26話 ヘクセさん。リーン・レイ加入……していた。
クランヌ陛下から、ゴブリン退治の依頼を受けた俺達は、エスペランサの一室で作戦会議を開いていた。
この場にいるのは、リーン・レイから俺、ケンとレティシア、それにレッグの三人、エスペランサから、シーラとマジック様。そして、なぜかヘクセちゃんの六人だ。
「んで? クランヌ陛下の婚約パーティーまでの二日間で、ゴブリン軍団を壊滅させると? そのゴブリン共は普通じゃないんだろう? そんな事が可能なのか?」
クランヌ様から直接話を聞いたレッグは呆れていた。
ちなみに、ネリーは、急遽派遣されてきたエレンやカチュアと共にエスペランサで待機という事になっている。
「はい。どれだけ強化されているとはいえ、たかがゴブリンです。簡単でしょう」
こいつは何を言ってるんだ?
どう考えても、たった六人でゴブリンロード級のゴブリンが何十体もいるのを相手にするのは、分が悪いだろうが。
「おい、ケン。レティシアちゃんは何を根拠に余裕ぶっているんだ? ブレイン殿は何故止めない?」
「いや、俺に聞くなよ……。そもそも、本来はこんな事態になる前に止める筈だった、ブレイン様が乗り気なんだ……」
「そ、そうか……」
俺とレッグは深いため息を吐く。
「あ、あの〜……」
「しかし、エスペランサが忙しい時に、マジック殿まで来てくれるとはな」
レッグは、マジック様に視線を移し、そう笑う。
「あぁ、元々、客人への対応などはブレインの仕事だったんだ。それで、ハヤイに行かせようと思ったんだがな、アイツは昨日から連絡が取れない。だから、俺が来たんだ」
うーむ。
ブレイン様の事をよく知る俺としては、面倒事をマジック様に押し付けた様にしか見えんけどな。
それにしても、ハヤイが行方不明?
レティシアにボコボコにされて、治療中のはずだが……。どこに行きやがったんだ?
まぁ、あんな奴の事はどうでもいい。
「レティシア、ゴブリンの正確な数も分からんのに、どうするつもりなんだ?」
「あ、あの〜」
い、いや。
全員が聞こえないフリをしているから、スルーしていたが、段々とヘクセちゃんが泣きそうな顔になってきているから、これ以上は無視できない……。
「ど、どうした? ヘクセちゃん」
「私はリーン・レイではないのに、どうしてここにいるのでしょうか?」
い、いや。
それは俺も気になっていたが、レティシアに視線を移してみると、不思議そうな顔をしていた。
「はて? 何を言っているんですか? ヘクセさんもリーン・レイの一員ですよ?」
は?
いや、待て。コイツは何を言っているんだ?
「お……おい……。レティシア……」
「ちゃんとギルガさんにも報告しましたよ?」
報告?
ま、まさか、あの日のやつか!?
「ま、待て!? お前が、ギルガの旦那に珍しく連絡用の魔宝玉を使ってきた時に俺も近くにいたが、ギルガの旦那はヘクセちゃんの加入に反対していたはずだ!?」
「はて? 私はちゃんとパーティ登録しておきましたよ? だから、反対されても、もう登録は終わっていると言いましたよ?」
ま、マジで、コイツが何を言っているかが理解できねぇ……。
「あ、トキエさんが受け付けてくれましたので、滞りなく登録できました。だから、もう遅いです」
トキエちゃんまでグルか!?
い、いや……トキエちゃんも、レティシアには甘いからなぁ。
ヘクセちゃんは話についていけずに呆然としている。俺はヘクセちゃんの肩を叩き、「諦めろ。もうレティシアからは逃げられない」と首を振った。ヘクセちゃんも魂が抜けたように更に呆然としていた。
仕方ねぇ……。
俺もヘクセちゃんに助け舟を出しておくか。と思ったが、レッグが先に助け舟を出したようだ。
「ヘクセちゃんがリーン・レイに加入したというのは理解した。どっちにしても、戦闘経験のないヘクセちゃんはネリーの側に居させた方が良かったんじゃないのか?」
レッグ。
それが正論だ。
俺もレッグに賛同するが、当のレティシアは不思議そうな顔をしている。
「はて? ヘクセさんには一人でゴブリン達を皆殺しにして貰おうと思っているのですが?」
「はぁ!? お、お前何言ってるんだ!?」
ヘクセちゃんも突然そんな事を言われて、どう見ても混乱してるだろうが!?
「いやいやいやいや、無理ですよぉ!?」
そりゃ、そんな反応になるだろうな。
しかし、レティシアが何も考えずにそんな事を言い出すだろうか?
ま、まさか!?
「大丈夫ですよ。それに強くなればブレインも振り返るかもしれませんよ」
「え!?」
れ、レティシア……。なんてわかりやすい餌をぶら下げるんだ。ヘクセちゃんも本気になっているのか、顔が真っ赤になっているじゃないか。
しかし、意外にもこの話に喰いついたのはマジック様だった。
「レティシア嬢、今の話を詳しく教えてくれないか?」
「え? マジック様がそんな話に興味を持つなんて珍しいですね」
「そうか? 俺としては、いい歳だというのに、いつまでも一人身であるブレインが心配でな。アイツはあんな性格で、いつもぶっきらぼうにしているから、女からは怖がられている。だから、ヘクセ嬢がそのつもりならな……」
い、いや……。
どうして、ブレイン様の親父みたいな事を言ってんだよ……。
「はい。ヘクセさんはブレインに恋をしたようです」
「そうか、そうか……。よし、俺もそれには協力しよう」
いやいや。
マジック様まで……って、シーラまで目を輝かせてやがる。お前は今パワーの姿なんだぞ? 俺は大丈夫だが、エスペランサの兵士には見せられない顔になっているぞ……。
この状況にレッグまで驚いているじゃないか。
「れ、レティシアにそ、そんな感情があったなんて……」
そっちかよ!?
「はい。ちゃんと本を読みましたから、バッチリですよ!」
……。
レッグが悲しい顔になってやがる。
まぁ、俺も同じ気持ちだがな……。
「ところで、マジックはブレインの事を心配していますが、貴方自身はどうなのですか? 結婚しているのですか?」
「ん? あぁ。俺は愛する妻と結婚をしているし、三人の子供もいる。一番上の息子が最近結婚して、孫娘も生まれたぞ。孫は目に入れても痛くない程かわいいと聞いていたが、アレは本当だな」
「えぇ!?」
「ん? 何を驚いているかは知らんが、お前は俺が結婚しているのを知っているだろう?」
マジック様が結婚していたのは知っていたけど……。ま、まさか、孫までいるとは思わなかった。




