第百二十六話 好機
一度目の戦いと同じように、最初は実体化した状態で、物理攻撃が通る――だが、簡単に近づかせてはくれない。
セラフィナさんは魔法防御を高めた代わりに、あの巨大な鋏による攻撃を完全に防ぎ切ることはできない――エリーティアが加速して一度前に出ると、『★無慈悲なる断頭台』の標的は、挑発をかけたセラフィナさんとエリーティアの二人になる。
「――散開するわよ、キョウカ、テレジア!」
「了解っ!」
◆現在の状況◆
・『エリーティア』が『ソニックレイド』を発動
・『★無慈悲なる断頭台』の攻撃 →『エリーティア』が回避
エリーティアが引きつけ、袈裟斬りのように振り下ろされた大鋏を回避する――巻き上がった砂埃の中で、テレジアと五十嵐さんはカウンターを入れられる距離に位置取りをしている。
(ここで『スタン』か『混乱』を入れて、メリッサの即死攻撃を入れられるか……っ、いや……!)
◆現在の状況◆
・『★無慈悲なる断頭台』の特殊行動 →『ゴーストボディ』を発動 耐性変化:物理無効
(――『ファントムドリフト』以外でも耐性を変えられるのか……!)
初手で即死攻撃を入れられるという期待も、エリーティアを起点とした連携で打撃を入れるという見込みも外される。
――だが、隙が生じていることに変わりはない。今の実体化していない状態では効くかどうか分からないが、ここに来るまでに新しく取得した技能を使う。
(『支援統制』……!)
◆現在の状況◆
・『アリヒト』の『鷹の眼』により『★無慈悲なる断頭台』の弱点を看破
・『アリヒト』が『支援統制1』を発動 →パーティメンバーの標的を誘導可能
(やはりそうか……ムラクモで付けたあの傷も弱点になってる……!)
「――テレジア、五十嵐さんっ! 魔法攻撃で連携します!」
「「っ……!」」
狙うのは状態異常――一度通じている混乱を狙う。『サンドシザーズ』にスタンが通っているが、行動を鈍らせられるならどちらでも構わない。
「――『支援連携』……『射撃起点連携』!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 →支援内容:『フォースシュート・ヒュプノス』
・『テレジア』が『アクティブステルス』を発動中
・『アリヒト』が『フォースシュート・ヒュプノス』を発動 →『★無慈悲なる断頭台』に命中 弱点攻撃 怯み
・『テレジア』が『アサルトヒット』を発動 →『★無慈悲なる断頭台』に対して攻撃力2倍
・『テレジア』が『アズールスラッシュ』を発動 →『アクティブステルス』解除
・『キョウカ』が『スパイラルサンダー』を発動 →感電付与
・『支援攻撃2』が2回発生 →『★無慈悲なる断頭台』が混乱に抵抗
・連携技『フォース・アズール・スパイラル』 →『★無慈悲なる断頭台』が混乱 感電継続
空中から黒いスリングを引き絞って放った魔力弾を、ただ一点を目指して放つ――巨大蟹の姿は視認しづらくなっているが、『鷹の眼』で弱点を見抜いた後ならば、それは狙いを妨げる要素にはならなかった。
鋏を振り上げようとしたところに着弾し、巨大蟹の動きが一瞬止まる。
「っ……!」
「――やぁぁっ!」
その瞬間にテレジアが青い炎をまとう剣で切りつけ、さらに五十嵐さんが雷を纏ったクロススピアで突きかかる。
◆現在の状況◆
・『★無慈悲なる断頭台』の甲殻が破損 →防御力低下 状態異常解除
「――グワララララ……!!」
「……鋏が、割れた……!」
エリーティアが声を上げる――鋏に入ったヒビが広がり、自重を支えきれなくなった鋏は一気に割れて、半分ほどを残して破壊された――割れて落下した部分は実体化し、鋏の先端が砂に突き立つ。
(魔法攻撃が通じる状態で、大きな打撃を与えた……前回なら、ここで実体化していた。しかし、奴は『パターンに嵌まらない』可能性がある……!)
「アリヒトッ……!」
「お兄ちゃんっ、今だと思うんですけどっ……!」
「――まだだっ!」
◆現在の状況◆
・『★無慈悲なる断頭台』が『ファントムドリフト』を発動 →速度上昇
(やはり……奴は分かってるんだ、即死効果のある武器を持ってきたことを……!)
「メリッサ、確実に当てられるまで『待って』くれ!」
「っ……分かった……!」
巨大蟹の二つの目が不規則に動く――片方の目は空中へ、もう片方の目は地上へ。
「ピィッ……!」
直後、デミハーピィが小さく悲鳴のような声を上げる――言いようのない悪寒を覚えた俺は、直感に任せて叫ぶ。
「――みんな、散開しろ! ミサキ、スズナ、全力で退けっ!」
「はいっ!」
「は、はいぃっ……!」
◆現在の状況◆
・『★無慈悲なる断頭台』が『スカイハイ』を発動
・『★無慈悲なる断頭台』が『タイフーン』を発動 →風による範囲攻撃
「――うぉぉぉっ……!!」
空中の俺たちを脅威と見た――そして巨大蟹が飛び上がると同時に、その身体から激しい風が巻き起こる。
「「きゃぁぁぁっ……!」」
(ふざ……けるなっ……奴は、一体どれだけの技を……!)
デミハーピィは俺たちを落とさないように耐えてくれるが、巨大蟹の巻き起こした風が肌に傷をつける――スーツが裂け、薄く滲んだ血を見れば、仲間たちも傷を負ったことは明白だった。
蟹の背中の一点が光っている――この風を起こす攻撃も、ロランドさんの技能を盗んだものなのだろう。事前にロランドさんの技能を全て把握できていればと悔やむが、知っていたとしても空中で距離を取ると選択した以上、完全に回避するのは難しい。
「――ピ、ピィッ……」
「ヒミコ、まだ飛べるか……!?」
「……ピィッ!」
気力を振り絞るような返事――空中で二つの技能を続けることはできないのか、巨大蟹はそのまま落下していく。しかし実体化していない蟹は、着地の衝撃を全く受けることがない。
「ミサキ、スズナ、大丈夫か!?」
「は、はい……警告していただいたおかげで、なんとか……」
「むきゅー……錐揉み状態で、目が回ってますぅ~……」
空中でも二人の後ろに位置取るべきだった――今からでも後ろに回り、支援回復を発動させる。
「っ……速い……でも、それじゃまだ届かないわ……!」
◆現在の状況◆
・『エリーティア』が『ソニックレイド』を発動
・『★無慈悲なる断頭台』が『魂を攫う鎌』を発動 →『エリーティア』が回避
・『★無慈悲なる断頭台』が『魂を攫う鎌』を発動 →『エリーティア』が回避
標的にされたエリーティアは、常に横に回り込みながら攻撃してくる巨大蟹の猛攻を回避し続ける――『切り返し』を発動するのなら『支援攻撃1』で多少の打撃を入れられるが、今は割り込む余地がない。
(物理攻撃が通る状態になりさえすれば……どうすればいい……!)
俺は『どちら』を選ぶべきなのか、この場面まで判断できずにいた――不可逆な二択は、後の攻略に響く可能性もある。
しかし、そんなことを言ってはいられなくなる――『無慈悲なる断頭台』は、ついにテレジアと五十嵐さんにも標的を定め、狙い始めた。
「くっ……!」
「――!!」
◆現在の状況◆
・『テレジア』が『蜃気楼』『シャドウステップ』を発動
・『キョウカ』が『イベイドステップ』を発動
・『★無慈悲なる断頭台』が『魂を攫う鎌』を発動 →『テレジア』が回避
・『★無慈悲なる断頭台』が『魂を攫う鎌』を発動 →『キョウカ』が回避
・『キョウカ』の回避率が上昇
「テレジア殿、キョウカ殿……っ!」
盾役のセラフィナさんに攻撃を集中させないために、三人は全力で敵の注意を分散させる――だが、敵の速度についていくことが精一杯で、反撃の糸口が掴めない。空中からの支援をしようにも、巨大蟹は常に前衛の誰かを巻き込むような位置に動き続けている。
「速い……でも、まだかわせる……!」
五十嵐さんの動きもまた、加速していく――彼女が自信をつけていくのが分かる。
このままずっと回避し続けられると思ったそのときだった。
「キョウカ、危ないっ……!」
「――五十嵐さんっ!!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『支援防御1』を発動 →対象:『キョウカ』
・『★無慈悲なる断頭台』が『ネクロブレイク』を発動 →『キョウカ』に命中
「きゃぁっ……!」
「……ッ!!」
◆現在の状況◆
・『キョウカ』の『ヴァリアブルクロス+4』が破損
風化しかけてほとんど視認できなくなった『サンドシザーズ』の遺骸が、不運にも五十嵐さんの至近距離にあり、魔力の光を放ちながら爆砕した。
『保護のネックレス』の装備破壊を防ぐ効果でも、防御しきれない――五十嵐さんの鎧の半分ほどが吹き飛び、彼女自身もダメージを負う。
「よくも……っ!」
「――エリーティアさん、駄目っ!」
◆現在の状況◆
・『★無慈悲なる断頭台』が『魂を攫う鎌』を発動 →『エリーティア』が回避
激昂しかけたエリーティアを、五十嵐さんが制する――エリーティアは最後の一歩を踏み込まず、後ろに跳躍して鎌を避ける。
「痛っ……これくらいのことで……っ」
「――!!」
「キョウカッ!」
テレジアとエリーティアが五十嵐さんを助けようと動く――そこを巨大蟹が突いてくる前に、セラフィナさんが立ちはだかった。
「――グワラララララ……!!」
「――アトベ殿っ、支援を頼みます!」
◆現在の状況◆
・『アリヒト』が『支援防御1』を発動 →対象:『セラフィナ』
・『セラフィナ』が『不動の呼吸』を発動 →カウンター確率が上昇
・『セラフィナ』が『仁王立ち』を発動 →『セラフィナ』に対するノックバックが無効化
・『セラフィナ』が『オーラシールド』を発動
・『鏡甲の大盾』の特殊効果が発動 →『セラフィナ』の魔法防御力が大きく上昇
・『★無慈悲なる断頭台』が『魂を攫う鎌』を発動
心臓が止まる思いだった――ロランドさんの防御をすりぬけた『鎌』を魔法攻撃だと推測したが、それが外れている可能性がゼロとは言えなかったからだ。
セラフィナさんの盾に向けて、鎌は振り抜かれる――もう後戻りはできない。
そして盾に鎌が触れた瞬間、物質同士がぶつかり合う時とは全く違う種類の衝撃が走る――巨大蟹の鎌が、音を立てて弾かれる。
「――はぁぁぁっ!」
◆現在の状況◆
・『セラフィナ』が『シールドパリィ』を発動 →『魂を攫う鎌』を無効化 『★無慈悲なる断頭台』が一時行動停止
「やった……っ!」
「凄い……セラフィナさん、あの鎌を……!」
窮地からの起死回生の防御により、反撃の『起点』が生まれる。
ダメージを受けた五十嵐さんも、テレジアも攻撃態勢を整えている――そして、メリッサも狙ってくれているはずだ。ここから巡ってくる可能性がある、千載一遇の好機を。




