37話 勇者としての在り方
今回はちょいと長くなりました。
大聖堂でアブゾルと話をした後、俺達はアブゾールから出て、一番近い町まで歩いて向かっていた。
ラロは、大聖堂を出てから、無言で何かを考えているようだった。
「ラロ姉さん……。さっきから無言だが、何を考えているんだ?」
「タロウ。さっきの貴方は貴方らしくなかったわよ。やっぱり、勝手にこの世界に連れてこられた事を今でも恨んでいるの?」
恨むか……。
確かに、こっちの世界に来てからは、酷い事もしたし、酷い事をされたりもした。
……だが。
「……感謝半分、恨み半分だよ」
それが俺の答えだ。
「へぇ……。半分も感謝しているなんて……意外だったわ。なぜ、こんな世界に感謝しているの?」
「そうだな。一番はソレーヌに会えた事……。次にラロ姉さんに会えた事かな……」
今、思い返しても俺にとって幸運だったのはこの二つだけだ。
ソレーヌと会ったばかりの頃の俺は、真正の屑だった。
元の世界で女っ気もなく、卑屈に生きていた俺からすれば、教会に勇者だと煽てられるのが、心地良かった。
ソレーヌも、自分が国から認められていない事に不満を感じていたみたいだ。
そんな俺達だったから、一緒にいれたのかもしれない。
確かにジゼルやアルジーも勇者一行としての仲間だったが、俺の中では、ソレーヌだけは別だった。
それにラロ姉さんもそうだ……。
レティシアに殺され、生き返り、ジゼルを殺した俺はマイザーに辿り着いても、レティシアに対し強い憎しみを持っていた。
いつか、殺してやる。
そんな事を常に思っていた。
だが、ラロ姉さんに会い、色々教えてもらい、自分の馬鹿さ加減に気付いた。
もう少し早くラロ姉さんに会っていれば、ソレーヌを失わずに済んだかもしれないが、たらればを言っても仕方がない。
だから、俺としてはこの二人に会えた事を感謝するしかなかった。
もう、過ちは繰り返さず、憎まれながらでも、生き続ける。自己満足でしかないが、それが、俺に対する俺自身への裁きであり、俺が引き起こした事件の被害者への罪の償いだと思った。
「あら、嬉しい事を言ってくれるわね」
ラロ姉さんは少しだけ顔を赤らめさせ照れている。
「それに、この世界は俺に刺激を与えてくれた。元の世界の俺は、ただ無気力に生きているだけの人間だったからな」
「え? さっきアードフルに言ってたような立派な人物じゃなかったの?」
あぁ、だからラロ姉さんも複雑そうな顔をしていたのか。
だが……。
「あははは。そんなわけねぇよ。もし、元の世界で立派な生き方をしていたのならば、こっちに来て勇者と煽てられたからと言って、あんなゲスな行動はとらねぇよ。俺の性格は元々腐っていただけだ。今現在の性格になったのは、あんたとソレーヌのおかげだ」
「へぇ……。それなら、なぜアードフルにあそこまで怒ったの?」
「そりゃ、そうだろう。アイツがどう答えるかによって、俺は何も言い返さずに頭を下げるつもりだった。だが、アイツは一言で異世界に行く事を否定した。そもそも、枢機卿としての、下らない正義感があるのなら、俺がいた世界に行ったとしても、アブゾルを信じ世界を救ってやる。くらい言えば良かったんだよ」
それが言えたのなら、本物の救世主になる資格がある。
だが、そんな事を簡単に言えないのが事実という事を、俺は知っている。
例えば、元の世界で人気だった異世界転生。ライトノベルや漫画では、ほとんどの主人公が異世界に行っても成功をして、ハッピーエンドになっているが、アレは物語だからだ。実際の一般人が異世界に召喚されても、何もできないと俺は思う。
だってそうだろう?
俺の場合、今まで、ただ朝起きて、働いて、飯を食って、風呂に入り、そして寝て、また起きて、また働く。そうやって日常のサイクルを繰り返していただけの奴が、突然異世界に飛ばされて、刃物を持って凶悪な化け物と戦う……。できると思うか?
俺でなくも、良くあるパターンとして、高校生が死んで異世界に行き、成功する。
あり得ると思うか?
もし、あり得るというのなら、そいつは元の世界でも偉業を成したはずだ。
俺の様に無気力な毎日を送っている人間に、そんな事ができるわけがねぇ……。
「だが……枢機卿は……」
「それは仕方ないわ。普通は無理でしょうね」
……。
まぁ、そうだろうな。
ラロ姉さんみたいに、自分に置き換えて考えてくれる奴ならば、無理と答えるだろう。
これが逆でも、俺は難しいと思う。
例えば、ラロ姉さんが俺がいた世界に行っても、何かができると思えねぇ……。
まぁ、ラロ姉さんの場合は顔がいいから、ホストにでもなれば金は稼げるだろう。だが、それはあの世界で生きていく事を決意して、色々な事を割り切ればの話だ。
俺がいた世界は、平和で自由ではあったが、別の意味で自由がなかった。
それに比べて、この世界の冒険者はどうだ?
力にのみでも生きられて、要領がよくても生きていける。力がなくとも、慎重さがあれば生きていける。
正直者も生きていけるのに対して、嘘つきの卑怯者でも生きていける。
つまり、生きていくだけなら人など気にせずに生きていける自由がある。
それに比べて、俺が元々いた世界は、人の目を気にして、嘘を吐けば非難され、力……、経済力と言う力がなければ、蔑まれる事も少なくはなかった。
もし、この世界の冒険者が、俺がいた世界に行けば、ほとんどの奴が、高確率で犯罪者になるだろうな。
この世界で当たり前だった自由が無くなった時……、ムカつく者が現れた時、暴力以外で解決できるかどうか……。
そもそも、この世界と違うルールにどこまで対応できるか……。
様々な問題が出てくるだろうな。
だからこそ、簡単にできるとは言えないんだ。
……だが。
「なぜ無理なんだ? この世界の連中は俺にそうしろ。と強要したじゃねぇか」
「そうね……」
ラロ姉さんもそれを悪いと思っていたから、悪名高い俺を匿ってくれたんだろうな。
俺達はしばらく無言で町までの道を歩く。
すると、遠くの方であまり見たくない顔が、俺達に近づいてきた。
「久しぶりだな……。勇者タロウ、英雄ラロ」
なぜレギールがここにいる?
まさかと思うが、アブゾルを殺しに来たのか?
いや、アブゾルは老人の姿をしていたが、俺よりもはるかに強いと感じた。
目の前のこいつ如きにアブゾルがどうかできると思えない。
「レギール……。何の用だ?」
「ふん。俺はお前など必要ないのだが、ベアトリーチェ様がお前を欲しがっていてな。ベアトリーチェ様と共にいれば、お前が恨みを持つレティシアにも、簡単に復讐できるぞ。俺と共に来い」
必要ないか……。
それはこちらも同じだな。
あくまでグランドマスターの勇者であるこいつと
、異世界から来た屑の俺を、一緒にして欲しくはない。
しかし、共に来いか……。
「タロウ……」
ラロ姉さんが心配そうに見ている。
ははは。
まったく……。
「くくく……。俺がお前と?」
「あぁ。お前もベアトリーチェ様に召喚された勇者なのだろう? それならば、俺と一緒に来るべきだ」
ベアトリーチェに召喚ねぇ……。
俺を召喚したのはファビエ王と前教皇のはずで、グランドマスターが関わっているのはほぼ間違いないが、ベアトリーチェって奴は関わっていないはずなんだがな。
しかも、グランドマスターは名前を隠しているんじゃねぇのかよ……。
俺の前にラロ姉さんが出る。
「させないわよ」
「英雄ラロ。お前はもう用済みだ。ベアトリーチェ様は手駒を揃え終わった。後はアブゾルを殺し、この世界を完全にベアトリーチェ様の物にする」
手駒ね……。
だが、一番厄介な存在を忘れてねぇか?
それより先にカマをかけてみるか……。
「ほぅ……。お前は馬鹿か?」
「なんだと?」
「グランドマスターの存在は無視か?」
こいつは俺達がグランドマスターの本名を知っている事を知らない。
これでミスリードができて、何かを吐いてくれるとありがたいんだがな。
「くくく……。お前こそ、何も知らないのだな。ベアトリーチェ様の正体がグランドマスターだ」
「なんだと?」
おいおい。やけにあっさりと白状したな。
もしかして、頭が弱いのか?
「ベアトリーチェ様の偽物も現れたようだが、アレはすでにベアトリーチェ様の手駒の一人であるグラヴィにより抹殺されている」
グラヴィ……。
確か学校の生徒会長か。
アレもレティシアが殺したと聞いていたが、生きていたのか?
まぁ、いい。
「ラロ姉さん……」
俺は小さな声でラロ姉さんにそう話す。
「なに?」
「アイツを【神の眼】で見ろ。きっと、何かを隠しているはずだ」
「え、えぇ……」
ラロ姉さんの奴……。
少し、混乱しているのか?
ラロ姉さんは【神の眼】でレギールを見る。
「どうだ?」
「アレは魔族ね。勇者を名乗っているけど、あれも魔霊族みたいよ」
「魔霊族? それは神族の種類だったんじゃないのか?」
「さぁね……。ジゼルを使って大罪を作り出そうとしていたくらいだもの。改造したんじゃないの?」
「なるほどな……。まぁ、良いさ」
俺はラロ姉さんを下がらせ前に出る。
「タロウ!!」
俺は静かに剣を抜く。
「ほぅ、相談はもういいのか?」
「あぁ……。もうお前に用はない。死ね」
「くくく……。真の勇者である俺を殺せると?」
「あぁ……」
俺はレギールの首を斬り飛ばす。
馬鹿にすんのも大概にしろや。
「がっ!? い、いつの間に……」
今の速度を避けられないのに、いや、気付かないのに、どうレティシアと戦うんだ?
こいつらにとって一番厄介なのはレティシアとリーン・レイの連中だ。
「く、クソ……。タロウみたいな屑に殺されるなんて……」
「あぁ、そうかい。それは残念だったな」
俺はレギールの頭を踏み潰そうとする。
「ち、ちくしょう……」
「あばよ」
俺が一気に力を入れると、レギールの頭は潰れ黒い靄に変わる。
おそらく、これが本体だろう。
「ラロ姉さん。さっさとマイザーに戻るぞ」
「どうして?」
「ここにレギールがいたという事は……」
「分かったわ……」
俺達は転移魔法陣を使いマイザーに戻る。
元々は町に入ってゆっくりするつもりだったんだがな……。
俺達はマイザーの宿屋で話をする。
「今頃、アイツは復活しているんだろうな」
「そうね。魔霊族は精神体だから殺し方がある。今は準備ができていないから、殺せないわ」
「……そうだな」
しかし、ベアトリーチェの駒か……。
自らレティシアに殺されるために駒になるとは、酔狂な奴もいるもんだな……。
異世界転生をディスってみましたww
とまぁ、冗談は置いといて、自分が異世界に行ったら三日でダメでしょうねww
そう思って、今回の話を書きました。




