第二百三十七話 異変/再びの魔物
◆現在のパーティ◆
1:アリヒト ▲□※$ レベル9
◆習得した技能◆
支援攻撃1~3 支援防御1~2 支援回復1~2 支援高揚1
支援連携1 支援統制1 アザーアシスト アシストチャージ
タクティカルリロード 鷹の眼 バックスタンド 殿軍の将
残りスキルポイント:異常
「技能が使えなくなっているわけじゃない……でも、スキルポイントの表示に異常がある」
「私も初めにそれを心配したわ。ただ、レベルによらない部分……身体能力が年齢相応になってしまっていると感じる。アトベさんはどう?」
アニエスさんは二十代半ばといった印象だったが、今の外見だとどれくらい若返っているのか――彼女は俺を最初に呼ぶ時に少し躊躇していたが、今の俺は年下に見えるような外見なのだろうか。
「確かにそうですね、筋肉が落ちているというか……身体だけ若返って、技能面は変わっていないというのはどういうことなんでしょう」
「詳しいことは分からないけど、この状況は決して絶望的なものじゃない……でも……」
もし、散り散りになった状況で魔物に遭遇したら――そんな予想を大きく超える光景が、俺たちの後方で待っていた。
「グォォォォォオオッ!!!」
◆遭遇した魔物◆
★ジャガーノート再:レベル13 物理無効 ドロップ:???
(まさか……っ、オークがいる階層でもない、それなのに……っ!)
「アトベさん、ここは私が……っ、あなたは先に行って!」
アニエスさんは先に刃がついた斧槍を携え、走りながら魔法を唱え始める――詠唱の完成は早く、ジャガーノートに対して先制に成功する。
「戒めの拳よ……っ!」
◆現在の状況◆
・『アニエス』が『ディバインフィスト』を発動 →『★ジャガーノート再』に命中
・『★ジャガーノート再』が魔法攻撃に反応
「――アニエスさん、退いてください!」
「っ……!?」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『バインシュート』を発動
アニエスさんが斧槍による追撃を入れる前に、ジャガーノートの顔面に向けてスリングの弾を撃ち込む――蔓草が広がり、ジャガーノートの口あたりに絡みつく。
「グォッ……オォォ……!」
◆現在の状況◆
・『★ジャガーノート再』の『ブルータルボイス』発動を阻止
「あれを受けると麻痺させられます! 決定力は低いですが、チャンスが出るまでは遠距離攻撃を仕掛けてください!」
「っ……私は、あなたと一緒に戦うつもりは……っ!」
◆現在の状況◆
・『アニエス』が『セイントグロウ』を発動 → 『アニエス』の能力が上昇 『アニエス』の武器に神聖属性を付加
・『アニエス』が『マジェスティ』を発動 → 『★ジャガーノート再』に『畏怖』状態を付与
・『アニエス』が『ブレードシフト』を発動 → 『★ランドグリーズ』の攻撃回数が上昇
俺の静止を振り切り、アニエスさんが斧槍を振る――すると先端の刃が開いて変形する。自分を強化し、相手の弱体化までを行える――彼女が一人で戦おうとするのも理解できる。
だがそれは、今目の前にいる『ジャガーノート』が俺の知っている個体と同じだったならばの話だった。
「――はぁぁぁっ!」
◆現在の状況◆
・『★ジャガーノート再』が『暴君の専横』を発動 →『アニエス』の攻撃が遅延 ノックバック大
「なっ……!?」
ジャガーノートが腕を力任せに薙ぎ払うと、アニエスさんが繰り出そうとした技が、発動を遅らせられる――同時に彼女は吹き飛ばされる。その瞬間、ジャガーノートは獰猛な笑みを浮かべた。
「アニエスさんっ!」
◆現在の状況◆
・『★ジャガーノート』が『瞬速の掴み』を発動 →『アニエス』が拘束
・『★ジャガーノート』が『放り投げる』を発動
「あぁぁっ……!!」
空高く放り投げる――ただそれだけで致命的な打撃を与えられる。落下してくるアニエスさんを眺めながら、ジャガーノートは口からおびただしい量の涎を垂らす。
(――させるか……っ!)
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『バックスタンド』を発動 →対象:『アニエス』
・『★ジャガーノート再』が『アニエス』に『食らいつき』を発動
・『アリヒト』が『八艘飛び』を発動
・『アニエス』が『★ジャガーノート再』の攻撃を回避
「っ……!?」
落下するアニエスさんの後ろに転移し、彼女と共に『八艘飛び』で後ろに飛ぶ――跳躍してアニエスさんに食らいつこうとしたジャガーノートの牙が、すんでのところでガチン、と音を立てる。
「アニエスさん、攻撃を頼みます!」
「――戒めの拳よっ……!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『アザーアシスト』『支援魔法1』を発動
・『アニエス』が『ディバインフィスト』を発動×2 →『★ジャガーノート再』に2回命中
「グォォッ……!!」
「魔法が2回に……これが、貴方の……!」
「地上すれすれでもう一度飛びます……っ!」
地面に叩きつけられる前にもう一度『八艘飛び』を発動する――なんとか勢いを殺して着地し、アニエスさんの身体を離す。
「凄い……と感心していい立場ではないけれど。助けてくれてありがとう……」
「いえ、こちらとしてもあなたは戦力として必要ですから。利己的に動いただけです」
こんな緊迫した事態ではあるが、アニエスさんがわずかに表情を緩ませる。さっきは一人で俺と共闘するつもりはないということだったが、今はどうだろうか。
「あの魔物がどうやって出現したか、『隻眼の愚視』と関係があるのか……それを知るには、まず目の前の敵を倒さなければいけないわ」
「はい。アニエスさん、俺は魔法攻撃を強化する技と、物理攻撃にさまざまな形で効果を載せる技なんかが使えます。後者の場合、できるだけ手数が多いと効果が高まります」
彼女は目を見開くが、驚いている場合ではないということか、すぐに気を取り直す。
「私は『色銘の武器』である『紫皇の螺旋杖』を持っている。それに持ち替えて物理攻撃を仕掛けるわ」
「俺は射撃で敵に隙を作ります。敵の範囲攻撃に気をつけてください」
「もしそれを受けてしまった時は……また助けてもらうしかないわね」
ジャガーノートの攻撃から逃れたときに、俺たちはちょうどもといた地点の近くに戻っていた。アニエスさんは地面に置かれていた長物を手にして、布を解く――その下から現れたのは、紫色の杖のような武器だった。
ズシン、ズシンと足音を立ててジャガーノートが迫ってくる。
「……くっ……うぅ……あぁぁっ……!!」
「っ……」
「私のことは気にしないで……いつまでも、振り回されてばかりじゃないわ……っ!」
◆現在の状況◆
・『アニエス』が『パープルラスト』を発動
アニエスさんの身体から紫色の気が立ち昇る――その姿は、エリーティアが『ベルセルク』を発動した姿に似ていながら、それとも異なるものだった。
「はぁぁぁっ!!」
◆現在の状況◆
・『アニエス』が『サイクロンチャージ』を発動
それは彼女が本来持っている技か、それとも――杖を振るほどに彼女の身体は紫色の風に包まれ、ジャガーノートに向かって猛烈な突進を始める。
(何度も使えるものじゃないはずだ……必ずここで仕留める!)
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『バインシュート』を発動 →『★ジャガーノート再』が蔓草によって『拘束』
・『アリヒト』が『フォースシュート・スタン』を発動 →『★ジャガーノート再』がスタン
「グォォォッ……!!」
「――跪きなさいっ!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『アザーアシスト』『支援攻撃1』を発動
・『アニエス』が『ハイドラブロウ』を発動 → 『★ジャガーノート再』に十六段命中 支援ダメージ208
・『★ジャガーノート再』が流血
アニエスさんの振りかぶった錫杖――そこに絡みついた蛇のような意匠が、まるで生き物のように動いた。一振りで八回攻撃、それを瞬く間に二度浴びせる。
「――グガァァァァッ!!」
「物理無効の相手に、通った……これなら……!」
◆現在の状況◆
・『★ジャガーノート再』が『流血の狂乱』を発動 →攻撃力が大幅に上昇 『狂戦士』状態に変化
・『★ジャガーノート再』が『ブレイクグラウンド』を発動 → 副次効果:『乱れ地走り』
「(まずい……っ!)」
『水蛇の崇拝者』も繰り出してきた技、『流血の狂乱』――出血によって凶暴化したあと、ジャガーノートが繰り出してきた技は、その巨大質量による圧倒的な暴力だった。
地面に拳を連続で打ち付け、まるで耕すようにしながら突き進んでくる――その地面に伝わる振動を、回避しなければならないものだと判断する。
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『バックスタンド』『八艘飛び』を発動 →『乱れ地走り』を回避
『バックスタンド』でアニエスさんの後ろに飛び、彼女を抱えて『八艘飛び』を発動させる。魔力の喪失を覚えながら連続で飛び、ジャガーノートの突進をやり過ごす――だが、敵は回避されたことに気づき、その巨体を力任せに方向転換しようとしている。
◆現在の状況◆
・『アリヒト』の『鷹の眼』により『★ジャガーノート再』の弱点を看破
ジャガーノートの弱点は額――このまま跳躍して高度を上げれば、狙える位置。
(やるしかない……!)
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『フォースシュート・スタン』を発動 →『★ジャガーノート再』がスタン
「ヴォォォォォッ!!」
「アニエスさん、敵の額を狙ってください!」
「っ……ええ……叩きつける勢いでお願いっ!」
アニエスさんをジャガーノートに向けて降下させ、直後に背中に背負っていた刀に手をかける。
「頼む、ムラクモ!」
『――星機剣使用承認』
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 支援内容:天地刃 魔力不足
・『アニエス』が『ハイドラブロウ』を発動 → 『★ジャガーノート再』に十六段命中 弱点攻撃 脳震盪 『天地刃』が九回発生
「グォォォッ……ォ……ォォ……」
アニエスさんが錫杖を使って繰り出した打撃を額に受け、ジャガーノートがたたらを踏む。直後に発生した『天地刃』による九度の斬撃が、同じ弱点に向けて降り注いだ。
◆現在の状況◆
・『★ジャガーノート再』を一体討伐
・『★修道士のアンク』の効果が発動 →体力を魔力に変換
・『アリヒト』が『八艘飛び』を発動
ジャガーノートに攻撃を入れたあと、落下していくアニエスさんを空中で受け止める。『八艘飛び』を繰り出す際に、魔力の代わりに体力が削られるが、背に腹は変えられない。
アニエスさんを抱えたまま、地面に着地する――ジャガーノートの巨体は黒く変色して砕け、消失してしまう。
もはや魔力切れで立っているのもやっとだが、それよりも無事に倒せたという安堵が勝る。
「何とか勝てましたね……」
「ええ……あなたはこの魔物を見たことがあるの?」
「八番区で戦った名前つきです。その時よりレベルが高くなっているし、ライセンスに表示されている名前には『再』がついている。この意味は……」
「……再現された魔物、という意味なら……『隻眼の愚視』が呼び出したということ?」
「そうかもしれません。この迷宮自体にそういう仕掛けがあるとか、そんな話は……」
アニエスさんは首を振る。もし俺が遭遇した『名前つき』が何らかの方法で再現されたのだとしたら、今まで遭遇した強敵が、さらに強化されて出てくるという事態にもなりかねない。
『隻眼の愚視』を倒さなければ脱出できないとしたら、その方法についても考えなければならない――あの時、転移させられる前に何が起きていたのか。
「アニエスさん、ここから脱出するためにも、今はどうか……」
「…………」
今は協力できないかと提案したいのだが――アニエスさんは俺に抱きかかえられたまま、少し困惑したような顔で俺を見ている。
「……す、すみません、下ろすのが先でしたね」
「いえ……意外に力があるから、ちょっと驚いていて。日本では火事場チカラと言うのよね、それは」
転生前に、ゲームなどで見たことがあるのだろうか――アニエスさんがそんなことを言うとは思わなかったので驚きつつも、抱えていた彼女を下ろす。
「そ、それにしても……『色銘の武器』はやっぱり強力ですね」
「ええ。本当は他に使い手を探す予定だったのだけど……エリーティアもあの人も、これを完全に制御しているなんて、途方もないことね」
彼女の言い方からすると、『紫皇の螺旋杖』の呪いはまだ解けていないことになる。『パープルラスト』が『ベルセルク』のようなリスクを持っているなら、何か対策を打たなければならないはずだが、彼女を見ている限りでは――。
「……あまり見ないでもらえる?」
「え……あっ、す、すみません!」
言われるがままにアニエスさんから視線をそらす。呪いによる影響がないかなどというのは、彼女の受け答えを見ればわかる――いや、それほど普段のアニエスさんを知らない以上、分かったようなことは言えないが。
悠長にしている場合ではなく、仲間を探さなければいけない。アニエスさんもその提案を聞いてくれるだろう――あくまで競争相手なのだから、迷宮を出るまでの協力体制を築きたい。
「……え?」
さっきから困惑する事態が続いていて、また間の抜けた声が出てしまう。
直後に何が起きているかを理解する――後ろから腕が回されている。この体勢は、つまり。
「そんな無防備な目で見られると……食べたくなるでしょう?」
迷宮に入ってしばらく経っているし、空腹なのか――そんな意味ではもちろんない。恐る恐る、アニエスさんの腕を緩めてもらいながら振り返ってみると。
「……ハイスクールにいた頃の同級生を見てるみたいな気分だけど。きっと私もそれくらいなんでしょうね」
「ちょっ……い、いや、たぶん呪いの影響だと分かってますが、さすがに……っ」
「ふふっ……アトベさんがエリーたちに慕われているのは、そういうところもあるんでしょうね」
そういうところとはどういうところか、と質問してもこの状況は脱出できない――おそらく『紫皇の螺旋杖』の呪いの効果は、一時的に性格を変えてしまうくらい強力なのだろう。
全力で頭を回転させ、この状況を解決する策を絞り出そうとする――もはや賭けでしかないが、あの方法を試すしかない。
「アニエスさん、少し後ろを見てもらっていいですか」
「さっき言ったことを気にしてるの? 私が見る分には構わないのに」
この言動すら本来のアニエスさんらしくはない――ような気がする。これが状態異常と言えるのかも分からないが、一か八か試してみる他はない。
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『アザーアシスト』『支援高揚1』を発動 →『アニエス』の士気が13上昇
「っ……まさか、士気を上げる技能……?」
「アニエスさん、士気を消費してなんとかその状態から脱してください……!」
「そう言われても……で、でも、やってみた方がいいのね……」
◆現在の状況◆
・『アニエス』が士気を消費して『蠱惑』を軽減
「あ……」
「良かった……って……」
『回復』ではなく、『軽減』と表示されている。『螺旋杖』をもう一度使うことも考えると、『蠱惑』を治療するために士気を消費するのも考えものだ――ひとまず落ち着いてくれたならばいいのだが。
「……このことは他の仲間には言わないでおいてほしいのだけど、それは承知してもらえる?」
「はい、それは勿論です」
正気に戻ったというのもちょっと違うが、アニエスさんの文字通り『蠱惑』的な行動は抑えられた。
「仲間も今みたいな強敵と遭ってしまう可能性があります。急ぎましょう」
「ええ、そうね。さっきのことは改めて謝罪させて……意地を張るようなことを言って、ごめんなさい」
アニエスさんが協力的に動いてくれるなら、今の状況を無事に切り抜けることはできるはずだ。一時はどうなるかと思ったが、アニエスさんと握手を交わしながら、この窮地に光明が差したように感じていた。
※お読み頂きありがとうございます!
ブックマーク、評価、ご感想、いいねなどありがとうございます、大変励みになっております。
皆様のご支援が更新の原動力となっておりますので、何卒よろしくお願いいたします!
次回の更新は3月28日(金)19時を予定しています。




