41話 神と対峙
四章最終戦です。
私達の目の前に浮かんでいる、黒髪の仮面の女。
背中には立派な銀色の翼を持っています。確かにこの神々しさは女神と呼ばれてもおかしくありませんね。
しかし、アブゾルもそうでしたが、神の間では仮面を被るのが流行っているのですかね?
「やぁ、【忌み子】レティシア。こうやって直に話をするのは初めてだね……」
「はて? 私の名前を知っているとは貴女は誰ですか?」
この女がベアトリーチェだと思いますが、自分の名は自分で話してもらいましょう。
しかし、神というのは独特の気配を持っているのですね。アブゾルと同じ気配を感じます。
同じ気配?
(アブゾルは人の良さそうな好好爺だったぞ?)
毛玉の言葉が思い出されます。
もしかしたら、私が出会ったアブゾルもこの女が化けていた可能性があるのでしょうか?
「もう一度聞きますが、貴女は誰ですか?」
「くくくっ。私はベアトリーチェ。アブゾルの様な神から、この世界を救うために降臨した神だよ」
「そうなのですか? 具体的にアブゾルが何をしたんですか? 貴女に何ができるんですか? ついでに、この学校の生徒を殺すのが世界を救うのとどう関係があるのですか?」
「随分と攻め立てるように質問をするんだね。その質問に答える義理があるのかな?」
「答えられないんですか? それって、結局は貴女の独りよがりなんですか? それって結局は貴女の自己満足の為に世界をうんたら言っているんですか? あぁ、質問に答えられないならいいですよ。所詮は独りよがりの自意識過剰さんだと思いますから」
ベアトリーチェの表情は仮面で分かりませんが、明らかに怒りの感情を持っているのが分かります。
このままヨルムンガンドの事もバラしてやろうかと思いましたが、それは後に取っておきます。
しかし、表情が見えないのは面白くありません。
「ところで、この世界では神を名乗る人は仮面をつけているのはなぜですか? 仮面を取ってみてください」
「ふ、ふふふっ……。私の顔は人間如きに見せるような顔じゃないんだよ。図に乗るなよ、人間」
「おやおや? 他人に見せられるような顔じゃないんですか? 仮面をして悪事をする奴が神なのですか? うわぁ、そんな怪しい奴を神と崇める馬鹿がいるんですか?」
「ふふっ。君がどう思おうがかまわないよ。私は神だ。それは揺るがない……」
神だから……ですか?
それが答えになると思っているなら、ただの馬鹿ですね。
「まぁ、いい。それよりも私が話があるのは、エレン君の方だ」
「え!?」
そう言えば、グラヴィがエレンを欲しがっていましたね。やはりこの女の指示なのでしょうか?
「くくくっ。安心してくれ。君を手に入れるのはそこの小さい悪魔を殺してからにするから……。君も居心地が悪いだろう? 君は【神の巫女】……。君が仕えるのは神たる私だ」
「わ、私はレティの巫女です。貴女には仕えません!」
エレンがそう叫ぶと、ベアトリーチェは大声で笑い始めます。
「あはははは。威勢がいいね。まぁ、良いよ。私は私の手に入れたいモノを手に入れるために努力をするとしよう」
ベアトリーチェが手を上げると、黒い巨躯が現れます。
「ガァアアアアアアア!!」
グラヴィですね。
ふむ。
どうやら自我はすでにないみたいです。
「グラヴィは意識がないのですか?」
「そうだね。魔王化したら自我が無くなると教えていたんだがね……。もう立派なヨルムンガンドになってしまったよ」
「ぷっ……」
ついつい笑いを堪えられませんでした。
ベアトリーチェは間違った知識をまるで当然のように話していますから……。
だ、ダメです。笑っては、ベアトリーチェが怒ってしまいます。
「ん? レティシアの反応が気になるが、グラヴィ、後は頼むよ」
「はて? 貴女が戦うんじゃないんですか?」
「くくく。思い上がるなよ。人間。お前が少し強かろうが、神と戦えると思っているのか? お前の相手などグラヴィで充分だよ」
「そうなのですか?」
ふむ。
自分から喧嘩を売ってきておいて……、まぁ、グラヴィを殺してしまえば、ベアトリーチェと戦えるでしょう。
コイツを殺すのは、その時でいいです。
「エレンもドゥラークさんも下がっていてくださいね」
「レティシア、俺も戦うぞ」
ドゥラークさんはそう言ってくれますが、今はまだ第四段階を使いこなしていません。
それに比べて、グラヴィからは禍々しい魔力を感じます。恐らくですが、ドゥラークさんではグラヴィの相手は難しいかもしれません。
「大丈夫ですよ。むしろ、この後のベアトリーチェとの戦いで手伝ってもらいますから……」
グラヴィ程度なら、あの力を使わなくても勝てると思います。
しかし、あの力が暴発してしまえば、グラヴィは簡単に殺せますが、ベアトリーチェと戦うには、かなり不利になってしまいます。
だからこそ、この場で私を止められるドゥラークさんは温存しておきたいのです。
私はファフニールを召喚します。
「ふふふっ。グラヴィに折られた剣の代わりに作ったのかい? 今度は随分と大きな剣を作ったんだね。その色は……もしかしてヒヒイロカネかい?」
「はい。今度の武器は、そう簡単に折れませんよ」
「そうかい? ヨルムンガンドの龍鱗はこの世で二番目に硬い漆黒だ。例えヒヒイロカネと言えど、そう簡単に斬れると思わない事だね」
斬る?
斬りませんよ。
グラヴィはヨルムンガンドの姿を真似て作られているので翼がありますが、今は二本の足で立っています。
私は足を狙いファフニールを振り抜きます。
グラヴィの足の龍鱗と、私のヒヒイロカネのファフニールがぶつかり鈍い音が響きます。
その瞬間、グラヴィがバランスを崩します。
グラヴィの足はあり得ない方向に曲がっています。
斬る事はできなくても、へし折る事は可能みたいです。
「ふんっ。そうか、それは剣ではなく鈍器か。確かに、龍鱗であるグラヴィの鱗を斬る事はできないが、ダメージを与える事は可能だろうね。でもね……」
ベアトリーチェが両手を広げて高笑いします。
「グラヴィには超回復も備えている。致命傷の与えられないその武器で、どうやってグラヴィを倒す事ができるのか、是非見せてもらおう!!」
超回復ですか……。
厄介ですが、【破壊】の力で超回復を壊してしまえばいいんです。
その後に殴り続ければ、いつか殺せるか、心を殺す事も可能です。
そもそも、自我がないのならば……、本能で戦っているのなら、屈服させる事は簡単なはずです。
ベアトリーチェ。
貴方はグラヴィを殺せないと思っているかもしれませんが、大丈夫ですよ。
諦めなかったら、グラヴィを殺す事も可能だと思います。
私は、笑いながらグラヴィに斬りかかりました。




