第二百三十話 旅団の動向/特別参戦
資料館での用件を終えて出てきたあと、食事に向かう。ライセンスで連絡し、昼はそれぞれで摂ることになった――五十嵐さんはエリーティア、セラフィナさんと一緒にいるそうだ。
マリアさんが弁当を持たせてくれたので、町並みを眺めがてらどこか持ち込みで食べられるような場所を探す。
「あっ、お兄ちゃん……」
ミサキが何かに気づく。距離はかなり開いているが、『白夜旅団』のメンバーが歩いているのが見えた。
「リーダーの人っていうか、エリちゃんのお兄ちゃんはいないですけど、アニエスさんって人がいましたね」
「あの数人で迷宮に入るんでしょうか?」
パーティ上限は8人なので、それより少ないということは――と、考えてみても彼らの行動については想像がつかない。
「『神戦』に備えて街で待機してるってわけでもないのか。やはり『旅団』の団長に会ってみるべきかな」
「そういうのって、ギルドの偉い人とかが引き合わせてくれそうじゃないですか?」
「偉い人っていうとディラン司令官か。クーゼルカさんたちを介して、会えるかどうか相談してみるか……うーん」
「絶対に戦わないといけないわけじゃないとか……?」
マドカがそういう考えになるのも分かるが、アニエスさんの様子を見る限り、『神戦』を回避することは難しそうではある。
「アリアドネが言っていたのは『敵対する秘神』と遭遇した場合、ってことだったな。向こうがどう考えてるか次第ってことになるのか……対話の余地があれば、それで済ませたいが」
「ルウリィさんのことがあるので、何か条件が出されるんでしょうか……私たちが、彼女を守らないと」
スズナは凛として言い切る――大人しいイメージのあった彼女だが、今はその芯の強さに勇気づけられる。
「絶対にルウリィを移籍させないってことも無いと思う。もし彼らがそれと引き換えに何かを要求してくるとしたら、それは何か……いずれにせよ、ルウリィを守るのは大前提だ」
「とにかく、今できることをやるしかないって感じですね。私の場合は着替えというか、ニュースタイルのご披露を……」
「全身の装備を変えることになるので、一度迷宮に入って試してみた方がいいかも……」
「そうだな、時間があれば行きたいところもできた」
前は二層まで入った『夕闇歩きの湖畔』――その先に『羽衣』を修復する材料があるかもしれない。
五番区には緑地化された区画が幾つかあり、そのうちの一つである公園に辿り着く。とりあえずここで弁当を食べることにしよう――ずっと静かにしていたテレジアも空腹なのか、お腹を押さえていた。
◆◇◆
――五番区中央公園 『セントラルガーデン』――
「ふぉぉ……お弁当っていうから違うイメージをしてたのに、ハンバーガーじゃないですか。サンドウィッチもあるけど、好みで選んでってコト?」
「アリヒトさんはどちらにしますか?」
「お兄ちゃんはハンバーガーって目をしてますね、少年みたいな」
「い、いや……そうか? みんなが先に選んでいいぞ」
ミサキとスズナはサンドウィッチ、マドカとテレジアはハンバーガーを選ぶ。テレジアは小さな口に見合わないくらい大胆にかぶりつき、もくもくと咀嚼する――これは美味しそうだ。
「はぁ、おいし……時間が経っても外はカリカリ、中はふわふわですよ」
「クロワッサンのサンドは初めて食べたけど、美味しいね」
「お兄さん、この小さいケースは……あっ、調味料ですね。これはピクルスみたいです」
「好きなのをつけて食べてくれってことかな。至れり尽くせりだな」
マドカは恐る恐るちょっとマスタードをつけて食べただけでツーンと来たようだった――ミサキが笑いつつも水を差し出す。
「なんかピクニックしてるみたいですね。みんなもこんな感じなのかな」
「メリッサには仕事を任せてしまってるけど、そろそろ食事の時間かな」
「お母さんもいらっしゃいますから、いいですね。家族揃ってお弁当って……あっ……」
「私たちはアリヒトパパと娘が四人って感じですか?」
「っ……ゴホッ、ゴホッ。そんな感じか? 確かに兄貴っていうには歳は離れてるが……」
「あはは、勿論冗談ですよ。お兄ちゃんと私たち四姉妹で、若草物語って感じですねー」
四人姉妹ならなんでもそうなのか、とは突っ込まず、ひとまずハンバーガーを味わう――このソースがまた上品というか、どんな材料で作ったものなのだろう。
つつがなく食べ終えたところで、マドカの技能について検討しておくことにした。
「一度にレベルが2も上がったので、何を選ぼうかなって……」
◆取得可能な新規技能◆
スキルレベル2
インベントリー2:運搬道具の容量を100個に拡張し、格納可能な物品が増える。対応する道具が必要になる。
マネタイズ:物品に限らず、商材として成立するものに貨幣価値をつける。
ブラックマーケット:市場に出回らない商品を取り扱うことができる。必須技能:掘り出し物
スキルレベル1:
商人装備:『商人』専用装備の性能を引き出すことができる。
装飾品作成1:装飾品を作成する。作成できるものはレベルによって変化する。
魔法薬作成1:ポーションを作成する。作成できるものはレベルによって変化する。液体の薬を作成する場合は対応する容器が必要になる。
残りスキルポイント:6
「マドカちゃん、私たちも見ちゃっていい?」
「はい、えっと、私がこんなのを取っていいのかなって技能ばかりなんですけど……」
「マネタイズ……さりげなく凄いことが書いてある気がするな、これは。『インベントリー2』も便利だが、ここまでの容量が必要なのは探索に日数がかかる場合だな」
「そうですね、いったん倉庫に入れてしまって『品出し』をすればいいですから」
『インベントリー2』を取ってもらい、マドカに同行してもらう必要があるケースも考えられなくはないが、そこは慎重に考えたい。
「『ブラックマーケット』は『掘り出し物』の上位にあたる技能かな。『装飾品作成』……マドカはこういうのには興味あるか?」
「い、いえ、こういうものはシュタイナーさんが得意ですし、私は……」
「アクセサリー作ったりするのって楽しそうだよね。この技で作ると一瞬で出来ちゃうのかな?」
「マドカちゃんは、そういうことはしてたりしたの? その、迷宮国に来る前に」
覚えられる技能は転生前のことも多少影響しているように思えるので、スズナはそのあたりを尋ねているのだろう。
「……実は、ちょっとだけ。その、手作りのアクセサリーを作って、お父さんお母さんに褒められたりして。友達にも見せたりしていました」
ミサキとスズナの表情が優しく、そして胸が痛くなるようなものに変わる。二人とも、家族や友人のことを思い出しているのだろう。
「…………」
テレジアがマドカの頭を撫でる。涙ぐんでいたマドカは目元を拭うと、気丈に笑顔を見せた。
「そういう思い出は、大事にしないとな」
「大丈夫です、装飾品を作ったりするのは、専門の職人の方にお願いした方が絶対いいですから」
「こういう技を使わないでそんなに上手にできたなら、マドカちゃんって才能があるんじゃない?」
「あっ、え、ええと……才能っていうほどのものでは……」
「自分で作ったものを店に出すっていうのもいいよな。じゃあ、その分のスキルポイントは残しておこう」
「っ……あ、ありがとうございます。私、しっかり考えてみます……っ!」
「じゃあ『魔法薬作成』の方も保留ですか? マドカちゃんのあれ、士気解放の『エフェクトアイテム』でしたっけ。お薬が自分で作れたら、相性がいいんじゃないですか?」
「よく覚えてるな……ミサキは俺より記憶力がいいのか」
「お兄ちゃん、私のこと侮ってません……? まあ間違ってませんけどね、成績はスズちゃんと比べないでほしいレベルですし」
「そんなこと……ミサキちゃんは私より英語と、ええと……保健が得意だったんですよ」
「ちょっ……ほ、保健が得意ってイメージ的にその、何ていうかアレじゃない?」
ミサキの言わんとするところは分かるが、俺としてもコメントに困るところだ。確かに保健が得意そうだな、なんて言えるわけもない。
「話がそれたけど、『魔法薬作成1』はどうしようか。そもそもこれを覚えられる人が少ないってことだったから、取っておいて損はなさそうだけど」
「はい、覚えておきます。お薬を作る専門の人にはかなわないと思うんですけど、自分で作れると在庫を保ちやすくなりますし」
「それと『インベントリー2』か。持ち運べる量は今のところ困ってないか?」
「大丈夫だと思います、迷宮で数日過ごしたりするときはあると便利ですけど」
話し合った結果、『魔法薬作成1』はすぐに取得することにして、あとは保留とした。『ブラックマーケット』で扱われる商品について事前に情報が得られればいいが、それを知るすべはあるのかどうか――どうも技能の名称からして不穏な響きではある。
「早速ですが、魔法薬をお試しで作ってみようと思います。私は材料を買ったら一度貸し工房に行きますね」
「分かった、俺たちも一旦戻ろう」
◆◇◆
そして工房に戻ると、五十嵐さんたちの姿もあった――食事を終えたようだが、彼女も含めて皆の頬が少し上気している。
「時間がありましたので、少し身体を動かしていました。キョウカ殿は凄いですね、専門的な戦闘訓練をしたことがないにも関わらず、非常に良い動きをしている」
「なぎなたの経験がちょっと生きたわね……あとは創作ダンスとか。でもやっぱり、セラフィナさんみたいな実践経験のある人には全然かなわないわ」
「私もフェンシングをしてただけだから、実戦っていうほどじゃないけど」
「ミャーン」
「……お母さんは感心したって言ってる」
メリッサも休憩中で、フェリスさんの意思表示を翻訳してくれている。五十嵐さんはレベルの高いメンバーを相手に訓練していたのか――さすが課長、と懐かしい呼称が脳裏をよぎる。
「そう言ってくれるけど、さすがにちょっとついていくのが大変だったわね……」
「五十嵐さん、回復しておきますか?」
「ううん……じゃなくて、ええ、お願い。『ブリンクステップ』を結構使っちゃったから」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『アシストチャージ』を発動 →『キョウカ』の魔力が回復
「んっ……本当にすぐ元気になっちゃうのよね、これをやってもらうと。栄養ドリンクより効くっていうか」
「っ……そ、それは何よりです。ははは……」
五十嵐さんはそう言いつつ伸びをする――いい加減胸に目が行きそうになる自分を何とかしたい。ニヤニヤしているミサキは俺の葛藤を理解していそうだ。
「いくら回復の効率が良いとはいえ、アリヒトが消耗しているのはまずいからの。マナポーションを持ってきたぞ」
「セレスさん、ありがとうございます。このポーションは……」
「さっきマドカが来て、早速作った第一号がこれじゃよ。魔法薬が作れるようになるとはのう」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『支援回復2』を発動
・『アリヒト』が『マナポーション』を使用 →『アリヒト』の魔力が回復
・パーティ全員の魔力が連動して回復
俺の前方にパーティメンバーが入るようにすれば、ポーションによる回復を皆にも連動させられる――アシストチャージと併用すると、魔力不足に困る状況をさらに減らせそうだ。
「ポーションは時間を空けなければ効果が出ないからの、そこは気をつけねばならんな……ところでアリヒト、今日はその、何というか……」
「どうしました?」
セレスさんは何か言いづらそうにしている。するとシュタイナーさんがこちらにやってきて、俺に耳打ちをしてきた。
『なんでも、親方さまも一度探索についていきたいそうだよ』
「な、なぜお主が言うのじゃ、わしから言わねば立つ瀬がないではないか……!」
『前にアトベ様たちが見つけた白い箱だけど、親方さまがレベルを上げれば開けられるかもしれないんだよね。もちろん無理にとは言わないから、考えてみてくれないかな?』
「『白い箱』……そうか、ずっと開けられないままだからな。何とかそっちも進展させないといけない」
「うむ、七番区で見つかったものじゃから、開けるのが先になるほど勿体ないというか、中のものを利用する機会を逸してしまうかもしれぬ。もし良ければわしを同行させてくれぬか?」
「実は、次に入ろうと思っているのは『夕闇歩きの湖畔』という迷宮なんです。一度潜ったときにリーネさんと会った場所ですね」
「む……そうか。仲が悪いわけではないが、わしが顔を見せたら会いに来たと思われるやも……いや、向こうも迷宮から出てきているのじゃから、わしが行ってもおかしくはないな」
セレスさんを加えるとメンバーは多くなるが、『アザーアシスト』を上手く使うか、2パーティに分けて共闘するという方法もある。まず、現状のパーティ構成について確認することにした。
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※次回の更新は2月7日(金)の夜7時になります。




