第二百十九話 六獄の魔王
「私は……もう二度と失わない。そう決めたの……っ!」
◆現在の状況◆
・『エリーティア』が『瞬星眼』を発動 弱点攻撃時必中 クリティカル確率上昇 固有地形:『星天時限』
血のような赤の面影はもはやない。、星の瞬きを瞳に宿したような、その輝きが『流れる』。
ひとりでに身体が動いていた。それしか取るべき選択がないことを理解していた。
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『支援攻撃1』を発動
・『エリーティア』が『コメットレイド』を発動
・地形効果:『星天時限』 『エリーティア』の先制攻撃 『★業魔の戦人形』の行動停滞
(エリーティアの動きが目で追いきれない……っ、『戦人形』も追随できていない……!)
「――散れ、星が流れる間に!」
◆現在の状況◆
・『エリーティア』が『アルティメイタム』を発動 → 『エリーティア』の攻撃力、速度が上昇 『残紅』付与
・『スターパレード』の効果により『エリーティア』の攻撃回数が上昇
・『エリーティア』が『ルミナスフラウ』を発動
・『★業魔の戦人形』が『剛剣・夢想黎明』を発動
――『星天時限』の効果の中でも『戦人形』は反撃しようとする。
(それを読んでいたのか……テレジア……!)
◆現在の状況◆
・『テレジア』の投擲した『エルミネイト・レイザーソード』が『★業魔の戦人形』に命中 支援ダメージ13
テレジアが『ダブルスロー』を発動させていたのは、二つの武器を投げられずとも、一本でも確実に『戦人形』に当てるためだった。
たった一瞬、空から落ちてきた『レイザーソード』がもたらした打撃が、『戦人形』の技能の発動を遅らせる。
「アリヒト殿っ……!」
「――『支援連携』……『前衛』!」
◆現在の状況◆
・『エリーティア』が『リベレイション』を発動 『アンタレス』の性能解放:緋影刃
・『エリーティア』が『ルミナスフラウ』を発動 →『★業魔の戦人形』に63段命中 残紅を63回付与 63回弱点クリティカル 支援ダメージ819 連携技一段目
・『エリーティア』の追加攻撃が発動 42段命中 42回弱点クリティカル 残紅を42回付与 支援ダメージ546
・『セラフィナ』が『ファナティック』を発動 →ステータス上昇
・『セラフィナ』が『シールドスラム』を発動 →『★業魔の戦人形』に命中 支援ダメージ13
・連携技『ルミナススラム』 →クリティカル 連携加算ダメージ1378
(これが『瞬星眼』のもう一つの効果……全攻撃が弱点にクリティカル。相手がレベル15でも関係ない……エリーティアの技は格上の相手にも通用する、それどころか……!)
「――開け、紅き刃の花よ!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 →支援内容:『フォースシュート・フリーズ』
・『エリーティア』が蓄積した『残紅』を解放 105段斬撃発生
・『★業魔の戦人形』が活動停止 凍結
・『猿侯の眷属・人形遣い』が『★業魔の戦人形』に連動 魔力低下による『昏倒』
・『猿侯の眷属・治癒師』が『アウェイク』を発動 →『猿侯の眷属・人形遣い』の『昏倒』を回復
全てはエリーティアの驚異的な手数が成せることだ。『残紅』を解放する前に支援の内容を切り替えることで、相手に通じる可能性のある特殊攻撃を、俺の攻撃手段の中から選ぶことができる。
支援ダメージとの二者択一だったが、『人形遣い』が昏倒したことを考えると、『戦人形』にダメージを与えすぎることはリスクがあるように思えた。『戦人形』のダメージは『人形遣い』にも連動しているということだからだ。
「……その炎の向こうで、まだ見ているつもり?」
エリーティアが『煉獄の障壁』の向こうにいる『猿侯』に剣を向ける。
揺らぐ炎の向こうで『猿侯』は愕然としているようにも見えた――しかし。
「グガッ……グガガガガガッ……!」
「まだ……笑って……!」
『猿侯』が両手を伸ばす――その方向には、東と西の砦がある。
そこで今、何が起きているのか。アリアドネが教えてくれている――クーゼルカさん、ホスロウさんの班がそれぞれ『猿侯』の眷属を無事に討伐していた。
(俺たちは『猿侯』を追い詰めているはずだ……だが、まだ何かある……!)
「『猿侯』が……泣いてる……?」
俺の『鷹の眼』、そしてエリーティアの『瞬星眼』は、通常の視力では視認できない『猿侯』の涙を見ていた――決してそれは、配下への哀悼を込めた涙などではない。
『猿侯』が新たな力を手に入れることに対しての喜び――歓喜の涙。
「――グガァァァッ……!!」
◆現在の状況◆
・『☆赫灼たる猿侯』が『魔魂召装』を発動 →『★破岩の猛猿』『★獄卒の魔猿』の魂魄を吸収 『☆赫焉たる猿王』に進化
「グォォォッ……オォォォッ……!!」
『猿侯』の両手に向かって、黒くゆらめく二つの球体が飛んでくる――『猿侯』はそれを喰らい、その身体を変化させていく。
「……怪物め……っ!」
エリーティアが喉を枯らして言う。『猿侯』の背から、四本の腕が生える――それは『猛猿』『魔猿』の腕そのものだった。
◆現在の状況◆
・『☆赫焉たる猿王』が『王技・六獄炎掌』を発動 呪文の詠唱を開始
必中効果を持つ『煉獄の炎弾』――それを六本の腕から同時に放とうとしている。
「――アトベ殿っ!」
「アトベ君、待たせたな……っ、あいつが『猿侯』か……!」
『猿王』が笑う。その眼から涙を流させるものは、『王技』を受ける俺たちへの慈悲か、それとも愉悦か。
二つの腕は正面に、残り二本ずつの腕がクーゼルカ班、ホスロウ班に向けられる。
――『煉獄の炎弾』を誰か一人でも受ければ致命傷になる。アルフェッカを一撃で行動不能にしたという事実から、それは疑いようもない。
ならばどう防ぐか。俺の位置はクーゼルカさん、ホスロウさんの後方ではなく、彼らに通常の支援技能は使えない。
「――後部くんっ!」
「お兄ちゃんっ、私たちも来ましたよっ!」
「アリヒトさん、援護します!」
シオンに乗った五十嵐さん、ミサキ、スズナの声が聞こえる。ナユタさんも――彼女たちは『猿王』の詠唱が始まっていることを知らない。
「アリヒト……ッ!」
「アリヒト様、加勢いたしますわ……っ!」
メリッサ、イヴリル。ホスロウ班の全員が無事だ――だが『猿王』の炎は、一撃だけでもパーティを壊滅させかねない威力を持つ。
――それどころか、命さえ。
「させるかよ……これ以上、お前の思い通りに……っ!」
俺だけの力では防げない――ならば。『俺たち』の力で、襲い来る脅威を乗り越える。
「――エリーティア、頼むっ! ミサキ、エリーティアが攻撃を受ける前に『フォーチュンロール』だ!」
「ええ……分かってる。それしかないわよね……っ!」
「えっ、ちょっ……あっ、はい……行っきまぁーーーすっ!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』の士気が上昇 士気解放可能
・『エリーティア』が『コメットレイド』を発動
誰もが、そのエリーティアの行動を無謀だと見るだろう――『猿王』も。
だが、だからこそ、この状況を打ち破ることができる。俺はエリーティアを、そして皆を信じた――俺たちの力で『猿王』に勝てると。
「グォォァァァッッ!!」
◆現在の状況◆
・『☆赫焉たる猿王』が『王技・六獄炎掌』を発動
・『ミサキ』が『フォーチュンロール』を発動
・『★ブリーシンガメン』の効果発動 『炎熱の加護』によりダメージ軽減
エリーティアに装備してもらっていた『ブリーシンガメン』――炎属性の攻撃を受けたときに『炎熱の加護』を低確率で発動させる。そして、発動させれば壊れてしまう。
その代償の大きさは、必ずこの戦いでエリーティアを守ってくれると思っていた。
――だが、俺の技能があれば。その『加護』は、三つのパーティ全員を守る壁となる。
「士気解放……! 『全体相互支援』!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『全体相互支援』を発動 制限時間120秒
・『アリヒト』のパーティと共闘パーティに支援効果範囲が強化
・パーティメンバー個人の強化技能が全員に拡張
・『王技・六獄炎掌』を無効化
『猿王』は配下と共闘することなく、『影武者』として利用し、最後にはその魂を喰らって魔王となった。
――しかし、俺は思う。『戦人形』だけでなく『猿王』自身もともに戦っていれば。配下の魔物たちを駒として使うだけでなければ、俺たちが勝つのは至難だった。
「――アリヒト、お願い……!」
「ああ……行くぞ……っ!」
この攻撃に、残る戦力の全てを注ぎ込む。五十嵐さんは『アンビバレンツ』に、メリッサは『フォビドゥーン・サイス』に持ち替えて、最大威力の連携を狙う。
「――『支援連携』『一斉攻撃』!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『支援連携1』『支援攻撃1』を発動
・『エリーティア』が『アルティメイタム』を発動 → 『エリーティア』の攻撃力、速度が上昇 『残紅』付与
・『スターパレード』の効果により『エリーティア』の攻撃回数が上昇
・『エリーティア』が『ルミナスフラウ』を発動 →『☆赫焉たる猿王』に63段命中 残紅を63回付与 63回弱点クリティカル 支援ダメージ819 連携技一段目
・『エリーティア』の追加攻撃が発動 42段命中 42回弱点クリティカル 残紅を42回付与 支援ダメージ546
・『クーゼルカ』が『ソードレイン』を発動 →『☆赫焉たる猿王』に12段命中 連携技二段目 支援ダメージ156
・『ホスロウ』が『ドラゴン落とし』を発動 →『☆赫焉たる猿王』に命中 麻痺無効 スタン無効 行動遅延 連携技三段目 支援ダメージ13
「グォォ……オオォォォッ……!!」
エリーティアが目にも留まらぬ斬撃を繰り出し、クーゼルカさんが流星のように斬撃を降り注がせる――最後にホスロウさんが竜巻を纏った拳を叩き込んで叫ぶ。
「――『遅延』が通った……まだ繋がるっ!」
「押し込みますわよ、ヴァイオラ、皆さんっ!」
◆現在の状況◆
・『イヴリル』が『渦流傘々』を発動 →『☆赫焉たる猿王』に14段命中 連携技四段目 支援ダメージ182
・『ヴァイオラ』が『クルーエルペイン』を発動 →『☆赫焉たる猿王』に6段命中 麻痺無効 拘束無効 支援ダメージ78
・『フェリシア』が『ワイルドレパード』を発動 →『☆赫焉たる猿王』に8段命中 脳震盪無効 連携技六段目 支援ダメージ104
・『キョウカ』が『ダブルアタック』を発動 →『☆赫焉たる猿王』に2段命中 ダメージの一部が貫通 連携技七段目
・『メリッサ』が『兜割り』を発動 →『☆赫焉たる猿王』が素材をドロップ クリティカル 即死無効 連携技八段目 連携限界到達
・連携技『光剣竜墜・渦鞭豹連切断』 →連携加算ダメージ1937
イヴリルが回転する傘を飛ばして『猿王』を削り、ヴァイオラが鞭の乱打を浴びせる――そこに駆け込んだフェリスさんが目にも留まらぬ連撃を叩き込み、さらに五十嵐さんが二連撃を入れて『猿王』の頭が下がったところに、メリッサが『フォビドゥーン・サイス』を振るって頭部の角を一本切り落とす。
「効いている……俺たちの攻撃だけじゃない、ダメージが確実に蓄積していく。これがアトベ君の力か……!」
皆の技自体の威力、そして合計で三千を超える支援ダメージ――ホスロウさんの言う通り、確実に効いている、しかし。
『猿侯』の肩の上には『治癒師』――ルウリィがいる。『猿王』を仕留めきれない限りは回復されるということだ。
この方法が通じるかは分からない。だが、耐性の穴を突くことができれば、十分に望みはある。
「――スズナ、角笛を……『沈黙石』だ!」
返事をしている間もなく、スズナは角笛を吹く――『沈黙石』を使ったときの音色は、『停滞石』を使ったときとは違うものだった。
◆現在の状況◆
・『スズナ』が『静寂の調べ』を発動
・『猿侯の眷属・治癒師』が沈黙
・『☆赫焉たる猿王』が無効化
・『猿侯の眷属・人形遣い』が無効化
・『猿侯の眷属・治癒師』が『ヒールウィンド』を発動 使用不能
(回復を防げた……っ、耐性が完璧じゃなければ、状態異常は通じる……!)
「あと少し……でも、テレジアさんが……っ!」
そう――最後の一撃はテレジアが担わなければならない。
しかしテレジアは『支援回復』が効いても、まだまともに立ち上がれるような状態ではない。
――そして『猿王』は全身から流血しても膝を突かず、禍々しい気配は消えていない。
「――ワォンッ……!!」
シオンが気づく――疾風のように駆け、倒れているテレジアを助けに向かう。
一度目の戦いの記憶が脳裏を過ぎる。『猿侯』が持つもう一つの武器――それは、身体に巻いている巨大な鎖だった。
「ガァァァァッ!!」
◆現在の状況◆
・『☆赫焉たる猿王』が『暗器投擲』を発動
・『シオン』が『緊急搬出』を発動
シオンが間に合ったとしても、もろともに鎖で拘束される。体力の少ないテレジアは、その拘束にすら耐えられない――。
(もっと早く、助けていれば……いや、まだだ……っ!)
『私たちのことを忘れてもらっては困る。もう一度だけ、あの鎖を斬る……!』
『星機剣発動開始――アームデバイスリミッター解除』
◆現在の状況◆
・『アリアドネ』が『ガードアーム』を召喚
・『アリアドネ』が『ムラクモ』を使用して技能発動 『天地刃・斬鉄』
・『天地刃・斬鉄』が『煉獄の鎖』に命中 →『煉獄の鎖』を破壊
アルフェッカに恐怖を与えた記憶が、ムラクモとアリアドネの力で切り払われる。
鎖を投げ放つ間、俺たちを嘲笑うようだった『猿王』の顔から、喜色が消える。
――そして『猿王』が見せたのは、生きることへの執着。
◆現在の状況◆
・『☆赫焉たる猿王』が『猿侯の眷属・治癒師』『猿侯の眷属・人形遣い』を拘束
・『☆赫焉たる猿王』が『灰燼の閃光』のチャージを開始
ルウリィと『人形遣い』を二本の腕で拘束し、盾にする――俺たちの攻撃を封じ、そしてその額に魔力を収束させていく。
こちらから攻撃は仕掛けられない。『猿王』の攻撃を誰かが受けなければならない――だが、見てみなくてもわかる。『灰燼の閃光』を受けることは死を意味すると。
「この時のために……私は……っ!」
◆現在の状況◆
・『セラフィナ』が『プロヴォーク』を発動 →『☆赫焉たる猿王』の『セラフィナ』への敵対度が上昇
「セラフィナさんっ……!」
「――必ず受け止めます……アリヒト殿、テレジア殿を頼みますっ!」
セラフィナさんは自分がこの一撃を受け、それを反撃の起点にしてくれと言っている。
だが、セラフィナさんを失わないこと――失いたくないということ。そのためにできることは何があるのか。
『契約者を守る……必ず生き延びさせてみせる。何も案じることはない……!』
◆現在の状況◆
・『アリアドネ』が『フォギア』を召喚
・『フォギア』が『アーマーチェンジ』を発動 → 『セラフィナ』の『★グラシアルプレート+1』が『★星機甲フォギア』に変化
・『セラフィナ』が『オーラシールド』を発動
・『フォギア』が『コンストラクト』を発動 → 防御技能使用数ごとに防御力強化
『私の名はフォギア。秘神を鎧い、契約者を守る者』
アリアドネとフォギアの声が響き、セラフィナさんの鎧の形状が変わる。
それでも『猿王』は笑っている――セラフィナさんを殺すことができると確信しているかのように。
だが『猿王』の額に収束していた魔力が、爆発的な光を放つその瞬間に。
「――ルーンよ、私に力を……『オルタネイトボディ』!」
「絶対ですからっ……全員で生き残るんですからっ!」
◆現在の状況◆
・『セラフィナ』が『オルタネイトボディ』を発動 →魔力の半分を最大体力に付加
・『☆赫焉たる猿王』が『灰燼の閃光』を発動 →『セラフィナ』に命中
・『ミサキ』が『ポットリミット』を発動 →『セラフィナ』の被害を軽減 致死回避 『ミサキ』が昏倒
セラフィナさんが『鏡甲の大盾』で『灰燼の閃光』を受け止める――『フォギア』と『グラシアルプレート』の防御力をもってしても、『転のルーン』の効果、そしてミサキが『ポットリミット』を使っていなければ、セラフィナさんは命を落としていた。
「ひぁぁぁぁっ……わ、私はもう駄目です……」
「ミサキちゃんっ……!」
『猿王』は一人でも俺たちの中の誰かを道連れにしようとした。しかし、その思惑通りにはなっていない。
俺はセラフィナさんが『灰燼の閃光』を受け止めてくれている間に、テレジアの元に移動していた。
「っ……」
首の後ろに刻まれた呪印が広がっている。もはや身体を動かすこともできない――。
(それでも俺は、テレジアを助ける。必ず……!)
『戦人形』を倒した瞬間から、理解していた。自分のレベルが今この瞬間に上がったことを。
『テレジアの攻撃』で『猿王』を倒す。それは、すなわち――。
『テレジアの攻撃』を『他者を支援する攻撃』にすることができたとしたら。
本能が理解する。俺の内側から訴えかけてくるものがある――『あの技能』が使えると。
「テレジア……俺と一緒にやるんだ。必ずできる……!」
「……っ」
テレジアの身体を支え、立ち上がらせる。辛うじてテレジアは自分の足で立ち、『グロリアスティレット』を逆手に構える。
エリーティアがこちらを振り返る。『猿王』は人質を誇示するように前に出す――これが長く探索者を苦しめ続けた魔物の、最後の姿だった。
「テレジア……エリーティア。『支援する』!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『☆◆×○※3』を取得 →技能名:『支援攻撃3』と判明
・『アリヒト』が『支援攻撃3』を発動 支援内容:テレジアの攻撃 対象:『エリーティア』
「――グォォォァァァッ!!」
「人間を甘く見たわね、猿の王」
◆現在の状況◆
・『エリーティア』が蓄積した『残紅』を解放 105段斬撃発生
・『☆赫焉たる猿王』を1体討伐 『呪詛喰らい』が発動
・『☆赫焉たる猿王』の『眷属印』が全て消滅
エリーティアが鞘に剣を収める。時間差で解放された『残紅』のひとつひとつに、テレジアの繰り出した『グロリアスティレット』による攻撃が乗せられる。
『猿王』は総攻撃を受けて追い詰められていた。だからこそ生き延びるための術を全て使った――『戦人形』を作ったのも、この『炎天の紅楼』で探索者を捕らえていた理由も、全てはそのためだったのか。それとも、生き延びた先に何かの目的があったのか。
答えが分かる時は来ないのかもしれない。今はただ、勝つことができたこと――テレジア、ルウリィ、そして他の探索者を解放することができたことを喜びたい。
「ルウリィッ……!」
『猿王』の腕から力が抜け、前のめりに倒れる。『人形遣い』はシオンが駆け寄って見事に受け止め、ルウリィはエリーティアが受け止めた。
「ルウリィ、ルウリィッ……目を開けて……っ!」
仲間たちが見守る中、エリーティアが訴えかける。その瞳からは涙がこぼれていた。
「……エリー……」
「……あ……あぁ……」
ルウリィが声を出す。彼女は無事だ――安堵と同時に、胸を想いが満たす。
「……ずっと……助けようとしてくれて、ありがとう……」
「いいの……っ、私は……あなたのこと、助けられなくて……ずっと、ずっと……もう一度、話したかった……っ」
八番区でエリーティアと出会い、その目的を聞いたとき、俺はルウリィを助けられる日を遠く感じてしまっていた。
望まない呼び方をされても、エリーティアは一人で戦い続けた。彼女の悲壮なまでの努力と献身が、今ようやく報われたのだ。
「…………」
「……テレジア、もう大丈夫だ。呪詛は消えた……本当に、良かった」
テレジアは俺の腕に抱えられたまま。こちらを見上げる――蜥蜴のマスクから覗く口元は、微笑んでいるように見える。
大切なものを取り戻すための戦い。ここまで戦ってくれた皆、力を貸してくれた支援者の皆に、どれだけ感謝してもし尽くせない。
五十嵐さんが目に滲んだ涙を拭いている。ミサキとスズナも――ミサキは『ポットリミット』を使った反動が出ているが、すでに身体を起こせるくらいには回復していた。
クーゼルカさん、ホスロウさんもこちらを見て笑っている。戦況が大きく動いたことを見てか、セレスさんたちも中央の砦まで入ってきてくれた。
『アリヒト……無事に戦いを終えることができたことを、嬉しく思う』
「ああ……アリアドネ、ムラクモ、アルフェッカ、フォギア。皆も、ありがとう」
誰か一人でも欠けていたら、俺たちはこうしていられなかっただろう。
『猿侯』との長い因縁は終わった。今は皆と一緒に、勝つことができた喜びを分かち合っていたかった。
※いつもお読みいただきありがとうございます!
ブックマーク、評価、ご感想などありがとうございます、大変励みになっております。
ここまでで「赫灼たる猿侯」討伐編は一区切りとなります。
今後も更新を続けて参りますので、何卒よろしくお願いいたします!
※この場をお借りして、告知を行わせていただきます。
来月11月10日に「世界最強の後衛 ~迷宮国の新人探索者~」書籍版第8巻が
カドカワBOOKSさまより発売されます!
イラストレーターの風花風花先生による表紙イラストなど、詳細につきましては
後日改めてお伝えさせていただきます。
また力蔵先生のコミック版「世界最強の後衛」も最新話が更新されております!
八番区スタンピード編を一話一話濃密に描いていただいておりますので、
↓のリンクからチェックをいただけましたら幸いです!m(_ _)m




