28話 ゴブリン軍団、何もできずに壊滅
崖の上から見るゴブリン達は、自分達の住処であるお城が破壊され、戸惑いながらも、必死に瓦礫から抜け出そうとしていました。
「レティシア。ヘクセちゃんのおかげで奴等の拠点は壊滅した。生き残ったゴブリン共を倒すのが、俺達の役目なのか? まぁ、ヘクセちゃんが頑張ったのなら、俺達も頑張らないとなぁ……」
紫頭は文句を言いながらも準備運動をしています。ヘクセさんが頑張りましたから、やる気になっているのでしょう。レッグさんも同じように準備運動を始めている姿をみて、マジックさんは少しだけ呆れているように見えます。
しかし、二人共まだ早いです。
「紫頭もレッグさんもまだ出番では無いですよ。まだ、ヘクセさんの出番は終わっていませんよ」
「え?」
シーラさんと一緒に座っているヘクセさんは少し驚いていました。
しかし、その顔には疲れはありません。
「ヘクセさん。魔力はどれだけ回復しましたか? いえ、ほぼ全回復しているんじゃないですか?」
「う……うん」
私がそう言うと、ヘクセさんは立ち上がります。
そうです。
ヘクセさんは魔力の回復スピードが異常なほど高いみたいなのです。
その証拠に、魔力が尽きるほど、魔法を撃ちこんでもらったにも関わらず、私みたいに髪の毛の色も変わっていません。
私がヘクセさんの魔力量を調べてみると、全く消費していないみたいです。
「ヘクセさん。あの集まっているゴブリン共の真ん中にクリムゾンを撃ち込んでください。出来れば五発ほど」
「う、うん」
ヘクセさんは、さっきよりも少し大きいクリムゾンをゴブリン達が集まる中心に撃ち込みます。
一応、魔力の消費量を考えて出来ればと言ったのですが、ヘクセさんは顔色を変えずに魔法を撃ちこんでいました。まさかと思いますが、無限の魔力持ちかもしれませんねぇ……、いえ、それはあり得ませんか。先程、疲れていたのは間違いありませんから……。
クリムゾンが着弾すると、ゴブリン共が弾け飛びます。
「あはははは。ゴブリン共がゴミの様ですよぉー」
「だ、だめだ。レティシアの性格がどんどん歪んでいく……」
紫頭は額に手を当てて、首を横に振ります。
誰の性格が歪むというのですか。全く失礼な人です。
今の爆発で、ほとんどのゴブリン共は死んだはずです。しかし、全部のゴブリンが死んだのではないようです。
ゴブリン共の死体を押しのけて数匹が立ち上がります。そして、その中には、黒い一つ目のグラーズもいました。
「アレはさすがにヘクセさんの魔法では倒せないみたいですね。それに……」
私は、こちらを見ているグラーズを睨みつけます。
「私の相手は、あのふざけた魔王です」
私がグラーズに向かっていこうとしたのですが、紫頭に止められました。
「なんですか?」
「レティシア。今のお前は魔力が少ないんだ……。いくらお前が強いと言っても……気を付けろよ」
むぅ……。
心配してくれているみたいです。
「分かりました。ここは素直に忠告を受け取っておきます。紫頭達も、少しは強いゴブリンが残っていますから、退屈はしないと思いますよ」
「ははっ。人を戦闘狂みたいに言うんじゃねぇよ。マジック様、レッグ、行くぞ。シーラはもしもの時の為に、ここでヘクセちゃんを守ってやっていてくれ」
「わ、わかった。ケン、気を付けてな」
「あぁ」
全く見せつけてくれますねぇー。私も姫様になでなでして欲しいです……。
そう言えば、今はエレンもカチュアさんも来ているのですね……。帰りたくなってきました。
いえ、ダメです。
あのふざけた魔王を殺すんです。
「では、行きますよ」
≪マジック視点≫
俺達は、崖を下っていく。
城があった場所は、無数のゴブリンの焼死体が転がって、嫌な臭いがたちこめていた。
そんな臭いの中で、数体のゴブリンがこちらを睨みつけていた。
いや、アレは本当にゴブリンか?
姿はゴブリンの王種の一匹、グランドゴブリンだろう。しかし、顔はゴブリンというよりは、オーガに近い。
確か、書物に書かれていたグランドゴブリンはゴブリンに似た顔だったはずだ。これは新種なのか?
それに……、こいつ等も確かに脅威だが、明らかに別次元の強さを感じる黒い細身のゴブリン。
「あれがゴブリン魔王グラーズか……」
見た目だけなら、筋骨隆々のグランドゴブリンと違い、グラーズは小柄だ。しかし、発する魔力はケタが違う。
もし、アレがエスペランサを攻め込んできていたなら……。俺達は……死んでいたかもしれないな。いや、エスペランサそのものが滅びていたかもしれん……。
本当にレティシアがいてくれて助かった……。
「マジック様。目の前のグランドゴブリンは普通ではありません。俺達も本気で戦います。マジック様も……」
「分かっているさ……」
俺は自分の剣を握る。
ケンやレッグ殿の黒い剣ほどではないが、俺の剣も聖剣の類だ。
俺はエスペランサ最強の剣士を謳っている。だからこそ、この剣を持った以上、負けは許されない。
いや、負けるはずがないか……。
俺はケンとレッグ殿に視線を移す。
魔力の質、強者を前にしても二人は余裕の表情だ……。
本当に強くなったんだな……。
「ケン。この戦いが終わったら、俺は、お前を本気で四天王にスカウトするぞ」
「はい?」
「エスペランサにお前が必要だ。それにお前が傍にいた方が、シーラも喜ぶぞ」
「ははは。そんな話をしていたら、死んでしまいそうじゃないですか」
ケンは少し照れながら、グランドゴブリンに斬りかかっていく。
レッグ殿も、ケンの動きを見てから、反対方向のグランドゴブリンを斬りに行った。
俺も負けていられないな。
グランドゴブリンの数は十体。
戦い続けた結果、もう七匹ものグランドゴブリンを倒していた。あと三匹だ。と、その時、グランドゴブリンではない影が、ケンに斬りかかった。
今の太刀筋、俺の動きと同じ動き……?
ま、まさか!?
俺が振り返ってケンを確認しようとしたが、その前にケンの呆れた声が聞こえてきた。
「おいおい。どうして、お前が俺に斬りかかって来るんだ?」
「くふふふふふ。どうしてだって?」
この声……。
俺は急いで振り返る……。
予想通りの馬鹿が、ケンと向き合っていた。
あの馬鹿野郎……。姿が見えないと思ったら……。
「俺がエスペランサ四天王であり、冒険者のお前よりも、偉いからだよぉおおおおお!!」
ケンに斬りかかったのは、俺と同じエスペランサ四天王……。
ハヤイだった……。




