第百七十九話 特任職員
皆が外の浴場から帰ってきたので、思い思いに部屋で休んでもらう。まずルイーザさんに報告をして、その後で工房の二人とのミーティングだ。
「では、ライセンスを拝見いたしますね……ああ、やっぱり凄い……」
◆今回の探索による成果◆
・★5迷宮のスタンピードを鎮圧した 5000ポイント
・スタンピード鎮圧の最功労者となった 2000ポイント
・『アリヒト』のレベルが8になった 80ポイント
・『テレジア』のレベルが8になった 80ポイント
・『キョウカ』のレベルが7になった 70ポイント
・『エリーティア』のレベルが11になった 110ポイント
・『スズナ』のレベルが6になった 60ポイント
・『ミサキ』のレベルが6になった 60ポイント
・『メリッサ』のレベルが8になった 80ポイント
・『シオン』のレベルが7になった 70ポイント
・『セラフィナ』のレベルが12になった 120ポイント
・『デスストーカー』1体の討伐に参加した 55ポイント
・『★ザ・カラミティ』を1体討伐した 4800ポイント
・パーティメンバーの信頼度が上がった 270ポイント
・『マーカス』のパーティと共闘した 10ポイント
・『クーゼルカ』のパーティと共闘した 10ポイント
・『カート』を救助した 100ポイント
・『フラン』を救助した 100ポイント
探索者貢献度 ・・・ 13075
累計特別貢献度 ・・・ 15000
五番区暫定貢献度ランキング 345
「初めてです、一度の探索で貢献度が五桁になるなんて……」
「でも、五番区の歴代一位ということではないみたいですね。上には上がいると思うと気が引き締まります」
「おそらく、数日に渡って迷宮に篭もり、迷宮内の魔物の数が多い状態で出した記録があるのだと思います。皆さんは七番区から来られていますから、全員のレベルが上昇していることも貢献度に大きく寄与しています……これほどの記録は、数時間で出すなんて本来は不可能だと思います」
不可能を可能にした――というと何か大きなことをしたようだが、『ザ・カラミティ』の討伐にはクーゼルカさんたちに協力してもらっているし、街の設備が使えたことが大きかった。
ムラクモやアルフェッカ、アリアドネの力も大きいのに、結果表示には記載されない――ライセンスには彼女たちの行動が表示されるのに、貢献度に算定されないというのは、そういったルールだからということだろうか。
「ルイーザさん、俺たちはこの戦いで、秘神……アリアドネたちの力を借りました。彼女たちの貢献については、ギルドでは算出しないということでしょうか。これまでもそうだったので、今さらな質問ではあるんですが……」
「秘神の方々の行動が、探索者の方々と同じように評価されないのかということですね。ギルドでは、あるパーティが秘神と契約しているとしても、原則として情報の開示は求めません。それは、迷宮国において『秘めたる神』が信仰の対象であるからです。神の行動に評点をつけるというほど、ギルドという組織は自分たちを全能と考えてはおりません」
「ありがとうございます、そういうことであれば……彼女たちの貢献に対する相応の称賛を、個人的に伝えたいと思います」
『私は星機剣であり、マスターの武器にすぎない……と言うと、マスターの気がすまないと言うのであれば。私は前に取り込ませてもらった「鎌刃」のように、私を強くするものを与えてもらいたいと願う』
刀剣を立てるスタンドに置いていたムラクモが語りかけてくる――俺も一つ聞きたいことがあったので、ルイーザさんに少し待っていてもらい、ムラクモに心中で語りかけた。
『ムラクモは「鎌刃」の力で新しい技を使えるようになったと言っていたけど、それが「天地刃・斬鉄」という認識でいいのかな』
『その認識で問題ない。「オーシャンマンティス」には、マスターは見ていないが金属の装備品を破壊する「斬鉄の刃撃」という能力があった。武器の強化に使うと昆虫に対して威力を発揮するようだが、私が吸収した場合はそれとは異なる』
ムラクモのような『エーテリアル』の武器は、通常の武器とはあらゆる面が異なっているということだ。原型を変えないままで魔物の素材が持つ力を吸収し、新たな技を覚える――『猿侯』の『ヘルテクト鋼』でできた鎖を切断するには、その技を機神の腕で放つ必要があるが。
『……弱音を言うようだが、あの鎖をもう一度斬れというのはなかなか難しい。機神の力で振るわれると、私といえど強度の限界を感じる……折れてしまっても再生はできるが、早くても十日はかかるだろう』
『念頭に置かせてもらうよ。強度を上げるような素材があったらまた言ってくれるかな』
『そうしてもらえるとありがたい。もしくは、私以外であの鎖を斬る手段を準備するか、拘束されぬように戦うか……一つ危惧するのは、「ヘルテクト鋼」が容易に破壊できないと知った「猿侯」が、防御の切り札として使う可能性もある』
あの『ヘルテクト鋼』の鎖でアルフェッカを引きずられたとき、敵は明らかに想像の上を行っていた――窮地に追い込まれないためには、可能な限り対策が必要だ。ムラクモの強化を視野に入れ、別の方向も模索する。あの鎖を同じ方法で斬るとして、ムラクモを強化しなければその一撃で折れることを覚悟しなければならない。
脅威となる敵の行動を完全に封じることは難しい。俺たちが見た猿侯の能力はほんの一部と考えられるし、敵が状態異常の類に対する対策を持たなければいいが、今までの『名前つき』は追い込まれたときに状態異常を解除し、自分の能力を強化する場合が多かった。
「アトベ様、お茶をどうぞ」
「あ……ありがとうございます、ルイーザさん。すみません、お待たせして」
「お話ができる剣だなんて、そんな貴重なものをお持ちだったのですね」
最初は驚いていたルイーザさんだが、もう俺がすることは「そういうものだ」と受け入れてくれるようになった。
ルイーザさんの淹れてくれたお茶は適温で、一口飲むと身体が温まる。これなら湯冷めすることはないだろう。
「先ほどの結果報告にもありましたが、スタンピードの原因となった魔物を討伐されていますので、賞金として金貨五千枚が支給されます」
「賞金首と出ていませんでしたが、それはまだ探索者に被害を出していなかったからでしょうか」
「そうなります。街への破壊などから、本来かけられるはずだった賞金を算定しています……もっと高額になった可能性もありますが、五番区での初回賞金額は金貨五千枚が限度となっています」
賞金が高くなるまで討伐をしないという可能性は初めから無いので、五千枚支給されるだけでもありがたい。
「続いて、『炎天の紅楼』における探索結果を見させていただきます。すぐに脱出されていますが、交戦されているので貢献度はマイナスにはなっていません」
◆前回の探索による成果◆
・『炎天の紅楼』2Fまで侵入した 20ポイント
・『☆赫灼たる猿侯』が率いる集団と戦闘した 10ポイント
・短時間で迷宮から脱出した -30ポイント
・パーティメンバーの信頼度が上がった 10ポイント
・『エリーティア』を救助した 100ポイント
探索者貢献度 ・・・ 110ポイント
五番区暫定貢献度ランキング 345
エリーティアが単独で迷宮に入ったとき、一度パーティから外れてしまっている。彼女を発見した時点でパーティに組み入れているが、それでも『救助』として判定されたようだ。
110ポイントでは順位は変動しない。マイナスでなければそれでいいというくらいに思っていたが――この結果表示を見て、一つ気がついたことがある。
「……『赫灼たる猿侯』の名前に『空星』がついている」
「本当ですね……『幻翅蝶』と、何か共通点があるのでしょうか?」
『空星』の名前つきを討伐すると、探索者は特殊な資格を与えられるらしいとクーゼルカさんは言っていた。
この二体の魔物に共通するところがあるとしたら――探索者と戦うだけではなく、特殊な干渉をすることだろうか。
(『猿侯』の配下の名前つきは、通常の黒星だった。『幻翅蝶』の特徴といえば……カルマに関わる技能。『猿侯』も、それに類する能力を持っているのか……?)
『獄卒』とは牢獄の番人を指す言葉だと思うが、その上に立つ『猿侯』は探索者を囚え、従属させている。
つまり、あの砦は『猿侯』の作った牢獄――牢獄に入るような行為と、カルマの上昇には繋がりがあるように思える。カルマに関わる技能を持つというのが『空星』の魔物の共通点というのは、二体だけで結論づけられないが、仮説としては立てられる。
「『空星』がついている魔物を倒すと、特殊な資格が得られると聞きました。ルイーザさんはそれについてご存知ですか?」
「いえ……申し訳ありません、私もアトベ様と出会う前までは、受付嬢として日々の業務をするばかりでしたので。そういった特別な情報に触れるときが来ると、想像もしていませんでした。でも……」
『幻想の小島』で休暇を取った日、ルイーザさんは少し沈んでいるように見えた。俺たちの探索に同行できないことを、寂しく思っているように見えた――でも、今の彼女の瞳には、何か吹っ切れたような輝きがある。
「アトベ様たちをずっとサポートしていくということは、私の役職や権限もそれに伴って変わっていくということです。私も、それを今日改めて上司から聞かされました。『特別選抜探索者』の専属職員として、『一般職員』から『特任職員』の立場になり、お給料も増額になるということで……」
「おおっ……それは凄いですね。おめでとうございます、ルイーザさん。これはお祝いをしないといけないな」
思わず滅多に出さないような声を出してしまう。俺もそれなりに、昇給とか出世という言葉に憧れていなくもなかったということか――ルイーザさんの出世が、自分のことのように嬉しく感じる。それは彼女がギルドにいるとき、立派に勤め上げているということでもあるのだろう。
「い、いえっ……全て、アトベ様たちのお力によるものですから。私のお給金も、共同生活費としてアトベ様にお納めいただけましたらと……と言いましても、アトベ様の担当となってから、まだお給料日は一度も来ていないのですが」
「そうだったんですね。じゃあ、月末にでも……いや、打ち上げとして必ず飲みに行きましょう。無事に全てを終えてからになりますが」
「……はい。私は、いつになっても大丈夫ですので。何より大切なのは、アトベ様たちが無事に探索を終えられて戻ってきてくださること、それがずっと続くことですから」
俺はルイーザさんと握手を交わす――改めてよろしくという意味と、とりあえずにはなってしまうが、昇格の喜びを共有したかった。
「…………」
「テレジア様も……ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたしますね」
テレジアとも握手をして、ルイーザさんは退出していく――この宿舎では寝室が2つあるが、今回は五十嵐さん、ルイーザさん、セラフィナさん、そしてメリッサが同室だ。
ミサキとスズナ、エリーティアとマドカは仲良くやっているようで、部屋から時々かしましい声が聞こえてくる。そこに加わっていたセレスさんが出てきて、何やら疲れたように息をつき、魔石を使った保冷庫から飲み物の瓶を取り出した。
※いつもお読みいただきありがとうございます、更新が遅くなり申し訳ありません!
ブックマーク、評価、ご感想などありがとうございます、大変励みになっております。
次回は明日更新となります。




