はじけろ!!クソ野郎対談!!
というわけで、ここからが対談本番である。
クソ野郎おじいさんとクソ野郎少年二人でいそいそとお茶を用意し、対面する形で席について、最初に口を開いたのはクソおじいさんのほうだった。
「ひとまず犯人として気になるのは、やっぱりどこで私の犯行だと疑いを持ったか、というところだよねえ」
まあそこは色々な意味で一番確認しておきたいところだろう。俺だってそうする。
足を組んで優雅に座りながら、俺はそこそこ素に近い表情で、僅かに首をひねった。
「そうですねえ、どこ、と言われると難しいというか……。決定的なほころびは無かったと思いますよ。
ただ、やはり言動に違和感はありましたね。前回の事件や、自身の推薦する女王候補への関心の薄さは、少々やり過ぎかと。
貴方ほどの高位貴族で、かつ高齢でありながら従者を同行させないというのも、高潔な清貧さというより、秘密を知られる可能性のある相手を極力排除し身軽に動くため、ととれました。」
言えば言うほど決定打が無い。カタリナさんが得意分野で活躍してくれなければ、なんか怪しいな、で終わっていてもおかしくはなかっただろう。
俺の話をフムフムと機嫌良さそうに聞いていたアドニアさんに、今度は俺から質問を切り出す。
「それでは、今度は僕の欠点について伺ってもよろしいでしょうか? ぜひとも今後の参考にさせていただきたいので」
カスの先輩から客観的に見た怪しさを指摘していただく機会というのは、正直鬱展開に出会うことよりはるかにレア度が高い。まあ奴隷落ち騎士リアタイ視聴よりは低いだろうけど。
今後も更にモリモリと趣味の充実を図りたい俺としては、かなり興味のある話題なのだ。
交換条件のような交互の質問に、アドニアさんは当然の如くニコリと笑う。
「ちょっと性急すぎたかな。私が言えたことじゃないけどね」
「やっぱりそうですか?」
「それに、そつなく振る舞おうとしすぎかもしれない。もうちょっと感情が見えたほうが、周囲は安心するんじゃあないかな? ま、そのへんのさじ加減はきみも常日頃意識はしているだろうけれど、こうした特殊状況下でも普段と変わらないだろう姿を維持しすぎるのは、いささかやりすぎだ」
「そうですねえ。ついつい冷静に振る舞おうとしすぎているかもしれません。今回は特に、神の加護を持つ人間として期待をされていることですし」
「はは。神様の思惑なんて、我々人間が推し量ることなど出来ないと思うけれどね、個人的には」
「僕も同じ気持ちですよ。あくまで個人的な見解として」
薄々感じていることだが、この世界の神というやつに善悪の基準があるとしたら、それは人間が持つものとはまあまあかけ離れていることだろう。
社会にとって存在がプラスではあるが性根がカスすぎる俺や、神様のお膝元で巫女候補を害しているアドニアさんが、こうしてのうのうと神殿でお茶しているのがその証拠だ。
といっても、自分たちの傍らに超常の力を振るうことができる上位存在がいる、と確定している以上、信奉する流れになるのは自然なことだ。そしてそれを社会の支配者層である俺たちのような人間が、あんま意味ないんじゃない? などと公の場で発言するのは愚かというもの。なのでこれはあくまで、個人的な場での個人的な感想なのである。
まあぶっちゃけ、俺も、多分アドニアさんもそのへんのことに興味は無い。人間の営みに興味があるため手助けをするのが俺で、逆に壊すのがアドニアさんの趣味のようだからな。
「きみはまあ同じ穴の狢だとして、トゥリーナ男爵は、見るべきところのある聡明な女性だね。私のような胡散臭い老人を、きちんと疑いきちんと調べているようだ」
なんてことのないようにそう言うアドニアさん。部屋に俺しかいなかろうが、そのへんはやはり察していたようだ。
「おっしゃるとおり、彼女はとても聡明な人格者です。しかし、よく薬を手にとらせてくれましたね。口に入れるものだから人に触れられたくはない、とでも言えば、断るにも角は立たないでしょうに。ただでさえ前回の事件があるのですから」
「ああ、まあそれくらいはね。断ったところで疑われていれば、同じ結果だったろう?」
それこそおっしゃるとおりである。どうせ俺たちはアドニアさんの部屋に侵入し、あの一番怪しい薬もとい毒について調べていたことだろう。
しかしアレだな。この余裕綽々な様子を見るに、今回は毒の仕込みはもう終了していると考えていいだろう。妨害や告発があったうえで、おそらく彼の手を離れても実行可能な計画があるんじゃないだろうか。
とすると、多分やっぱり神殿側にも彼の手の者はいるのだろう。それが自発的なものか、あるいは断りようのない弱みでも握られてのものかはまだ判断できないが、問題はそこではない。
正直ここまでの会話だけでも、自白としては十分すぎる。となると、俺はこの部屋から無事には出してもらえなかったり、この情報を他の人間へ伝えられない状況にされるに違いないんだが、まあそれならアドニアさんから思う存分話を聞いておくべきだろう。銘柄は分からないが香り高い紅茶で喉を潤わせ、さて女王選まであと何時間だったか、と思いつつ、次の話題を選ぶ。
犯行方法を吐いてもらうのは当然無理だろうな。今から決行すること自体はバレていようが、いつ、どこで、誰が、どうやって、まで俺にわざわざ教える意味がない。
共犯者は誰ですか? も、同じ理由で聞いても仕方がないだろう。
まあ手段全般は無理だろうとして、思想は逆にあけすけに話してくれそうな雰囲気ではある。とりあえずこの路線で行くとするか。
「個人的に一番興味があるのは、犯行動機と被害者の選定基準なのですが、お話ししていただくことは可能でしょうか?」
「かまわないとも」
アドニアさんは軽い調子で頷いた後、足を組んで手を太ももの上へ置き、ゆったりとリラックスしながら軽く目を瞑った。俺から危害を加えられたり逃げられるとはみじんも思っていなさそうのは、油断ではなく、こっちの性格を把握されてるからっぽいんだよなあ。
「この国はねえ、正直ちょっと変なんだよ」
「個性的だとは思います」
「言葉を選んでくれてありがとうね。でも端的に言って、非合理的だよね、いろんなところが。
特にこの女王選。結果的に女神のご意志に従うなら、その前の足の引っ張り合いも、その後のある種の粛正も、一体何のためにやっているんだろう? まあ世代交代という意味は多少あるにしてもだよ」
アドニアさんはそう言い、小さく首を横に振った。
神が実在する世界なだけあって、宗教国家自体はこの国以外にもある。しかしながら、今まで見聞きした女王選の制度とそれに付随する貴族の動きについては、まあね、そうね。言葉を選ばず言うとだいぶアホらしいというかね。
女王選は矛盾に満ちた行事だ。他の女王候補を侵害してでも特定の女王を仕立てたがる一方で、そこまでしておきながら私益を拒否しているようにも見える。
覚悟のわりに妨害方法はまあまあ手緩く、引退後もそれなりの暮らしをしている様子でもある。死人が出ないぶん、ある意味平和的な政争だと言えるんじゃないだろうか。
まあそんな中でデカめの被害者を出したのが、目の前のおじいちゃんなわけだが。
控えめに同意を示す俺に、アドニアさんは世を憂うような寂しげな視線を向けてきた。
「私の家は貿易事業も扱っていてね。私自身も、勉強のために国外に出たこともある。よその様子を見るたびに思ったものだよ。うちの国は中途半端に平和だなあ、なんて」
「一般論で言えば、平和でないよりマシではあるでしょう」
「もちろん。王位争いで、血で血を洗うような事態が起こるような国より、よほどマシだ。殺すというのは、場合によっては一番の無駄になる。
多少の事件はあるけれど、まあまあ飲み込める解決もある。女王の治世はいつもそれなりに安定しているから、生きていくだけなら十分な土地だと思うよ。
しかしまあ、そういう場所に長年住んでいるとね、飽きる」
「なるほど」
同意しかない。
本当に同意しかない。
極端な繁栄やそれに付随する諍いもなければ、悪政による弾圧も、それへの反発もない国。俺がほんの短い間過ごして感じた印象に過ぎないけれど、グラキエスはそんな印象だ。静かでどこか薄暗く、けれど逃げ出すほどでもない。いやまあクリスさんはめっちゃ賑やかで面白いんで、局地的にそうでもないんだけど。まあそこはさておき。
そういう国は、俺みたいなやつにとっては居心地が悪い。
ファルシールだって平和すぎて悪党が病みそうな国ではあるのだけれど、平均してかなり薄めの鬱展開しかない一方、ハッピーエンドは徹底している。起きるドラマに、ある程度メリハリがあるのだ。
しかしグラキエスには、多分それすらない。中途半端な事件が起きて、中途半端な解決がある。山も谷も程々でオチが弱い。日常っちゃ日常である。
他人の悲劇含むなんかおもしれーこと起きねえかな、なんて思ってるやつにとって、これほどつまらない場所もない。
当然褒められた考えではないが、カスの理論ではそうなるのだ。
俺の場合は結果的にハッピーエンドを求めるタイプだから社会に迎合できているが、アドニアさんの場合は、そうじゃなかったんだろうなあ。
「貴族としてそれなりに、国に尽くしてきたつもりはあるよ。そのぶん良い暮らしをさせてもらっている。恵まれている生まれだね。
それなりに優秀で、そこも良くなかった。こうして倦むだけの余裕があってしまった。
だから一回、壊してみたくなっちゃってね」
「破壊をすることで、脱却なさりたかったのですね」
「そうだね。なにか起きて欲しかったのさ。反抗期の若者みたいでお恥ずかしいことだよ。
十五年前のあのとき、本当は、女王選の推薦者役なんて断っても良かった。けれどねえ、彼女が来てしまったものだから」
「リリス・マルティ氏でしたか」
「そう。彼女は本当に、なんというか……、独特な女性だったね。とてもおっとりして見えるけれど、おそろしく芯が強くて、きっとどこにいたって、どんな地位についたって、彼女は彼女のままだろう。誰からも愛される女性だ。
だから、彼女を壊せばきっと、面白いことが起きると思った」
独りよがりな動機を語るアドニアさんの表情は、あくまで穏やかだ。そこには狂気も憎悪も執着もない。あんまり暇で仕方がないから、町中をぶらぶら歩いて、ピンとくる本を買ってみた。それがなかなかの当たりでね、なんて言うような調子をしている。
つまるところ、彼は暇つぶしに一人の人間の人生を潰してみたわけである。そこから何か物語が生まれて欲しくて。
ああ、わかるとも。俺もクソだからな。一歩間違えればこうなっていた可能性は十分にある。
共感と同時に、ある種の同情すら覚えしまう。まだ人間社会で生きていられるカスと、そうでなくなってしまったカスとして、俺はちょっとした連帯感を覚えていた。
「……あの後、神殿と貴族はそれはもう紛糾したものだよ。うちの国にしては、という程度だけれど。皆の悲喜こもごも、まあ悲劇の割合が多いわけだが、それをしばらく眺めて、私はそれなりに満足した。人生に動きがあるというのは良いものだ。
しかし、ちょっと上手くやりすぎてね。私のせいだって全然気付かれないんだよね」
「おや、今回は露見してもよろしいので?」
「はは、まあよろしいといえば良いのだけれど、自分からゲームを降りるのはつまらないだろう。そういうものさ。
ただ、今回はルビーくんが来てくれたからね。あれが今回の参加の、決め手といえば決め手だったなあ。復讐のために女王を目指すなんて、なんとも気合いが入っている。素晴らしい子だ」
しみじみと、かつ嬉しそうに庭へと視線を向けるアドニアさんの様子は、姿だけなら孫の成長を喜ぶ祖父のようにも見える。実際にはルビーさんに刺されても仕方ないクソじじいなんだが、彼からすれば、面白いコンテンツが転がり込んできたとしか言いようがないのだろう。
そこではしゃぐのは分かるが、カタリナさんが来なければ迷宮入りしていただろう前回の事件に比べて、今回は俺達という邪魔者を抱えている。暇さが限界とはいえ、決行を断念せず怪しいムーブを発見されている理由は、もう一つくらいあるんじゃないだろうか。
なんてことを勘だけで考えたので、答え合わせをしてもらおう。
「動機は理解できました。被害者の選定基準も、おおむね。
しかし今回は、やはり随分、前回に比べて杜撰ではないでしょうか? 露見してしまったならそれはそれで仕方がない、と思っているにしてもです」
「ああ、それは単純な理由だよ。見ての通りもう歳だからね、持病がいくつもある。うちの医者の見立てだと、あと一年ってところだそうだ」
「おや。それでは次の機会を、というわけにもいかないでしょうねえ」
「ああ。とはいえ、案の定バレちゃった。注意力散漫だね。やっぱり歳には敵わない」
若者じみた言葉遣いで、アドニアさんはお茶目に笑った。わろとる場合かというもんだが、彼からしたら、終わりがくるのは一種の救いでもあるのかもしれない。だからこうもどうしようもなく罪を犯しておいて、穏やかな顔ができるのだ。
「これまで十分すぎるほど、権力者の席に座らせてもらった。もう私には必要のないものだよ。だから最後は晩節を汚したと誹られようが、家が没落しようが、どうでも良いと思ったんだよね。正直私には、私以上に大切に思えるものが無かったものだから」
「そのような人生もあるでしょうとも」
「わはは。きみは本当に、あとからどうとでも言い訳できる言葉選びが上手だ」
「いえ、そんな。自分では、まだまだつたない会話術かと思います!」
「謙遜する必要はないさ」
アドニアさんはそう言ってくれるが、こうして性根をバラして相手の自白を聞く、なんていうある種のギャンブルをやっているようじゃ、実際まだまだとしか言えない。
ついでに言うなら、こうして赤裸々に語ってくれる相手と自分の嗜好をぶつけ合えないことが、俺だっていくらか忍びなくはあるのだ。全然保身を優先するけど。
まあそのぶん、ちょっとくらいは申し訳なさそうな顔でもしておこう。
「しかし、僕の受け答えは、聞いていて面白いものでもないでしょう?」
「そうでもないさ。それに、例の人身売買事件の顛末はこの国でもなかなか有名だからね。きみの言葉に嘘がないことも、その必要性についても理解はしているつもりだ。
つまるところ、きみは私とは違って、自分では手を下さずに人間を観察したいのだろう? ああ、もちろん返答は結構。きみも自分を大切にしてくれたまえ」
そう言ってくれるアドニアさんに、おれは礼儀正しく深いお辞儀をする。そうなんスよ~。とか言えないからね。
彼と同じく、俺は全くもって俺のことが世界でいちばん可愛いのである。たとえ非の打ちどころのない優しく愉快な人々に囲まれていようとも、性根の腐った畜生なんてのはそんなもんだ。
そうこうしているうちに、カップの中もすっかり空だ。女王選までの時間もそれほど無い。
そろそろお開きという空気のなか、アドニアさんは立ち上がって、机の中から一枚の紙を取り出した。
真っ白な地に、金色の花模様で縁取られた美しい紙。その模様には、見覚えがあった。
この春の女神の神殿によくあしらわれている、六枚の花弁の花だ。
つまりこれは神に関わる品ということである。
茶器を横へ押しやって、紙と筆記具をテーブルの上へ並べたアドニアさんは、片頬を上げたちょっと悪戯っぽい笑顔を向けてきた。
「まあ分かっていたとは思うけれど、このまま帰すというわけにもいかないからね。
これはフロルの神具、女神の契約書だ。なかなか珍しいものなんだよ?」
「これはこれは、貴重な物を見せていただいて……。ちなみに、断った場合は?」
一応そう聞いてみる俺に、アドニアさんは指先で茶器を示してみせる。
「うちの薬師は実に腕が良くてね。さっき君用に出したとっておきのお茶にも、少々毒が仕込んである。いまなら中和剤を飲めば、毒の症状が出る前に効くだろう。ちなみにもちろん、中和剤がどこの何に仕込んであるかは内緒だよ」
「ふふ、それでは仕方がありませんね!」
笑ってそう言う俺に、アドニアさんも軽く笑い声を上げる。おい神殿ちゃんと持ち物検査しろ。いや、これはマジでアドニアさんとこの薬師さんが、隠蔽特化すぎる可能性もあるか。
嫌な事実が判明したが、これくらいは予定調和のうち。俺も彼もそれなりに裏をかく気は満々なのは言うまでもない。所詮悪党同士だからな。
アドニアさんはさらさらと契約書に文章を認めていき、紙の下部へサインを入れてから、俺に向かってそれを差し出した。
内容はこうである。
『ライア・エル・ファルシールは、女王選に関わる事件について、知り得た情報を誰にも話さない。また、書き記すこともしない。なお、契約書の制作者であるアドニア・フロラキスが了承した場合、この限りではない。
契約の期限は、二年とする。
制作者 アドニア・フロラキス
同意者 』
以上だ。なんとも一方的かつ簡潔な文面である。
フロルの神具の契約書なんて、名前くらいしか聞いたことのない事前知識ゼロの俺としては、これが正当な使い方なのかすらちょっとよく分からないが、まあいいか。どうせ脅迫の一つや二つはあると思っていた。ペンを拝借し、ちゃっちゃとサインを入れちまおう。
躊躇が毛ほどもない俺の様子にアドニアさんは若干驚いていたが、そりゃ毒の効果もなんも分からないんだからこうするしかなくない? まあほんとに盛られたかも定かでないんですけど。
さて。契約の対価に、アドニアさんから本のページに染みこませていた中和剤を受け取って、これで今度こそ解散だ。お互い多少は忙しい身、俺はそろそろ自分の部屋に戻りたいし、アドニアさんもルビーさんの様子が見たいだろう。多分。いやルビーさんどこ行ったんだか知らんけど。
ペンを置き、立ち上がって、俺は子供らしく無邪気ににっこりと笑う。
「これで良し! 問題ありませんね!」
「そうだねえ。あとはお互い、女王選の結果を待つだけかな?」
「ええ、楽しみです!
……しかし、いったいどうして僕に、こんなふうに話をしてくださったのですか? 貴方にはなんの利もないでしょうに」
最後に俺がそう問うと、アドニアさんは、他人の人生を自分勝手な理由でめちゃくちゃにした男とは思えないような気負いのない顔で、にかりと笑った。
「いやあ、ただ聞いて欲しかっただけだよ。
年寄りのくだらない鬱屈も、しょうもない暇つぶしも、ちょっとお茶でもしながら愚痴を言える相手が欲しかったのさ。なにせそれすらない人生だった!」
そう笑う彼は、確かに初対面の時に比べると、随分表情も明るく見える。
元々好々爺然とした人ではあったが、特有の胡散臭さがちょっと抜けたというか、まあ、すっきりしたんだろう。
それでもやっぱりまだ人生最後の娯楽が欲しいのだろうアドニアさんは、俺に向かってお茶目に片眉をあげてみせる。
「さて、人間というものは、どうにも自分について語りたがってしまう生き物だ。
私もついに話さずにはいられなかった。
ところで、きみはどうだろうね。そんなにも幼いうちから深い業を抱えるきみは、一体いつまで吐き出すことを我慢できるのかな?」
彼の問いに、俺は静かに微笑みだけを返す。
応えはしないが答えは決まっている。
俺の楽しみは、当然死んでも俺だけのものだ。
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