアと町の見回りに行ってくれないか? あ、見回りに行く前にビックスを連れて来てくれ」

「いいんですか?」

「あぁ、少しくらい羽を伸ばしてこい。いや、見回りだから仕事なんだがな……」

「はは……。ありがとうございます。では、ビックスを呼んできますね」


 俺は嬉しそうにギルドを出ていくダインを見送った後、コーヒーを飲む。


 ふぅ……。

 こんな座ってばかりの仕事より、戦っている方が俺も楽だがな……。

 そんな事を考えていると、頭の中で声がした。


『マイザーにベアトリーチェが作り出した軍勢が進軍している』


 この声は、アブゾル様だ。

 俺は近くにいた冒険者を二人呼ぶ。

 一人はラロへ報告を。もう一人には、斥候をしてもらうよう頼む。ただし、深入りしないようにと念を押す。

 アブゾル様の言葉を信じていないわけではないが、敵の数を知る必要はあるからな……。


 しばらくすると、オリビアを除くダイン達三人が慌ててギルドに駆け込んできた。おそらくだが、ダイン達もリーン・レイのメンバーだ。アブゾル様の言葉が聞こえたのだろう。今はここに居ないが、別件で教会で治療を行っているオリビアにも聞こえたはずだ。


「ドゥラークさん!! 今の声は!?」

「あぁ、アブゾル様の声だ。ビックス、教会まで行って、オリビアを連れて来てくれ!!」

「あぁ!!」


 ビックスにオリビアを呼びに行かせ、ダインとジュリアには町にいる冒険者を集めて来てもらう。


 一時間後、冒険者ギルド内には、百人近くの冒険者が集められた。マイザーにいる冒険者はこれで全てではないが、ここにジュリアを置いて行き、ラロが来てから説明してもらう事にした。

 

 今の俺がする事は、アブゾル様の神託をここに居る冒険者に説明する事だ。しかし、不安もある。

 冒険者というのは、無神論者が多く、アブゾル教とは反りが合わない者も少なくない。だから、信じてもらえないんじゃないのか……。

 俺だって、直接アブゾル様の言葉が聞こえていなかったら、信じる事なんてできない。そう思っていると、斥候に行かせていた冒険者が帰ってきた。

 いや、いくら何でも早すぎないか?


「ど、ドゥラークさん!!」

「どうした?」

「ドゥラークさんの指示通りに、マイザーの西門から斥候に向おうとしたんだが、もう見えている(・・・・・)!!」

「……!?」


 もう視認できるほどの場所まで来ているのか!?

 俺はジュリアを呼ぶ。


「ジュリア。お前は感知魔法を使えるか?」

「はい。でも、今の報告された場所には何も感知する事は出来ませんでした。今報告してくれた人が見たと言うのが本当ならば、死霊系の魔物という事になる……。それに……」

「それに?」

「ジゼルさんが渡してくれた資料に書いてあった……」


 そう言えば、ジゼルから資料を貰っていたな。そこには……。


「新人類か……」

「な!?」


 俺とジュリアが頷き合うと、ダインが驚いた顔になる。ダインはリーン・レイのメンバーなのでジゼルの資料を知っている。

 もし、今攻めてきているのが新人類なのなら、ここに居る冒険者では危険かもしれない。


「ダイン、俺が先行する。お前は冒険者にジゼルが事前に用意してくれていた戦い方を教えておいてくれ」

「ドゥラークさん!!」


 俺は走ってマイザーの西門へと向かう。

 西門では、冒険者が新人類を町に入れないようにと壁の様に立ちはだかっていた。


「おい!!」

「リーン・レイのドゥラークか!?」

「アイツ等は新人類と呼ばれる死霊系に近い連中だ。もう少ししたらダイン達がここに来る。戦い方を教わっておいてくれ!!」

「あんたは!?」

「俺は今からアイツ等を止めに行く!!」


 俺は【身体超強化】を使い新人類に突進していく。こいつらはどういう戦い方をする? 警戒はしているつもりだったが、予想に反して新人類は無抵抗に俺に殴られていく。そして、首の骨が折れたと思った新人類も、すぐに立ち上がりマイザーに向かって歩き出す。

 まるでマイザーに進む以外に興味がないみたいだ……。


「ど、どういう事だ?」



 俺は一時間の間、新人類を食い止めていた。確かにこいつらは不死身の類なのだろう。だが、こいつ等は歩くしか出来ないのか何もしてこない。だからこそ、俺一人で食い止められたのだろう。

 

「ドゥラーク、どんな状態なの?」


 俺の横にラロが現れる。ラロは容赦なく新人類の首を落とす。しかし、新人類は頭が無くなっても立ち上がりマイザーに向おうとする。


「こんな状態だよ。こいつ等は何もしてこないが異常なまでに死なない」


 ラロは新人類を斬りながら、納得するように頷く。


「ドゥラーク、こいつらは新人類じゃないわ。こいつらは生ける屍よ」

「なに?」


 ラロが言うには、目の前にいる連中は新人類には覚醒しなかった人間だそうだ。ラロはグランドマスターとつながっている時に、新人類の資料と実験結果を見せてもらっていたらしい。


「こいつらが新人類じゃないんであれば、マイザーに危険は無いわ。ドゥラーク……」

「なんだ?」

「あんたはセルカに戻りなさい。セルカにはあのグラヴィが攻めてくるんでしょう?」

「何? お前にも聞こえたのか?」


 確かにアブゾル様の神託には、セルカにグラヴィが攻めてくると言うのも含まれていた。しかし、ラロはリーン・レイじゃないのにどうしてアブゾル様の神託が聞こえたんだ? いや、もしかしたら、アブゾル様の知り合いに神託を降ろしたのか?


 どちらにしても聞こえていたんなら、後はラロに任せてもいいだろう。

 ダイン達もいるから問題は無いはずだ。


「わかった。なら、マイザーは任せるぞ」

「えぇ、さっさと行って来なさいな」


 俺はジュリアに頼み、転移魔法を発動してもらった。


あと十話くらいレティシアの出番はありません。それと、あと15話くらいで完結する予定です。

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