第百九十九話 絶対防御
光の鞭が振るわれる。右と左から蛇のような素早さで迫る攻撃、この速さに仲間たちは対応して防ぎ、避けていたのだ。
『――契約者よ。貴方は試され、求める資格を持っている』
アリアドネの声が聞こえる。止まりかけた思考が、遅滞した歯車が再動する。
『臆すことなく前進せよ。車輪はもう動いているのだから』
(ああ……そうだな。生き延びて前に進む、それだけだ……!)
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『アリアドネ』に支援要請
・『アリアドネ』が『銀の車輪』を召喚
『――我はアルフェッカ、銀の車輪の化身なり』
何もない空間から加速した状態で姿を表した『銀の車輪』――それは一体の『鎧』を狙うのではなく、およそその機構からは考えられないような機動を始める。
『マスターには触れさせぬ……たとえ我が主の「機体」であろうと……!』
◆現在の状況◆
・『アルフェッカ』が『バニシングバースト』を発動 →速度上昇 限界突破 『残影』を付加
・『アルフェッカ』が『実体化解除』を発動 →仲間に対するダメージ0
・『アルフェッカ』が『クレセントドリフト』を発動 →『?意志を持つ鎧』の幻影7体に命中 『?意志を持つ鎧』の本体に命中 幻影解除
「ふぉぉぉぉっ……い、今、私の身体をすり抜けて……っ!」
任意に実体化と非実体化を切り替えられるアルフェッカならではの大技――しかし実体のない状態でも、魔力による攻撃を敵だけに命中させられる。
『鎧』の『アトランダム』という技能は、自分が転移した際の出現場所を文字通りランダム化する――おそらくは本体に攻撃するまで、俺たちの目に見えている『幻影』が本体かどうかは確定されない。つまり、幻影を解除できなければ攻撃を受けてようやく本体の場所が確定することになる。
『マスター、命令を。鎧は身につけてこそ役割を果たすもの』
『主君を知らぬ鎧に、教えてやらねばなるまい。マスターたちの力を』
アルフェッカとムラクモの声が聞こえる――『鎧』の強さを前にしても、むしろ彼女たちの戦意は増しているようだった。
「実体化の解除はできなくなるが、みんなを搭乗させる。定員オーバーだが、そんなことも言ってはいられない……!」
「――アリヒト、私なら見極められる! 私のことをしっかり見ていて!」
エリーティアの声――彼女が見極められるというなら、その言葉を信じる。
『鎧』の出現位置に何らかの法則があるのか、それとも感覚による者なのか。考えている間にも車輪は走り、俺は身を乗り出して仲間を引き上げる――最後に乗り込んだセラフィナさんは、車座の前に座って盾を構えてくれる。
常に高速を保って移動し続ければ、『鎧』の攻撃を受けたとしても被害を抑えられる。回復のポーションを飲んで『支援回復2』を発動させ、前に乗せたテレジアとセラフィナさんの体力回復を試みる――二人の傷がある程度癒えるが、テレジアの傷は深く、すぐには全快できない。しかし体力が危険な域は脱した。
「アリヒト殿、エリーティア殿は……っ」
「はい……必ずやってくれます。だから見ていないといけない……!」
エリーティアだけはアルフェッカに乗り込まず、地上にいる。そして『緋の帝剣』を構えたままで目を閉じている。
――星の海を渡らんとする車輪は、暗き淵に寄る辺を探す――
『鎧』の姿が突如としてブレる――再び『スターゲイザー』が発動する。
「――っ!」
同時にエリーティアが目を見開く。その瞳に、俺は確かに瞬く星の光を見た。
◆現在の状況◆
・『?意志を持つ鎧』が『スターゲイザー』を発動
・『エリーティア』が『瞬星眼』を発動 →『?意志を持つ鎧』の本体出現位置を看破
・『エリーティア』が『コメットレイド』を発動
・『エリーティア』が『スラッシュリッパー』を発動 →『?意志を持つ鎧』が『ゼロアヴォイド』を発動 ダメージ0 幻影解除
エリーティアが繰り出した剣は『鎧』の本体を捉えたはずだった――しかし斬撃が表面を滑るように手応えがなく、ダメージを与えられない。
「確かに当たったのにっ……ずるいですよ、あんなの……!」
「秘神の鎧には、防御の切り札があるということですね……しかし、魔力の消耗はあるはず。エリーティア殿が相手の位置を読むことができるのなら……っ」
「――確実にチャンスを活かす。スズナ、頼む……『皆中』なら、今の状況でも『あの場所』を狙えるはずだ」
「っ……はい。必ずお役に立ってみせます……!」
『鎧』がエリーティアの攻撃を『スターゲイザー』で避け続けている――そして、再びその時は訪れた。
――剣は影を切り、鎧に刃は届かず、全ては無為となる――
戦意を奪おうとするような『鎧』の声。しかしエリーティアは一切揺らがない。
エリーティアは背後に現れた『鎧』に振り返りざまに斬撃を放つと同時に、別の場所に視線を向けた。
「――そこっ!」
スズナの放った矢が、エリーティアの視線の先――『鎧』が出現した、その足元に突き立つ。
◆現在の状況◆
・『スズナ』が『皆中』を発動 →2本連続で必中
・『スズナ』の攻撃 →失敗
――狙いが外れ、好機を逃した。
『そう見える』ように狙ったことを『鎧』が理解していたなら。
次の行動は単体の『スターゲイザー』ではなく、『アトランダム』と合わせて使うはずだった。
「テレジアッ!」
「――っ!!」
◆現在の状況◆
・『テレジア』が『リリーストラップ』を発動 →『転移封じのトラップキューブ』が発動
・『?意志を持つ鎧』が『スターゲイザー』を発動 →失敗
スズナの矢の先に括り付けてもらった、トラップキューブ――赤い箱から罠外しで手に入れたばかりのそれが、テレジアの技能によって発動し、『鎧』の足元に円形の陣が発生する。
『スターゲイザー』による転移を阻止できるかどうかは賭けだった――だが成功すると信じて皆が動いていた。
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