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異世界カフェ・外伝 〜賢者YUKIと召喚獣ハッピの、魔法だらけのプチ旅行〜  作者: 稲盛 皆藤


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5/5

⑤熊、クマ、くー魔!

 ゴードンとの再会から一夜明け、トガクスの街は 少しだけ騒がしい朝を迎えていた。

 窓から差し込む光は、微細な塵をキラキラと 反射させ、まるで魔法の粒子のようだった。

 私はベッドの上で大きく伸びをしながら、 隣で丸くなって寝ているハッピの柔らかい背中を

そっとなでた。


「ハッピ。 もう朝やで。 そろそろ起きよっか。」


「ふみゃあ……。 あと五分…… 肉の山が……。」


「どんな夢見てるんよ。 ほら、今日は新しい施設に 遊びに行くって決めたやん。」


「……あ、そうやった。 アスレチック温泉。 肉の次は運動やな。 行くわ、すぐ起きる。」


 ハッピは「シャキーン」という効果音が聞こえ そうな勢いで跳ね起きると、 短い前足で

器用に顔を洗い始めた。

 私たちは手早く準備を済ませ、 昨日教えてもらった山の麓にある新施設、

『トガクス・アクア・アスレチック』へと 向かうことにした。


 しかし、街のメイン通りに出ると、 昨日までとは明らかに空気が違っていた。

 住人たちが不安げに空を見上げたり、 店の軒先でひそひそと相談をしている。

 そこへ、昨日お世話になったギルド職員の ピットさんが、血相を変えて走ってきた。


「あ、ミグリーさん! (※YUKIの偽名) ちょうど良かった、 探していたんですよ!」


「ピットさん、おはよう。 そんなに急いでどうしたんですか?」


「それが……例の雪崩の 影響でしょうか。 山から『くー魔』の大群が

 街の近くまで下りてきて しまったんです!」


「くー魔? なんですか、その可愛い名前の魔物は。」


「名前は可愛いですが、 実態は凶暴な熊の魔物です。 体長は三メートルを超え、

 しかも魔法耐性が異常に高く物理攻撃も弾くんです。

 今、施設へ向かう道が 封鎖されてしまいまして。」


「ガルル……。 肉……じゃなくて、 アスレチックへの道が

 塞がれたってことか? 許せんな……。」


 ハッピが低く唸り声を上げる。 彼は遊びを邪魔されるのが、何よりも嫌いなのだ。

 私は顎に手を当てて、 賢者としての思考回路を加速させた。

 魔法科学的な観点から言えば、 魔法耐性が高いということは、 体表の魔力密度が

極端に高く、外部からの干渉を散逸させている ということになる。


「魔法が効かないなら、物理的なアプローチ、それも生物学的な弱点を 突くしかないわね。

 ピットさん、 この街に鈴ってある?」


「鈴、ですか? それなら雑貨屋に いくらでもありますが……。」


「ありがとう。 じゃあ、その鈴を 全部買い占めてギルドに集めておいて。

 あと、丈夫な布地も用意できるだけお願い。」


「え、ええ!? 一体何を……?」


「『医者』として、害獣の適切な処置を してあげるだけよ。 ハッピ、手伝って。」


「合点承知や。 YUKIの悪い顔、久しぶりに見たわ。」


 私たちはギルドの作業場を借り、 突貫工事で『魔除け』の道具を 作成することにした。

私はまず、大量の鈴を並べ、その内部構造に特殊な 微細振動魔法を付与していく。


「ハッピ、この鈴の周波数を調整して。

 くー魔の聴覚神経にだけ不快感を与える特殊な位相フェイズを作るねん。

 アインシュタインの 一般相対性理論に基づけば、 重力場が空間を歪めるように、

 音の波形も局所的に『拒絶の空間』を形成できるはずよ。」


「難しいことは分からんが、 要はこの音が鳴るだけで

 熊が『うわぁ、無理!』 って逃げ出すんやな?」


「正解。 名付けて、『ハイパー・ベア・ リペレント・ベル』。

 これを街の境界線と、 住人たちの持ち物に 付けてもらうの。」


 さらに私は、用意させた布地に 賢者魔法で特殊なコーティングを 施していった。

光子エネルギーを繊維に織り込み、 防塵・防水・防魔機能を備えた 超軽量の生地だ。


「この生地で作った 『防塵・防魔服』を 捜索隊に着せて。

 くー魔が吐き出す 魔力混じりの瘴気を 完全に遮断できるわ。

 これで安全に 追い払えるはずよ。」


「さすがYUKIや。 理系女子の執念、魔物より怖いわ……。」


「何か言った、ハッピ?」


「いえ、最高にクールな解決策やと思います。」


 数時間後、私の作った 『鈴』と『防護服』を装備した 自警団たちが山へ向かった。

 結果は劇的だった。くー魔たちは、鈴の音が聞こえた瞬間に耳を押さえ

(実際には前足で頭を抱え)、一目散に山の深奥へと逃げ帰っていったのだ。

 一人の負傷者も出さず、平和的に解決したことに街中から歓喜の声が上がった。


「ミグリーさん、 本当に、本当に ありがとうございました!」


 ピットさんが深々とお辞儀をする。 私は照れくささを隠すように、ハッピを抱き上げた。


「いいえ。これで道も開いたし、私たちはアスレチックに 行けるようになったし、

 お互い様ですよ。」


 私たちは、英雄のように 見送られながら、ようやく目的地の

『トガクス・アクア・ アスレチック』に到着した。

 そこは、山の斜面を利用した 巨大な温泉施設で、お湯の中を泳いだり、

丸太の上を渡ったりする、 まさに子供から大人まで楽しめるみんなの遊び場だった。


「ガルルーン! やっと来たぜ! 見てみろ、YUKI! あの巨大スライダー!」


 ハッピが指さした先には、 湯気を上げながら激しく蛇行する石造りの滑り台があった。

その入り口には 『隠し扉・運試しスライダー』 という不穏な看板が 立っている。


「面白そうやん。 ハッピ、勝負しよか。どっちが先に下までたどり着けるか。」


「受けて立つわ! 俺様の華麗な滑りを見せたる!」


 私たちは水着(のような魔法衣) に着替え、スライダーの 頂上へと向かった。

このアスレチックは、ドワーフの技術と魔法仕掛けが融合しており、一筋縄ではいかない。


「それじゃ、 三、二、一…… スタート!」


 勢いよく滑り出す。 お湯の温度は丁度よく、肌を滑る感覚が心地いい。

しかし、途中で三つの分かれ道が現れた。


「ハッピ、右や!」


「俺は直感で左や!」


 ハッピは左のルートへ。私は右のルートへと吸い込まれていく。 私のルートは、

暗いトンネルを抜けると満開の魔法の花が咲き乱れる美しい景色の中を滑り降りる

「当たり」のコースだった。


「あはは、最高! これ、異世界カフェの みんなにも見せてあげたいわ!」


 一方、ハッピの進んだ左のルートからは、「ギュギャーッ!?」 という絶叫が聞こえてきた。


 ようやくゴール地点の 巨大な露天風呂に私が到着すると、そこには既にハッピが いたのだが……。


「ハッピ、 なんでそんなに ボロボロなん?」


「せやねん聞いてくれ。 あの左の隠し扉、途中でいきなり消えてスタート地点に戻る

 ワープ魔法が仕掛けてあったんや。 俺様、三回も ループしたわ……。」


 ハッピは温泉の縁にぐったりと突っ伏して、文字通り「水に流された」 ような顔をしていた。


「あはは! それは災難やったね。 でも、その『失敗したら最初から』っていう

 ゲームバランス、 ドワーフらしいわ。」


「笑い事ちゃうぞ……。 胃袋がひっくり返った。

 お詫びに、晩飯はさっきの二等賞の肉、 全部焼いてくれよな。」


「はいはい。 今日は頑張ったもんね。」


 私は温泉に浸かりながら、 ゆっくりと目を閉じた。

お忍び旅行のはずが、 結局どこへ行っても誰かを助けてしまう。

賢者としての使命感ではなく、一人の人間として当たり前のことなのかな、と考えたりした。


 それに、今は隣に生意気で食いしん坊な相棒もいる。

私の魔法と科学が、 この世界の誰かの笑顔に繋がっている。


「あー、 ええ湯やな、ハッピ。」


「ガルルルル。 最高やな、YUKI。」


 温泉の湯気は優しく私たちを包み、トガクスの夜は静かに更けていった。


 明日はいよいよ、地球へ戻る日だ。

今回の短くて長い休暇は終わっても、私たち勝者の旅はまだ始まったばかりなのだから。


『異世界カフェ~裏メニューは勝者への道~現代ストレスからの逃亡者たちが勇者パーティとなって異世界を救う件』本編へ続く?

ご精読ありがとうございました。

異世界カフェ~裏メニューは勝者への道~現代ストレスからの逃亡者たちが勇者パーティとなって異世界を救う件

まだの方はどうぞ長編への挑戦をお待ちしております。

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