第三十八話:結界生成の成功と、破られた秘密
ルナは、ライル卿の補佐として王家の研究に参画する傍ら、クリスとの秘密の研究を続行していた。アレスが新たな無属性監視網を敷設したことに気づかず、ルナは以前と同じく、試作施設のシステムエラーを装って抜け出す計画を実行に移した。
その夜、ルナはクリスと東門の廃墟で会っていた。今回の研究の目標は、「無属性結界生成」の実践的な試行だった。
「ルナ。僕たちの理論は完璧です。あとは、君の純粋な魔力制御で、この古代の幾何学座標を空間に固定させるだけだ」クリスは緊張した面持ちで言った。
ルナは廃墟の中心に立ち、深く息を吸った。彼女の全身の魔力を、属性を持たない純粋な力として抽出し、クリスが示した複雑な座標に沿って空間へと放出した。
彼女の指先から放たれた魔力は、属性魔法のように派手な光を放つことなく、目に見えない幾何学的な構造を空間に編み上げていった。数秒後、廃墟の中心に、微かに空気の揺らぎが見える、透明なドーム型の結界が形成された。
「成功だ、ルナ!」クリスは歓喜の声を上げた。「完璧な無属性結界だ!これは、あらゆる属性魔法の攻撃を無効化できる。王家の結界術を遥かに凌駕しています!」
ルナも達成感に満たされた。これは、王妃になるという目的とは全く別の、純粋な研究者としての成功だった。
その時、廃墟の外から、冷たい、金属が擦れるような音が響いた。
二人は顔を見合わせた。クリスが慌てて結界を解除しようとしたが、既に遅かった。
廃墟の入り口に、一人の人影が立っていた。月の光を背に受けて、その銀色の髪と瞳が、冷酷な光を放っている。
「なるほど。僕の監視が不完全だと証明してくれたのは、君たちの『無属性結界』だったか」
アレスだった。彼の背後には、騎士団の精鋭が静かに立ち並んでいる。
ルナの血の気が引いた。彼女が魔力干渉でシステムエラーを偽装したその瞬間、アレスの新たな監視網が、微弱な無属性の波動を感知し、彼に直接、異常信号を送っていたのだ。アレスは、ルナの才能の源泉が、誰か別の者の存在にあることを確信し、自ら罠を仕掛けて待ち伏せていたのだ。
「アレス…これは」ルナは弁解の言葉を探した。
アレスは一歩踏み出し、その冷たい視線はクリスを射抜いた。
「ルナ。僕に隠れて、秘密の研究を進めていたのは、この侯爵令息とだったか」アレスは、まるで虫けらを見るかのようにクリスを見た。「僕の王妃教育を欺き、僕の支配を破るために、僕が最も嫌う『異端の魔導』を探求していたとは」
クリスは、アレスの圧倒的な威圧感に耐えながらも、ルナを庇うように一歩前に出た。
「レオナルド殿下。ルナ様は、純粋な学術研究のために…」
「黙れ」アレスは氷のような声で遮った。「僕の王妃に近づき、僕の知識を盗み出そうとした卑しい者め。君の学術研究など、僕の王権の前では塵芥だ」
アレスの殺気が、廃墟全体に満ちる。
アレスはルナに手を差し伸べた。その手は優しそうに見えるが、ルナを二度と逃がさないという、強い独占欲に満ちていた。
「ルナ。僕の元へ来い。君の裏切りは、僕の心を深く傷つけた。その代償を、誰よりも愛する僕の隣で、きっちり払ってもらう」
ルナは、自分の秘密が完全に露呈し、アレスの怒りが、かつてないほど危険なレベルに達したことを悟った。彼女の逃げ場は、もうどこにも残されていなかった。
とうとうバレましたね(‘◉⌓◉’)




