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第三十七話 死闘

 『生存本能』の発動した巨人兵は、見るからに隙がない。しかし、エリーティアは間合いを測りつつ、ここだというところで斬り込んでいく。


「はぁぁぁっ!」

「コォォォォッ……!」


 槍と剣の壮絶な凌ぎ合い。そのあまりの激しさに、ミサキは武器がぶつかりあうたびに身体を震わせていた。


「ひぇっ……ひぇぇぇっ……」

「ここが正念場だな……ミサキ、気を失ったりするなよ」

「アリヒトさん、弓が使えないのなら、私は……」

「焦るな、当てられる時は来る……見ろ。エリーティアは、奴の動きについていけてる……!」


 ◆現在の状況◆


 ・エリーティアが『ソニックレイド』を発動

 ・鷲頭の巨人兵が『トリプルアタック』を発動 →『エリーティア』が回避


 五十嵐さんのダブルアタックより上位の技――目にも止まらぬ槍の三連突きを、エリーティアは避けきる。しかし敵の気迫に押されて、瞬時に反撃に転じられない。


 だが、敵から前衛が離れたときこそが、俺たちにとっての攻撃のチャンスでもあった。


「――撃て、スズナ! 頭を狙え!」

「はいっ……!」


 ◆現在の状況◆


 ・アリヒトの攻撃が『★鷲頭の巨人兵』に命中

 ・スズナの攻撃が『★鷲頭の巨人兵』に命中 支援ダメージ11


 俺の弾の直後に、スズナの矢が巨人兵の頭に突き立つ――そして支援ダメージが入ると、巨人兵がぐらりと崩れ、膝をつきかける。


「コォォ……オォォォ……!!」


 それでも巨人兵は踏みとどまった。右目の光は消えている――光を放っていた部分、眼球としてはめ込まれていたものが外れたのだ。


「――沈めっ!」


 エリーティアが跳躍し、低くなった巨人兵の頭を狙う。


 五十嵐さん、テレジアが動く――俺たちも次の攻撃を狙う。ミサキもサイコロを握り、今まさに投げようというところだった。


 しかし総攻撃をかける、ほんの一瞬前。ぞくりと、全身を悪寒が走り抜けた。


 俺の頭に浮かんだのは『死』の一文字。


(もうとどめだっていうのに、そんなはずはない……そんなはずは……っ)


 ◆現在の状況◆


 ・鷲頭の巨人兵が『ウィンドバースト』を発動

 ・『ウィンドバースト』から『ニードルフェザー』に派生


 巨人兵の身体を包むように風が巻き起こり、エリーティアたちの動きが止まる。その一瞬後に、荒れ狂う風の中で、巨人兵が翼を広げて高らかに鳴いた。


 ――全体攻撃。それを理解した時には、巨人兵の翼から無数の羽根が、俺たちに向かって撃ち出されていた。  


「きゃぁぁっ……!」

「ぐぁっ……!」


 そういった攻撃をされる可能性を、考えてはいた――もし全員を巻き込む攻撃をされたら、俺は自分を支援防御できず、ダメージを軽減できない。


 今はまだ大丈夫だろう。そう思いながらここまで来て、最後の最後に詰めを誤った。


 だが――俺の『支援防御』は捨てたものではなかった。俺以外の体力バーは、一番防御力の低いスズナであっても、大きく減少してはいない。


 ◆現在の状況◆


 ・アリヒトが『支援防御1』を発動 →対象:『キョウカ』を含む五人

 ・『ニードルフェザー』が『アリヒト』のパーティ全員に命中

 ・体力の減少により『アリヒト』の能力が低下


「アリヒトさんっ……!」

「お兄ちゃん……っ!」


(痛え……羽根の骨が、針みたいに尖ってやがる。だが、鎧を変えといてよかったな……深く刺さってるわけじゃない。衝撃で骨がいってそうだが……まだ……!)


「後部くんっ!」

「……!」


 五十嵐さんとテレジアが真っ先に俺を心配する。エリーティアは巨人兵の頭を単独で果敢に狙うが、槍に阻まれて近づけずにいる。『生存本能』が発動してからの奴は、容易に大振りをしたりもせず、『ブロッサムブレード』を打ち込む体勢が作れないのだ。


「ぐっ……」

「アリヒトさん、動いちゃだめ! 羽根が刺さって……!」

「お兄ちゃん、逃げよう! 今ならみんな……」

「大丈夫だ……まだ戦える。俺たちはあいつを倒すしかない……追ってこられたら、逃げる場所はないんだからな……」


 ◆現在の状況◆


 ・アリヒトの『支援回復1』が発動 →パーティ5名の体力が回復


(よし……みんなの体力は安全圏だ)


 全員の行動に支障がなければ、切り札はある。これが有効に働かなければ、俺たちはさらに窮地に追い込まれる。


「くっ……レベル6なのに……『名前つき』だからって、生意気なのよっ!」


 エリーティアは攻め入ることができないことに苛立ちを覚えている。それでも冷静さを失わず、よく攻撃を引き付けてくれているが、『ブロッサムブレード』のために魔力を温存しながら『ソニックレイド』を使える回数がもう残っていない。


 五十嵐さんのブリンクステップとダブルアタックも一回ずつがやっと。テレジアのアクセルダッシュも――これで攻撃の機会を作れなければ、俺たちは蹂躙される。


(神様とやらがいるなら信じるぞ……幸運の持ち主もパーティにいるんだ。頼む……!)


「あっ……!」


 三連突きの一つを回避しきれず剣で受けたエリーティアが弾き飛ばされる。その瞬間に、巨人兵が『ウィンドバースト』の構えを取る――もう、今やるしかない……!


「五十嵐さん、テレジア! 『士気解放』を!」

「っ……分かったわ……『ソウルブリンク』!」

「……っ!」


 ◆現在の状況◆ 


 ・キョウカが『ソウルブリンク』を発動 → パーティ全員に『戦霊』が付加

 ・テレジアが『トリプルスティール』を発動 →パーティ全員に『三奪さんだつ』効果が付加


(これは……分身ブリンク……違う。実体がある分身……?)


 俺たち全員の隣に、それぞれのメンバーの姿を模した姿が現れる。全身が青い光で包まれていて、その表情は見えないが、装備も何もかもそのままだ。


「――コォァァァァァッ!」

「みんな、この分身を盾にして! そういう使い方もできるわ!」


 五十嵐さんは士気解放をした直後に、それがどういった効果なのかを理解していた。


 もしこの分身に俺の『支援防御』が効き、さらに攻撃に加われるとしたら――。


(攻撃のチャンスが作れる……これで奴を倒し切る!)


 ウィンドバーストからのニードルフェザー。俺たち全員は、戦霊を盾にしてその後ろに隠れる――そして。


 ◆現在の状況◆


 ・アリヒトが『支援防御1』を発動 →対象:『戦霊』六体

 ・『ニードルフェザー』が『戦霊』六体に命中


(耐えた……体力も俺たち本体と変わらないんだ。これなら全員の攻撃が二倍になる!)


「――行けぇぇっ!」


 ウィンドバーストが切れた後の奴の反応が速いことは分かっている。ならば予め風が切れるタイミングを見計らい、ありったけの投射武器を叩き込む……!


「――『当たって』!」


 ◆現在の状況◆


 ・スズナが『皆中』を発動 →二本連続で必中

 ・スズナの攻撃が『★鷲頭の巨人兵』に命中 戦霊の付加攻撃 支援ダメージ22

 ・アリヒトの攻撃が『★鷲頭の巨人兵』に命中 戦霊の付加攻撃 支援ダメージ11

 ・スズナの体力、魔力が回復 ドロップ奪取失敗

 ・アリヒトの体力、魔力が回復 ドロップ奪取失敗


(戦霊の支援ダメージ分が回復した……これくらいの痛みなら、行動に支障はない!)


 着弾と同時に、巨人兵の頭部に次々と不可視の攻撃が入る。奴がぐらりと傾いたところに、五十嵐さんとテレジアが追い打ちをかける。


「テレジアさん、同時に行くわよ!」

「――っ!」


 ◆現在の状況◆


 ・キョウカが『ダブルアタック』を発動

 ・キョウカの攻撃が『★鷲頭の巨人兵』に命中 戦霊の付加攻撃 支援ダメージ22

 ・『★鷲頭の巨人兵』に二段目が命中 支援ダメージ22

 ・テレジアが『ウィンドスラッシュ』を発動 戦霊の付加攻撃

 ・『★鷲頭の巨人兵』に命中 ノックバック中 支援ダメージ22

 ・キョウカの体力、魔力が回復 ドロップ奪取失敗

 ・テレジアの体力、魔力が回復 ドロップ奪取成功


(戦霊の分は、技能を使っても魔力が消費されない……これなら、エリーティアの『ブロッサムブレード』も……!)


 五十嵐さんとテレジア、さらにその二人の分身が、合計で6段の攻撃を叩き込む。五十嵐さんはリーチのある槍で頭を、テレジアは足元を狙って斬りつける――見事な連携だ。


 そして、大きく奴が前のめりになったところで。エリーティアとその戦霊は、すでに巨人兵の頭上に飛び上がっていた。


「――散れっ!」


 ◆現在の状況◆


 ・エリーティアが『ブロッサムブレード』を発動 戦霊の付加攻撃

 ・『★鷲頭の巨人兵』に一段目が命中 戦霊の付加攻撃 支援ダメージ22

 ・『★鷲頭の巨人兵』に二段目が命中 戦霊の付加攻撃 支援ダメージ22


 降り注ぐ斬撃の雨。全段入れば最低でもダメージ264――合計は350近い。


「コォォ……オォ……!」


 しかし恐るべきことに、ジャガーノートを遥かに上回る打撃を与えても、奴は立ち続けている。


(――これで終わらなければ……いや、『終わらせる』……!)


「っ……どうして倒れないのっ……!」


 エリーティアが泣き言を言うのも無理はない。奴はブロッサムブレードを戦霊と二人で撃ち込んでも倒れなかったのだ。


 ――だがこれで攻撃は終わりじゃない。奴に二度と反撃などさせてはならないのだから。


「――ミサキ!」

「……神様っ……!」


 空中で身を翻してエリーティアが着地する前に、ミサキが鷲頭の巨人兵にサイコロを投げつける。


 当たりさえすれば、俺の支援が入る。そして、破れかぶれで投げても当ててしまうのが、彼女がギャンブラーたるゆえんだった。


 ◆現在の状況◆


 ・ミサキの攻撃が『★鷲頭の巨人兵』に命中 ノーダメージ 戦霊の付加攻撃 支援ダメージ22

 ・ミサキの体力、魔力が回復 ドロップ非所持により奪取失敗


 金属の強度が、鉄のサイコロに乗った支援ダメージで限界を超える――バギン、と音を立てて巨人兵の頭が砕ける。


「あ……あぁっ……」


 それでも巨人兵は倒れない。ミサキを道連れにするとでも言わんばかりに槍を振りかぶる――しかし、そのときには。


 ◆現在の状況◆


 ・アリヒトが『バックスタンド』を発動 →対象:『★鷲頭の巨人兵』


 奴が後ろに生じた気配に気づき、後ろを向こうとする。


 ミサキを支援した直後、俺は奴の裏に回っていた。後方からの死角攻撃ならば、ダメージが上昇する……!


(――頼むっ!)


 ◆現在の状況◆


 ・アリヒトの攻撃が『★鷲頭の巨人兵』に命中 戦霊の付加攻撃 死角攻撃 支援ダメージ11

 ・『★鷲頭の巨人兵』を一体討伐


 戦霊と共に放ったスリングの弾丸が、巨人兵の後頭部に命中する。


「コォ……オォォ……ォ……」


 前に一歩踏み出し、巨人兵は石床に槍を突こうとして――崩れ落ちるようにして倒れ、動かなくなった。


「……勝ったの……? 私たち……」


 『バックスタンド』で移動したので、五十嵐さんとテレジア、エリーティアが近くにいる。五十嵐さんはまだ勝利の実感がなく、槍を両手で握ったままでいた。テレジア、エリーティアも剣を構えたままだ。


「あ、あはは……な、なんか、生きてる心地がしないっていうか……きゃっ!」

「良かった……ミサキちゃん、あんな無茶して……」


 ミサキを巨人兵の前に出すという危険を冒さないための方法はある。『支援防御』『支援回復』を使いながら、戦霊を盾にして耐えるというものだ。


 だが、エリーティアが攻撃を引きつけないと、奴は三十秒で二回は『ニードルフェザー』を撃つだけの素早さを持っている。エリーティアの魔力が尽きると、耐えるばかりで次第に追い詰められていただろう。


 ◆現在の状況◆


 ・『ソウルブリンク』の効果が終了

 ・『キョウカ』の能力が一時的に上昇


 戦霊がふっと消えて、魔力の残滓のようなものが五十嵐さんに集まっていく――効果が切れてもプラスの効果が続くようだ。


 『ソウルブリンク』の効果時間は、およそ三十秒。あの強力さを考えると、それでも十分すぎるほどだが、発動する時は準備を整えてからでないといけない。


「今回のMVPは、間違いなく五十嵐さんですね。凄い効果でした」

「あ、あれは……何か偶然を上手いこと引き当てた気がするけど。もし的はずれな効果だったらと思うと、ひやっとするわね」

「ヴァルキリーの士気解放の話が広まらないわけが分かった。こんなに強力だったら、誰でも秘密にしたくなるだろうし」


 エリーティアも感嘆するほどの効果だから、ヴァルキリーの詳細が知られたら引っ張りだこになるかもしれない。特化職でないというだけで不人気なんて、勿体無い限りだ。


 テレジアはこちらにやってきて、持っている黒い石――半透明で、中に文字が浮かんでいる――を、俺に見せてくれる。


「これは……ルーンってやつか? 魔石を圧縮しなくても手に入るのか」

「すごい……『トリプルスティール』の効果で手に入ったの?」


 テレジアはこくりと頷く。彼女は俺にルーンを預けると、手を包み込むようにぎゅっと両手で握ってくる。


「ん……ど、どうした?」

「後部くんが攻撃されてしまったから、心配してるのよ。私だってそう……ごめんなさい、あなたを庇うのが役目なのに」

「アリヒトさん、大丈夫ですか? お傷は……」

「問題ない。『トリプルスティール』のおかげで、奴に攻撃したとき傷が治ったんだ。まだ多少は傷むけどな……」

「お兄ちゃんが怪我したら、私が介護しますよー。下のお世話も普通にしますし、なんなら今からおんぶしていきます」

「あ、あのな……だいたい治ったって言ってるだろ。別に恩なんて感じなくていい、ミサキも戦ったんだからな」

「あ……お、お兄ちゃん……」


 ぽん、とミサキの頭に手を置く。彼女はされるがままで、少し乱れた髪を整える。


「みんなも大変だったな。少し回復してから先に進もう……ど、どうした?」

「……私たちも頑張ったんだけど、って言ったら負けな気がするわね……」

「わ、私は……後ろから撃っていただけなので。もっとお役に立てたら、その時は……」

「みんな、物好き……まあ、少しは分からないでもないけど」


 三人だけではなく、テレジアも俺を見ている。しかし目が合うと、ぱっと恥ずかしそうに顔をそらしてしまった――蛇頭のマスクが微妙に赤くなっている。


 機会があったら、特に恥ずかしくないタイミングで、ねぎらいの意味を込めて頭をぽんとしてほしい。そう求められていることは俺も察することができたが、みんなの反応を知った上で実行に移すには、リーダーとして、人間としての度量が求められそうだと思った。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] なろうには絵がないのでキャラクターの身体的特徴、髪色、攻撃時の攻撃手段など横文字以外での説明表現もあるとありがたいです。差し出がましくて申し訳ないです。 [一言] いつも楽しく拝見させ…
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