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顔面S級冷酷無双ヤンデレ王子と転生令嬢  作者: はるさんた


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第三十七話:試作機の完成と、見えない影

クリスとの秘密の研究から、間一髪で試作施設へと戻ったルナは、冷静にシステムエラーの復旧を装い、何事もなかったかのように振る舞った。職人たちや警備の騎士たちは、ルナの迅速な対応に「さすが殿下が見込んだ天才だ」と感心するばかりで、誰も彼女が裏路地を走っていたことなど、夢にも思わなかった。


その数日後、ルナが設計した安定化回路を組み込んだ「自動魔力加速装置の改良試作機」が、ついに最終の調整を終えて完成した。


試作機の性能は、ライル卿が示した理論値の予想を遥かに超えるものだった。従来の装置で問題となっていた魔力暴走は完全に解消され、騎士が詠唱する魔法の速度は、安全かつ安定して、極限まで加速された。この改良は、戦場で騎士が魔法を使用する際の致命的なタイムラグをゼロにするものだった。


最終テストの日。アレス自身が、王宮から直々に試作施設を訪れ、ルナの成功を直接確認した。彼の登場により、施設内の緊張感は最高潮に達した。


アレスは完成した装置を厳しく点検し、その制御の安定性を自分の魔力で確認した後、満足げに静かに頷いた。


「完璧だ、ルナ」アレスはルナに向かって言った。彼の瞳は、ルナの才能への強い賞賛と、その才能を独占できるという喜びで揺れていた。「君は、僕が望む王妃の役割を、最短で果たした。この装置は、王国の軍事力を一新するだろう」


職人や騎士団の代表者たちがルナを讃える歓声が上がる中、アレスはルナを横に引き寄せ、周囲に聞こえないように囁いた。


「これほどの天才が、一週間で、何の助言もなしにこの境地に達したというのは、常識ではありえない。ライル卿も信じてはいないだろう」アレスはルナの肩を強く掴んだ。その指先がわずかに冷たい。「だが、僕の監視は完璧だ。君は誰にも会っていない。君の才能は、僕の指導によってのみ開花した。そうだろう、ルナ」


ルナはアレスの執着と猜疑心が、成功という名の燃料によってさらに強まっていることを肌で感じた。彼女の秘密は、才能という名の光によって、逆に影を濃くしている。


「ええ、アレス。あなたの厳格な指導が、私をここまで導いてくれました。王家の文献なしに、この発想はありえませんでした」ルナは、推しの王子の願いに応えることで、自分の無実を主張し、秘密を守ろうとした。


アレスは満足そうに微笑み、その場で新たな指示を出した。


「この装置の成功は、君を王妃としての地位に一歩近づけた。次の課題だ。君は、王宮内の魔導具開発部門のトップであるライル卿の直属の補佐として、正式に王家の魔導研究に参画することになる」


これは、ルナにとって驚くべき昇格だった。王妃教育の生徒が、直接、王家の最高機密に触れる研究部門に入り込むことは前例がない。アレスはルナを、もはやただの婚約者候補ではなく、自分の王権を支える技術的な柱として扱おうとしていた。


「承知いたしました。全力を尽くします」ルナは答えた。この地位は、彼女がクリスとの研究を進める上で、王家の膨大な魔導文献に触れることを可能にし、次の研究のヒントを合法的に得られることを意味していた。


アレスはルナを抱きしめた後、施設を立ち去る際、警備主任の騎士を呼び止め、静かに、しかし有無を言わせぬ声で命じた。


「ルナの行動に、外部からの異常な魔力の波長が観測されたという報告はなかったか。試作機への干渉以外でだ。微弱な無属性の波長でも見落とすな」


警備主任は困惑した表情で首を振った。


「いいえ、殿下。ルナ様の行動は全て記録されており、異常な波長は一切観測されておりません。無属性の魔力は、感知が困難ですが、警備システムにも反応はございませんでした」


アレスは冷たい視線を試作施設全体に投げかけた。彼は、ルナの才能のあまりの独創性に、何かしらの見えない介入者の影を、直感的に感じ取っていた。その影が、ルナの秘密の研究者、クリスであることには、まだ気づいていなかった。しかし、アレスの疑念は、ルナの周囲に張り巡らされ始めた。


(ルナの周りには、僕の目を欺く、誰かいる。その才能を、僕以外に開花させた者がいる)アレスは、ルナの知らないところで、王都の地下水路にまで及ぶ、無属性魔力に対する新たな監視網の構築を密かに命じた。ルナの次の秘密の研究は、以前よりも遥かに高いリスクを伴うことになるだろう。

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