1話 グローリアへの報告
五章の始まりです。
グランドマスターと会って数日が経ちました。私はグローリアさんから呼び出されたので、一人でエラールセ城へとやってきました。
お城に入ろうとすると、門番さんが私をグローリアさんがいる執務室まで案内してくれます。
執務室ではグローリアさんが書類仕事をしていました。
「やっと来たか」
「おや? 今日は宰相さんはいないのですか?」
「あぁ。あまりヒヒイロカネの事を外に洩らしたくないからな。それよりも、ギルドからスミス要請についての話が来たぞ。どういう事だ?」
グランドマスターがどう動くかは分かりませんでしたが、どうやらグローリアさん、エラールセ皇国側にも話をする必要があると判断したのでしょう。
思っているよりも正当な動きを見せている様ですが、グローリアさんには、ヒヒイロカネの事をグランドマスターに話した事も伝えておいた方が良いでしょう。
「おいおい。まさかと思うが、グランドマスターにヒヒイロカネの事を説明したのか?」
おや?
話をしなくても、ヒヒイロカネの事を話した事を察してくれたようです。
「はい。スミスさんをアブゾールから呼び出すのに有効だと思いまして……。まぁ、ヒヒイロカネの事はどうでもいいとして「良くねぇよ」……まぁ、どうでもいいとして、それよりも、私がエスペランサに行く事も伝えたかったんです」
「どういう事だ?」
「もし、グランドマスターがアブゾルだった場合、間違いなくエスペランサで仕掛けてくるでしょう。元々、アブゾル教は魔族を疎んでいたはずです。アブゾルにとって私が邪魔なのならば、魔族ごと殺そうとするでしょう」
私がそう伝えると、グローリアさんは額に手を当てています。
しかし、少し考えた後、真剣な顔をして私を見てきます。
「なるほどな。あり得ない話ではないな。だが、クランヌ殿は人間を恨んでいるわけではないぞ?」
「グランドマスターがアブゾルだった場合は都合がいいじゃないですか」
「都合?」
「邪魔な魔族もろとも私を殺す事……です。まぁ、グランドマスターが本当に良い人の可能性も無いとは言いませんけど」
「よく言うな……」
確かに、今回はグラヴィの呪いとやらでグランドマスターも殺されていました。
しかも、ヨルムンのお母さんに生き返らせてもらった後、仮面を外してお礼まで言ってきました。
ここまでした人を疑うのはどうかとも思いますが、ただ、グランドマスターがエレンを狙っていたという情報もあります。だからこそ、全てを信用するわけにはいきません。
「そうか……。まぁ、何か協力して欲しい事があったら、俺に言え。グランドマスターには、俺からも部下に命じて探りを入れている」
「そうなのですか?」
確かに、学校内でもグランドマスターのいるところに数人の気配を感じました。
いくつかはお粗末なもので、恐らくグランドマスターにも気づかれているでしょう。
ただ、その中にも別格な人がいました。
おそらくですが、その人がグローリアさんの部下の人なのでしょう。
「ところでレティシア。今後、学校はどうするつもりだ?」
「はい?」
「お前には学校生活を満喫してもらうつもりだったが、正直な話、役に立っていなかっただろう? もう辞めたければ辞めていいんだぞ」
辞める……ですか。
確かに、授業の中にはすでに知っている知識もありました。しかし、新たな知識も得られる授業もあったのは事実です。更に、ヘクセさんという新しいおもちゃも手に入れました。
だから、何の成果も無かったわけじゃありません。
「そうですね。確かに今まで同じとはいきませんが、暫くは通える時は通おうと思っています。結構楽しいですからね」
「そうか。ならば今まで通り、ギルド学校に所属という事にしておこう。これはエレンやカチュアも一緒だ」
「よろしくお願いします」
「それと、お前には先に言っておく」
グローリアさんは一枚の依頼書を机の上に置きました。
「これは?」
「ヒヒイロカネの盾ができた後、お前に出す予定の依頼書だ」
「指名依頼ですか?」
「あぁ。指名依頼で護衛の仕事だ。指名しているのは、お前とネリー、レッグにケンだ」
「珍しい組み合わせですね。何か意図でもあるのですか?」
「あぁ。お前のさっきの話がそのまま起こってしまった場合、戦闘になるだろう? お前にはネリーと護衛対象を守って欲しい」
「エレンとカチュアさんは一緒じゃないんですか?」
お二人と離れるのも嫌ですが、それよりもグランドマスターやアブゾルに狙われているエレンを私から離すのは得策とは思えません。
まぁ、カチュアさんがいるので安心はしていますし、あの魔法もありますから、もしもの時は駆け付けられるのですが……。
「お前の心配も分かる。俺だって、エレンが狙われているというのは分かっている。だが、お前達は精神通話という魔法を持っているのだろう? 連絡用の魔宝玉よりも正確だとギルガから聞いた」
あぁ。
先日の新しい魔法や特殊能力の事をギルガさんに話しましたね。それがグローリアさんにも知られてしまったという事ですか。
「一応聞きたいのだが、それはお前たち以外は使えないのか?」
「そうですね。まだ、研究段階なので、今のところは私達三人の間でしか使えません」
「そうか。残念だ。ともかく、それが使えるのならばもしもの時に駆けつけられるだろう?」
「気付かれていましたか。そうですよ。転移魔法もあるので、すぐに駆け付けられます」
「じゃあ、大丈夫だよな」
「はい。大丈夫です。しかし護衛対象がいるのに四人というのもおかしくありませんか?」
「護衛対象もいると言っているが、お前に本当に連れて行って欲しいのはネリーとレッグだ」
「はい?」
「二人はクランヌ殿とも旧知の仲でな。だからこそ、今夜位の婚約パーティにも招待されている。ネリーは元ファビエの王女だ。下手に大人数で護衛していると、ファビエを復活させようとしていると勘繰る馬鹿が出てきかねん。それを防ぐために少数精鋭で護衛してもらいたいんだ」
なるほど。
まぁ、久しぶりに姫様と一緒にいる事ができるので良しとしましょう。
「グローリアさんはどうするのですか?」
「俺は、エラールセとして出席する。だから、結構な大人数での移動になるだろうな」
大人数なら……。
「そこに私達が紛れ込めばいいのでは?」
「無理だな。出国時と入国時にいちいち素性が調べられる。そうなると、リーン・レイがエラールセと繋がっていると思われても困る」
「はて? もう十分につながっていると思いますが……」
今現在もエラールセ皇国の皇王であるグローリアさんと一対一で話をしていますし、今更なような気がしますが……。
「まぁ、そうなのだがな……。リーン・レイは思ったよりも有名になってしまっていてな。他国に勘繰られるのが面倒なんだよ」
「それなのに指名依頼ですか?」
「あぁ。表向きは別の護衛対象を連れて行ってもらう」
「それは一体?」
「エラールセの貴族の娘……ヘクセ嬢だ」
あぁ、私のヘクセさんですか……。




