その⑯
「このままじゃ拉致があかん! ホテルに突撃するぞ!」
※
日が暮れる頃、石丸刑事は大きなキャスターバッグを引きずりながら、ホテルの受付を尋ねていた。
「あのお、私、旅人でございまして…、車がガス欠を起こしてしまい…、それでなんですが、本日、こちらに宿泊させて頂きませんか?」
でっち上げの嘘だったが、受付の男性は快く頷いた。
「ああ、いいですとも。空き室がたくさんある、閑古鳥が鳴き放題のホテルですから、いつでもお泊りください」
簡単な書類に名前を書き、宿泊費を払うだけで、チャックインの手続きは、いとも簡単に済んだ。
石丸刑事が受付の男性からもらったのは、「二〇七号室」の鍵。つまり、二階の部屋だった。
部屋に入るや否や、オレは隠れていたキャスターバッグから飛び出した。
「ぶへえ! 息が詰まる!」
「お前は不老不死なんだから大丈夫だろう」
「それでもきついんだよ!」
正面から堂々とホテルに入りたいところだったが、もしもこのホテルに潜む犯人に気づかれたら、また命を狙われかねないので、この作戦を取ることにしたのだ。
石丸刑事は、一仕事終えたように息を吐き、一人用のベッドに腰を掛けた。
「夜になったら、調査に向かうぞ? それまで、身体を休めておけ」
「おう!」
と頷いて、オレは深いため息をついた。
「せっかく天野さんがクリスマスだからって、誘ってくれたのに…、オレ、中年の親父と一緒に泊まるなんて聞いてないぜ…」
「あ? お前も中身は中年だろうが」
石丸刑事は眉間に皺を寄せると、オレの顔面にまくらを投げつけた。
「ぶほっ!」
「オレだって詐欺師の息子なんかと行動なんてしたくないんだよ。だがなあ、オレは警察だぜ? もう定年退職を目前とした警察だ。最期くらい、このホテルの行方不明事件を解決したいに決まっているだろうが」
「はいはい」
オレは唾が付着した枕を、石丸刑事に投げ返した。
「オレだって、行方不明になった天野さんを助けたいんだよ」
「おうよ、だったら、オレに協力しろや」
「いや、オレに協力しろ」
「そこは譲れや! オレ警察だぞ!」




