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その⑫

「うーん、何故か額が痛い…」


 蔵のアスファルトの上に寝かされた天野さんは、二日酔いの親父のような感想を洩らしながら上体を起こした。その拍子に掛けていた毛布が落ちて、彼女の貧相な胸がこんにちわをする。


「ん?」


「ああ、天野さん、よかった、起きたんだな」



 バチンッ!



 天野さんの張り手が飛んできて、オレの顔面をぶった。


 天野さんは毛布を手繰り寄せ、身体を覆い隠しながら怒りをあらわにした。


「克己! 見損なったわ! 睡姦するなんて!」

「いや、話聞けよ…」


 オレは頬の紅葉に腫らしながら弁明した。


「腕、脚、あと首、ちゃんと動くみたいだな」

「うん?」


 天野さんは毛布を少し上げて、自身の身体を見た。


「私、こんなに胸小さかったかしら…?」

「そこじゃない」


 ほんと、便利な身体だ。バラバラに切断されても、断面と断面を合わせるだけでたちどころに回復するんだから。


「肩と股関節辺りに、傷痕があるだろ?」

「うん、あるわね」

「本当に、憶えていないのか? あんた、バラバラに切断されて、ここで死んでいたんだぞ?」

「え、、嘘! 誰がやったの?」

「いや、それを今から聞こうと思ったんだけど…」


 そう言いながら振り返ると、敷島明憲さん、田中太一さん、そして、遥さんの三人が心配そうな顔でこちらを見ていた。


 オレは三人に言った。


「とりあえず、天野さんと二人きりにさせてください」

「あ、はい…」


 敷島明憲さんは惚けたように頷いた。田中さんもがくがくと震えている。遥さんはこの状況はいまいち理解していないって感じの顔だ。


 オレは天野さんの手を引くと、一度、三階の自室に戻った。


 田中太一さんに代えの服を持ってきてもらう間、オレは天野さんに聞いた。


「本当に憶えていないのか? 自分が何をされたか…」

「まあ、バラバラに切断されたことは確かね」


 裸になった天野さんは、自分の肩にできた赤黒い傷跡を指で押しながら頷いた。


「骨ごとやられているから、少し結合部の動きが鈍くなっている…」

「誰にやられたか、憶えていないの?」

「うーん…、前にも言った通り、一回死ぬと、脳に酸素が回らないから、思考が鈍るのよ。特に今回は、首を切断された時に、結構な血が流れ出しているから…」


 そう言って天野さんはこめかみを抑えて考え込む。オレは机の上に置いてあったミネラルウォーターのボトルを掴むと、一口呑んで口を湿らせた。


「まあ、普通に考えて、この家の人間が犯人だろうな」

「ええ、そうなの?」

「いや、そうだろ」


 この人、本当に思考が鈍ってやがる。


「一番怪しいのは、敷島明憲さんだろうな。天野さん、あの人と直前まで絵を描いていたんだから」


 その言葉が、天野さんの記憶を刺激したのか、彼女は「ああ!」と叫んで手を叩いた。


「思い出した!」

「思い出した? 犯人を?」

「違う違う」


 首を横に振った拍子に傷口から血が滲んだ。まだ完璧に繋がっていないようだ。


「明憲の坊ちゃんは、犯人じゃ無いわ」


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