おかしな男
散々な思いをして、やっと小島を離れることになった。
わたしたちが次に向かったのは、テレタビーランドとボート仲間たちが勝手に呼んでる草原の前だ。
そこからだと街まで20分ほど歩く。
バス乗り場までは近かったが、わたしが利用するのに便利なバスは、街まで行かなければいけなかった。
Wのボートで反対岸まで乗せて行ってもらったら、わたしが通勤で利用するバスが近くなるのだが。
コインランドリーも遠かったし、買い物にも不便だが、草原にはあまり人が来ないし、他のボートもなかったので、またもやプライベートな場所状態だった。
Wは、「クリスマスや年末年始はサイコーな場所」だと言った。
Sたちがいるコミュニティからあまり離れてないので、到着当日の夕方にはボート仲間たちのボートがたくさんやってきて、インスタントなコミュニティーができた。
寒い12月の半ばに何を思ってか、ボートの前にテントまで立った。
もちろんバーベキューセットも設置されて、イスやテーブルまで現れた。
いったいどれぐらいここに居るつもりなんだろう......
と言うか、なんだかいつもよりボート仲間の他にも、人が多い気がする。
そんな中、ちょっとおもしろいことがあった。
一人の男がわたしにとても愛想良く話しかけて来た。Wの釣り仲間だ。
わざわざボートの中まで入って来て、「皆、外で飲んでるのに、なぜ外に来ないのか」と、わたしに言う。
わたしは夕食の準備をしていたので、そのことを言うと、「ユーはいつも中華を作るのか」と言った。
わたしは「中華はあまり作らないが、日本食は時々作る」と言った。
そしてかれは、「親、兄弟はイギリスにいるのか」と聞くので、「日本にいる」と答えた。
彼は「両親にお金を送ったりして大変なんだろう。」と同情するように言ったが、わたしは「お金を送れるほどの余裕はないので、送ったことはない」と返した。
と言うか、送ったら親が逆にわたしたちの生活を心配して、送ってくるなと言うだろう。
面倒臭いので早く外に出てくれないかなあと思っていると、かなりトンチンカンなことを言ってきた。
「この間テレビで見たんだが、ユーの国では小さい足が美人の証なんだろう? 今でもそうなのか?」
いや、小さい顔がいい、とはよく聞くが、小さい足は聞いたことがない。
そしてわたしが何度か会話の中で「ジャパン」を連呼しているのに、男はわたしに「ニーハオ」と言ってから手を胸で合わせて、お参りのポーズでわたしに一礼した。
めちゃくちゃじゃん...... もう......
わたしは反論するのをやめた。
そして「さようなら」という言葉を教えて、男は「サヨウナラ」と嬉しそうに、何度も繰り返しながら出て行った。
実際よく考えてみると、わたしだって白人さんが目の前に何人かいて、「誰がなに人ですか?」と聞かれたら、はっきり言って分からない。
今は大体の違いは分かってきたと思うが、イギリスに来た頃は、皆同じように見えた。
日本人なので、ほとんどの確率で誰が日本人か分かるが、時々間違えることもあるぐらいだ。
だから、わたしが日本人であると主張したところで、どうしようもない。
それにしても、小さい足って......
彼はテレビで一体何を見たんだろう。
後にわたしは、纏足という中国の古い風習であることを知った。
ボート暮らしは圧倒的に純粋なイギリス人が多い。
いくら多国籍な国だと言っても、彼らは少し閉鎖的だ。
食べ物もイギリス料理しか口にしない人もたくさんいる。
義父はピザやパスタですら、口にしない。
そんな中で彼らはわたしをどんなふうに見ているのだろうか。
ボート仲間たちは快くわたしを受け入れてくれているように見えた。
わたしにおかしなことを言ってきても、それは東洋人のわたしに少しでも興味があるからだと、わたしは勝手に思っている。
外ではまた男たちが騒いで好き勝手やってるが、文句はたくさんあってもわたしはいつも居心地がいい。
おかしなことをする人たちばかりだけど、まあべつにいいや、と思った。




