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鬱展開大好き主人公VS優しい世界  作者: 石蕗石


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観光オブ女王選

やってきました女王選会場。

いやー、それなりに長い道のりだった。

一回途中の街での宿泊を挟み、会場の大聖堂へやってきたのは出発翌日の昼。まあまあな移動で腰やら何やらが若干しんどい。健康優良お子様である俺でもこれなので、女性陣はよりお疲れ気味だ。これでもヴォルフの回復魔法で、振動が伝わって痛む尻等を癒やしてもらったんだけれどな。

ちなみにそんなわけで大活躍兼お疲れのヴォルフは、それでも俺の荷物を背負ってしゃんとしているので、気力体力ともに鍛え方が俺とは違う。俺のお世話に加え、魔法の勉強に体力作りまでやっているとは、さすが勤勉実直真面目で優しいパーフェクト家臣だな。

カタリナさんは普段に比べれば若干ジト目になっており、些か不機嫌そうにも見える。でも多分眠いだけだなこれ。ちなみに隣のクリスさんは、デフォルメしたら目の描写がバツになっていそうな分かりやすい疲労困憊っぷりである。まあ彼女の場合、そもそも俺たちを迎えに来た時点でだいぶダメージを受けていたので、さもありなんといった様子だ。


うちの王都の大聖堂に比べればいささか質素ではあるものの、さすが宗教国家の中心地らしく、春の恵みの女神フロルを祀る大聖堂も荘厳で巨大だ。

建物自体もだが、周囲には神官達が暮らす寮、そこで使われる日用品などを作る職人、各種下働きの人間などが暮らす家々や店、さらに彼らが日々消費する食料を賄うための農地などが広がり、一つの街として機能しているようだ。

女王が住まう土地でもあるのだが、首都はここではなく、もう少し離れた場所にあるらしい。といっても、一日あれば簡単に往復できる距離らしいが。

町中を馬車で通って見ただけの感想になるが、一般的な街に比べれば、人口の割に賑わいが薄いというか、活気があるという様子では無かった。

とはいえ寂れているわけでもないし、治安も悪いようには見えない。いや路地裏とか行ったら物乞いが転がってるかもしれないけど。

まあ、街の中心にある神殿からして、ワイワイガヤガヤやるような建物じゃないもんな。規律のある街、と表現するのが良いかもしれない。


街の中心にある大聖堂は、前方を広場と庭、後方を薬草園と林に囲まれ、静かな街の中でもさらに静かな場所に建っている。

正面の門から中に入り、まっすぐ大聖堂前に通された俺たちは、白いローブの一団に出迎えられた。

うちの国教である調和の女神スフィア、つまり俺を転生させたテンプレ行動形式が目立つ例の女神を崇める神殿の神官と比べると、女性の比率が高く、法衣だろうローブもどこか華やかでやわらかなデザインだ。

先頭に立つ神官長らしい人物も老齢の女性なので、そういう方針の宗教なのだろうか。

馬車から降りた俺たちは、女王候補であるカタリナさんと推薦者のクリスさんを先頭に、俺とヴォルフがその後ろに並ぶ。見てはいないが更に後方では距離を開けて、クリスさんの従者さん方が整列していることだろう。

まずは俺たちが礼をし、それに神官達も頭を下げ、顔を上げればあとは挨拶開始だ。

こんな場面では流石に貴族らしくきりっとしているクリスさんが、しゃんと背筋を伸ばしてきっちりと頭を下げ、優雅にまた顔を上げる。ちなみに後ろに居る俺やクリスさんの従者さん達は、この時点で全員頭を下げっぱなしの状態だ。


「お出迎えいただき、誠に恐縮でございます。

本日、わたくしクリス・エルピナルは、エルピナル伯爵家当主として、神聖なる女王選へふさわしきかたを推薦いたします」


そう言って再び頭を下げ、今度はその姿勢のまま静止したクリスさんの横で、次にカタリナさんが優雅に一礼をした。


「クリス・エルピナルの推薦により参りました。わたくしはカタリナ・トゥリーナ。女神フロルを崇拝する信徒の一人として、謹んで女王選の儀に参加させていただきます」


カタリナさんがクリスさんの横で一緒に頭を下げると、今度は神官長さんの挨拶が始まる。らしい。実際にどういう様子なんだかは頭下げっぱなしなので見えないが、衣擦れの音が聞こえるので、まあなんかそれらしい動きをしているんだろう。


「女王選への参加の名乗り、確かに聞き届けました。

春の恵みの女神フロルを崇拝する信徒の一人として、女神の御前での女王選を、わたくしアデルミラ・アンソラ神官長が見届けさせていただきます。……さあ、みなさま、お顔をお上げになって」


厳粛に名乗った後、声色をゆるりと親しげに解して、アデルミラ神官長さんが全員に声をかけた。

きっちりと結い上げられた白髪や一分の隙も無く着込まれたローブ、出迎えられたときの無表情から非常に厳格そうな印象だったアデルミラさんだが、基本的な対人姿勢はおそらくこちらなのだろう。俺たちという特に歓迎されていないどころかなんで来たんだかわからん人間まで含めて、全員をにこりと微笑んで見渡し、ゆったり片腕を広げた。


「本来であればお茶の一杯でも振る舞いたいところですが、本日は残念なことに、トゥリーナ様とエルピナル様、……それと二人のお客様以外とは、すぐにお別れをしなくてはなりませんね。さあ、荷運びのご準備を」


アデルミラさんの一声で、後ろに控えていた神官達が、クリスさんの従者の方々のほうへ移動する。女王選中に使う二人の荷物がテキパキと運ばれる中、「お客様」認定していただいたらしい俺とヴォルフへ、アデルミラさんがまたにこりと微笑んだ。

なんかしらんが歓迎ムードである。

国の王様決める宗教イベントに、呼ばれてもいねえ他国の王子が勝手に乗り込むわけだから、こりゃ全力で丸め込まなきゃなりませんねと入れていた気合いが早くも脳内で空回り気味だ。

まあ簡単に入り込めるぶんにはいいんだけれど、この後どっかの部屋に幽閉されたり、人知れず暗殺されたりしません? 勝手に出国しただけに、他国で行方不明になる覚悟くらいは出来ていたんですが……。

内心困惑しつつも、とりあえずは挨拶でもしておくべきだろう。第一印象は肝心だ。

改めて深々と礼儀正しく頭を下げ、俺は目元に僅かに力を込め、ほんの少し表情を固くした。

緊張気味の僅かに険しい目つきや、生真面目に引き結んだ口元から、清楚さと健気さをどうにか醸し出だせていれば幸いですね。


「このような形での突然の訪問を、まずはお詫びいたします。

私はライア・エル・ファルシール。ファルシール王国第三王子です。

本日は女王選へと参加なされる、カタリナ・トゥリーナ男爵に付き添いたく、この場へ参らせていただきました。横の者はヴォルフ・アーレンス。私の側付きです。

本来であればこのような行動を許される立場ではありませんが、お世話になっているトゥリーナ男爵の一大事とあり、いても立ってもいられず、同行させていただきました。

誠に勝手なお願いで甚だ恐縮ではありますが、どうか、女王選の期間中、トゥリーナ男爵とお話をする機会をいただけないでしょうか……?」


礼儀正しい振る舞いの中に一抹の不安を混ぜつつ、ひとまず下手に出ておこう。

俺は国では高貴で可愛く優しく善良なお子様として、各神殿の皆様にそれはもう孫のように可愛がられている。なのでこういうよその聖職者さんに、初手我が儘言ってくるガキとして接した際、どういう反応がくるのかやや予測がつかない。良い顔はされないだろうとは思っているけれど。

しょんぼり顔のポメラニアンの皮を被る俺の横で、側付きという立場のせいでガンガンとばっちりを食らっているヴォルフも、白い顔で頭を下げて緊張中のようだ。すまんね俺のせいでたびたび胃を痛めさせて。

へちょっとしおれた風情の美少年二人を前にして、アルデミラさんは穏やかな微笑みを浮かべたまま、ゆったりと頷いてみせた。


「もちろんでございます」

「えっ」


思いがけない速度でOKがでて、思わず素できょとんとしてしまった俺の反応を気にせず、アルデミラさんは納得顔だ。


「前回の女王選は……。素晴らしい女王が選ばれましたが、同時に悲しい出来事も起こりました。対策は幾つか立てましたが、なにぶん我々は、事件を事前に防ぐ、という行いに対して、専門的な知識を持ち合わせているわけではありません。至らぬ点もありましょう。

その清らかな神気……。調和を司るスフィア神の加護を持つかたが、こうして今回の女王選へと参られた。これは神意でありましょう。ぜひとも神殿にご滞在なさって、女王選をお見守りくださいませ」


あ~~~~。

なるほど~~~~~??

そういやそんなんありましたね。

日々感謝したり蔑んだりして半ば女神へのありがたみを忘れていたけれど、そう言われればこちとら一応加護とかいうチート持ちの選ばれし転生者様をやってるんでしたわ。

うちの国教であり、俺に加護を与えて王族に転生させた女神は、調和を司るという平和的な特徴を持つため、うちの国以外でもまあまあ広範囲で信仰されている。

こちらのグラキエス国は女神フロルを国教としているが、この二人の少女神は特別いがみ合うような関係を伝える神話も無いし、むしろどちらかというと、調和の女神スフィアは四季の巡りに関わる神自体との関係性が良い。だからこそ、うちとこの国は文化的にも宗教的にも軋轢が少ないのだ。

このへんの神様系知識は、神様が実在する世界の王族として当然基礎教養のため習ってはいるんだけれど、普段気にするもんでもないから頭から抜け落ちてたわ。


ええ……。

世界があまりにも俺に都合が良い……。

これまでにも優しい世界に対してうんざりとした思いを募らせてはきたが、こういう展開がくると、ありがたいと同時にいつか揺り戻しが来るんじゃないかと、未だに疑心暗鬼になってしまうんだよなあ。頭とか背中に変な冷や汗が滲んでしまう。

しかし、なんかウエッてなるから、などという理由で好機を逃して良いはずが無い。

これは嬉しい誤算と思ってありがたく受け入れよう。顔パスならぬ加護パスってな。ガハハ。

ひとまずは、ほっとした気持ちをそのまま表現するべく、胸の前で両手をきゅっと組み、肩から力を抜く。いや感情をそのまま出力すりゃ良いのに、演技癖が抜けないせいでいちいち可愛らしく清楚な動きをしてしまう……。俺が清らかで愛くるしい第三王子様なばかりに……。


「あ、ありがとうございます! ふさわしい働きが出来るかはわかりませんが……、女神スフィアの加護を受けるものとして恥じぬよう、謹んで滞在させていただきます」


俺たちとがそうして話す間に、荷下ろしはすっかり終わった。

神官さん達が撤収し、クリスさんが従者を見送ると、クリスさんとカタリナさんは女王選用の宿舎へと通される。

と言ってもそれ専用の建物は無く、普段は神殿を訪れた人間のための客間として使用されているらしい。清潔ではあるが、広さも置かれた家具も質素なものだ。

俺は彼女らとの交流は許可されているものの、宿泊するのはさすがにやや離れた場所にするらしく、神官用の宿舎の一室を貸し与えてくれるらしい。

宿舎の使い方や女王選までの生活で気をつけることなんかを道中聞きつつ歩くものの、宿舎内は静かなもので、説明の声と足音以外は、外から鳥の声が僅かに聞こえる程度だ。頑丈そうな石造りの外見に違わず、壁やら扉やらがそうとうぶ厚いのだろう。

うまいこと潜り込んだ喜びをひとまず噛みしめている俺、まあまあ胃の調子が落ち着いたらしいヴォルフ、はたからでは何を考えているんだかわからんカタリナさん、色々聞きたいのが雰囲気から丸わかりなクリスさんは、とりあえず推薦者用の控え室へと集まった。


「そういうことがあるなら、教えてくだされば良かったのに!」


クリスさんは扉を閉めると、開口一番そう切り出した。俺の加護の話だろう。

つっても俺自身が普段からちょっと忘れ気味なんだからしゃーないと言うよりない。


「いえ、まあ、そこは言いふらすようなことでもないので……。

それより、早速女王選について調べなければなりませんね」

「そうですね。部屋の行き来に制限があるということでしたので、役割分担をして情報収集をするとしましょう」


クリスさんの動揺をそっちのけで話し始める俺とカタリナさんに、クリスさんは顔をむぐぐと顰めてから、大きくため息をついた。


「もう! わたくしのこと、置き去りにして話さないでくださいまし! そういうお話でしたら、自国の貴族と文化風習について一番詳しいのは、わたくしですわ!」


ぷんぷん! という擬音が付きそうな顔と言動の割に、クリスさんは話が早い。さすがに重大案件を一族から任されるだけはあるのだろう。決してこの裏表のない愛嬌一点突破で初対面の女王候補を絆してこいや! みたいな期待だけで送り込まれたわけではないということだ。いやほんとにそうか??

お互いをまあまあ理解しないまま、ひとまずチームカタリナ(仮)、活動開始である。

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― 新着の感想 ―
えっ…………今後、スフィアと仲がいい世界中の神殿のお偉いさん方からの好感度カンストが確約され王子!?? そんな……そんな王子に都合のいいことがあっていいのか……パパ王からの大説教に神殿の偉い人から取り…
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