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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
6章 教会編

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40話 聖水の製作工程最適化


 聖水工房の神官長のカリアさんに案内されて、私達は地下で聖水を作っているところを見学する事になりました。


 聖水を作っている部屋は大聖堂よりも広く、何人もの神官が小瓶に何かを入れた後、魔法を二回かけていました。


「はて? 一度目は結構時間をかけて、二回目は一瞬だけ魔法をかけていますが、なんの魔法かは分かりませんが、二度がけする意味はあるんですか?」

「一度目は浄化の魔法ですね。浄化の魔法はじっくりとかけていかないと、効果が出ないんですよ。そして、二回目の魔法は定着の魔法をかけています」


 定着の魔法ですか?

 聞いた事の無い魔法ですね。

 でも、ジゼルなら知っているんですかね?


「定着の魔法とは、聞いた事のない魔法だね」


 ずっと魔導の研究をしていたジゼルでも聞いた事の無い魔法と言うのは、珍しそうですね。


「はい。厳密にいえば定着の魔法はこの世界の魔法じゃないみたいですね。アブゾル様の神託では、異世界の強欲の女神が道具の効果を長持ちさせる為に編み出した魔法だそうで、習得難易度がとても高く、ここにいる神官達でも使いこなせる者は数人しかいないんです」

「では、各教会にも、その定着の魔法が使える人を派遣しているのですね」

「はい。ただ、使えたとしても使用者が未熟だった場合、魔法を使用するのに時間がかかるのと、魔力消費量が激しいので一日に作れる量が少ないんです」


 なるほど。

 まずは、その定着の魔法を覚えなくてはいけませんね。


 私はカリアさんから定着の魔法を教えてもらいます。


 ……ふむ。

 習得難易度が高いと言っていましたが、割と簡単に覚える事が出来ましたよ。

 それに、この魔法を覚えてすぐに最適化をする方法を見つけました。

 しかし、この魔法を作った人が凄いというのだけは分かります。


 この魔法を作った人は、わざと(・・・)魔力消費が激しいように作っているんです。


「ジゼル。この魔法にはどんな危険がありますか?」

「ん? 定着の魔法かい?」

「はい」


 ジゼルは少し考えた後、「確かに、この魔法を最適化するのは危険かもしれないね」と呟きます。


「ぱっと考えただけでも二つの危険性を感じるね。恨んでいる相手に呪いの魔法をかける。その呪いの状態を定着させれば、魔法をかけられた者は一生呪われたままになる。もう一つは、怪我をした状態や病気状態を定着できてしまった場合は、危険極まりない。この魔法の最適化は慎重になった方がいいかもしれないね」


 なるほど。

 定着の魔法の最適化よりも、聖水の作り方の最適化を考えた方がいいかもしれません。


「因みに定着の魔法がなければ、聖水はどれくらい持つのですか?」

「おそらく二日も持ちません。作成者の個体差があるので、確実な事を言えるわけではありませんが、モノによっては一瞬で腐ってしまいます」


 腐った聖水はさすがに役に立ちません。

 だいぶ前に、ドゥラークさんが腐った聖水を死霊系の魔物にかけたそうです。

 すると、腐った聖水をかけられた死霊系の魔物は、逆に強化したと言っていました。


 ふむ。

 定着の魔法をかけないと、長期間、洞窟内を探索した場合、聖水が腐ってしまって、それをかけて魔物が強化されてしまえば、冒険者は死んでしまいます。


 しかし、聖水がなぜ腐るのでしょうか?

 それを聞こうとしたら、ジゼルも同じ疑問を持ったのか、カリアさんに聞いてくれました。


「聖水が腐る理由は分かっているのかい?」

「はい……。まずは聖水の作り方を説明します。この神聖国アブゾールは、アブゾル様の加護で守られているそうです

。さらに、この工房の隣にある池の水には強力な神の力が込められています。その水に聖櫃という箱に溜められる聖なる灰を少量入れます。そこに浄化の魔法を慎重にかけるんです。腐る場合は水が神聖な力に耐えられないのです。これは、浄化の魔法の使用者によって腐るまでの時間と性能が変わるみたいです。だからこそ、定着の魔法が必要なんです」


 なるほど。

 浄化の魔法の使用者によって、性能も変わるのですか。

 最適化するのなら、そこかもしれませんね。

 ……しかし。


「はて? 水にもアブゾルの神気が込められているのですよね。それなのに、浄化の魔法に耐えられないんですか?」

「……はい。聖なる灰の神聖な力の増幅量が大きすぎて、浄化の魔法の力を倍増させてしまうんです。だからと言って、浄化を使わないと、聖水にはならないんです」


 ふむ。

 その聖なる灰と言うのが気になりますね。


「その聖なる灰とは、どんな効果を持っているのですか?」

「そうですね……。お二人は魔石はご存じですか?」


 魔石?

 聞いた事がありませんね。


「あぁ、たまに魔物の体内から採取できる、魔物の魔力の結晶だったね。私も研究の為にいくつか所有しているよ」


 私は持っていませんね。【創造】で作れるでしょうか?


「その魔石と言うのは高価なんですか?」

「あぁ……。どんな魔物から採取できたかにもよるが、最弱の魔物のゴブリンの魔石ですら、それなりに高価なはずだ。だが、それが聖なる灰とどう関係あるんだい?」


 ゴブリンみたいな弱い魔物の魔石でも高価だというのならば、【創造】で作るとグローリアさんに怒られてしまいますから、止めておきましょう。


「魔物の死骸に聖なる灰をかけると、確実に魔石を入手する事ができます。これは教会の一部の者しか知らない事なので、他言無用でお願いできますか?」

「あぁ……、なるほどね……。教会の財源の一つが理解できたよ」

「はい?」

「教会は魔石の流通を支配しているんだ。魔石から作られるモノはすべて高価だからね……。魔石の流通を支配すれば、莫大な金額を教会のモノにできる」

「ふむふむ……。結局アブゾル教は守銭奴なんですか? さっきアブゾルに会いましたけど、良い人そうに見えましたよ?」

「ははは。こればかりはアブゾルは関わってはいないだろうね。関わっているのは、枢機卿か教皇だ」


 ふむ。

 枢機卿と教皇が独占しているという事ですか。

 しかし、カリアさんはそこを否定してきます。


「いえ、それには理由があります」

「はて?」

「聖なる灰は自動的に聖櫃に入っているのですが、その量も無限ではありません。魔石は様々な用途に使えるモノなので、需要に供給が追いつかなくなってしまうと、当時の教皇が聖なる灰の配布を制限して、そして禁止にしたんです」


 つまりは以前はちゃんと配布されていたんですね。


「へぇ……。言い方を悪くすれば、当時の教皇が聖なる灰の価値に気付き、独占したという事だね」

「そ、そんな言い方は!?」


 私にもどうしてもそう聞こえてしまいます。


「まぁ、その事はいいよ。忌み子ちゃん、今の作り方を聞いて聖水を作れそうかい?」

「さぁ? 一度作ってみないと何とも言えません」

「カリア君。今すぐ聖水の材料を持ってきてくれないかい?」

「は、はい!!」


 カリアさんは、小瓶に入った水と少量の灰を持ってきてくれました。


 これですね。

 浄化の魔法はエレンが使っていたのを見て覚えましたから、使えます。


「えい」


 水に灰を入れて浄化を使ってみましたが、一瞬で水が真っ黒になってしまいました。


「はて? 水が真っ黒になってしまいました」

「それが腐っている状態なのです。水に聖なる灰を入れるのも慎重にならなければいけません。だからこそ、時間がかかるのです」

「なるほど」


 面倒ですね。

 今度はゆっくりと入れてみましょう。


「えい」


 やはり真っ黒になってしまいます。


「はて? やはりだめです」


 何がダメなんでしょう?

 そんな時ジゼルが腐った聖水を見て、私に確認してきました。


「忌み子ちゃんは浄化の魔法が使えるのかい?」


 はて?

 さっきから使っていますよ?


「はい。エレンが使っているのを見て、使えるようになりました」


 私がそう言うとジゼルは首を傾げています。なぜですかね?


「しかし、うまくいきませんねぇ……。何が原因でしょうか?」

「ちょっと材料を貸してくれないかい?」


 ジゼルは材料を手順通りに聖水を作ります。

 はて?

 ジゼルが作った聖水は黒くなりませんよ?

 なぜでしょう?


「おぉ……。この聖水は質もいいし、作る速度も速いです。さすがは魔導王です」


 むぅ……。

 なぜジゼルにはできて、私にはできないのでしょう?


「レティシア。【鬼神化】を使ってみろ。おそらくだが、神気が足りていないんだ。それに、お前の浄化の魔法は何かが違う。いや、まったく浄化の魔法になっていない」


 いつの間にか、私の肩にアマツが乗っていました。


「その言い方ムカつきますぅ……」


 せっかく魔法を使っていたのに、なっていないとは……。


「やっぱりそうか……。忌み子ちゃんの浄化の魔法が何か違うと思っていたが……」


 んーまっ。

 ジゼルまでそんな事を言うんですか!?


「どうでもいいからやってみろ」

「はぁ……」


 私は【鬼神化】を発動させます。

 すると、髪の毛は真っ赤になります。


 今度こそ、失敗しませんよぉ。


「えい! 出来ました」


 今度は綺麗な水のままですよ。

 その聖水を見たカリアさんは驚いていました。


「こ、これは強力な聖水ですよ」

「当然だ。うまく扱えていないとはいえ、レティシアの神気はアブゾル以上だ。その力を使えば一級品の聖水を作れて当たり前だ。それに強力な神気があれば浄化の魔法も必要ない」


 ふむ。

 浄化の魔法が使えていないと言われた時はイラっと来ましたけど、褒められるのはいい気分です。

 しかし、作り方は分かりましたし、最適化もできそうです。


 私は【鬼神化】を解きます。

 一度作ってしまえば、もう鬼神化は必要ありません


「できました」


 私の手の中には、綺麗な水の入った小瓶がありました。


「どうやったんだい?」


 今度はずいぶん簡単にできました。


「浄化の魔法が使えないと言われましたので、魔力増強の魔法を使ってみました。これは簡単な魔法なので、誰でも使えるはずです。それに、これなら神気が増強されるわけではないので、そうそう腐る事はないはずです」


 私はカリアさんに聖水の作り方を詳しく教えました。

 話を続けるとカリアさんの顔が驚愕に染まっていきます。


「す、素晴らしい。これならば、一日千本以上作る事が可能かもしれない。それに定着の魔法も必要ない!?」


 浄化の魔法を使っていないので、腐る可能性が低いみたいだから、定着の魔法は必要なさそうですね。

 そもそも、聖なる灰の効果が強力ならば、それを使えばいいだけです。

 浄化の魔法が腐る理由なら使わなければいいだけです。


「そうですか。では、明日千本、用意してくれますか?」

「分かりました。明日の朝に工房に来てください!!」


 これで聖水千本の用意はできるはずです。

 私達は、翌日の朝に聖水を貰いに来る事を約束して、工房を出ました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、別世界の初見の魔法が製法に関わっている、レティシアは浄化の魔法を間違って覚えている、この二点があってレティシアの聖水量産は難しかったんですね。 しかし、あっさりと成功させた後はさ…
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