たいていの成否は事前準備で決まるもの
なんかお久しぶりじゃない? 俺だよ。
なんやかんやでやることがいろいろあって、もう女王選本番開始までほとんど時間が無い。開始時間に間に合わなければ即失格、というルールがある以上、当日に仕掛けるのが効果的というのは理解できるんだけれど、それにしたって直前に誘拐というのはまあまあ思い切った作戦だ。
おじいちゃんの捜査は一応予定通りと言って良いタイムスケジュールで進んだものの、推薦者がすぐ近くに居る状況で、別陣営の従者と一緒にまとめてルビーさんが誘拐されるのはさすがにちょっと想定外だった。俺たちの女王候補の本命はいまのところルビーさんなので、無事時間内に帰ってこれて良かった良かった。
カタリナさんが一足先に自室まで戻り、俺がおじいちゃんと話し終えて後から戻ったあたりで、俺達はおじいちゃんの足止めをしているはずだったルビーさんとヴォルフの捜索を開始した。
ひとまず、自助派の推薦者二名と懇談という名の時間稼ぎをしていたクリスさんの元へ行って、お茶会を解散してもらったわけだが、この時点で二名の両方ともが従者を連れていなかった。なので自助派二名は共犯の可能性もあるだろう。まあ、さすがにもう罠を仕掛ける時間も無さそうな現状、そこは考える優先順位の低い問題だ。
あのとき一階には、隠れていたカタリナさんと俺はともかく、中庭におじいちゃんが居たわけなので、誘拐犯は当然彼の視線を避けている。
身を低くして窓の下を通って逃げることもできただろうが、二階への階段はもともと死角になる位置にある。当然そっちを通った方が仕事は楽だ。
というわけで、二階のどこかにいるんだろうなあと当たりを付けて廊下をうろついてみたものの、見張りはいなかった。逃げ出される可能性と、他国の王子がごり押しで救助しに来る可能性を天秤にかけて、後者の方が面倒くさいと判断したのだろう。
推薦者はともかく候補者である女性達は皆、巫女としてふさわしい逸材を選んでいるらしいので、彼女たちに見つかるわけにはいかない。自助派としてもそこはわきまえているはずである。
というわけで、閉じ込めるなら自派閥の候補者の目からも逃げられる物置か、使用人部屋あたりだろうと俺たちは考えた。扉も窓も破って出るには不安がある。おそらく天井を伝って脱出するのが一番安全性が高いだろう。ということでひとまず俺達が泊まっている区画の使用人部屋に行ってちょっと待ってみたら、ちょうどルビーさんとヴォルフが到着したのだった。タイミング完璧。
俺が当初思い描いていた因習女王選世界観なら、大聖堂近辺の森にでも二人を埋めて、その上で実行犯が自害し口を閉ざすくらいはしてくれただろう。
しかし優しい世界のぬるい因習儀式なので、二人は普通に五体満足である。よかったね。
二人の被害はせいぜい衣装が汚れたこと程度だったので、それぞれ着替えて身嗜みを整えれば、心的外傷以外の被害はなかったに等しい。二人ともだいぶ落ち着いていたから、女王選への影響もないだろう。
しかし、手間と賠償リスクを減らすためだったのだろうけれど、ヴォルフまで無傷で閉じ込めたのはアホというより他にない。
ヴォルフはこの世で一番俺を浴びて育っている人間だ。誘拐軟禁程度のことでは動揺しないし、ましてや諦めるわけが無い。助けなければいけない同行者がいるならなおさらである。もっと大変な状況だったとしても、全力で諦めず最後まで足掻いていただろうことは想像に難くない。
時間まで閉じ込められれば嬉しいな、程度の妨害でどうにかできるような人間ではないのである。
そしてルビーさんもまた、この程度のことではへこたれない精神の人間のようだ。彼女には心の底からの悲願がある。屋根裏からの脱出を果たした時の表情は、それはもうキリリと勇敢に引き締まっていた。
それじゃあ次は前々回の感想といこう。
おじいちゃんはアレだね。俺が老後までヒマして闇堕ちした姿を見ているようで、ちょっと同情しちゃったね。まあ俺の場合あれより悪化してる可能性がだいぶ高いけれど。
名探偵カタリナさんの解決編を待つまでもなく、動機の方が先に判明してしまっている今回の事件(未発生)については、あとはもう大詰めに何が起こるかを待つばかりという状況にある。
黒幕のアドニア・フロラキスはとっくに仕掛けをし終えているし、こちらはそれを迎え撃つだけ。
そこに向けてのもう一仕事に、一体何をしてみようかな、というのが今の俺の悩みどころだ。
いや、別にこれは好奇心でちょっかいかけようとしているとか、そういうアレではない。あくまでやむにやまれぬ理由がある。
おじいちゃんの動機を聞いた代償として書かされた、女神の契約書。あれが誰にとってお得な行動かといえば、当然一番はアドニアさん。そして二番目が俺だ。
あたかも俺と彼が対立しているかのような構図を作るために、わざわざ丁寧に毒を盛って逃げ道を塞いでから、一方的に見える契約で行動を制限する。おかげで俺はあのときの会話を詳しく話さずに済むようになるのだから、不便もあるが利益もある。
実際カタリナさんにアドニアさんとの合流後、諸事情があり、女王選についてお話しすることができなくなってしまって……。と沈痛な面持ちをすることでウキウキお喋り会について濁させてもらった。なお、明らかに訳ありすぎるためとても心配されている。ごめんね。
あまりにも親切と言わざるを得ない。塩をもりもりに送ってくれる敵である。
当然、その好意には理由があると考えるべきだろう。
俺とアドニアおじいちゃんは、出会っていたのが別の場所ならそりゃもう仲良くなれたに違いないくらいには気が合う。だからこそ、彼が俺に恩を着せた理由は、まあまあ察せられるんだよな。
彼は人生に倦んでいる。そりゃもうつまらなくてウンザリしている。だからもうとにかく、死ぬ前に彼基準での面白い出来事をライブで見たくて仕方がない。
そのためならバレてもいいやという開き直りっぷり全開で今回も事件を起こそうとしているし、俺にぺらぺらと動機を話した。そしてその上で俺を解放した。
これは、ここまでしてあげたんだから、なんか面白いことしてよ、という無茶振りなのである。侯爵に脅されていたせいで直接犯行を止めることができませんでしたが、頑張りました! という言い訳をしながら事態を盛り上げる役を任されたのだ。
もちろん俺にそれを聞いてやる義理はあんまりないし、あっちだって俺の性根をばらすというリスク程度でこっちを縛れるとは思っていないだろう。
問題なのは、この人生に飽きた死の間際のご老人が、権威も財力もバリバリに持っている現役権力者だという点だ。
おそらく宗教国家の重要儀式を担当する神官を脅せる程度に手が長く、しかもその後どんなゴタゴタが起きようが気にしていない、大貴族。
ヘタに手を出せば、おじいちゃんは喜んで国家問題にしてきかねない。最悪の場合、彼の派閥の工作員やらなにやら山盛り集めて、俺達が帰る途中で闇討ちしてくる可能性もある。なんせ戦争なんて彼の見たいエンタメのど真ん中だろう。
これは俺にとっても、けっこう困る話なのだ。
戦争という状況はまあ、鬱展開とそれに打ち勝ち幸せをつかみ取ろうという意思を、それはもう大量に観測できる可能性を秘めている。
しかし、今現在の俺にとっては、正直そこまで優先順位と魅力が高いものではない。なぜかというと、戦時中に生じる鬱展開のジャンルは大抵戦争がらみだからだ。
例えるなら、明日から毎食美味しいごはんをお腹いっぱい食べられます。ただし全部カレー味。みたいなもん。
仮に俺が鬱展開からのハッピーエンドをみじんも拝めないままこの年まで成長したとしたら、やけくそでドカ盛りカレーを注文した可能性は十分すぎるほどある。
しかし、いまの俺は毎食それなりに美味しいものを基本的に腹八分程度に味わい、まあまあ順風満帆で幸せな日々を送れているのだ。
だからわけ分からん権力者の老人に八つ当たりで殺される悲劇の王子として、戦争の引き金を引く理由など、まあ、うん、そんなことしなくてもね。ほらね。
いやしっかりしろ俺! 人類の目の前には多種多様で色彩豊かな可能性が広がっているんだ! カレーに負けるんじゃない!
なので戦争反対。平和が一番。そういうことである。
毎食同じ味の飯を食いたくねえなら、戦争なんて回避したほうがいいのだ。
ということで、おじいちゃんは俺達に糾弾されること自体は許容するとしても、そこに面白さや劇的な演出を求めているし、俺のほうもそれに乗らざるを得ないのである。
なんか思ってたのとはだいぶ違う話になってきちゃったんだけど、なったもんはしょうがないので、どうにかするしかない。人生なんてそんなもんだ。
以上を踏まえ、俺は現在、女王選の支度を終えたカタリナさん、ルビーさん、クリスさん、ヴォルフのチーム全員での最終ミーティングに、極めて深刻そうなツラをして参加している。
議題を提示したのはカタリナさんだ。
「やはり一番の問題は、いつ毒が盛られるか、という点でしょうか」
既に黒幕も毒の種類もわかっているが、肝心の手段については未だ不明。とりあえずそれさえ乗り越えれば、女王選中の身動き取れないタイミングで全部ぶちまけるか、あるいは新女王誕生後に即、誰が女王になるかは未定ではあるがその権力を笠に着させていただいて、ごり押し糾弾するのも良いだろう。
毒を回避し、アドニアさんを即拘束できれば、今回は被害なし&犯人逮捕の大団円乗り切れる。
俺は多分女王選中だろうと思ってるわけだが、それをどう伝えようかなと考えていたところ、クリスさんが耐えきれず、という様子で口を開いた。
「あの、その、あれですのよ。ライア殿下は無理にお話に参加なさらず、どうかご自分の身をお大事になさってくださいまし……」
両手の指を何度も組み替え、不安そうにこちらを見る彼女は、なんかもう泣きそうになっている。
この国の女神の神具である契約書について、クリスさんは当然知識がある。いきなり不自然に事件についてなんにも喋らなくなった俺の様子に、さすがに彼女はすぐ察したようで、俺がちょっとまずい状況だというのはチーム内で共有済みだ。
俺の身になにかあれば多方面に影響が出るため、大人しくしておくに超したことはなんだけど、今回は俺のためにもそうはいかない。
それにまあ、なんとかなるだろ。
『ライア・エル・ファルシールは、女王選に関わる事件について、知り得た情報を誰にも話さない。また、書き記すこともしない』
これが契約の重要な点だ。
つまり俺は、事件に関わらないことについては話すことも聞くこともできるし、身振り手振りでなんらかのやりとりをすることも禁じられていない。もともと抜け道は用意されている。
とはいえ、女王選に関わる事件について、というのはまあそれなりに範囲が広い。どこが引っかかるのか、引っかかったらどうなるのかがいまいち分からないため、慎重にやるに越したことはないな。
というわけで、俺は心配そうな皆ににっこり笑い返した。
「……こんなお話をご存じでしょうか」
俺が話し始めると、全員がちょと緊張した様子で耳を傾ける。ヘタすれば自爆するからね。
「とある国に、一人の変わった男が住んでいました。彼は催し物やお祭りがあると聞けば、どこへでも飛んでいき、そしてそこでたくさん問題を起こします。スリや商品の窃盗などの、盗人らしい生活の糧になるもののほか、屋台に並ぶ菓子や縁起物をひっくり返したり、通行人に殴りかかったり、という無意味な罪まで犯します。
当然その罪人は捕まりましたが、取り調べで、なぜ人が大勢居て犯行を目撃される場所でこのようなことをしたのかと問われ、こう答えました。どうして? 騒ぎにならなきゃ面白くないじゃないか、と」
そこで口を閉じた俺に、カタリナさんが重々しく頷く。
「なるほど。フロラキス候もまた、騒動を起こすこと自体に意味を感じている……。つまり、最も問題が大きくなる、女王選の儀式の最中に毒を盛る可能性が高い、ということですね?」
ハチャメチャに話が早いカタリナさんに、俺は黙って頷く。マジで何度も思ってるけど、今回この人がいなかったら詰んでただろうな。
それにしてもあの……、あれだな……。どうにか会話に参加できるにはできるけど、クソめんどくせえな……。なんだこのアホみたいな縛りプレイは。
とりあえず本当に必要なところでだけ口挟んで、あとは黙って進行を見守ろう。幸い俺以外の四人とも、賢く善良でめげない精神の持ち主だ。
「それでは、今日の女王選を中止し、日程や場所の変更を、……といういのは、やはり難しいのでしょうね」
カタリナさんに話を振られたクリスさんが、困った顔でこくりと頷く。
「そうですわね……。女王選の場所も関わる人員も、神殿側が管理するものです。日時についても、神聖な儀式ですから、今更突然延期できるとは考えにくいですわ。
かといって、フロラキス候が毒を持ち込んでいるだとか、前回の事件について不利な話をさせないよう殿下に契約を強要している、と告発するのも難しいでしょう。物証はフロラキス候の手の中にしかありませんし、もしかすれば、既に何らかの手段を用いて隠している可能性もあるかと」
「……一応、女王選までに、わたしが探してみるわ」
ルビーさんが申し出てくれるものの、難しいだろう。フロラキス候はバレても良いとは思っているが、自分からゲームを降りる気はないと明言している。打てる手はきちんと打つはずだ。ルビーさんと俺達が結託していることなんてとっくに承知の上なんだから、彼女に見つかるような場所には隠すまい。
「……実は、ここに一錠だけ」
そう言ってカタリナさんが、テーブルの上にコツリと一粒の薬を置く。
えっ、パクってたんだ!? いやまあ一錠くらいどこにでも隠せるだろう。仮に俺達側の不利になりそうになっても、トイレにでも流せば一発で証拠隠滅できる。瓶ごとくすねてくるよりは断然リスクが低いだろう。
全員にぎょっと見つめられる中、カタリナさんはマジで何を考えているのか分かりにくい無表情で話しだした。
「犯行を儀式中と仮定するのなら、女王として名乗り出る前に候補者達が飲む茶に混入するか、あるいは茶器に塗布する形で毒が盛られるでしょう。椅子や扉のノブなどに毒を塗る可能性もありますが、使われる薬物がナギス系睡眠薬であれば、肌に付着した程度ではさほどの毒性を発揮しません。
となると、茶に混入されている可能性がやはり一番高い。であればそれは儀式に関わる神官を抱き込んでいるということです。最高神官はさすがに事件に関わっていないと信じたいですが、侯爵の手がどこまで及んでいるかを今から把握するのは不可能でしょう。
なので、毒の混入を防ぐことは諦め、混入された茶が現物として振る舞われてから、私が対応します」
はっきりとそう言い切ったカタリナさんに、もう一度俺含めた四人がぎょっとした。
ヘタに返事ができない俺、立場上発言を控えているヴォルフ、それほどカタリナさんとの付き合いが長くないルビーさんからの無言の訴えを受けて、クリスさんがおそるおそる質問をする。
「そ、そのう。対処というのは、その場で毒物の混入を明らかにする、というような……?」
「いえ、ナギス系が反応する試薬は、現代では希少なのです。この神殿にも、あるかどうか……。ですので、その場ですぐに薬物の混入を立証することは困難でしょう。
それよりも、その場で中和してしまった方が早い。こちらの薬品については、神殿にあることを確認しています」
「えと、それでは、誰かが毒を飲んでしまったとしても、対処法があるのですね」
「はい。混入された可能性の高い毒物として、こちらを私が神殿に提出します。曲がりなりにも女王候補の持ち込むものです。無碍にはされないでしょう」
力強くきっぱりと言い切るカタリナさんに、ひとまず俺達も頷くしかない。いやまあ現行犯逮捕ができれば、一番話が早いしね。
となるとやっぱり、はい今毒を盛られました、怪しいのはこいつです! という流れへ即座に持ち込むためにも、儀式中の待ち時間に、侯爵が以前の事件でいかに怪しい立場か、という話をするべきだろう。
物証を用意できない可能性が高い以上、これはもうインパクト勝負でいくしかない。幸い相手は状況次第では自供もやぶさかではないだろう珍しい犯人だ。なんかこう気に入られれば勝算は十分ある。自供しなかったとしても、この世界には女神の鐘とかいうちょっと穴のある嘘発見器があるんだし、どうにかしてくれるだろう。
しかし俺以外の皆さんは、犯人がそんな愉快なクソだとは知るよしも無い。
最初はひとまず全員無事で生きて帰れれば良いね、という方針だったはずのカタリナチームだが、あれよあれよというまに面倒くさいことになってるよなあ。まあ俺はけっこう楽しんでるんですけどね。
俺が喋れない縛りに甘えて黙って皆を眺めている間にも、昔の事件が侯爵のせいだった、とスムーズに訴えるにはどう言えば良いかについて議論が交わされるが、やはり物証が無いことがネックだ。下手なやり方では、儀式での毒物混入が侯爵を陥れる罠とでも捉えられかねない。
「どうすればいいんだろう……。」
悔しげに呟くルビーさんの表情には焦りが見える。他の三人も同様だ。そもそもマジで対策を立てる時間が少なすぎる。良い案が出るなら俺が出しゃばる必要はないわけだが、さすがに犯人の特性までカバーした作戦を彼女たちに立ててもらうのは難しいよな。
しょうがないので俺は片手をあげて、困ったような微笑みを浮かべ、皆の顔を見回した。
「詳しいお話はできないのですが……」
それだけを言い、自分の胸を握りこぶしで軽く叩く。どうぞ任せてくださいよ皆さん、のジェスチャーだ。
この中で現在一番話すのに向いていない俺からのアピールに、もっぱら議長ポジションになりがちなカタリナさんが、念を押すように厳しい視線を向ける。いや多分これ厳しいというか、心配してくれてるんかな。
「自信がおありなのですね?」
まあそこそこに。
ちょっと急な上に縛りプレイなせいで諸々雑ではあるんだけれど、告発した上でおじいちゃんを喜ばせられそうな策は一つ思いついた。
細かく説明すると、多分止められる。なので喋れないのを盾にしてごり押すしかない。
とりあえず根拠もなく自信満々の穏やかな笑顔でも浮かべて、ゆっくりしっかり頷いておこう。
まだまだお子ちゃまと言っても良い十歳の俺ではあるものの、これでもそれなりの実績はあるのだ。ちょっとくらいは説得力もあるだろう。とりあえずヴォルフが味方してくれることは確かだから、多数決になってももう一人引き込めば勝てる。
などと俺がセコい算段をする間に、即断即決話が早いでおなじみのカタリナさんが、俺の瞳をじっと覗き込んでくる。なんか見透かされてるみたいで怖いです。
「……信じましょう。少なくとも、現在効果的な方針は出ていないのですから、検討をするべきです」
カタリナさんのその言葉に、ルビーさんとクリスさんも、まああんたほどの人がそう言うなら……みたいな顔をして頷いた。ありがとうカタリナさん。
そうと決まれば善は急げだ。早速仕込みを始めさせてもらおう。
俺はルビーさんに顔を向け、警戒心を解くような、柔らかい笑みを浮かべた。
「あなたの大好きな人について、聞かせていただいてもよろしいですか?」
予想外だったのだろう質問に一度目を瞬かせてから、ルビーさんが頷く。
彼女の中に残るあの日のリリスさんの姿形こそ、俺にとって今必要なものなのだ。ついでに小道具もいくつか用意してもらう必要がある。
おじいちゃん、気に入ってくれるかなあ。まあ気に入られなくて追加で騒動が起きたら、それはそれでアリっちゃアリだ。
というわけで、あとは仕上げをご覧じろ、ってな。




