16話 ブレインとの再会
「久しぶりだな、ケン。それにレティシア……、やはり来たか……」
「だから、来ると言っていたじゃないですか」
「お久しぶりです、ブレイン様」
ブレインは、エスペランサ城の一室で偉そうに座っていました。魔族にも書類仕事があるのか、ブレインの目の前の机の上にはたくさんの紙が積まれていました。エラールセにも皇王専用の執務室というのがありましたが、紫頭が言うには、ここはブレインの執務室だそうです。
「そちらのお嬢さんがレティシアが連れてきたヘクセ嬢か。私がエスペランサの参謀を任されているブレインだ。ようこそ、魔国エスペランサへ」
「は、はい! へ、ヘクセと言います!」
ヘクセさんは動揺したような声で返事をしています。緊張して、恥ずかしいのか顔が真っ赤です。
「レティシアやグローリア陛下からヘクセ嬢の事は事前に聞いていたから、ヘクセ嬢はクランヌ陛下の正式な客人として部屋を用意してある。ぜひ、ゆっくりと楽しんでいってくれ。レティシア、お前の部屋を用意はしたくなかったし、この城に余った部屋はない。だから、ヘクセ嬢と一緒の部屋にいろ。できれば、三日間そこから動くな」
「なぜ、私にはそんな態度なのですか? どつきますよ?」
「ふん。口が悪く、怪しい奴にはこんな対応で充分だ」
「紫頭。コイツを殴っていいですか?」
「駄目だ」「ダメだよ!」
はて?
紫頭に止められるならともかく、ヘクセさんにまで止められてしまいました。
はは〜ん。
私は分かってしまいましたよ。
「ブレイン様もこいつを挑発しないでください。こいつは口調は冷静なふりしていますが、頭がおかしい程、短気なんです」
「頭がおかしいとはなんですか。しばきますよ?」
「ほら、こんな風に、すぐに暴力で話をつけようとする、頭のおかしい奴……ぐぼぉ!?」
本当にさっきから失礼な紫頭です。とりあえず、わき腹を殴っておきました。
「お、お前……、なにしやがる」
「そろそろ失礼な態度を改めないと、両手両足の骨を砕きますよ?」
「なんでだよ!? それに、お前はいちいち言う事が怖いんだよ!?」
「貴方が悪いです」
ブレインは私達二人のやり取りを見て笑い出します。
「ふはははは。ケン。リーン・レイで冒険者をしていても、楽しそうにやっていて何よりだ。それと、お前は既にエスペランサ軍じゃないんだ。私に敬称などいらないよ。故郷の友人にでも会いに来たと思って話せばいい」
「いえ、それはできません。俺にとってブレイン様は師であり、尊敬するべき人です。それは冒険者になった今でも変わりません」
「ふははは。相変わらず頭の固い奴だな。さて、ヘクセ嬢。どうせなら私が城の中を案内しよう。ケン、お前は昔の知り合いにでも会いに行け。パワーもお前が来ると聞いて、会いたがっていたぞ」
「ん? 俺が来るとも事前に知っていたのですか?」
「あぁ。レティシアがクランヌ様にそう話していたぞ。だから、お前に会いたがっていたパワーにも話しておいたんだ。それから、グローリア陛下からもちゃんとした説明があったからな」
そういえば、クランヌさんに謝罪がどうとか言っていましたね。その時に話したのでしょうか?
「はい。じゃあ、そうさせてもらいます。ヘクセちゃんとレティシアをお願いします」
「はて? 私は紫頭についていきますよ」
何を言っているのでしょうかね?
「な、なんでだ?」
全く、なぜかも分からないとか、紫頭は女心というモノをわかっていませんねぇ。
鈍い私でもヘクセさんの顔を見ればわかりますよ。ヘクセさんはブレインをジーっと見ていますからね。
きっとこれが、恋とか言うやつです。
「お、お前一人でどこかに行けよ」
「なんですか? もしかして、嫌なのですか?」
「あぁ、嫌だ」
ふふ。
私は紫頭の頬を殴ります。
「嫌ですか?」
「い、嫌だ……」
まだ、抵抗するのですね?
もう一度殴ります。
「嫌ですか?」
「わ、わ……かった……。す、す、好きにしろ……」
二発で済みましたか。物分かりが良くて助かりますね。
「では、ブレイン。ヘクセさんはおまかせしますね。丁重に案内してあげてくださいね」
「……」
ブレインは私と紫頭を不思議そうに見ています。
まさか、ヘクセさんに何かしようと思っているのでしょうか?
既成事実というやつですね。これも本で読みましたよ。
「どうしました?」
「いや、やけに素直だと思ってな。お前達にとって、ネリー姫やヘクセ嬢は護衛対象だろう? そんなに簡単に別行動してもいいのか?」
あぁ、その事ですか。
牽制する意味も込めて、言っておいた方がいいかもしれませんね。
しかし、私が口を開こうとするより先に紫頭が説明を始めます。
「はい。確認したわけじゃありませんが、レティシアならヘクセちゃんが恐怖を感じたら、レティシアが気付くという魔法をかけているはずです。それと、ネリーに至っては心配すらしていません」
「なぜだ?」
「俺達、リーン・レイのメンバーはレティシアに徹底的に鍛え上げられています。それはネリーでも同じです。リーン・レイの中でもネリーの強さは中堅に当たります。それでも一般の冒険者の中では上位……の中でも、さらに上と言えるでしょう。そこらの王族の護衛や暗殺者程度にどうこうできると思えません。それに、ネリーよりもさらに強いレッグが側にいますし、ネリーにもレティシアの魔法がかけられています」
「そうなのか? その魔法は便利そうだな。レティシア、その魔法を今度、教えてくれないか? 礼はする」
便利なのは間違いありません。きっと、クランヌさんを守る為に覚えたいのでしょう。それならば……。
「分かりました。今日の夜……はもしかしたら忙しいかもしれませんし、明日の夜はダメですか?」
「いや、別に今日の夜でもいいんだが、分かった。明日の夜だな。よろしく頼む。それと、お前には頼み事がもう一つあるんだ」
「なんですか?」
「ケンについて行くのはいいが、今は各国の要人なども来ているから、問題だけは起さないでくれ」
「問題ですか……。喧嘩を売られたら、どうしたらいいですか? バレない様に殺していいですか?」
「ダメだ。まぁ、魔族ならば無礼な奴には痛い目を見せてもいい。エスペランサにそんな奴はいないと信じているからな。だが、人間相手には高圧的な態度を取られても我慢して欲しい」
たいした信頼ですね。
ここはブレインの顔を立てておきましょう。
「分かりました。人間相手には何もしません。もし、失礼な事を言われても覚えておきますから、エスペランサ外で報復する事にします。魔族の場合は適度に痛めつけておきましょう。安心してください」
「少しどころか、とても心配だが、分かった。では、エスペランサ城を楽しんでくれ。行こうか、ヘクセ嬢」
「は、はい!!」
ヘクセさんはブレインの横を歩き執務室を出ていきました。青春ですねぇ……。
「おい。なぜヘクセちゃんを一人にした? ブレイン様が一緒なら安心だが、お前もついていった方が良かったんじゃないのか?」
「ヘクセさんの表情を見て何も感じませんでしたか? アレは恋というモノだと思います」
「な!? お、お前にそんな感情があったのか!?」
「私もエレンと一緒に、愛だの恋だのと書かれていた本を読んで覚えました。まぁ、私にはよく分からなかったのですが、本に書いてあった通りです」
「そ、そうか……。まぁ、お前はそうだよな。はぁ……、俺がレティシアのお守りかよ……。損な役割だな」
「しばきますよ」
「もうそれはいい。じゃあ、行くぞ」
「どこにですか?」
「パワーのところだ」
「ぱわー?」
「あぁ、エスペランサ四天王の一人でな。俺の親友で幼馴染でもある。もう何年も会っていないからな。アイツもエスペランサの四天王の一人だからな。こんな機会でないと会えないからな」
「紫頭も嬉しそうですね」
「そりゃな。もう五年は会っていないからな」
「ならば早く行きましょう」
「あぁ」
紫頭の親友ですか。会うのが楽しみです。
次回、パワー登場です。復讐編とはキャラが完全に違うのがパワーです。前作では、ただの筋肉馬鹿でしたが、今回はケン君の為(意味深)にかなり設定を変えました。




