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鬱展開大好き主人公VS優しい世界  作者: 石蕗石


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エピローグ・鬱展開大好き主人公VS優しい秘密

青い空、青い海。輝く太陽に照らされた岸壁沿いの白い町並みに、爽やかな潮風が吹いている。

この地の領主であるルカ・リカイオスと、その側付き薬師のカタリナ・トゥリーナは、あのプロポーズから四年も経った今日、やっと結婚式を挙げた。

二人の式には町中の人間だけでなく、近隣からも参列客が多く訪れ、なかには隣国の貴族、クリス・エルピナル伯の姿もある。

そしてこの俺、第三王子ライアももちろん居るぜ~~~~~!


というわけで四年越しにこのリカイオス領にやってきたわけだが、いやー、いつ来ても景色の良いところだねここは。

あ、ちなみにルビーさんは流石に出席しなかった。お隣とはいえよその国の辺境伯の結婚式に、国主が出席するのはちょっと珍しすぎるからな。そのぶんクリスさんがもりもりにお祝いを持たされていた。

いやー、本当良い式だったよ。主賓の二人は幼馴染みの両思い期間を経て婚約から四年経ってるってのに初々しくも仲良くて、それを見守る皆の視線も温かい。皆で笑顔になれて、ついでにホロッと泣けるような、そういう式だった。

なおクリスさんは今回も顔がべしゃべしゃになるくらい号泣していた。彼女は今年で二十二歳。あの事件のときのカタリナさんと同じ歳になり、幾分大人びた姿になったが、本質的には面白人情派マスコットのままらしい。

世話を焼く側仕えの方々も、仕方ないなあと言う顔で笑っていた。女王の推薦者として多少は立場も変わったはずの彼女だが、あのときと変わらず皆さんに愛されているようだ。

まあそのへんは皆同じと言えば同じだな。

カタリナさんは時折ほんのり微笑みを浮かべたり頬を赤らめる以外は、あの見慣れた無表情だったし。ルカさんは緊張と嬉しさと誇らしさでちょっとギクシャクしつつも、持ち前の爽やかさと大型犬のような愛嬌を振りまいていた。そして俺も変わらず鬱展開およびそこからのハッピーエンドを追い求めている。人間そう変わったりはしないということだろう。


あのときはけっこう頑張ったなあ。

NGワードを手探りで回避しつつルビーさんからお姉さんの情報を聞き出し、女性陣の着替えをひっくり返して当時の衣装に似たものを探し、全員でドレスの調整をしつつメイクはクリスさんにお願いしと大忙しだ。それでも結局間に合わなかったもんで、先にルビーさんとカタリナさん、クリスさんを送り出し、最終調整はたいていのことはなんでもやれるでお馴染みのヴォルフが冷や汗流しながら完成させてくれた。すまねえな、主人のやむにやまれぬ女装を手伝わせて。

そして例の一粒だけパクってあった薬を俺がもらい受け、あとはあの通りの流れだ。結局証拠ではなくごり押しのために使わせてもらった。

さすがに俺もね、少ない伝聞のみで他人の演技をするのは大変でしたよ。でもまあ、特徴的であればあるほど、似せやすくはあるからね。なんとかなって良かった良かった。

その後アドニアおじいちゃんはツルツル自白してくれて、ついでに知っている貴族の悪行ももりもり告げ口してくれたらしい。なんでも、新女王へのお祝い代わりだとか。

ただし俺のことは良い具合に誤魔化してくれ、犯行がばれたので言いくるめて口封じをしたものの、逃げ道を見つけて告発された、ということにしてくれたようである。

彼は神殿の法により、罰として罪人用の塔に閉じ込められ、その一年後になくなったそうだ。死に顔は穏やかだったと聞いている。人生をヒマだと嘆いていた彼のことだから、最後の一年を幽閉されて過ごそうが、それは外にいるのとたいした違いは無かったのだろう。

俺の性根を知る人間が居なくなり、契約書の二年の縛りも解け、おかげで俺はなんの問題も無く大手を振ってシャバを歩けている。いいことだ。まあちょっと寂しい気もするけどな。

まあそのへんの危機は回避したものの、帰国直後はめちゃくちゃ叱られたけど……。当然のことなので説教を受けましたし謹慎もしましたけど……。あんな真顔の父上初めて見たな……。

でもお隣の国の新女王誕生に関して恩を売ったことはたしかなので、その点を鑑みてお褒めの言葉もありました。せやろが。えらくてかわいい第三王子ちゃんやろがい。


まあ俺の話はどうでもいいんだよ。おじいちゃんが居なくなっても、貴族としても商人としてもたいそうな活躍をしていた彼の影響は国内に残った。当然彼は汚い手も使っていたし、そのために雇われていた人間も大勢居る。信奉者もいる。

犯行に関わった神官は家族を人質に取られていたそうだが、それについては捕縛されたおじいちゃんが手を回してきちんと解放したらしい。

仕事として金で雇われていた人間は、彼の死と同時にフロラキス家を離れただろうが、その他の人間が万一にも新女王やカタリナさん達を逆恨みして危害を加える可能性もある。

そうならないよう、ルビーさんや神官長達は大いに頑張ってくれたのだという。もちろんクリスさんも頑張っただろう。彼女は空気清浄機みたいな効果があるから役に立っていたはずだ。

さすがにたった四年で国内の膿を一掃することは不可能だが、それでもある程度区切りは付いたらしい。大変だったろうな。

そしてなによりめでたいことに、植物状態だったリリスさんも、ついに目が覚めた。

と言っても、意識はまだちょっとはっきりしていないし、声も上手く出せず、起き上がるのも困難だ。しかし自力でお粥くらいは飲み込めるようになったため、これまでよりはマシな介護ができそうだという。

一日のうちほんの短い時間とはいえ、意思疎通ができるようになったことは本当に大きい。ルビーさんも、さぞ嬉しかっただろう。

カタリナさんは、リリスさんの治療のために神殿で行われていた研究に、足繁く通っていた。彼女の知識がこの嬉しいニュースに貢献しただろうことは間違いない。


こうして四年間で様々な憂いが消え、ようやっとカタリナさん達は結婚した。周囲の人々に優しく義理堅い、二人らしい行動だと思う。

思いがけない事件に巻き込まれたのは災難だったが、あの出来事を通じて、二人の愛は深まったのだろう。そういう意味では、本当に良かった。

というわけで式が終了し、披露宴では領主館の前庭から大通りの端までテーブルが置かれ、様々なご馳走と酒が振る舞われた。なんせ領主様と町で人気のカタリナさんの結婚式なので、領主館のみならず地元の皆さんもなんやかんやと作っては宴会に参加しているのだ。そりゃもう盛大な大盤振る舞いになり、気取らないルカさんの性格も相まって、お祝いは即座に無礼講の大騒ぎになった。

そこらじゅうでなんらかの楽器が鳴らされているし、歌ってる人がいるし、なんか良い匂いがする。俺はまあ貴い身分なもんで、この大騒ぎの中領主館の庭からは出られなかったのだけれど、遠目に見ているだけでも町中は楽しげだった。

まあ領主館も全然楽しいけどな。なんせ主賓もいるし。

既に場のノリは二次会通り越して三次会くらいのそれになりつつある。さっき領主館の兵隊さんVSギルベルトさんの力試しが始まった。現在ギルベルトさんの十人切りってところだ。いや得物は木剣だから切り捨ててはいないけど。

呆れたカタリナさんが打撲に効く軟膏を取りに行くそうなので、俺は手伝いを申し出た。出歩く際に頼りになる護衛さんはあそこでばったばったと兵をなぎ払って怪我人を量産しているので、付いてくるのはヴォルフに任せる。

領主館とトゥリーナ家を繋ぐ庭の抜け道を通り、俺は久しぶりにカタリナさんちの薬草園に来た。あのときは夜だったからほとんど見えていなかったけれど、綺麗な場所だ。白い花の植えられた一角で待っていると、背中に声がかかった。


「お待たせしました」


俺は振り向き、花嫁衣装からもう少し動きやすいドレスにお色直ししたカタリナさんに、にっこりと微笑む。

カタリナさんが持っていた薬箱をヴォルフが受け取り、一礼して馬鹿騒ぎをしている披露宴会場へと持っていった。

俺とカタリナさんは、花畑の前で向かい合う。数歩歩けば向こうは海だ。崖沿いは花と同じ白い色の柵で囲われていた。きっとこれはその昔、花畑で遊ぶ二人の子供を守っていたんだろう。


「今日は本当に良いお天気でよかったです。改めて、素敵な式に呼んでくれてありがとう!」

「光栄です。お楽しみいただけているようで良かった」


相変わらずの氷のように冴えた美貌は、それでもやはり、四年前よりはすこし柔らかくなったように思える。

べつにヴォルフが居たって良かったんだが、二人きりになったのはなんとなくだ。


「そういえば、こんな話を聞いたことがあります。ヘーゼル色の瞳は、日光に当たると緑に見えるそうですね」


脈絡なくそう話し始めた俺を、カタリナさんは緑の隻眼で黙って見ている。いや、どちらかというと、ちょっと面白そうにしている気がするな。まあ俺は幼馴染みじゃないんで、彼女の感情を完璧には読めないんだけれど。

彼女の瞳が両方緑だったと答えたのは、ルカさん一人だ。ただし、こうして外で遊ぶことが多かった彼が見ていた片目が、室内では何色だったのか。そんなことは当然、今となっては確認しようがない。


「毒を飲んだあのとき、僕はすぐに中和剤を飲ませてもらえました。神官長も、前回の事件で使われた毒には警戒していたのでしょうね。……だから、意識自体はけっこう早く戻ったんです。

カタリナさん。倒れた貴方に中和剤が効かないと聞いたとき、フロラキス候はそれほど驚いているようには見えませんでした。彼が言った『意外性とお約束』という言葉は、何と何を示していたのでしょう。

意外性は、僕かもしれませんね。なかなかああいう手段を選ぶとは予想できないのでは無いかと思います。

ではお約束とはなんでしょう。僕は、例の睡眠薬に対する中和剤が効かなかったのは、彼にとって既定路線だったのだと思います。

貴方はあの日明言しなかったが、犯行には我々が見つけたあの睡眠薬ではなく、別の毒物が使われた。そうですね?

考えてみれば当然の話です。そもそも儀式に関われるほど高位の神官を抱き込んでいるのなら、大抵の物を持ち込むことができたことでしょう。

侯爵が持っていた小瓶は囮、あるいは、過去の犯行に気付くかもしれない誰かに向けた、侯爵なりの演出だったのかもしれませんね。

本命の毒がなんなのかは、見ただけでは貴方にも分からなかったのではないでしょうか。だから、絶対に他の候補者達がカップに口を付けないよう、貴方自身が真っ先にお茶を飲み干したのです」


俺がべらべらと語る推理もどきをカタリナさんは黙って聞き、そしてなるほど、と頷いた。


「筋はおおむね通っているように思えます。しかし、そんなことをした動機はあるのでしょうか」


そう言う彼女は少しだけ微笑んでいた。まるで探偵小説で追い詰められる犯人のようなことを言いながらも、カタリナさんは楽しそうだ。それはそうだろう。彼女は罪人などではない。


「動機の前に、ちょっと別の話をしましょう。

女王選というのは、不思議な儀式ですね。女神に選ばれる身体的特徴、精神、知能、それらの基準は、いったいどこにあるのでしょう。

オッドアイの瞳なんていかにも特別感があり選びやすいですが、反対に、賢さや性格の素晴らしさなどというものは、時代によっても感じ方が変わってくるものです。

女王選で実際に女王となった人々の記録を読み、僕はこう考えました。

女王というのは本当は、誰がなっても良いものなのではないでしょうか?

そして現在の形式は、人間が、彼女こそ選ばれた女王である、と納得するためにあるのでは?

歴代の女王は飲み物を飲み、私こそが女王だと宣言する。これ以外に、明確な共通点はありません。神官長は、僕が女王にはどのような人が選ばれるのかと尋ねたとき、女王として成すべきことがあるかたですよ、と答えました。

これがそのままの意味であるのなら、女王とは、成すべきことが成せれば、交代して良いとも考えられませんか? 実際に、たったの一日で交代した女王もいます。

歴代の女王が何を成すべきだと考えたのか、それは分かりません。明言する必要が無かったのかもしれませんね。

そう考えると、私が選ばれた、と言う必要もあるのかわからなくなってきます。だってこの考えなら、女王となることを選んだ人は、自分がそうであると分かっていれば、それで良いということになりますから。

もちろんこんなもの、いくらでも穴を見つけられる推測です。けれどおそらく貴方はその上で、確信を持っていたのだと考えます。僕との違いはそこであり、それこそ巫女王としての素質なのかもしれませんね」


耳を傾けているカタリナさんの表情は柔らかい。まあ言うだけ言わせてやろう、という余裕がある顔、なんて表現するとなんか黒幕みたいになってしまうが、むしろこれは単に彼女が優しいからだろう。俺は途中でツッコミを入れられたら推理なんて話せないからな。いつだってこの若さでごり押す作戦で通してるので。


「女王選の最中のことは、昔ルビーさんから聞きました。貴方が真っ先にお茶を飲んで自分を女王にふさわしいと言ってくれた、背中を押されたのだと。

紅茶を飲み干し、心の中で、貴方は神に宣誓したのではないでしょうか。そして、自分よりふさわしい女王としてルビーさんを王位に就かせることが、自分の役目だと定めた。

それから、ルビーさんがお茶を飲み、女王となることを宣言する。これで役目は果たされます。

動機は、きっとルビーさんのためだったのだと、思います。それから、万一にも他の候補者が毒を飲まないようにするため。ついでに言うならファルシールとグラキエスの国交のためでしょうか。

ルビーさんが言うように、カタリナさんと僕は、少々グラキエスのために働き過ぎました。いくら僕達が好きでやったことだと言っても、過剰な恩を与えられる側は、そう受け取ってはくれないでしょう。

だから貴方は、毒を飲んだのはルビーさんなのだという結論に誘導した。今回のことはこれで貸し借り無し、そういうことにするために」


こうして彼女は犯人を追い詰め、ルビーさんという友人に手助けをし、ルカさんと心を通わせ、全てを丸く収めた。俺はそんなふうに考えている。


「本当に毒杯を呷った女王は、貴方だったのではないですか?」


最後に野暮なことを聞いた俺に、カタリナさんは答えはしない。

全ての問題を解決してみせた彼女は、唇の前に人差し指をそっと立て、ただ秘めやかに微笑んだ。

鬱展開大好き主人公VS優しい秘密編はこれにて終了です。

アホみたいに時間がかかりましたが、最後まで見ていただきありがとうございます。

次回の第四部か番外編第四段は、ちょっと時間をおいてから投稿します。

その前に『呪いの森のお嬢様』という、異世界にやってきた恐怖という感情を知らぬお嬢様が、愉快な仲間と一緒に悪をギタギタにする話の続きを書く予定です。よろしくね。

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お疲れ様でした〜!! またライア達と会えるのを、過去作品等見返しつつお待ちしております!
VS優しい秘密編、終了お疲れ様でした。 今回の主人公は少し?大人しめでしたが面白かったです。 次の更新も楽しみにしています。
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