第十三話:学園の反応と、アレスからのご褒美
教室に響き渡った王子の伝言は、特待生クラスの生徒たちに、この上ない戦慄を与えた。侯爵令嬢ソフィアは、膝から崩れ落ち、震えながら席に戻った。彼女の取り巻きたちも顔面蒼白になり、私から遠ざかった。
(たった一言で、侯爵令嬢を黙らせるなんて。さすがアレス…支配力が強すぎるわ!)
ルナは感動すら覚えた。アレスの独占欲と権力が、自分の身分を完璧に守ってくれたのだ。しかし、この一件で、私は学園内で完全に孤立することを悟った。誰も、アレスにマークされた私に近づこうとはしないだろう。
午後の授業が始まるまでの間、教室は異常なほど静まり返っていた。誰も私に視線を合わせようとせず、まるで私が触れてはいけない魔物であるかのように扱われた。
授業が終わり、私は寮へ戻るため教室を出た。すると、廊下の角で、騎士服の少年が待っていた。今朝伝言を届けた、アレスの側近だ。
「ルナ嬢、お疲れ様です。レオナルド殿下からの伝言と、お荷物です」
彼は恭しく頭を下げると、私に小さな木箱を差し出した。
「お荷物?」
「はい。殿下より、『君の初日の労をねぎらう』とのことです。また、殿下は君が今後、他の生徒と関わる必要はないと考えていらっしゃいます。勉学に集中してください、とのことで…」
私は箱を開けた。中には、ため息が出るほど精巧な魔導書が三冊と、焼き菓子、そして一輪の深紅の薔薇が入っていた。魔導書は、私が図書館で目をつけた最新の理論書だ。
(えっ…私が図書館で目をつけた本を、もう把握していたの!?しかも、お菓子と薔薇まで!これ、完全に推しからのご褒美じゃん!)
私は頬を紅潮させた。アレスは、私の一挙一動を本当に監視している。そして、私が努力しているのを見て、すぐに報酬を与えてきたのだ。この徹底した監視と支配は、常人なら息苦しく感じるだろうが、私にとっては「推しからの特別な愛の形」だった。
「わ、分かりました。アレスによろしくお伝えください」
私は興奮を抑えながら告げた。側近は無言で会釈し、再び影のように去っていった。
その夜、自室で焼き菓子を食べながら、私はアレスからの薔薇を飾った。
(誰も近づいてこないのは寂しいけど、アレスが私だけの世界を守ってくれていると思えば、最高の学園生活だわ)
その時、私の部屋の魔導通信機が、かすかに光った。これは、学園の公式な通信機とは別に、アレスが私に持たせたプライベートなものだ。
画面を開くと、すぐにアレスからのメッセージが表示された。
「初日の講義、よくついてきていたね。明日、午後の実習は君のレベルに合わせる。授業後は、すぐ僕の元へ来い。待っている」
それは、命令であり、招待だった。私は胸が高鳴るのを感じた。アレスは、私にとって最高の教師であり、最高の推しであり、そして、最も冷酷な支配者なのだ。




