48話 アブゾールの消滅
目の前にいる白と黒のベアトリーチェ……。
こ奴等、同じ顔をしておる。
双子か?
しかし、目の前に二人いるのに、一人分の気配しか感じる事が出来ん……。
そもそも、なぜ白のベアトリーチェだけ神気を感じる事ができるんじゃ?
魔霊族とはいえ、大まかな種族は神族のはずじゃ……。神気は必ず持っておるはずじゃ……。
分からぬ……。
考えられるのは……。
「貴様ら……二人で一人なのか?」
「違う……」
「私は……、いや……私達は」
「「一人だ」」
「な!?」
ど、どういう事じゃ?
二人おるのに一人じゃと?
魔霊族について何かを聞いた事があるのじゃが、はっきりとは思い出せん。大事な事じゃから、思い出すのじゃ……。
ワシが考えている間も、白黒のベアトリーチェは攻撃を繰り出してくる。
相変わらず遅い白いベアトリーチェの攻撃は当たる事は無い……が、黒いベアトリーチェの攻撃は洗練されておる。こちらの方が厄介か?
しかし、白いベアトリーチェをさっき倒したのに、どうして何もなかったように復活しておるんだ?
「ふふふ……。神族だった私には勝てたと思い込んだかもしれんが、私はまだ本気ではなかったぞ?」
「なんじゃと!?」
白いベアトリーチェは、数々の魔法を繰り出してくる。じゃが、先ほどと変わらず避けるのもかき消すのも簡単にできる。
やはり問題は黒い方か。
こ奴の魔法からは、危険な気配を感じる。
白い方が性懲りもなく、浄化の魔法を使ってきおった。
「効かぬと言っておるじゃろう!!」
ワシが白い方を殴り飛ばすと、黒い方がワシの背に密着してきおった。
「そういえば……魔霊族を殺す魔法だったか? お前にも効くか試してみよう……」
なんじゃと!?
なぜ魔霊族である黒いベアトリーチェが、あの魔法を使う事ができるんじゃ!?
しかし……、あの魔法は魔霊族には特効であるが、精神体に効くわけではない。
ベアトリーチェの魔法がワシの背中に押し当てられる。その瞬間に耐えがたい激痛が全身に走る。
な、なんじゃと!?
なぜこの魔法が精神体に効くんじゃ……?
「ぐっ……」
「くはははは。わざわざ、お前に効くように改良した甲斐があったぞ。さぁ、アブゾル、この世界を私に任せ……お前は死ね」
こ、こ奴……。
しかし、ただでは終わらせん。
ワシはベアトリーチェの腕を掴み、魔霊族特化の魔法を腹に押し当てる。
「ぎゃあああああ!!」
「これが本家本元じゃ!! くたばれ!!」
魔法は確かに押し当てた。しかし、黒のベアトリーチェは数秒苦しんだ後、口角を吊り上げてワシに笑いかけた。
「残念だったね……。その魔法ならとっくに克服しているんだよ」
ば、馬鹿な!!
ワシはもう一度、黒いベアトリーチェに魔法を押し当てる。しかし、今度は苦しむ素振りすら見せない。
「だから言っているじゃないか。もう克服したと……」
いつの間に克服したんじゃ?
確かに魔霊族であれば、自身の種族を滅ぼしたこの魔法を知ってはいてもおかしくはない。じゃが、ベアトリーチェは若い。聞いた事があったとしても、実際見た事は無いはずじゃ。
いや……。
白いベアトリーチェは「そんなモノをお前が使える」と言ってきおった。
ワシもつい覚えているか? と聞いたが、本来ベアトリーチェが知るはずがないのじゃ!?
「疑問に答えてやろうか?」
「な、なにをじゃ?」
「そのくだらない魔法で、神族のベアトリーチェが滅ぼされた理由だよ」
「……っ!?」
「神族の方のベアトリーチェには、私の力の一部しか与えていないんだよ。そもそも、その魔法は作られた命を滅ぼすモノだ。魔霊族は、他者の肉体に憑りつく事で生を得ている。だからこそ、作られた命を滅ぼす魔法が有効という事だ。神族の方の私の体はホムンクルスだからな……。その魔法に耐えられなくとも仕方がない」
ほ、ホムンクルス……じゃと?
まさか、神界からあの魔道具を持ち出してきたのか!?
ホムンクルスとは、魔力を入れてやる事で、人と同じ姿になり、影武者を作り出す魔道具じゃ。
神界の中でも、扱いに制限がかけられており、おいそれと持ち出せないはずじゃ。
持ち出すには、力のある神族三名以上の承諾が必要なはず……。
ま、まさか……。
「驚いているようだね。あぁ、このホムンクルスは正式な方法で手に入れたよ」
「な、なんじゃと!?」
「魔霊族を滅ぼすという愚行を許せない神族もいるという事だよ……。さぁ、死んでくれるかい?」
まさか、ベアトリーチェに手助けをしている神族がいるのか!?
チッ……。
どうやって倒すべきか……。
いや、ワシでは倒せない……。
がっ!?
「クソっ。離せ!!」
白いベアトリーチェがワシを掴んで離さない。
普段であれば、若い女性に抱きつかれるのは喜ばしいモノなのじゃろうが、こ奴は人形。
「さぁ、最期に何かいう事はあるかい?」
「な、なんじゃと?」
ベアトリーチェは、白いベアトリーチェを呼ぶ。
捕まえておったワシを離しても……、くそ、ホムンクルスから離脱させたのか。
今思い出した……。
魔霊族は自身の魂を分け与える事ができる事を……。
「ようやく気付いたようだね。そうだよ……」
白いベアトリーチェが黒いベアトリーチェの体の中に入っていく。
そして……。
黒い髪の毛は灰色に変わり、目は銀色に光っておる。
背には、三対六枚の漆黒の翼。
格上どころの騒ぎではない……。
こんな化け物を相手にしてしまえば……、レティシアのお嬢ちゃんでも……。
「これが私の本当の姿だよ。君や魔王クランヌが私の神気を読めなかったのは仕方がない。私は神気をほぼ失っているからねぇ……。だからこそ、神族の私を作り出せたんだよ」
「チッ……」
間に合うか?
いや、間に合わせる。
「まだ、何かを企んでいるのかな?」
「ワシとて……、この世界の神じゃ。お主のような、悪しき者から世界を守る為にここにおるんじゃ……。ただでは死なんぞ」
「くくく……。まだ、強がるのかい?」
いや……。
魔法は完成した……。
後は……。
強制転移魔法陣。
アブゾールに残った神官を一気にアブゾールの外に転移させる!!
「っ!? き、貴様、何をしている!?」
「なに……。ワシの魔法に巻き込まれないように、神官達をアブゾールの外に逃がしただけじゃよ」
「な、なんだと!?」
「さぁ……。ワシの肉体を贄に使って、貴様を……アブゾールごと封じ込める!!」
「ふざけるなぁあああ!!」
ベアトリーチェは、灰色の剣を持ちワシに迫る。
しかし、もう遅い!!
その日。
神聖国アブゾールは、この世界から消えた……。




