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顔面S級冷酷無双ヤンデレ王子と転生令嬢  作者: はるさんた


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第二十五話:広がる波紋と、第二の友人

王都での非公式茶会から戻った翌日、王立魔導学院内の空気は、明らかに茶会以前とは異なっていた。アレス殿下がルナに同伴し、彼女の社交を公に認めたという事実は、火の付いた噂となって学園中に瞬く間に広まっていた。


これにより、ルナへの態度は、「恐ろしい殿下の寵愛を受ける、触れてはならない平民」から「殿下が王妃として育てている、将来の王族」へと変わりつつあった。アレスの支配は依然としてルナを氷の壁で囲んでいるが、その壁は「触れてはならない禁忌」から「殿下の許可を得れば交流できる高嶺の花」へと性質を変えたのだ。


早速、午前中の休憩時間。ルナが自室で魔導の専門書を読んでいると、ノックの音と共にマリアが菓子を詰めた籠を持って訪ねてきた。


「ルナ様、昨日は本当にありがとうございました。殿下があそこまで尽力してくださるとは思っていませんでした」マリアは、ルナに初めて会った時よりもずっと親しみを込めた笑顔を見せた。彼女の顔には、社交での成功に対する安堵と、ルナへの純粋な好意が浮かんでいた。


「いいえ、マリア様のおかげです。殿下は、私の王妃としての教養を高めるために必要な機会だと判断されたのです」ルナは外交成功の喜びを押し隠し、あくまでアレスの意向であり、自分は彼の計画の一部であるという体裁を崩さなかった。


「あの、ルナ様」マリアは少し身を乗り出した。声は親密だが、どこか周囲を警戒している。「殿下は少し…強引な方でいらっしゃいますが、ルナ様に対しては、本当に深い信頼と、強い期待を寄せているのが分かりました。殿下が、あのレオンハルト侯爵様の質問にまで答えてくださったことにも、皆が驚いています。殿下があそこまで他の貴族に対応するのは、前代未聞です」


「殿下の指導は厳しくも的確です。侯爵様からの質問は、私一人の力では答えられない高度なものも含まれていましたから」ルナは、レオンハルト侯爵の名前を口にする際、アレスがどこかで聞いているかもしれないと想像し、内心で少し身構えた。


マリアは安心したように微笑んだ。


「ルナ様が殿下公認で私たちとの交流を広げてくださるなら、私たちも安心です。ルナ様の卓越した魔導技術をもっと知りたいという令嬢は他にもたくさんいます。よかったら、この後、私のお友達の輪に加わっていただけませんか?今朝は、王都の茶会の話題で持ちきりなのです」


ルナは、マリアの提案に心から感謝した。外交の次のステップが、ルナ自身の努力ではなく、マリアの申し出によって開かれたのだ。ルナはマリアを中心とした小さなグループの中で、魔導以外の話題についても少しずつ参加し始めた。ファッションや、王都で流行している刺繍の技術など、貴族令嬢の一般的な話題だったが、ルナにとっては初めての経験であり、新鮮だった。


(これが、王妃になるために必要な、貴族社会との日常的な繋がり。アレス、あなたのルールの中で、私は着実に成果を出していますよ)


ルナは、自分の存在が学園内で確実に浸透し、受け入れられ始めていることを実感した。最初の目標である「孤立の打破」は、マリアという最も重要な足がかりを得て、達成されつつあった。


しかし、ルナの外交は女子生徒との交流に留まっていた。アレスが男子生徒との接触を完全に遮断している以上、この学園で別の勢力図を作る必要があった。男子生徒との交流を完全に断たれていては、王妃として将来、政治や軍事の情報を得ることは不可能だ。


(アレスの支配力を恐れず、王権に縛られない、特異な貴族を見つけなければならない。それは、アレスと同じくらい優秀でありながら、王室の直接的な影響を受けない、自由な精神を持つ者…)


ルナの脳裏には、レオンハルト侯爵の姿が浮かんだが、彼は既にアレスに目をつけられている。彼との接触はリスクが高すぎる。別の道を探る必要がある。


放課後、ルナは誰もいない図書館の奥深くにある、古文書室へと向かった。そこで、この王立魔導学院の創設に関わった貴族の家系図を広げた。ルナの次の目標は、王室の支配から最も遠い位置にいる、特異な貴族、特に「魔法騎士団」や「学術研究」に特化しており、王位継承争いに興味がない家柄を見つけ出すことだった。それが、アレスの「護衛兼教師」という名の監視を潜り抜けるための、第二の友人となるだろう。

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