15話 ベアトリーチェ
私は両腕の出血を止めようとするグラヴィの前に立ち、頭を踏みつけます。
「さて、貴方に本当の事を教えて貰いましょう。セデルという人を殺したのは貴方ですね」
「ぐっ……。な、なんの事だ?」
私はグラヴィの髪の毛を掴み持ち上げます。
「まだしらばっくれるのですか? 別に貴方が頑張って黙秘しようしても無駄ですよ」
「な、なんだと?」
「私には自白魔法がありますからね」
「お、お前……。お前の力は僕の破壊によって消えたんじゃないのか?」
これはいけません。
能力を破壊されたのを忘れていました。せっかくの演技が無駄になってしまいます。
さて、どういった言い訳を考えましょうか……。
……。
良い事を思いつきました。
「特殊能力は破壊されましたが、以前から作っていた魔法は残っているのですよ」
「チッ……。そ、それは誤算だった……」
誤算ですか。
まぁ、本当の誤算は私の特殊能力は何も壊されていない事でしょうかね。知らない方が幸せという事もあります。
例え何かが壊されたとしても、【創造】【再生】のどちらかが残っていれば元に戻りますし、【破壊】を含めた三つの特殊能力はグラヴィごときに破壊はできないようですからね。
「さて、貴方には色々と話してもらいますよ」
私がグラヴィに自白魔法をかけようとした瞬間、悲鳴が聞こえてきました。
誰ですか?
私が悲鳴がした方を見ると、女生徒が私達を指差し座っていました。
「せ、生徒会長!? あ、貴女、確かレティシアちゃん!? なぜ生徒会長を殺そうとしているの!?」
「くくく……。天は僕に味方したようだ」
「はて? 人が集まったからどうだというんですか? 貴方が真実を話し、その後に死ぬ事に何の変りもありませんよ」
私がそう言っているのにグラヴィの表情は笑っています。気に入りませんねぇ……。
「く、くそっ!! レティシア君、ついに本性を見せたな!?」
「……」
なんですか?
茶番でも始るのですか?
……。
周りに人が集まってきました。
天が味方したと言っていましたね……。
そういう事ですか……。
「なるほど。貴方は生徒会長でしたね。私よりも周りの評価を得ているという事ですか……」
私が困った顔でそう言うとグラヴィの口角が吊り上がります。
思い通りで嬉しいのでしょう。……ですが……。
「私には関係ありませんけどね」
私はグラヴィを殴ります。
「くっ!?」
「止めなさい!!」
この声は危険な人?
「い、イラージュ先生、助けてくれ!!」
全く白々しい。
ここで殺してしまいましょうか。
「止めなさい!! レティシアちゃん!!」
「どうしてですか? これを殺せばすべて解決ですよ」
「止めなさい……。ここは人の目が多すぎるわ」
人の目ですか。
そんなモノに何の意味があるでしょうか……。
しかし、危険な人の目は真剣です。
「分かりました……」
私はグラヴィを投げ捨て、危険な人の隣に立ちます。
「グラヴィ。貴方の行動は最初から見ていたわ。貴方がレティシアちゃんに襲いかかった事も全て見ていたわよ。それなのに被害者面とは随分と都合のいい展開ね……」
「な!?」
危険な人のこの言葉で周りの反応も少し変わりました。
「な、何を言っているのですか!? イラージュ先生!!」
迫真の演技ですか?
これは私の演技と大差無さそうに見えます。やりますねぇ……。
「まぁ、良いわ。その腕、早く治療士に治療してもらうのね。レティシアちゃん。貴女は私と来て頂戴」
「分かりました」
危険な人は私の手を引きます。私もそれについていく事にしました。
私がチラッと振り返ると、グラヴィは憎々しい目で私を睨みつけていました。
≪グラヴィ視点≫
く、クソっ。
確かに神の加護を破壊してやったのに、あのガキの強さは異常だ……。
だが、神の加護が無くなったのならば……。僕にはアイツを倒せないかもしれないが、ベアトリーチェ様なら簡単にアイツを殺せるはずだ……。
「はぁ……。はぁ……」
何とか生徒会室に帰ってこれた。
ここでベアトリーチェ様を待つ……。
伝えなければ……。
神の加護を消し去った事を……。
「会長!!」「会長!? どうしたのですか!?」
こいつ等……。
まだ、この部屋にいたのか……。
「うるさい!!」
僕は風魔法を使い生徒会の首を落とす。
ここに邪魔な奴等がいればベアトリーチェ様に報告できない。
「はぁ……。運の無い連中だ。今日、ここに来なければ死ぬ事も無かったのに……」
「君が殺しておいてその言い草は酷いね」
「ベアトリーチェ様……」
思っていたよりも早くに現れて下さった……。
「やりました……。レティシアの神の加護を破壊しました」
「あぁ。そうみたいだね。これでエレンを手に入れ易くなったよ。さぁ、グラヴィ。君にはまだ利用価値がある。こんな所で死なれちゃ困るよ。癒してあげよう」
ベアトリーチェ様は僕の頭に手を乗せる。
ベアトリーチェ様の肌を感じる事ができるなんて……。それだけで幸せだ……。
「〈ゴスペルヒール〉」
ベアトリーチェ様が魔法を唱えると僕の両腕が……。レティシアに斬られた両腕が元に戻っていた。
す、素晴らしい……。
まさに神の力だ……。
「こ、これでレティシアともう一度戦えます!!」
「いや、君には少しの間休んでいて貰うよ」
「え?」
ど、どういう事だ?
ま、まさか……お払い箱か?
「君には一度表舞台から消えてもらい別の仕事をこなしてもらう」
「別の仕事ですか……。でも、生徒会長の僕が消えれば学校で騒ぎになりませんか?」
ただでさえ、今日は問題を起してしまっている。
それに……。
「この死体も処理しなければ……」
「ふふふ。安心していいよ。この学校の関係者から君の記憶を消す。だから、ここの死体も無理に処理しなくていい。どうせ、犯人不明になる」
「そ、そうなのですか?」
ベアトリーチェ様は優しく微笑んでくれる。
この顔だけで僕は……。
≪レティシア視点≫
私は危険な人の自室へとやってきました。
どうやら、ここで話をするようですね。
「!?」
今のは何ですか?
まるで記憶から何かを消されたような……。
「え? 今のは何?」
「危険な人。今のは魔法です。恐らく精神操作ですね」
「精神操作?」
今の感覚……。恐らくは……。
「危険な人。グラヴィを覚えていますか?」
「グラヴィ? それは一体誰の事?」
やはりそうですか……。
しかし、気になりますね。
「ところでレティシアちゃんはどうしてここにいるの?」
「はぁ……」
明らかに記憶の改ざんまで行われていますね……。そんな事が本当に可能なのでしょうか?
ともかく危険な人の記憶からグラヴィが消えている以上、混乱させるわけにはいきませんね。
「危険な人がお茶に誘ってくれたのですよ」
「あら、そうなの? それなら準備をするわね……」
あれから危険な人と少し話しましたが、やはりグラヴィ……生徒会長の事をすっかり記憶から無くしていました。
それどころかセデルという人に関する記憶も変わっていました。
この精神操作の影響は学校内だけの事なのでしょうか……。私は一度家に帰ります。
今日はエレンは甦生魔法の特訓をし、カチュアさんはエレンを守ってくれています。
「ただいまです」
「お帰りレティ」「お帰りなさいませ。レティシア様」
お二人はいつもの笑顔で出迎えてくれます。
「二人共、妙な事を聞くかもしれませんがグラヴィを覚えていますか?」
「え? 生徒会長さんでしょう?」
「いけ好かない男です」
覚えていましたか……。
「二人共、明日から学校にはグラヴィはいません」
「殺したのですか?」
「いえ、逃げられました。その後何者かが精神操作系の魔法を使ったらしく、学校内にいた人物の記憶からグラヴィの存在が消えました」
「そ、そんな……。人間の記憶を改変するのは不可能のはず……」
「はい。私もそう思っていましたが……。ですが、あの学校にアブゾルもいました」
「え!? 神様が!?」
「本物かどうかは知りませんが、ジゼルよりも強い存在だというのは間違いありません……。神ならば可能なのでしょう。どちらにしても鬱陶しい話です」




