第25話 闘技大会・その漆
半年ぶりぐらいの更新!
色々ごたついてて以降更新できるか分かりませんが書き溜めを投稿します!
【始まりの街・西部 闘技場】
キキにはなんとか勝てた……。やっぱり、固有以上のスキルは強いな……。使いこなせる、キキの才能が無いとほとんどが無用の長物になるけど。
さて、そんなわけで三位決定戦が行われているのだが……
「スレイはどっちが勝つと思う?」
まあ、スレイも俺と同じ意見だろうが……
「多分、キキが勝つな!」
「だろうね。ギルド内にも強さの序列はあるし、順当に進んでる。ここでキキが負けるとしたら、未知のスキルとかじゃないの?」
「……お前もそう思うか?何か一つぐらい隠し持ってそうなんだけどな〜……」
「でも……その程度で負けると思う?他ならぬ、ボクの妹だよ?」
「……そうなんだよな〜……、ガルムにはご愁傷さまとしか言えないが、とにかく頑張ってくれ!」
と、まあこのまま何事もなく進んでいたのだが、最後にガルムが雷属性のような大技を使い、キキに大ダメージを与えたものの、その終了後の硬直にキキがしっかりと止めを刺し三位が決まる。
「ガルムも善戦したね〜!」
「そうだな、あそこまでできるとは思ってなかった!……さて、次は俺らの番だし移動すっか!」
「ん?……あぁ、そうだね!舞台で会おう!」
―――――――――――――――――――――――――――――
《さあ、待たせたなお前ら〜!!待ちに待った決勝戦の時間じゃ〜!!》
《決勝のカードは……言わなくとも分かるだろう!ここまで勝ち上がってきた最強の名に相応しい二人……、ラン対スレイだ~!!》
《対戦者の説明から!もはや敵なし!言わずもがなと知れ渡ったこいつの名前は〜……スレイだ~!!》
《さあ、そんなスレイの対戦者は……予選Aブロックの惨状を生み出し、本戦でも殆どの相手を完封してきた……性別不詳、年齢不詳、ただただ偽名であるということしか分からない!その名も……ラン〜!!》
「……流石に今は演技しなくていいよな?」
そう言って話しかけるは、最高の友人で、今や冒険者最強のレッテルを貼られているスレイ。
「……えー、まあ、流石にいいとおもうぞけどな……それとも試合中も演技するのか?」
スレイが笑いながら聞いてくる。
「流石に戦闘に集中したいしな……パスだ。……あぁ、聞いてなかったな。全力か本気か、どっちがいい?」
「勿論、全力で!!……手加減されて勝っても嬉しくねえし、今の全力を見てみたいっからな!」
そんなの当然……とばかりに即答する。
「ってな訳でよろしくな!」
「全く……せわしないな……。」
《両者が相見えました……!それでは、最強決定戦、運命の大一番!……決勝戦、開始!!》
―――――――――――――――――――――――――――――
「なあ、スレイ?これから俺は全力を出そうと思っているんだが……
そう簡単に殺られてくれるなよ?」
セレストがそう言った途端、形容し難い威圧感―――殺気がスレイへと走る。
「ッ…………!」
この殺気による威圧はセレストのギアがかかり始め、第一段階に入ったときに起こるもの。勿論、キキとの闘いでも本気で行っていたが、それでも手を抜いている。もっと端的に言うと舐めプに近しい。……ただ、キキはまだ成長過程、それでもスレイをもってして恐ろしいと言わしめるのはセレストの異様な才能が関係している。こんな化け物になるとは考えたくもないだろう。
先程のセレストとスレイの会話……それには二つの意味が込められている。一つはスキルの使用制限の解除。もう一つは……
(セレスト自身の性能の制限解除、か……。最後にセレストのこの状態を見たのは……丁度三ヶ月ぐらい前に別ゲーでキキをナンパしてた輩をフルボッコにしてたときか?あいつら、女をナンパしたらもう一人可愛い女がやって来たって思ったろうな……。実際は死神だがな……、って、 こんなこと考えてる場合じゃねえ!ぼやっとしてたら殺られる!)
そもそもこの第一形態と呼ばれているのは、とあるVRMMOで行われた陣営イベントでたまたま少数派に属していたセレストが阿呆ほど暴れまわり、百人単位の討伐隊を組まれたのにも関わらず無傷で殲滅していた事件が由来である。被害者の総意は『人数差に開きが出来すぎたから、ハンデによる特殊ボスだろ!』ということでまとまったそうだ。
その時にレイドボスやラスボスに例えられていたことから、それになぞらえ第二形態も見れなかった等と掲示板で流れていたためだ。この言葉を『蒼月』メンバーが気に入ったことで、ギアがかかり始めた状態のことを第一形態と呼ぶようになった。
その文言に間違いはないだろう。戦っているものからすれば、とんだ悪夢だろう……が第一形態の意味はそこにあらず、第二も第三形態も存在する。第四形態以降も存在はしているだろう。
だが、そこまで耐えられるかと聞かれれば、答えは否である。実際に見たことがあるのは第三形態と呼ばれる所まで。ギアが掛かる度に不利になることは明白。故に長期戦は圧倒的に不利。セレストに勝つためには最初から仕掛けに行きたいスレイだが……。
(フフフッ!……そうはさせないよ?)
読み合い、駆け引きでは現実世界でもトップクラスであろうセレストの前では、何を考え行動するかまで織り込み済み。いつの間に持ったのか分からない槍を片手で持ち突撃してくる。
(クッソ……!なんで片手を開けている?槍なら両手で持った方がいい……。舐めプか?なにか起きたときに対応するためか?それとも……)
「まだまだここからだよ、スレイ?【魔銃生成】」
この時、スレイが抱いた思いは……
(は、はは……)
苦笑である。
セレストが決まった武器だけを使う間は大抵の場合前座、舐めプに等しい。本気で闘っている場合、様々な武器を扱い、その闘いざまはまさしく狩り。他にも使い分け、遠距離攻撃を放った直後に近接武器に切り替え突撃してきたりと、動きが全く読めなくなる。
例外があるとすれば、それは……銃と刀、を扱う時。
銃と刀の二つを手に戦うという珍しいスタイルで、その強さは押して図る。銃二丁で戦ったり、二刀流でも戦うが、その強さは他の武器に拘っているときよりも圧倒的に強い。
銃も刀も扱いの難しい武器だが、『柊 奏』という、人間の皮を被った化け物とも言える彼には造作もない。
元来の器用さでどうとでもなるのだ。
糸もよく使っていて、銃、刀、糸を使用している際はまさに別格の動きをする。
今回の場合は刀が無いため、槍で代用しているが……
「【魔法装填】“装填:転移”」
【魔法装填】により、アドバンテージなど無い。
今回装填した弾は”転移”の魔法。当たったものを好きな場所に転移させる効果になっている。普通の“転移”だと自身と許可があるものにしか使用できないため、戦闘に使うことは大規模戦で味方を前線に送るくらいだろうが……
弾が当たったスレイが、セレストの前へと強制転移させられた。そのときには既にセレストが攻撃を行っており、槍が直撃。なんとか身をよじって急所は回避、追撃の魔力の弾丸も辛うじて避けたもののかなりのダメージを負っている。
「おいおいスレイ、そんなもんか?」
「ッチ……!舐め腐りやがってよぉ!」
だが実際、今はセレストの攻撃を凌ぐので手一杯。攻撃に転じるには……
「よっしゃあ!準備が整った!」
セレストが知らない手を使って反撃に出ることだろう。
「(剛力)!(疾走)!(金剛)!」
今使ったのはそれぞれSTR、AGI、VITを上げるバフだ。それ以上でもそれ以下でもないが、これらを発動することでスレイのあるスキルが発動可能となる。本来ならもっとバフを積みたいのだろうが、今できる限界なのだろう。
「〈天下無双〉!」
スレイが発動した切り札と成り得るスキル、その効果は自分と周囲の味方にかかっているバフの超強化、そして自身の攻撃力と防御力の超強化と特定条件で解除される無敵だ。この、特定条件というのは幾つかの候補の中から三つが抽選される。今回抽選された条件は……
(かなり良いのを引けたか?)
『合計三十体のエネミー、冒険者の撃破』『効果を及ぼした味方合計五人の死亡』『全バフの解除時』の三つだ。本来は、大規模殲滅戦にて輝く性能なので(入手した固有クエストが単独で大量の敵を殲滅するクエストだった)そこを潰すような性能となっているが、敵は一人、効果を及ぼした味方は自分のみで無敵、よってこの無敵が解除されるのはバフが切れたときになる。そして、時間経過でバフが切れるのは五分後、よって無敵が切れるのは五分後になると思われる。
だが、忘れてはならない。あくまで切れるのは無敵だけということに。攻撃力と防御力の超強化は解除されるわけではない上に、再度バフをかければ強化されたバフを受けることができる。使い方によっては伝説クラスの中でもかなり上位の強さを誇るだろう。
「オラァ!!」
スレイが突撃を仕掛ける。セレストは回避を行い避けようとするが、強化されたAGIバフのかかったスレイの速さに回避が間に合わない。
「うーわ……馬鹿みたいに攻撃力高いな?スレイ」
「失礼な!そんなゴリラじゃねえわ!第一、お前もさっきの槍めっちゃ痛かったぞ!?」
かなりのダメージを負ったセレストだが、軽口を叩ける位には余裕がある。
スレイも少し話してその後はまた攻撃を仕掛ける。今度は回避した上、銃での反撃も行う。
だが……
(えー……無敵かよ……。解除方法とかないのか?)
「なあ、スレイ……お前のスキルの効果、分かったぞ?」
勿論、嘘である。だが鎌を掛ける事で解除方法があるかどうか位は把握できる。
「……はて、なんのことだ?」
スレイもセレストと長く一緒にいる。考えていることぐらいは分かる。だが、動揺を隠そうとしてもたった少しの動揺を悟れるセレストには意味がない。
(ふーん……解除方法はある……か。何かまでは分からないけどな……。発動前にバフを掛けていたことと関係があるか?……まあ、ものは試し!やってみてから考えるか!)
「〈強欲〉“強奪:良性状態異常”」
(奪えはする……と。奪ったのは防御力のバフか、スレイの弱体化には繋がってなさそう?……全部奪ってみないと分からないな。)
「なら、『形態変化:強欲』で追加の“強奪:良性状態異常”と……後は形態変化時の特性、強奪と解析、鑑定系の能力大幅強化で、奪える上限の開放だったかな?……その分の代償も当然いるけどな。バフだからまだ軽いスキルが選ばれるし……大丈夫!」
このセレストの行動が、五分の時間を全うできずに無敵時間の解除を行う。バフの強化はスキルに紐づいていて、強化されたバフではないが、それでも絶望の淵に陥れるだけの力を持っている化け物が誕生した。
だが、これでスレイのもう一枚の隠した手札を開放する準備が整った。
「読み違えたな!セレスト!!ここでバフを打ち消したり、奪うことは予想できた!《我、叛逆せしもの》!!」
スレイが企んでいた作戦、それは……〈天下無双〉を囮にした究極スキルの効果をフルで扱う為のものだ。
《我、叛逆せしもの》。それは反撃系のスキルを派生させた、復讐系のスキルの内、最上位に当たるものの一つ。その効果は戦闘中に相手に受けたダメージ、相手の残りHP、持っているバフ等の効果を鑑みた複雑な計算式によって圧倒的に強化され、スキルによる一撃を叩き込む……というスキルだ。この強化された状態が切れるまでに倒せなかった場合、相当の反動が使用者を襲う。
更に、相手の持っているバフの強化したバフをその身に受けることができる。
〈天下無双〉のバフ効果の超強化と合わせたときの効力は凄まじい。
ここで確実に決めに来たようだ。効力は持っても一分。ここでセレストが逃げに徹すれば間違いなく勝てるだろうが……
(……ああ、そうか。そっちがその気なら乗ってやるぞ!!)
そんな無粋な真似をする男ではない。
「行くぞ!セレスト!!」
「ああ!本気でこい!!」
ここから始まったのは一秒が一分にも思えるほどの死闘だった。
先制を飾ったのはセレストのスレイの頭を狙った蹴り。
それを反動を受けながらも受け止めたスレイ。
そこから一進一退の攻防を繰り広げ、セレストが切り札を切る。
「“逆十字の審判”」
このスキルは{大罪}というスキルだけに許された技の一つ。効果は善性の大きい者により高いダメージを与え、悪性の大きい味方には守護を齎す……という効果がある。勿論、{美徳}にも効果が逆なだけで同様のスキルが存在する。他にも様々な特殊能力が存在しているがどれも桁違いの威力を誇る。
また、{美徳}{大罪}それぞれに、専用の更に威力の高いスキルが存在する。
閑話休題
スレイは固有クエストで特殊区域の街を防衛している為、カルマ値は高い。つまり善性が大きいということだ。故に“逆十字の審判”の効果が大きくなる。……だがスレイも強化状態。もし、この攻撃に耐えた場合、セレストのスキル発動後の隙は確実に狩られるだろう。
何が言いたいのかと言えば……この一撃で勝負は決まる
「なあ、スレイ……準備はできたか?」
「もちろんよ!全力でかかってこい!!」
セレストの放った“逆十字の審判”と強化状態のスレイから連続で放たれる武技の数々が激突し、小規模の爆発が起こる。
《爆発の煙で試合の様子が見えない!!中では何が起こっているのでしょうか!!??》
観客が固唾を呑み見守る中煙が晴れてゆく。
《最後に立っているのはどちらだ〜!?》
煙が完全に晴れ、最後に立っていたのは……
《最強決定戦!!優勝は……ラン選手だ〜〜!!!!》
『うおぉぉぉぉおお!!』
観客からの歓声が上がる中……
(いやー……スレイがあんなに粘るとはな……。レベルと装備でスペック差も凄かったはずなんだが……職業補正の力も凄いのかもな〜……。今回はスレイのスキルも模倣できたからかなり収穫はあったし、作戦は成功か?スキルはできるだけ集めたいし……まあ、あっても多分使いこなせないけど)
スレイのスキルを模倣でき、ホクホク顔で退場しているセレスト。彼も全力でぶつかり合え、スキルも模倣できているので上機嫌である。
《全プログラムが終了したので、十分後に表彰式を始めさせていただきます》
(ちょっと、体を休めさせてから始めるのかな?まあ、流石にちょっと疲れたし、休憩はほしいな)
これだけ闘っておいてちょっとしか疲れなかったなどと、聞く人が聞けば発狂しそうな言葉を並べ休憩に入るセレストだった。




